作品の概要
基本情報
押見修造の代表作。
要旨と舞台設定
群馬県を舞台に、平凡な中学2年生の男子、静一と母親の静子の歪んだ親子関係を描いた物語。温厚なサラリーマンの父親、一郎、若い専業主婦の静子、そして息子の静一の三人家族で、静子が静一に対して異常なまでに過度な愛情を注ぐ日常が描かれる。物語の舞台となる家庭は一見するとふつうの家族であり、静一も同級生の吹石由衣子に恋心を抱くなど、思春期の少年として描かれている。
ストーリー展開
静子の静一に対する偏愛は、夏休みの山登りで起きた事件をきっかけに暴走し始め、彼女は静一を守るために次々と人を殺害していく。静子の行動は徐々にエスカレートし、母子の関係は共依存的な様相を呈するようになるが、静一は静子の愛情と支配の狭間(はざま)で苦悩することになる。
ジャンル的特徴と位置づけ
本作は、いわゆる毒親と子供の病的な関係性をテーマにしたサイコサスペンスで、血や暴力的な描写といった直接的な表現よりも、心理的な恐怖を重視した構成となっている。母性愛の歪みと息子への過干渉、そして家族という閉鎖的な空間における異常な関係性が、読者に強い印象を与える要素として機能している。
作品固有の表現技法と特徴
本作ではトーンを使用せず、ペンのみで陰影や表情を描く手法が用いられている。特に登場人物の瞳の描写に重点が置かれ、内面の狂気や心理状態が視覚的に表現されている。セリフの書体やコマ割りも効果的に用いられ、静子の異常性や静一の心理的変化が段階的に描写されている。また、日常的な場面と異常な場面の対比によって、恐怖感がより一層演出される構成となっている。
世界観の構築と設定
作品世界は、会社員の父親、専業主婦の母親、中学生の息子という典型的な核家族の形態が基本設定となっている。親戚関係として父親の一郎の姉家族が登場し、彼らとの関係も物語の重要な要素として機能している。舞台は学校や家庭といった日常的な空間であり、その中で徐々に明らかになる異常な親子関係が物語の核心を形成している。
連載状況
小学館「ビッグコミックスペリオール」2017年6号から2023年19号まで連載。
受賞歴
2017年「このマンガがすごい!2018」オトコ編第9位。
2023年第50回「アングレーム国際漫画祭」Prix de la Série(シリーズ賞)。
あらすじ
第1集(第1巻)
中学2年生の男の子、長部静一には若くて美しい母親がいる。周囲からは過保護といわれ、やたらスキンシップをしてくる母親の静子の事を照れ臭く思いながらも愛しく思っていたが、時折母親が見せる表情に言い知れぬ不安を感じていた。夏休みのある日、静一は両親といとこの家族、父親の両親を交えて山登りへ出かける。途中で昼食を取り、静一はいとこのしげるに誘われて、用を足しに家族達から離れると、崖の上でしげるはふざけて見せる。バランスを崩して落ちそうになったしげるの体を、一瞬にして現れた静子が支えたものの、その直後、静子はしげるの体を突き飛ばし、しげるは崖下へと落ちていくのだった。
第2集(第2巻)
しげるは崖下で見つかり、病院に担ぎ込まれる。一命は取り留めたものの脳に損傷があり、意識が回復したとしても言語障害や半身マヒ、記憶障害等が残る可能性が高いと診断された。事情聴取に病院を訪れた刑事に、静子は、しげるがふざけてバランスを崩し、崖から落ちたと説明する。唯一その場に居合わせた静一に、刑事が間違いないかと念を押すと、静一は動揺しながら、ママの言う通りと答えるのだった。静一は母親がなぜしげるを突き落としたのか、突き落としたのにウソをついているのか、それとも突き落とした事を覚えていないのか、まったくわからなかった。後日、両親がしげるのお見舞いに病院へ行くというが、静一は気が進まず、家で一人で留守番をしていた。そこへクラスメイトの吹石由衣子が訪ねて来る。静一の部屋で二人っきりになると、由衣子はラブレターを手渡す。その時忘れ物をした静子が家に戻り、玄関にある靴で来客に気づくと、静一の部屋へやって来るのだった。由衣子が帰ると、静子は珍しく強い口調で、静一が受け取った手紙を見せるよう命じる。手紙を読んだ静子は受け入れられないと涙を流し、この手紙を捨てていいかと静一に尋ねる。事件以来母親の事を心配していた静一が、抱きしめられた母親にどこにも行かないでと涙ながらに懇願すると、じゃあずっとママのいう事が聞けると尋ね、二人で由衣子からのラブレターを破り捨てるのだった。
登場人物・キャラクター
長部 静一 (おさべ せいいち)
中学2年生の男の子。1981年3月19日生まれ。一人っ子で、一軒家で両親と三人で暮らしている。学校の成績はよく、体育だけは3だが、ほかの教科はすべて5。過保護な母親の静子の事を気にしつつ、精神的に不安定な母親について、言い知れぬ不安を感じている。
静子 (せいこ)
長部静一の母親。物静かな若くて美しい女性。一人息子の静一を溺愛しており、周囲からも過保護といわれている。静一の体を触ったりスキンシップをしてくるほか、頬にキスする事もある。静一が幼稚園に行くのを嫌がった時は、毎日幼稚園の教室内に立って静一の事を見守っていた。夏休みに義姉とその息子のしげるが連日自宅に遊びに来ても、嫌な顔を見せる事はなかった。 長部家の三人と義姉夫婦一家、夫の両親でハイキングに行った際、しげるを崖から突き落とす。その際、ブツブツと過去の事と思われる意味不明な独り言を繰り返していた。静子がしげるを突き落としたのを見ていたのは静一だけだが、静子はまるで自分がしげるを突き落とした事を覚えていないようなそぶりで、警察や周囲には事故だと説明している。 その後、静一がクラスメイトの吹石由衣子から受け取ったラブレターを読むと、受け入れられないと涙を流し、静一を納得させてラブレターを破いた。
一郎
長部静一の父親。眼鏡をかけた平凡な容姿の会社員。姉がおり、息子のしげるといっしょに家を訪ねた。両親は健在。
吹石 由衣子 (ふきいし)
長部静一のクラスメイトで、中学2年生の女の子。ショートカットの髪型で、切れ長な目の美少女。静一に好意を抱いており、友達に頼んで静一といっしょに下校する機会を作った。その後、静一の家を訪ねて来る。二人っきりになった静一の部屋で、ラブレターを手渡した。
しげる
長部静一のいとこ。年齢は静一と同じか、少し上と思われる。静一の事を「静ちゃん」と呼び、仲がいいが、やんちゃなところがある。山へハイキングに行った際、崖の上でふざけていて落ちそうになり、静子に助けられるが、直後、静子に崖下へ突き落とされる。一命は取り留めたものの脳に損傷があり、意識が戻らなかった。回復したとしても言語障害や半身マヒ、記憶障害等が残る可能性が高いと診断されている。
しげるの母 (しげるのはは)
しげるの母親。静子からは「義姉さん」と呼ばれており、一郎の姉と思われる。物静かな静子とは対照的に、あけすけにものをいうタイプ。しげるの事故を受けて悲嘆に暮れている。
書誌情報
血の轍 17巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2017-09-08発行、978-4091896230)
第2巻
(2017-12-27発行、978-4091897060)
第3巻
(2018-04-27発行、978-4091898630)
第4巻
(2018-09-28発行、978-4098600816)
第5巻
(2019-02-28発行、978-4098602292)
第6巻
(2019-08-30発行、978-4098603862)
第7巻
(2019-12-26発行、978-4098605354)
第8巻
(2020-04-27発行、978-4098606016)
第9巻
(2020-08-28発行、978-4098607013)
第10巻
(2021-01-29発行、978-4098607914)
第11巻
(2021-06-30発行、978-4098610532)
第12巻
(2021-11-30発行、978-4098611485)
第13巻
(2022-04-28発行、978-4098613021)
第14巻
(2022-09-30発行、978-4098614189)
第15巻
(2023-01-30発行、978-4098615704)
第16巻
(2023-05-30発行、978-4098617135)
第17巻
(2023-09-28発行、978-4098625253)







