概要・あらすじ
飯田和樹は山形県北部の小さな山間の集落、河鹿沢温泉で弟の飯田守と共に暮らしている。河鹿沢温泉は河鹿川の両岸に25軒ほどの旅館が軒を連ねる温泉町。河鹿川のそばには詩歌川が流れており、和樹の勤める温泉旅館「あづまや」は、目の前を詩歌川が流れる。20歳になる和樹はそこで湯守見習いとして働いている。湯守とは文字どおり「湯を守る」仕事。季節、天候によって変わる生き物のような温泉を、人が入れるように調整していく。和樹はベテランの湯守、倉石繁のもとで修業中だ。「あづまや」大女将の孫娘で、町一番の美人といわれる女子高生の小川妙から、上から目線で指図され、からかわれる和樹。妙は両親の離婚により、3年ほど前に母といっしょに河鹿沢へと引っ越してきた。これまでもよく帰省していたので、町のみんなとも顔なじみだ。年配の常連客である山本は「あづまや」を訪れると帷子岳(かたびらだけ)のよく見える貸切風呂「芭蕉の湯」を利用する。10年前に彼の息子が帷子岳で遭難。遺留品も見つからず、山本は時間の許す限り、山に入って息子を捜し続けた。それから5年。山本は息子を捜すのをやめ、山に入らなくなった。10年という節目の年に息子の失踪届を出した山本は、もう一度、帷子岳にのぼる決心をする。捜索を手伝ってくれた倉石と村の男たちは山本と共に帷子岳にのぼった。山頂に着いたと一行から連絡が入り、麓の不帰橋(かえらずのはし)で住職がお経をあげた。その様子を和樹がスマホでライブ中継し、山頂の一行に届けた。法要に用意された山本の息子の写真を見て、和樹と守は困ったような複雑な顔をした。仏さんを見たことがあるのだろうと気づいた住職に「こわくはなかったろ。生きてる人間のほうがよっぽどこわい」と言われ、とまどう和樹だった。
登場人物・キャラクター
飯田 和樹 (いいだ かずき)
温泉旅館「あづまや」で湯守として働く20歳の青年。母の叔父に養子として引き取られて、河鹿沢温泉で育つ。ツンツンした短髪で、素直でまじめな青年。周りの空気を読み、危機管理能力が高い。血のつながった一人目の父は暴力をふるい、二人目の父は浅野すずの父でもある優しい人だった。すずの父が病死したあと、母は再々婚。2歳下の弟の智樹は母についていき、飯田和樹は飯田の大叔父夫妻のもとに残る。その後、三男の飯田守が生まれるが、母は育てられないと守を飯田の大叔父夫妻に預け、和樹と守は飯田の養子に入った。離れて育ち、更生施設に入るほどグレてしまった次男の智樹のことを気に掛けている。
小川 妙 (おがわ たえ)
利発で聡明な女子高生。温泉旅館「あづまや」の大女将の孫。つやのある黒髪ロングヘアで町一番の美人といわれている。3年ほど前に両親の離婚で母の実家の河鹿沢に引っ越してきた。頭もよく、県内トップクラスの進学校に通う。東京では中高一貫の有名女子高に通っていた。自分の意見を言える芯のしっかりした女性。娘の言うことなど聞かず、ヒステリーで自分勝手な母にも負けない強さを持っている。「あづまや」で接客係のアルバイトをしており、大女将の信頼も厚い。
飯田 守 (いいだ まもる)
小学生の元気な男の子。飯田和樹とは異父兄弟。赤ちゃんの頃、飯田の大叔父夫妻に預けられ、和樹と共に養子となる。大叔父は、母と縁を切ったため、飯田守は母に会ったことがない。小川妙となかよしで「あづまや」で彼女の仕事の手伝いをしている。特に女性の年配客からの受けがいい。
倉石 繁 (くらいし しげる)
温泉旅館「あづまや」で長年湯守を務める年配の男性。先代の頃から「あづまや」で働いている。「あづまや」では温度の違う2本の源泉をバルブ調整で適温にするが、倉石繁は難しい貸切湯の温度も一発で決められる。温泉のことを熟知しており、河鹿沢温泉の源泉をすべて把握している。町の共同湯の管理も任されており、ほかの宿から相談を受けることも多い。若い頃は血気盛んで、町でやんちゃしていた若造たちを先代といっしょに懲らしめたりしていた。源泉の近くの湯小屋と呼ばれる管理部屋にいることが多く、常連客の好みの温度も頭に入っている。
書誌情報
詩歌川百景 4巻 小学館〈flowers コミックス〉
第1巻
(2020-10-09発行、 978-4091670946)
第2巻
(2022-02-10発行、 978-4091670960)
第3巻
(2023-06-09発行、 978-4091671011)
第4巻
(2024-10-10発行、 978-4091671165)