あらすじ
草子と智代美の逃亡生活の始まり
夫から激しいDVを受けている江崎草子は、自身に恋心を寄せているレズビアンの大高智代美に、夫の殺害を依頼する。智代美は言われるがままに実際に殺害を実行し、草子と共に逃亡生活をスタートさせる。その道中、ヒッチハイクをしていた派手な見た目のギャルの千葉京子や、幼い息子を事故で溺死させてしまった楢崎恵美など、さまざまな事情を抱えた女性と出会い、草子と智代美は生きることとは何なのかを考え始める。最初は旅行を兼ねた逃避行の気分だった草子と智代美だったが、次第に奪った命の重さやこれから生きていく術のなさに絶望していく。その後、智代美は自殺未遂を起こして失敗し、一方の草子は自分を置いて自死しようとした智代美を殺害しようとするなど、二人は精神的に追い込まれていく。そして二人は死ぬよりも警察に出頭して罪を償うことを選び、所持金のすべてを捨て去る。
智代美と家族の絆
結局、江崎草子と大高智代美は警察に出頭できず、所持金もすべて失った。大雨の中で行き場所もなく、体調不良と空腹で極限状態になった智代美は、拾った10円玉硬貨で兄の大高賢児に電話をかける。賢児はメディアの報道で、智代美が殺人の疑いで指名手配され、それを草子が依頼したことも知っていた。しかし、賢児は智代美と草子を叱責しながらも、家族だからと二人を受け入れ、落ち着いたところで出頭させようと考えていた。こうして智代美は兄嫁の大高麻美とかわいい甥と交流し、つかの間の穏やかな時間を過ごす。しかし、そんな智代美に対して賢児は、智代美と長く交際していた北慶が自殺したと告げる。一方の草子は、久しぶりに布団で眠ることができる幸せを感じつつも、自分にはない暖かな家族がいる智代美に嫉妬し、いら立ちを覚える。
草子と智代美の逃避行の終わり
大高智代美は大高賢児から自首することを勧められ、当日までそのつもりで過ごしていた。しかし、これからの人生でもう二度と江崎草子と会えないと思うと耐え切れず、二人は賢児と大高麻美のもとから逃げ出してしまう。もう本当に誰にも頼れなくなった二人だったが、とりあえずあみだくじでこれからの予定を決めるなど、穏やかに過ごしていた。互いに心中することを考えつつも、草子と智代美は流れで浅草観光をし、その夜に初めて二人は一線を越える。そして次の日、カゼのために声が出なくなった草子は、智代美に筆談で、胸の内にある思いを素直に伝える。
メディアミックス
ネット配信ドラマ
2021年4月から、本作『羣青』を基にしたネット配信ドラマ『彼女』が、Netflixで全世界同時独占配信された。原作とはキャラクター名や設定など細部が異なっており、江崎草子にあたる「篠田七恵」をさとうほなみ、大高智代美にあたる「永澤レイ」を水原希子が演じている。
登場人物・キャラクター
江崎 草子 (えざき そうこ)
29歳女性で黒髪の美女。鷲鼻が特徴で、メガネをかけている。実家は貧しく、父親からも暴力を受けて育ってきた。母親は妹を連れ蒸発。陸上競技のスカウトによりお嬢様学校に入学し、レズビアンである大高智代美と知合う。智代美からの好意にも気づいていたが、実害はないとの理由から差別や嫌悪などの感情は抱いていなかったが、智代美からの悪意のない同情を寄せられた事で嫌悪を抱くようになる。 足を故障した事で退部となり高校も中退。その後、智代美への意地と当てつけかのように、すぐに実業家の男性と玉の輿婚をするも、DVを受け続け傷だらけの体に。偶然10年ぶりに再会した智代美に、一晩のセックスを引き換えに夫の殺害を依頼する。
大高 智代美 (おおたか ちよみ)
金髪のロングで時々外国人に間違われる容貌。自分のことを「あーし」、江崎草子のことを「あーた」と呼ぶ。父親が都内の一等地にビルを何軒か所有しているなどの裕福な家庭で育ち、家族の仲も良いが、高3の時に母を癌で亡くしている。レズビアンであり、高校時代の同級生である草子に恋していた。 恵まれた環境で育ったため、素直で屈託のない性格ではあるが、それが故、貧しく不幸な環境で育った草子に対し悪意のない憐憫や同情を寄せ、気軽にお金を持ち出すため草子から嫌悪される。卒業後、動物が苦手であったが獣医となり、その理由として苦手なものの一生と向き合う仕事をしていれば、男の人とも生きて行けるからもしれないから、と語った。 再会した草子からの依頼により草子の夫を殺害する。その際処女を失う。
北 慶
大高智代美と10年近く連れ添った恋人で半同棲していた。智代美より10歳年上。地方公務員であり婚姻届受理の受付を担当している。出身は中国・四国地方と思われ時折会話に方言が織り混ざる。サバサバした性格で、誰よりも智代美の事を愛してはいたが、過去に智代美がレズビアンである事を、けじめという名目で智代美の父にバラすなど独善的であったと智代美は語る。 また、自分の両親には自分がレズビアンである事は隠していた。智代美と離別後、泥酔したまま入浴し溺死。
大高 賢児 (おおたかけんじ)
大高智代美の4歳年上の兄。男の子3人、女の子一人、計四人の子持ち。智代美が助けを求めた日は次男の誕生日であったが、家族と共に駆けつける。智代美の恋人であった北慶が死んだ事を智代美に伝えるが、その際に自殺であったと嘘をつき、妹達に自分たちの犯した罪の重さを実感させようとする。 まっすぐな性格で、家族の絆、愛情を何よりも大事にしている。
大高 麻美 (おおたか あさみ)
大高智代美の兄である大高賢児の妻。賢児の2歳年上。5人目の子供を妊娠中。元キャバクラ嬢であったため、賢児との結婚を反対されていた。賢児同様、正義感あふれる性格で、嘘が嫌い。また、子供や家族を大事に思いながらも、血のつながる家族がダメになった時のために、血のつながらない同士が結婚し、支え合うという持論を持ち、智代美とその兄である夫の賢児を支え続けようとする。 弟がおり、かつて智代美と付き合っていた。
切原 英子 (きりはら えいこ)
大高智代美と江崎草子の高校時代の同級生で陸上部所属。草子とタイムを競うライバルであった。レズビアンで、智代美に想いを寄せていたため、草子に必要以上につっかかっていた。現在は会社員で恋人と同棲中。
楢崎 恵美 (ならさき めぐみ)
大高智代美と江崎草子が逃亡中に知合った女性。息子と入浴中に事故で溺死させてしまいその事が原因で離婚。息子の骨壺と共に自殺場所を探していた。一旦は未遂に終わったがその後結局息子の後を追い、地元の国府津の海で入水自殺した。
千葉 京子 (ちば きょうこ)
大高智代美と江崎草子が逃亡中に、財布を無くしてヒッチハイクしていた際に拾った女子高生。黒ギャルであるが実はインテリでバイト中に数学の問題を眺めていたりする。意外にも処女であるが、好きな人から「処女は重い」と言われたため、メル友に処女を捧げてしまう。その際、草子の愛車のBMWを使用。
伊坂 賢 (いさか けん)
大高智代美の経営する動物病院で働く動物看護士。智代美の事を好きでよく食事に誘っていたが逆に奢られていた。事件後にかくまう事を申し出るも断られる。智代美に警察に通報するよう促されるが、そのまま逃亡をさせる事に。