素敵探偵ラビリンス

素敵探偵ラビリンス

大震災により捨てられたかつての首都・東京を舞台に、神秘の力を持つ少年とその執事が、謎多き事件を解決へと導く。謎に満ちた少年の一族と、それを代々守って来た一族が負う宿命の物語。「マガジンSPECIAL」2006年第1号から2008年第7号にかけて掲載された作品。

正式名称
素敵探偵ラビリンス
ふりがな
すてきたんていらびりんす
原作者
万城 めいと
漫画
ジャンル
サスペンス
関連商品
Amazon 楽天

世界観

未曾有の大震災の後、すべての首都機能が新都へ移転され、捨てられてしまった首都・東京。ここを舞台に、連続して起こる解明困難な「幻夢事件」と呼ばれる事件の捜査をまかされた刑事が、謎の少年・日向繭樹とともに次々に事件を解決していく。幻夢事件の捜査中には、警察関係者や公共施設の関係者で、理解の得られない相手に遭遇し、捜査が困難を極めることがある。そんな時は、繭樹の執事である信濃晴嵐がその人物にこっそりと耳打ちをすると、いきなり繭樹に対する相手の態度が急変。突然好意的になった人物の協力を得て、捜査は進められていくこととなる。そして事件に関するさまざまな場所を訪れ情報収集した後、仲間がそろうお茶の席で、紅茶を飲みながら、繭樹の持つ特殊能力・神智による推理が語られるのである。

あらすじ

30年前、「大崩壊」と呼ばれる首都直下型地震により、機能を停止した首都・東京は廃棄された。そんな忘れられた街・旧都となった東京では、人知の及ばぬ「幻夢事件」と呼ばれる怪事件が頻発していた。幻夢事件に関する捜査を任された戸丸都警部と猪神隆介刑事は、有能な探偵として知られる日向繭樹のもとを訪れ、彼に協力を要請。手始めに、高さ50メートルの古い電波塔のてっぺんで、被害者が串刺しになった状態で遺体となって発見された謎の事件についての調査を始める。事件に関係する場所を訪れては捜査を続けていく繭樹たち。そして自宅に戻った繭樹は、紅茶を飲み始めると、集められた情報を彼の特殊な力・神智を使って読み解き、事件を解決へと導いた。当初はたった11歳の少年繭樹に対して半信半疑だった戸丸警部らも、この一件をきっかけに彼を認めることとなった。一方で、続いて起こる幻夢事件を捜査していくうちに、繭樹たちは謎の男性セイジュに出会う。それを機に、日向家の一族と、それを代々守って来た信濃家が負う宿命を軸に、さまざまな陰謀や思惑が複雑に交錯し始める。繭樹の持つ神秘的な能力と、彼を守る執事の信濃晴嵐が、入り乱れる思惑と戦い、大切な友達や愛すべき旧都を守るため奔走する。

関連作品

小説

駒尾真子による、本作『素敵探偵ラビリンス』の小説版が2冊発行されている。『小説 素敵探偵ラビリンス(上) 狙われたオーブ・サフィール』が2008年1月15日に、『小説 素敵探偵ラビリンス(下) 暁のスターグレーサファイア』が、2008年2月13日に発売された。

メディアミックス

TVアニメ

2007年10月から2008年3月にかけて、テレビ東京系列にてTVアニメ版『素敵探偵ラビリンス』が放送された。本作『素敵探偵ラビリンス』の連載中に制作されたため、放送中に話の進行が原作に追いついてしまい、後半はTVアニメのオリジナルストーリーとなっている。日向繭樹役を沢城みゆきが、信濃晴嵐役を諏訪部順一が演じている。

WEBラジオ

2008年2月13日から2008年8月6日まで、「音泉」にてWEBラジオ番組『素敵ラジオ☆ラビリンス』が配信された。全26回。TVアニメ版『素敵探偵ラビリンス』で信濃晴嵐役を演じた諏訪部順一と、信濃紫炎役を演じた森久保祥太郎がパーソナリティを務めた。

登場人物・キャラクター

日向 繭樹 (ひゅうが まゆき)

古くから続く伝統のある旧家・日向家の当主である11歳の少年。私立聖州院学園に通っているが、開校以来の超天才児であるとして、彼だけのための特別カリキュラムの授業を受けている。旧都で起こる幻夢事件を解決する、腕利きの探偵として有名。利発で温和、無邪気で愛らしい彼の笑顔は周囲の人々の心を魅了している。神智が備わっており、のちに日向家の当主として必要な能力である神眼状態が開眼するが、神智も神眼も本人には何の自覚もなく、自分がそんな能力を持っていることすら理解していない。 好きな物は紅茶で、苦手な食べ物はピーマン。運動音痴のうえ、カナヅチで泳げない。

信濃 晴嵐 (しなの せいらん)

日向家に仕える執事として、日向繭樹が赤ちゃんの頃からそばで支えてきた25歳の男性。日向家を守る信濃家一族の者であり、彩を操る彩吊師である。以前は人を操って戦う彩吊師を嫌っていたが、3年前に水蓮から受けた襲撃をきっかけに考え方を変え、自発的に彩を操るようになった。しかし、他者と違い、自分の操る彩に業を背負わせたくないという考えから、信濃晴嵐の彩である三重野初実と和泉さなえは、彩としての記憶を鍼により封じている状態にあり、彩としての自覚はない。 そのため、通常の状態から、彩に変貌する際には、きっかけとして晴嵐が指を鳴らす必要がある。さまざまな事件の捜査にあたる繭樹に対して理解を示さない相手にこっそりと何事か耳打ちをすることで、相手の態度を急変させ、いきなり捜査に協力的にさせるという特技を持つ。

信濃 紫炎 (しなの しえん)

信濃晴嵐の兄で、聖州院学園の理事長を務める28歳の男性。フリル付きのシャツにマント、厚底のシューズという出で立ち。スイスから新たに就任したばかりの理事長で、生徒の悩みを受け止めようと熱心に耳を傾けている。信濃家の者として、時として晴嵐に対して警告やアドバイスをするため、さまざまな方法でコミュニケーションを取ろうとする。 それゆえに周りを巻き込み振り回すことも少なくない。天才美形マジシャンを自称しており、自宅ではワニを飼っている。

葉弧 (ようこ)

信濃紫炎が操る彩の女性。通常は秘書として紫炎と行動をともにしている。紫炎の手足となり、さまざまな場所へ赴き情報収集を行っている。何かと暴走しがちな紫炎を唯一冷静に窘めることができる存在。和風の着物スタイルにショートボブのヘアスタイルが特徴。

戸丸 都 (とまる みやこ)

警視庁刑事部、捜査第一課の女性警部。猪神隆介の上司であり、左遷される寸前だった彼を救った恩人。幻夢事件の真相究明のため、旧都に派遣され、猪神とともに調査を始める。どんな事件も人外の仕業とは認めず、必ず原因が究明できるものという信念を持って捜査に臨んでいる。最初はただの小さな少年である日向繭樹に対して猜疑心を持っていたが、彼の能力を目の当たりにし、次第に繭樹を信頼するようになっていく。 非常にまじめで、猪神とのやりとりでは主にツッコミ担当。

猪神 隆介 (いのがみ りゅうすけ)

警視庁刑事部、捜査第一課の男性刑事。旧都に入りびたっていたため、左遷される寸前だったところを、戸丸都によって救われた。日向繭樹らとは以前からの知り合いだったため、幻夢事件を捜査するにあたり、「とびきりの腕利き探偵」として都に繭樹を紹介した。楽観的な性格で、戸丸とのやりとりでは主にボケ担当。

三重野 初実 (みえの はつみ)

日向繭樹の住む屋敷で、メイドとして働く女子高校生。唯一の肉親だった祖母の遺言により、日向家を頼り、繭樹の世話を担いながら生活をともにすることになった。その時、身寄りのない自分を心から受け入れてくれた繭樹を尊敬し、慕っている。日向家の好意で、「若草萌黄女子高校」に通わせてもらっている。通常は朝寝坊が多く、とにかくよく転ぶ、おっちょこちょいなドジっ子。 信濃晴嵐が指を鳴らすのを合図に、彩が発動。「蒼花」となって繭樹が解決した幻夢事件の犯人を始末する役割を果たす。しかし、「蒼花」の時の記憶は一切ないため、本人に自覚はない。

和泉 さなえ (いずみ さなえ)

和泉みのりの姉。生まれも育ちも旧都の女子高生で、幼い頃から日向繭樹と面識があり、よく一緒に遊んでいた。底抜けに明るく、毒舌で、空気を読まない大胆なところがチャームポイント。旧都にある実家は「小料理屋いずみ」を営んでいる。信濃晴嵐が指を鳴らすのを合図に、彩が発動。「夕緋」となり、繭樹が解決した幻夢事件の犯人を始末する役割を果たす。 しかし、「夕緋」の時の記憶は一切ないため、本人に自覚はない。なお「夕緋」の名は、母親である和泉いなほの彩としての名前を引き継いだもの。

和泉 いなほ (いずみ いなほ)

和泉さなえ、和泉みのりの母親で和泉勘太郎の妻。現在は旧都で「小料理屋いずみ」を営んでいるが、以前は日向家のメイドを束ねるメイド長を務めていた。何をやらせても完璧なスーパーメイドだったとして今でも伝説となっている。その当時、同じく日向家で若き調理師だった勘太郎と出会い、結婚。日向家の援助のもと、自分の店を持ち、現在に至っている。 実はもともと彩として活躍していたが、さなえの出産を機に引退。しかし日向紗羅からの強い要望によって再度彩となり、日向繭樹と、当時まだ未熟だった信濃晴嵐を見守っていた。その後晴嵐が彩を操ることに目覚めたことを見届け、正式に引退するに至った。彩としての名前は「夕緋」だったが、その名は娘のさなえに引き継がれた。

和泉 勘太郎 (いずみ かんたろう)

和泉さなえ、和泉みのりの父親で和泉いなほの夫。旧都で「小料理屋いずみ」を営んでいる。以前、日向家で調理師として働いていた当時、同じく日向家でメイド長を務めていたいなほと出会い、結婚。日向家の援助のもと、旧都に自分の店を持ち、現在に至っている。

和泉 みのり (いずみ みのり)

和泉さなえの妹。日向繭樹が大好きで、繭樹に関することになると周りがまったく見えなくなってしまうのが玉に瑕。天真爛漫でいつも元気いっぱい。さなえとはよくケンカをするが気の合う姉妹。繭樹や、古賀幸太、古賀楽太、弥富ヤエとは同じクラスのクラスメイト。

セイジュ

旧都に住む人々の心の闇を晴らす犯罪心理カウンセラーを自称する謎の男性。相談にやって来た人に、カウンセリングと称して殺人を勧め、旧都で続く事件を幻夢事件に仕立て上げるべく暗躍している。その目的はすべて日向繭樹に対してメッセージを送り、繭樹を奪うためであり、その正体は繭樹の実の父親。12年前、第2の「大崩壊」を回避するために、神眼による「未来読み」を行ったが、その力が不安定だったため予測を外してしまう。 それにより一族から追放され、セイジュの存在はなかったものとされた。結果、まだ赤ん坊だった繭樹が日向家の次期当主となった。息子である繭樹に、後継者という立場を奪われたことに対する恨みを持っている。

江藤 麻里子 (えとう まりこ)

旧都で続く連続神隠し事件の8番目の被害者の女性。実際は、セイジュの操る彩、「白蟲」であり、足技が武器。その優れた身体能力を利用し、人の眼前から消え、神隠しを装い事件に見せかけた。神隠しにあったとされる1番目から6番目の女性もすべて彼女が変装して行った自作自演であった。

水蓮 (すいれん)

日向家と敵対する勢力が差し向けた彩の女性。3年前、日向繭樹と信濃晴嵐、三重野初実、和泉さなえが乗った船に突然姿を現し、日向家当主の命を狙った。この時の彩の襲撃が、晴嵐の「彩吊師」への想いに火をつけて能力を目覚めさせ、同時に初実とさなえを彩にするきっかけとなった。それから3年後、はるかにパワーアップした状態で、繭樹らと再会。 その主がセイジュであることが明らかになる。

日向 紗羅 (ひゅうが しゃら)

日向繭樹の母親。夫と子供をとても大切に想う優しい人柄。12年前、旧都の上野付近を襲った直下型地震で命の危険を感じ、まだ赤ん坊だった繭樹を信濃晴嵐に託した。それ以降、体が弱いことを理由にスイスで静養中。毎年繭樹の誕生日になると、プレゼントが送られてくる以外、連絡はない。もともとは、世界的に有名な天才脳機能学者だった。 研究していたテーマは「神智について」で、神智を持つ持つ者が神眼状態へと移行するプロセスを把握することを目的としていた。その後、神眼状態になれる「神眼発現プログラム」を制作。それを始動するためのキーとなるパスコードを、オルゴールの中のシリンダーに偽装し、繭樹に託した。

月蔭 樹生 (つきかげ なゆた)

日向繭樹のクラスメイトの女子生徒。4月に転入して来た転校生で、5か月経った現在も、休み時間はいつも1人で本を読んでおり、誰とも話そうとしない。放課後も中庭で1人でいることが多く、基本的にクラスメイトと打ち解けていない。普段は長い前髪で顔を隠しているが、実は美人。海辺で繭樹が彼女と思しき少女を見かけた時、繭樹の母親が作ったはずの歌を唄っていたため、謎に満ちているが、実は生まれてから12年間、仮死状態のままだった繭樹の双子の妹。 繭樹が神眼を開眼したのと時を同じくして意識を取り戻した。

(ぱい)

月蔭樹生の家のメイドを務める女性。ぐるぐるうずまきの瓶底眼鏡に2つに分けたおだんごヘアーが特徴。実は眼鏡もヘアスタイルもカモフラージュ用であり、眼鏡を外して髪をほどくとクール系の美女に変貌を遂げる。

日向 護樹 (ひゅうが ごき)

日向紗羅の父親であり、日向繭樹の祖父。12年前、日向家の当主だった男性。老齢のため、すでに神智の能力もほとんど失われている。後継ぎとして神智を持たない紗羅に代わり、他家の者ながら、日向家の当主となり得る神智の力の兆候を持つセイジュを養子に取った。しかし、セイジュに日向家を乗っ取られるかもしれないという危機感を感じ取り、繭樹を次期当主の座に据えるべく、セイジュを陥れようと行動を起こす。

古賀 幸太 (こが こうた)

古賀楽太の双子の弟で、日向繭樹、和泉みのり、弥富ヤエのクラスメイトの男子生徒。いつも元気で騒がしく、兄と比べるといたずらでヤンチャなタイプ。しかし人一倍友達思いでもある。クラスメイトの月蔭樹生に想いを寄せている。そばアレルギーを持っている。

古賀 楽太 (こが らくた)

古賀幸太の双子の兄で、日向繭樹、和泉みのり、弥富ヤエのクラスメイトの男子生徒。するどい観察眼を持つ雑学マニア。弟と比べると落ち着いたタイプ。いつも冷静で、何があっても表情には出ない。甘いものが苦手。

弥富 ヤエ (やとみ やえ)

弥富七郎の妹で、日向繭樹、和泉みのり、古賀幸太、古賀楽太のクラスメイト。体が弱いが、いつも明るく笑顔の絶えない少女で、兄のことが大好き。持病の悪化により1週間も学校を欠席している。旧都の工場街に住んでおり、公害が原因となって重度の鉱物アレルギーになった。母親が作ってくれたクマのマスコットをいつも大切に身に着けている。

弥富 七郎 (やとみ しちろう)

弥富ヤエの妹思いで優しい兄。旧都の工場街に住んでおり、妹と同様に自分自身も鉱物粉塵アレルギーを持っている。講談金属工業を相手取り、鉱物粉塵アレルギー患者が出る原因となった公害について、長い時間をかけて地元の仲間たちとともに証拠集めに奔走し、告発した。そしてその公害をめぐる裁判に、証人として出廷することが決まっている。 相手側からの妨害行為に遭いながらも、病気で苦しむ妹や、街の人々を救うために戦い続けている。

講談金属工業の職員 (こうだんきんぞくこうぎょうのしょくいん)

講談金属工業の職員の男性。弥富ヤエの自宅に訪れては自社を告発した弥富七郎に会うことを要求。ヤエに対して威圧的な態度を取っている。帽子を深くかぶっており、その表情を詳しく窺い見ることはできないが、それがより威圧的な態度に拍車をかけている。自社を相手取った裁判を阻止するため、会社ぐるみで証人として出廷する予定の七郎の誘拐を画策する。

石中 洋二 (いしなか ようじ)

旧都で起こった幻夢事件の被害者の男性。1か月前、北池袋にある高さ50メートルの古い電波塔のてっぺんで、串刺しになった状態で遺体となって発見された。殺害方法が分からず、幻夢事件として認定された。ごく平凡な会社員であり、穏やかな性格で、周りからの評判も良かった。かつて、新都中央消防署に勤めていたが、2年ほどで退職。 その当時は、自分の教育係だった羅茂次郎と2人で、消防技能を競う消防技能訓練の全国大会に出場し優勝するなど、無敵のコンビとして有名だった。

羅茂 次郎 (らも じろう)

新都中央消防署の男性署員。以前勤めていた石中洋二が新人だった頃、彼の教育係としてパートナーを組んでいた。2人で消防技能を競う消防機能訓練の全国大会に出場し、優勝するなど、無敵のコンビとして有名だった。最新鋭の機材を使用しての新都での活動を誇りに思っている反面、旧都を「捨て街」と呼び蔑んでいる。

水城 雛子 (みずき ひなこ)

若草萌黄女子高校に通う女子生徒で、三重野初実のクラスメイト。教師である椋野利昌に想いを寄せており、付き合っているが、初実は先生を嫌っているため言えずにいた。その後椋野から一方的に別れを切り出され、泣いてすがるも暴力で返され、突っぱねられてしまう。

椋野 利昌 (むくの としまさ)

若草萌黄女子高校の音楽教師を務める28歳の男性。左目尻のほくろが特徴。女子生徒に対するいやらしい目つきが原因となり三重野初実には嫌われている。ルックスが良いことを鼻にかけ、女子生徒に手を出してはいかがわしい行為を繰り返しているなどと噂されている。また、女子生徒に対して二股、三股は当たり前になっているが、問題が表面化すると困る相手側が、泣き寝入りすることも多い。 その中の1人として、水城雛子と付き合っていたが、一方的に別れを告げる。しかししつこく泣いてすがる彼女を殴り、無理矢理話を収めようとした。その後、椋野利昌は何者かによって複数の鋏でメッタ刺しにされた状態で遺体となって発見される。学校に内緒でホストクラブ「バロック」でアルバイトをしており、その際、「シュウ」という源氏名を使っていた。

菱沢 逸美 (ひしざわ いつみ)

私立聖州院学園で音楽教師を務める女性。日向繭樹に対し強い思い入れを持っており、彼の持つ勉強や芸術の才能が、選ばれし人間であるとして特別視している。美人で優しく、頭の切れる有能な人物で、繭樹と同様に紅茶に目がなく、入手困難な特別製の紅茶を手に入れたと繭樹をお茶に誘う。旧都という場所に対して嫌悪感を抱いている。

奥津 伊左久 (おくつ いさく)

丸眼鏡にニットキャップをかぶり、顎ひげをたくわえた老人男性。爆破事件が起こったビル、「六つ森ヒルズ」で25年間警備員を務めていたと自称する。ビルの構造に詳しいことを理由に、事件に巻き込まれた人々を避難させるため、誘導を始める。しかしその正体は、映画監督の奥津伊左久であり、ノンフィクションのパニック映画を撮りたさに爆破事件を起こした張本人。

松原 哲哉 (まつばら てつや)

首都高速の地下工事跡地で思い出の品物を探すため、大きな岩と格闘していた怪しげな男性。元ミュージシャンで、代表作は「恋のバナナカレー」。その岩の下には、かつて音楽学校の生徒だった頃の自分が埋めた、卒業記念のタイムカプセルがあった。そこには、仲間とともに作ったデモテープのコピーが入れられており、それを探し出し、人生をやり直したいと考えている。

集団・組織

講談金属工業 (こうだんきんぞくこうぎょう)

旧都の工場街を発展させた企業。現在、社長が収賄の罪で逮捕起訴されている。30年前、「大崩壊」と呼ばれる首都直下型地震が起きた後、ある鉱石が発掘されたことにより街の発展に貢献。その後工場から排出される排煙や粉塵により、おびただしい数の鉱物粉塵アレルギー患者が出続けているが、その責任を認めようとしない。その公害について、住民の団体に告発を受けるが、その内の1人である弥富七郎が証人として出廷することを阻止するため、社内の人間を使ってさまざまな妨害行為を行っている。 街のイメージアップを図るために、駅からの人目に付く場所にはホログラムが据え付けられており、緑の木々などの偽りの自然が映し出されている。そのホログラムは工場街に住む住民の各家庭にも配布し、花瓶の花などを映し出すようになっている。

場所

旧都 (きゅうと)

かつて日本の中心であった都市・東京のこと。30年前、「大崩壊」と呼ばれる首都直下型地震が起きた時、首都としての機能が停止。すべての首都機能を、かねてから建設中だった新都へ移した。政府首脳をはじめとして、家や仕事を失った人々も含め、一斉に新都へ移されたため、旧都は捨てられた街となり、荒廃の一途を辿っている。警察もまともに配備されていない状況のため、毎日無数の犯罪が起こる無法地帯と化している。 一方で、大崩壊による被害を免れた人々は、今でもこの街に住み続け、生活している。また、旧都を囲むようにひときわ高い鉄橋がめぐらされているが、これは第2山手線が走る線路になっており、旧都の境目を意味するものでもある。旧都から東京湾を挟んで遠く微かに見えるビル群が新都である。

工場街 (こうじょうがい)

旧都にある街。30年前、「大崩壊」と呼ばれる首都直下型地震が起きた後、ある鉱石が発掘され、講談金属工業の手により街は発展してきた。しかしそれ以降、十数年前から、おびただしい数の鉱物粉塵アレルギー患者が出続けている。その原因となっているのは、工場から排出される排煙や粉塵であると考えられており、その証拠となるものが長年かけて地元の人々によって集められてきた。 それが国に認められ、このたび講談金属工業を正式に告発するに至った。しかし、公害について世間からあれこれ言われ、慌てた講談金属工業は、街のイメージアップにと半ば無理やりにホログラムを設置。街中のいたるところで見られる緑の木々は、すべてそのホログラムによって映し出されている偽りの自然であり、そのホログラムは各家庭にも配らて不自然な自然を映し出している。

上野大地溝帯 (うえのだいちこうたい)

12年前、旧都の上野付近を襲った直下型地震の影響で、地面が崩落してできた穴。それまで地上にあった多くの建物や人々を飲み込む大惨事となった。日向繭樹の生まれ育った自宅も、この影響を受け、穴に飲み込まれた。現在この場所は、半径2㎞以上、地上から400メートルもの深さの巨大な穴となっている。大穴の内部は、地熱の影響を受け、わずか12年のあいだに亜熱帯性動植物が栄えるジャングルと化した。 また、最近になってマグマの地下活動が活発化し、一部の地面が隆起。埋もれていた建物などが姿を現し始めている。

聖州院学園 (せいしゅういんがくえん)

日向繭樹が通っている学校。30年前に起きた「大崩壊」と呼ばれる首都直下型地震にも耐え抜き、現在も続く由緒ある学び舎。その広い敷地内には、幼稚舎から大学院までを擁し、一貫した教育で一流の人材を輩出することでも有名。そのため、嫌われる旧都にありながらも、新都から通う生徒も少なくない。

渋谷天空城 (しぶやてんくうじょう)

30年前に起きた「大崩壊」と呼ばれる首都直下型地震の影響で、渋谷の地下水脈が地上に吹き出し、辺りの建物は水に流され、まるで城の様に一か所に固まった。その中にはかつて多くの被災者が訪れ、祈りをささげたと言われる「渋谷大聖堂」も含まれている。その中心になった建物の名前「109」をもじって「天空城」と名付けられたといわれている。

水道橋陥没口 (すいどうばしくれーたー)

かつて東京ドームがあった場所。30年前に起きた「大崩壊」と呼ばれる首都直下型地震の影響で、すべてが埋もれ、大きな穴が開いている。そのため、立ち入り禁止区域になっている。セイジュは、周辺の5地点での噴火をきっかけに、最終的にはここで大噴火を起こそうとしており、最後の幻夢の舞台となる場所。

イベント・出来事

最後の幻夢 (さいごのげんむ)

セイジュが密かに画策している最終目的。神眼の強大な力を利用し、マントルプルームの活動を暴走させ、旧都に悪意と作為に満ちた災害を起こすことを目的としている。5つの地点で起きている噴火から、マントルプルームの流れが1つにまとまって巨大な流れを形成し、旧都を飲み込むほどの1つの巨大な噴火を起こそうとしている。 セイジュは地脈を制する者が地上を制すると考え、地上の覇者となろうとしている。

その他キーワード

オルゴール

日向繭樹の母親・日向紗羅が手作りで作ったオルゴール。紗羅が繭樹のために作曲したオリジナルの子守歌が流れるようになっている。その中にあるシリンダーは、神眼状態になるために作られた「神眼発現プログラム」を始動させるためのキーであるパスコードとなっている。

神智 (しんち)

千年余りにわたり、続いてきた日向家一族の連綿たる記憶そのもの。記憶の集積であり、知識の頂点。数十年に一度、一族の中に神智を生まれながらに持つ者が誕生するといわれている。そしてその者が、代々日向家の当主となり、神智を使って日向家を永らえさせてきた。その神智をフルに活用する神眼状態になることができれば、森羅万象を見通すことができるともいわれている。 現在は、当主である日向繭樹が神智を備えており、その能力を使っていくつもの謎を解き明かしているが、本人はその能力が自分に備わっていることを自覚していない。

神眼 (しんがん)

神智の力を駆使し、発揮する状態のこと。日向家一族の神智と呼ばれる過去の記憶の集積を駆使し、森羅万象の理を直感した時、発動するといわれている特殊能力。それは、数瞬先の未来を把握する「未来読み」の能力であり、この神眼による「未来読み」の力が、日向家の当主を決める決定打となる。

幻夢事件 (げんむじけん)

旧都でたびたび起こっている、現在の科学捜査では追及しきれない複雑怪奇な事件の総称。人知の及ばぬ悪魔的な現象ということで、警察が捜査を打ち切り、いわゆる「迷宮入り」となった解決しない事件のことをいう。しかし、ただの謎めいた事件ではなく、裏ではセイジュが幻夢事件を引き起こした中心人物と関わり、糸を引いている。

日向家 (ひゅうがけ)

エリートの血統である一族。日本の歴史の表にこそ出てはこないが、その陰で強大な発言力によって政を司りながらこれまで日本の政治、経済、外交とあらゆる方面において優秀な人材を輩出してきた。今は亡き先代の当主が、当時赤ん坊だった日向繭樹を次の当主にと選んだ時は、周囲をとても驚かせたといわれている。身内である日向家の面々ですら、そのすべてを把握しきれてはいないが、その当主は、代々日本の根幹を揺るがす特殊能力、神智を持ち、神眼を操るといわれている。

信濃家 (しなのけ)

日向家の盾となり、密かに守り支える影の一族。この一族は、「戦は知略で制す」という信念を叩き込まれ、育てられる。代々信濃家に生まれた男子は、13歳を迎えると「彩吊」の奥義を受け継ぐための「刺彩の儀」が行われ、彩を操る彩吊師として正式に認められる。そしてその彩吊師が、秘術をもって、あらゆる謀略、暗殺を遂行してきた。 信濃晴嵐は、信濃家の宿命を負った彩吊師であり、その能力を使って彩である三重野初実や和泉さなえを操り、日向繭樹を守っている。

(あや)

日向家に仇なす者から当主を護る陰として働く者。人間に秘められた身体能力を100%引き出す「仮装人格」。いわば「操り人形」であるが、その意識は常に主を守るという使命で満たされている。彩の力の源は、特殊な鍼を全身に打ち込むことで開く秘経にある。ひとたび開かれた秘経は決して閉じることがないため、彩として活動している間は常に秘経を穿つ鍼の修正を必要とする。 これは彩を操る彩吊師にしかできない。また、信濃晴嵐が操る彩に関しては、彩である間の記憶は一切残されない。それは、彩に業を負わせたくないという晴嵐の想いによるものである。

彩吊師 (あやつりし)

彩を操る信濃家の者。信濃家に生まれた男子は、13歳を迎えると「彩吊」の奥義を受け継ぐための「刺彩の儀」が行われ、彩を操る彩吊師として正式に認められる。そしてその彩吊師が、秘術をもって、あらゆる謀略、暗殺を遂行してきた。彩の力の源といわれる秘経を開くための鍼を、個体差を読んでバランスを取りつつ全身に打ち込み、またそれを修正することは、彩吊師にしかできないことである。

双会桜 (ふたえざくら)

上野大地溝帯にしか咲かない、二度花を咲かせる新種の桜。一度目の花は、夕暮れから日没にかけての30分ほどしか咲かないといわれ、それが散った後、すぐにまた蕾を付け、二度目の花を咲かせる。一度目の花は誰の目にも触れず短時間で散ってしまうが、二度目に咲く花は長く咲き誇るといわれている。

クレジット

原作

万城 めいと

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