罪のない者だけが石を投げよ

罪のない者だけが石を投げよ

幼い頃からの虐待に苦しみ、殺人を犯した過去を持つ宮本人芥は、ある日、自分と同様に虐待に苦しんでいる天海ほたると出会う。ほたるを救いたいがために、再び殺人に手を染めた人芥と、彼と共に生きることを選択したほたるの逃避行を描くサスペンス。「月刊アクション」2019年11月から掲載の作品。

正式名称
罪のない者だけが石を投げよ
ふりがな
つみのないものだけがいしをなげよ
作者
ジャンル
犯罪
 
虐待
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あらすじ

第1巻

工場で働き始めて10年になる宮本人芥は、職場の誰とも馴れ合うこともなく、孤独な日々を過ごしていた。そんな彼は読書に没頭するための本を借りに、今日も図書館へと足を運ぶ。図書館には、いつもの時間、いつもの場所に気になる女の子がいた。人芥はその女の子を心の中で「天使」と呼んで心の拠り所にしており、その女の子の存在が、それまでただ時間を潰すためだけだった読書を楽しいものに変えた。ある日、人芥が公園で本を読んでいたところ、声を掛けてきたのは、あの天使と呼んでいた天海ほたるだった。ほたるは、人懐こい笑顔で人芥に近づくと、半年ほど前から見られていたことに気づいていたこと、人芥のことが気になっていたことを話す。翌日、再び公園で会った二人は、互いに自分の話をしつつ距離を縮めていく。そしてある夜、人芥の家に泊まりに行きたいと言ったほたるを迎えに、指定された時間にほたるの自宅に向かうと、人芥は暗闇の中で、男性に犯されるほたるの姿を目の当たりにする。人芥は、あまりのことに動揺し、一人で帰宅すると眠れない夜を過ごす。実は人芥は、幼い頃から母親に性的虐待を受けており、さらに殺人を犯した過去を背負っていた。罪を償い出所して10年余り、他人との接触を極力控え、穏やかに過ごしていた人芥は、ほたるが自分と同様に性的虐待を受けていたことを知りショックを受ける。翌日、いつもの公園で顔を合わせた二人は、今の状況について語り合い、さらに翌日、再びほたるの自宅へと訪れることになる。誰も来ないはずの日、家で過ごしていると、そこに現れたのはあの夜、ほたるを犯していた有島雄一だった。雄一は、二人を見るや否や人芥の前でほたるに馬乗りになり、首を絞めて殺そうとする。その異様な光景に、心が波立つのを感じた人芥は、自らの忌まわしい過去がフラッシュバックしたあと、ほたるを助けたいという感情のままに、包丁で雄一を刺し殺してしまう。

登場人物・キャラクター

宮本 人芥 (みやもと じんかい)

工場に勤める男性。幼い頃に母親からの性的虐待に遭い、苦しんだ結果殺人を犯した過去を持つ。出所後、身元引受人となった警部の相馬に連れられて、山村のもとへとやってきた。それから10年、なんの問題も起こさずまじめに仕事に取組み、会社の同僚と馴れ合うことなく孤独な日々を送って来た。読書が好きで市立図書館に通っており、いつもそこで本を読んでいる天海ほたるを見かけて以来、心の中で「天使」と呼んで心の拠り所にしていた。ある日、公園で本を読んでいたところ、ほたるから声を掛けられて親しくなった。ほたるから頼まれて、指定された時間にほたるを自宅に迎えに行くと、有島雄一から犯されるほたるの姿を目撃してしまう。その後、再びほたるの家へ行き、二人だけの時間を過ごしていると、そこへまたもや雄一がやってくる。二人の姿に逆上した雄一が、ほたるに馬乗りになり、首を絞めて殺そうとしたため、ほたるを助けるために宮本人芥は雄一を殺害。ほたるは事なきを得るが、人芥は再び人を殺めるという過ちを犯すことになった。そして、今後のことを考えて工場を退職し、ほたると共に警察から逃げるための準備を始める。本物の蛍を見たことがないというほたるのために、自分の生まれ故郷にある蛍の生息地に連れて行くと約束したため、来年の蛍のシーズンになるまで、なんとしても1年は逃げる覚悟を決めている。生まれた時に付けられた名前は出所後に変え、自ら「人芥」と名乗るようになる。その印象からは想像しがたいが甘いものが大好物で、いっしょにいるほたるにかこつけて、クレープやパフェなど、一人では手を出しにくいものを食べたがる。

天海 ほたる (あまみ ほたる)

天海妙子の実子。高校へは進学したものの、一度登校しただけですぐに辞めた。読書好きで、特に日柳葉室の小説が好き。毎日図書館へ通っており、そこで自分を見つめる宮本人芥の存在を知った。のちに、公園で一人読書中だった人芥に声を掛け、親しくなっていく。実は幼い頃より母親の妙子から性的虐待を受けており、妙子の彼氏である有島雄一からも、夜な夜な性的虐待を受け続けていた。ある日、思い余って妙子を包丁で刺し、殺害したところを雄一に見られてしまい、遺体の処理を手伝うことと、すべてを秘密にすることを条件に、それからは肉体関係の継続を強要されている。また日常生活において果物や野菜、魚以外を食べることを禁じられている。その境遇に半ば諦念を抱きながらも、そんな状況を変えたい思いがどこかにあり、無意識に人芥に助けを求めた。運悪く、人芥と二人でいたところを雄一に目撃され、首を絞められ殺されそうになるが、それを見て助けに入った人芥が雄一を殺害。ほたるは事なきを得ると同時に人芥に心から感謝し、彼にすべてを捧げると共に逃げることを決意する。人芥には、心の中で「天使」と呼ばれていた。

山村 (やまむら)

宮本人芥が勤める工場で工場長を務める男性。出所したばかりの人芥が警部の相馬に連れて来られて以来、まじめに働く人芥を見守って来た。それから10年ほどが経過したある日、人芥が突然退職を願い出たことに驚く。人芥のことは信じているものの、仕事を辞めると言った時の彼の目つきを見て心配になり、相馬に連絡を入れた。

相馬 (そうま)

警部を務める男性。もともとは少年課に配属されており、当時宮本人芥の事件を担当した。その後出所した人芥の身元引受人となって、人芥を山村が工場長を務める会社に紹介した。山村とは何かあれば連絡が取れるようになっていたが、それから何事もなく10年が経過したある日、宮本が仕事を辞めたとの一報を受ける。人芥の様子が変だったことを山村から聞き、その時ちょうど有島雄一の遺体が発見された現場で捜査をしていたこともあり、刑事のカンで一瞬にして人芥とこの事件を関連づけた。

有島 雄一 (ありしま ゆういち)

総合商社の東北支社で営業部長を務める男性で、年齢は48歳。表向きは子煩悩な父親で妻思いのよき夫を装っているが、その実、女性にはかなりだらしなく、性欲を自分でコントロールできない。天海妙子と付き合っており、妙子がいる時は彼女と関係を持ち、不在の時には妙子の子、天海ほたるに性的虐待を繰り返している。ある時、ほたるが妙子を殺害した現場に遭遇。動揺することなく、遺体の遺棄を手伝い、秘密にすることを条件に、今後も肉体関係を継続することをほたるに約束させた。それからは、毎日22時を過ぎるとほたるを犯しにやって来るようになった。そんなある日、会社には妻の姉が亡くなったと噓ついて忌引(きび)きを取り、妻には北海道への出張と噓をついて天海の家を訪れる。すると、ほたると宮本人芥が自宅でいっしょにいるところを目撃して逆上し、人芥の目の前でほたるを殺そうとしたため、人芥によって殺害される。

有島 愛 (ありしま まな)

有島雄一の娘。以前アイドルとして芸能界で活動していたが、グループのメンバーが枕営業を行っていたことが明るみとなりってグループが解散したため、現在は一般人として生活している。父親の雄一が、北海道へ1週間も出張に行ったことに不満を募らせていたが、その直後に連絡が取れなくなったことを心配している。一方でそれをまったく気にすることなく、取り合おうともしない愛の母の様子には不信感を抱いている。警察に訴えるも取り合ってもらえず、次に探偵事務所も訪れるが、結局は無駄足に終わってしまう。その後、友人の香坂準太郎に、父親を探して欲しいと協力を要請する。のちに父親が愛人の天海妙子の家で遺体となって発見されるが、遺体を確認しても、父親とは認めようとしなかった。

愛の母 (まなのはは)

有島愛の母親で、有島雄一の妻。雄一の女癖が悪いことを知りながら、いつも最後には自分のもとへ戻って来るからと見て見ぬふりを続けてきた。何よりも自己保身に走るタイプで、雄一は自分だけを愛していると自らに言い聞かせ、娘の愛にもそう感じさせるよう努めてきた。出張という名の外泊が多い中、北海道に1週間の出張という、いつもと違う状況にも、心配はいらないと愛にはまったく取り合わなかった。その後、雄一が勤める会社からの電話で、雄一が会社に噓をついていたことが発覚。北海道への出張も噓だったことが判明するが、父親を心配する愛に対して余計なことはしないようにと釘を刺した。のちに夫が愛人の天海妙子の家で遺体で発見されるも、落ち着いた様子で自分たち家族は幸せだったし、夫が愛しているのは私だけだと言い放つ。

香坂 準太郎 (こうさか じゅんたろう)

有島愛の友人の男子大学生。軽いノリでチャラい外見をしている。アルバイトではあるが、ジャーナリストのはしくれとして活動している。表向きは愛と仲がよさそうに見えるが、実は愛がアイドルとして活動していたグループの「SENA」という女の子と深いかかわりがあり、自殺した彼女の恨みを晴らそうと、ずっと愛と有島一家の動向を探っていた。それにより、自己保身に走る愛の母の存在や、愛の父親・有島雄一が裏では女性にだらしなく、性欲をコントロールできないほどのクズであることを知り、その化けの皮をはがそうと躍起になっている。ある日、愛から父親の捜索に協力して欲しいと頼まれたことで、もともと持っていた情報を頼りに天海妙子の家を訪問。その際、思いがけず家の中に死体があることに気づき、近隣住民を装って警察に通報する。

天海 妙子 (あまみ たえこ)

天海ほたるの母親。実子のほたるに性的虐待を行っていた。さらに夫と離婚後、交際していた有島雄一が、ほたるに対して性的虐待を行っていることを知りながら、止めることをしなかった。その結果ほたるに刺され、帰らぬ人となった。その時偶然現場にいた雄一が、天海妙子の遺体処理を手伝って自宅の庭の花壇に埋めるが、指先が地面から出ているなどいいかげんな状態となっている。

田村 (たむら)

宮本人芥と同じ工場に勤める女性。人芥が退職する日、休憩時間に初めて人芥からハンバーグの作り方を教えて欲しいと話し掛けられたため、田村自身のオリジナルレシピを教えた。人芥が仕事をやめることについては、ベテランが抜けるのは残念だと彼の退職を惜しんだ。

安藤 (あんどう)

天海ほたると同じ高校に通うクラスメイトの女子。眼鏡をかけている。ほたるの家の近くに住んでいるため、一度登校して以来学校に来なくなったほたるのためにプリントを届けたりしていた。その後、学校を辞めたと聞いてからもほたるのことを気にかけ、何度も自宅前を訪れていた。そんなある日、偶然にも自宅に入ろうとするほたるに遭遇し、自分がほたるに思いを寄せていることを告白する。しかし、ほたるからは気持ち悪いと一蹴され、罵詈雑言を浴びせられた挙句、もう二度と来ないでと突き放された。その後、自分の言動に責任を感じ、自作のクッキーを持って再びほたるの家を訪れるが、ちょうど警察がほたるの家を捜査中だっため、情報提供を求められることになる。読書好きで、特に日柳葉室の小説が好き。

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