概要・あらすじ
昔、さる国での物語。頭の弱い農夫・蔵六は絵を描くことが好きで、七色の色彩を使ってみたいとぼんやり考えていた。桜の時期、蔵六の全身に七色のできものが吹き出す。兄・太郎は両親を説き伏せ、蔵六を森のなかのあばら屋に移した。だが不憫に思うおかあは、毎日食事と薬を届ける。やがて蔵六のできものから七色のうみが流れ出し、下腹部がふくらんで怪物のような外見に。
蔵六は小刀でうみを絞り出して絵の具にし、夢中になって絵を描くのだった。夏には蔵六の腐臭が村まで届くようになり、おかあは森へ入るのを止められる。蔵六は虫や動物の死骸を食べて生き延びるが、奇病が進んで目も耳も失った。冬になると村人たちは蔵六を殺す相談をし、竹槍を持って森へ向かう。
だが蔵六の姿はなく、代わりに七色の甲羅をした大きく美しいカメが現れた。カメは死期を悟った動物が集まるねむり沼に潜り、二度と姿を見せなかった。
登場人物・キャラクター
蔵六 (ぞうろく)
ねむり沼の近くの村に住む農夫。小さい頃から頭が弱く、絵を描いたりぼんやり考えに耽ったりしながら暮らしていた。兄・太郎に疎まれている。
おとう
蔵六の父親。頭の弱い蔵六を叱っても仕方ないと思っている。
おかあ
蔵六の母親。奇病にかかった蔵六をいたわり、森のあばら屋に毎日食事と薬を届ける。
太郎 (たろう)
蔵六の兄。蔵六のせいで嫁が来ないと恨んでいる。村人たちと蔵六を殺す手はずを整える。
村人 (むらびと)
庄屋の家に集まり、悪臭を放ち怪物のような外見となった蔵六を殺す相談をする。ある吹雪の日、仮面をつけて竹槍を持ち、太鼓の音とともに蔵六がいる森に向かう。
庄屋 (しょうや)
蔵六を殺そうと言う村人たちを「放っておけばいずれ死ぬ」といさめる。だが最後は村人たちの意見をまとめ、蔵六を殺すことに賛同。
カメ
『蔵六の奇病』に登場する動物。姿を消した蔵六の代わりに、村人たちの前に現れた。甲羅が七色に美しく彩られ、目から真紅の涙を流している。
場所
ねむり沼 (ねむりぬま)
『蔵六の奇病』に登場する沼。森のなかにあり、死期が迫った動物が集まる沼。動物たちの死霊で冬でも凍らないといわれ、人間は近づかない。