概要・あらすじ
京都の街の片隅に、ひっそり佇む小さな長屋。ふきこ路地と名付けられたこの長屋には、職人や芸術家たちがアトリエや店を構えて暮らしている。ある日、手作り本工房の店を営む安竹小春のもとに、十和田郁巳という元人気ギタリストが訪れ、自分が書いた楽譜や詞を本にして欲しいと依頼してくる。愛する音楽を手放した十和田の気持ちに寄り添いながら、小春は自分に出来る最高の仕事をしようと決意するのだった。
登場人物・キャラクター
安竹 小春 (やすたけ こはる)
ふきこ路地で、手作り本工房の店「綴」を営むアラサーの女性。その仕事だけで食べていくのは難しいので、文化教室の先生や書店でのバイトを掛け持ちして生活している。大の紙フェチ。本を愛し、自分の仕事に誇りを持っている。何気に男性からモテるが、恋愛に関してはかなり鈍感。
十和田 郁巳 (とわだ いくみ)
安竹小春を想う人物。元SHAKIN'HEADSのギタリストで、全ての曲で作詞作曲を手掛けていた。現在は芸能界を休業し、地元京都でイベント制作の仕事をしている。自分の書いた楽譜や詞を本にするため小春の店を訪れる。仕事に真っ直ぐで常に眩しい小春に魅了されていく。
関 光生 (せき みつお)
ふきこ路地に住む銀細工職人。シルバーアクセサリーショップ兼アトリエ「MONO・CHROME」の店長。常連で恋多き女性、風花の事が気になっているが、3年間想いを伝えられずにいる。風花に恋人ができる度ペアリングを作っているが、その恋が終わりを告げる度に返品される。かなりの甘党。
巽 篤郎 (たつみ あつろう)
ふきこ路地に住む画家。予備校に行かずに国立の芸大に現役合格した強者だが、卒業後は画材を買うためバイト三昧の日々を送っている。好きな絵を描ければお金にならなくていいという欲のない性格。いまいち才能が開花しきれていなかったが、ある日、高校の時から画家の夢を支えてくれた柳田雛子が失踪し、絵に激しい感情が現れるようになる。
井沢 皐月 (いざわ さつき)
ふきこ路地で喫茶店「夏菊」を営む男性。元はそれなりに名のある小説家だったが、スランプで書けなくなり逃げるように京都に越してきた。客として店にやってきたロリータ少女ナオミに懐かれ、次第に心を通わせていく。ナオミを想う気持ちを小説にしたところ、編集者から連載のオファーを受け、物書きとして復活した。
麻美 (あさみ)
ふきこ路地に住むキャンドル作家。作品の制作販売をしながら、手作りろうそく教室を開いて生計を立てている。美しく男前な女性。バツイチであり、過去の結婚生活のトラウマから再婚を望んでいなかったが、ブライダル制作会社に勤めるクライアントの本間から熱烈にアプローチされ、再び人を愛する気持ちを取り戻す。
佐倉 (さくら)
ふきこ路地で「布小物佐倉屋」を営む。友禅ののり置き職人を目指しており、自分に影響を与えた人物を勝手に「師匠」と呼んでは、実家まで押しかけ弟子入りを志願している。「師匠」が脳梗塞で倒れた後、本格的にその技術を伝授され、一人前ののり置きになる事ができた。
原田 葵 (はらだ あおい)
ふきこ路地に住む万華鏡作家。人付き合いが苦手な引きこもり。作品自体はレベルが高く、賞を受賞するほど。かなりのお嬢様で、実家からの仕送りを頼りに生きている。高身長な事がコンプレックスで、何に対しても自分に自信がない。ある日、ガラス職人の北尾恵と出会い、そのまっすぐな生き方に影響を受け、仕事や人づきあいに積極的になっていく。
慎吾 (しんご)
ふきこ路地で美容室「セベリア」を営む若者。大家の笠原早苗からは、若い頃の夫と声が似ているという理由でかなり気に入られており、毎日のようにオカズの差し入れをもらっている。いかつい見た目をしているが、しっかり者で優しい青年。
西山 椿 (にしやま つばき)
ふきこ路地で「椿靴工房」を営む靴職人。奈良の実家は有名な靴店で、父親から厳しくその技術を叩き込まれた。自分を認めない父に反発し、家を出て店を構える決意をする。足の不自由な娘のためにオリジナルローファーを依頼してきた内田に恋心を抱くようになり、今は亡き内田の妻に嫉妬するようになってしまう。
笠原 早苗 (かさはら さなえ)
長屋ふきこ路地の大家。京の呉服店の娘に生まれる。きり絵の才能があり将来は職人になりたいと思っていたが、理解のない父親から、お見合い結婚の後、おかみになるよう言われて育った。宇宙工学を学ぶ笠原という男性と恋に落ち、父親に激しく反対されるが、母親の協力を得てアメリカに駆け落ちしてしまう。生前、京の町並み保存に尽力していた母親からある長屋を受け継ぎ、母の名前から「ふきこ路地」と名付ける。 以降、職人や芸術家だけを住まわせ、その成長を優しく見守っている。
蕗子 (ふきこ)
笠原早苗の実母。呉服屋のおかみ。跡取りを産めない事で義母や義姉にイジメられたり、夫に長いこと愛人がいたりと、何かと辛い環境下で早苗を優しい子に育てあげた。見合い結婚を強要される早苗をかばうため、父親に歯向かったという理由で早苗を勘当し、駆け落ちを後押しした。京の町並み保存活動の一環で所有していた長屋を、早苗に相続した。
里中 鷹志 (さとなか さとし)
ふきこ路地に住む人形作家。毎日引きこもって一体10万円程する美少女人形を作っている。劇団を主宰する女性・浅田樹安に頼まれ、劇で使う人形の制作をするようになる。決して他人に心を開かない性格だったが、樹安に惹かれていくうちに心に変化が表れる。
竹若 (たけわか)
ふきこ路地で時計屋「刻」を営み、アナログ時計の修理やオリジナル腕時計の制作を行っている。ふきこ路地は、もともと亡くなった恋人が好きだった場所であり、偶然路地に立ち寄った時に長屋が住人を募集していたため入居を決意する。隣人の安竹小春が亡くなった恋人に似ていたことから、強く意識するようになる。
風花 (ふうか)
関光生の恋人。惚れっぽくて騙されやすく、幾度となくデート商法や結婚詐欺に引っかかってしまう。新しい恋人ができる度に光生にペアリングをオーダーするが、恋が終わりを告げる度にリングを返品する。実は、いつも優しく励ましてくれる光生に長いこと片想いをしており、後に付き合うことになった。
ナオミ
井沢皐月の恋人。祇園育ちの生粋の京女だが、ロリータファッションと洋菓子を愛し、東京弁に憧れる女子高生。はみ出し者のため学校にもなじめず登校拒否になっていたところ、偶然喫茶店「夏菊」に立ち寄り、店主の井沢を気に入ってしまう。後に、パティシエを目指すためフランス留学を決める。
柳田 雛子 (やなぎだ ひなこ)
巽篤郎が惚れる女性。高校の同級生である巽の夢をいつも応援し、常にマネージャー状態。画廊に巽の絵を売り込みにいった時、上手いが面白味に欠けると指摘されてしまい、自分が失踪する事で巽の絵に「狂気」という要素を付け加えようとする。
藤木 一松 (ふじき いっしょう)
ふきこ路地で「花屋一松」を営む。受注後に花を仕入れるという完全オーダー制のスタイルをとっている。華道の家元の一人息子で次期家元候補でありながら、女性関係のトラブルが多く追い出されてしまった。花と女性をこよなく愛する。同性愛者の検事、月森望美に恋をしてしまう。
場所
ふきこ路地 (ふきころぉじ)
京都の路地にひっそり佇む長屋。大家の笠原早苗によって、住めるのは職人や芸術家といった「つくる人」限定という条件がある。家賃はかなり安く、住人たちはそこでアトリエや店舗を構えながら暮らしている。