概要・あらすじ
都を騒がす「緋桜の白拍子」と呼ばれる暗殺者、その正体は北大路家の養女、梓であった。宮中で悪事を働く左大臣に近しいものを葬っていく梓。しかし、彼女には通ってくる殿方、子安時迅がいた。彼は罪人を捕まえる役職におり、「緋桜の白拍子」とは敵対している存在であった。ある時、時迅はついに「緋桜の白拍子」の正体が梓であることを知ってしまう。
だが梓を愛する時迅は、梓が「緋桜の白拍子」であることに目をつむり、時に手助けをするようになる。そして梓は、次第に「緋桜の白拍子」の過去の因縁や、宮中の陰謀に巻き込まれていく。
登場人物・キャラクター
梓 (あずさ)
北大路家の養女で、慶子の妹。子安時迅とは相思相愛の仲。京では「緋桜の白拍子」の名で知られる暗殺者であり、養父の北大路高遠のために左大臣派の人間を殺し、左大臣と敵対する勢力を拡大させようと活動している。暗殺者養成所「緋桜院」の咲き待ちだった身で、緋桜院が内部分裂を起こした際に逃げ出してきたところを、高遠に拾われた。 「緋桜院」での異名は「斬鋼糸の梓」。
子安 時迅 (こやす ときはや)
罪人を捕まえる兵衛府のなかで、兵衛督という役職を務める青年。彼の上司として別当という役職があるが、あまり指揮を取らないため、実質的に子安時迅が兵衛府を動かしている。梓のことが好きで、梓のもとに毎日通って口説いている。清廉で実直ながら、「緋桜の白拍子」である梓を見逃すなど、恋には盲目。堂々と梓を守ることができない代わりに、裏で手を回して梓の手助けをしている。 冬尋とは折り合いが悪く、一度「緋桜の白拍子」と通じていることが明るみに出そうになったことがある。
冬尋 (ふゆつぐ)
頭の中将の役職にあり、左大臣に従っている青年。気が強く剣の腕も立ち、「爪剣の冬尋」の異名を持つ。梓が「緋桜の白拍子」だと知っており、「緋桜の白拍子」のライバルであることを自負している。梓が弱くなってしまう原因である子安時迅を目の敵にしている。帝に懐かれており、時折護衛兼遊び相手になっている。
北大路 高遠 (きたおおじ たかとお)
暗殺者養成所「緋桜院」から逃げ出してきた梓を拾って、養女にした男性。懐が深く、梓にも最初は暗殺者「緋桜の白拍子」になることを止めていた。しかし、梓の意気込みと恩返しをしたいという気持ちに応じ、「緋桜の白拍子」になることを認める。反左大臣派として左大臣に目を付けられている。
慶子 (けいこ)
北大路高遠の娘で、梓の義理の姉。心の優しい女性で、梓が「緋桜の白拍子」として夜な夜な暗殺をしていることを快く思っていない。過去に想いを通わせた人がいたが、彼が消息不明となったことで、今は独り身で過ごしている。
左大臣 (さだいじん)
今の政権の事実上のトップにいる男性で、娘に沙輪姫と美輪姫を持つ。非情で冷酷な性格。よく護衛に冬尋を連れており、宮中では沙輪姫の後ろ盾として権力を思うままにふるっている。北大路高遠とは犬猿の仲で、政治的にも敵対している。
沙輪姫 (さわひめ)
帝の中宮として入内している女性。冬尋に想いを寄せていたが、父親である左大臣によって無理やり入内させられた。それを静観していた冬尋に対して、憎しみの感情を少なからず抱いている。たおやかな美女で、入内した後は帝が幼いことから暇を持て余している。
美輪姫 (みわひめ)
子安時迅に想いを寄せる少女で、「あなたの秘密を知っています」と時迅に嘘をつき、毎夜通ってもらっていた。残虐な父親、左大臣のことをよく思っておらず、梓が「緋桜の白拍子」であることに感づいていながら、左大臣には黙っている。
帝 (みかど)
時の帝で、幼い少年。左大臣の傀儡になっており、そのことを知りながら何もできずにいる自分を恥じてもいる。はじめて同じ年頃の晏子という少女が入内してきた時には、晏子を左大臣の魔の手から守ろうという気概を見せた。
晏子 (あんし)
帝より年上ではあるが、年近い少女。新しく入内してきたが、身内がいないため心細い思いをしている。帝のことが気になってはいるものの上手に寄り添うことができず、帝を不安にさせていた。しかし、晏子が暗殺されそうになる事件が発生し、それ以降は帝と少し関係が近づく。
緑水 (りょくすい)
暗殺者養成所「緋桜院」の主であった、太白の跡継ぎと目されていた青年。しかし、「緋桜院」が内部分裂を起こしたことをきっかけに出奔。「緋桜院」の生き残りを集めて暗殺者軍団を作り、自分の意のままに操ろうとしている。
椎奈 (しいな)
緑水のもとで働く、暗殺者養成所「緋桜院」の生き残りの少年。吹き矢での暗殺の腕を見込まれて、緑水と共にいる。緑水と一緒に「緋桜院」の生き残りを探しているが、今のところ梓、凪沙、空弥しか見つかっていない。快活な少年で、見た目だけならば明るい少年だが、内に秘めたものはほの暗い。
蘭王丸 (らんおうまる)
暗殺者養成所「緋桜院」の主であった、太白の実の息子。陰陽術に長けている。「緋桜院」がなくなったため、暗殺者の排除を目論んでおり、「緋桜院」の生き残りを殺し尽くすことを目的としている。しかし、梓が暗殺者の道を捨てると決めた後は、梓、凪沙、空弥を見逃し、京を後にした。
太白 (たいはく)
暗殺者養成所「緋桜院」の主で、壮年の男性。緑水のことを買っており、「緋桜院」の跡継ぎにと考えていた。一方で実子である蘭王丸に対しては、暗殺業から離しておこうという考えのもと、あまり会話をしてこなかった。そのため、蘭王丸からは嫌われている。
凪砂 (なぎさ)
梓の親友で、針を用いた暗殺術を得意とする少女。暗殺者養成所「緋桜院」にて咲き待ちの時に梓とは離れ離れになったが、京で再会した。ざっくばらんな性格で子安時迅のことも気に入っているが、親友の彼を取る気にはなれないと節度を持った付き合いに留めている。
空弥 (くうや)
両親を失った後、妹と共に暗殺者養成所「緋桜院」に引き取られ、妹を咲き待ちの時に殺された。心優しい青年でありながら、暗殺者としては一流。暗殺時には輪状の投具である円月輪を用いる。梓に諭された後は北大路家に引き取られ、雑色の任に就く。
尼君 (あまぎみ)
梓の本当の母親。義兄との間に梓をもうけたものの、父親に勘当され、尼になった。赤子の頃の梓を貧しい農民夫婦に預けた後、梓の行方を知ることはなかった。
宜円 (ぎえん)
「緋桜の白拍子」である梓を殺すために放たれたプロの刺客。仕事には私情を持ち込まないタイプの非情な人柄。入手した梓の髪を用いた管狐で子安時迅を操り、梓を殺させようとした。
式部 (しきぶ)
梓の身の回りの世話をしている女房。温厚で優しい性格で、子安時迅に贈るための衣を代わりにこっそりと縫ってあげたり、梓の怪我を心配して薬を持ってきたりと、梓のことを第一に考えている。梓が「緋桜の白拍子」であることは知らない。
場所
緋桜院 (ひおういん)
近江の海の西にそびえる比良山の奥深くにひっそりと佇む霊社「来迎院」の真の名前。春になると血のように真っ赤な桜が咲き乱れるところから「緋桜院」と名付けられた。表向きは修験道の霊場だが、裏では孤児を集めて人殺しの訓練をさせ、暗殺者を育てている場所である。
その他キーワード
咲き待ち (さきまち)
暗殺者養成所「緋桜院」にて、子供たちが暗殺者として認められた証の名称。自分と対する子供を殺して初めて咲き待ちと呼ばれ、暗殺者としての初仕事を依頼されるようになる。梓は咲き待ちになったが、その直後に緋桜院の内部分裂があったため、暗殺者としての仕事をすることにはならなかった。
兵衛督 (ひょうえのかみ)
兵衛府の取りまとめ役をしている役職。兵衛督の上に兵衛別当がいるが、基本的に兵衛別当は「緋桜の白拍子」にかかわっていないため、主に兵衛督の子安時迅が「緋桜の白拍子」の追捕を行っている。