概要・あらすじ
昭和初期の北海道室蘭。遊郭・富士楼に、最年長の松恵、その妹で梅、大人びて美しい武子、容姿の悪い道子という4人の少女が連れてこられる。訪れた当日、娼妓として客を取らされた松恵は、直後に首を吊って死んでしまい、そこから彼女たちの凄惨な人生が始まるのだった。辛く苦しい時代に翻弄されながら、奥歯を噛み締め少女たちは生きる。
登場人物・キャラクター
松恵 (まつえ)
青森から遊郭・富士楼に売られた少女の1人で、梅の姉。4人の中で一番年上で器量良しとされたため、売られたその日に娼妓として客を取らされ、ショックのあまり首を吊って死んでしまう。
梅 (うめ)
青森から遊郭・富士楼に売られた少女の1人で、松恵の妹。自殺してしまった姉・松恵の分まで借金を背負い、幼いうちから娼妓として体を売り、たちまち人気の娼妓に成長する。常連客で医者の息子の聡一と恋をし、共に逃げようとするが失敗。その後、日本製鉄社員の大河内茂世に身請けされ結婚し、娘・道生を産む。 しかし、娘に対する世間からの批判やいじめを避けるため失踪。戦争で身寄りのなくなった姉妹を育てながら暮らし、後に病死。
武子 (たけこ)
青森から遊郭・富士楼に売られた少女の1人。大人びた美しさを持ち、京言葉を教えこまれ、没落した公家の娘という偽りの経歴で芸妓となる。やがて人気芸妓となると、富士楼を乗っとり、戦後まで遊郭で女将を続ける。戦中は反政府運動をする聡一に協力していた。
道子 (みちこ)
青森から遊郭・富士楼に売られた少女の1人。容姿が良くないため芸妓となることはできず、下働きをしていたが、客を取りたいために地獄穴と呼ばれる劣悪な店で体を売る道を選ぶ。聡一と逃げ出した梅に連れられて、一緒に逃げたが追っ手に梅と間違えられて地球岬に突き落とされ死亡する。
女将 (おかみ)
松恵たちが売られてきた、北海道室蘭の幕西遊郭にある遊郭・富士楼の女将。非情な性格であるが、将来が期待できる娘を育て、富士楼を切り盛りする人物。後に武子によって富士楼を乗っとられ、追い出される。
下田 (しもだ)
松恵たちを青森から室蘭に連れてきた人物。富士楼に来る前に、4人を地球岬に連れてきて、死にたくなったらここに来いと言った。少女たちに食事を用意するなどの優しさもある。
直吉 (なおきち)
富士楼で番頭として働くスキンヘッドの男性。梅を娼妓にした男であり、彼女に上客を回すなどして気にかけている。梅に惚れているが、結局室蘭を離れ札幌に移る。
中島 聡一 (なかじま そういち)
室蘭の医者の息子で反政府運動に関わる学生。夕湖の常連客であり彼女と恋に落ち、連れて逃げ出そうとするが特高に捕まり拷問をうけ、片目と片足を失う。その後も反政府組織に身を置くことになる。
大林 盛康 (おおばやし もりやす)
九条の後ろ盾となる街の有力者。九条に料亭を買い与え、富士楼を乗っとる後押しをした。反政府組織に手を貸す九条を止めようとするが、彼女に射殺される。
大河内 茂世 (おおこうち しげよ)
日本製鉄の社員で、聡一と逃げた梅を救った人物。後に梅と結婚し、娘・道生をもうける。日本製鉄の財閥に縁のある家系であるが、幹部職を嫌い鉄は文化のもとだとの考えから職人を続けている。
大河内 道生 (おおこうち みちお)
梅と茂世の娘。かなりのおてんばで男の子に混じって遊んでいたため、遊び仲間からは男だと思われていた。娼妓の子であるため、国民学校等でからかいやいじめを受けることもあるが、気の強い性格ではね退けている。戦後は教師になり幼なじみのつぐじと結婚する。
道生の祖母 (みちおのそぼ)
道生の祖母で茂世の母。由緒ある大河内家に元娼妓が嫁に入ることを嫌がり、梅に辛く当たる。しかし、娼妓の子であるために道生が学校でいじめられないようにと、校長に頭を下げるなど、孫のために力を惜しまない人でもある。戦中の艦砲射撃が元で亡くなる。
田中 つぐじ (たなか つぐじ)
道生の幼なじみ。国民学校に入るまで道生を男だと思っていた。妹と弟を道生の祖母と同じ艦砲射撃で亡くしている。戦後は道生と結婚する。
場所
富士楼 (ふじろう)
『親なるもの 断崖』に登場する遊郭。松恵たち4人が売られてきた場所。やり手の女将が切り盛りしており室蘭一の店として知られている。娼妓としては夕湖が、芸妓としては九条が看板となっている。後に九条が女将となり、売春防止法が施行され遊郭が廃業するまで営業を続ける。
室蘭 (むろらん)
『親なるもの 断崖』の舞台となる街であり、実在する北海道の地名。北海道の重工業の中心地であり、日本製鋼所は東洋一の兵器工場といわれ栄えた。そのためたくさんの労働者にあふれ、同時に遊郭も人で賑わっていた。海岸には地球岬と呼ばれる断崖絶壁がある。