あらすじ
第1巻
199X年、インドネシアの西イリアン地域に大油田が開発された。以来、この地に日本資本が大挙進出。現地の荒廃と混乱を無視して利潤を追求した事から、インドネシアでは排日運動が激化していた。自衛隊のタカ派は自国民の保護を名目にインドネシアへの海外派兵を目論むが、そんな中、陸上自衛隊の幹部である南條三郎太が愛人の鯉淵美代子を殺害するという事件が発生。二等陸佐の九谷栄介はタカ派の首魁である南條を守るため、これを無理心中に見せかける。さらに、自衛隊の陰謀に気づいたジャーナリストの高宮清二の身柄を押え、すべてを闇に葬ったのであった。時を同じくして、日本のタンカーがフィリピン沖で海上ゲリラの魚雷艇に襲われ、沈没するという事件が発生する。ついに日本政府は自衛隊の現地への派兵を決定。九谷は現地での対ゲリラ作戦に生物化学兵器の使用を検討するが、自衛隊の化学学校主任である田所義男一佐は、自衛隊タカ派の集団である「護桜会」の一員でありながら、実は反戦思想の持ち主であった。九谷は田所が自身の目的の障害になるとみなし、彼の排除を目論む。
第2巻
二等陸佐の九谷栄介は田所義男一佐が所属する化学学校の部隊に第一師団北富士演習への参加を要請するが、これは九谷が仕掛けた罠であった。田所は演習に乗じて司令部に毒ガス攻撃を仕掛け、自衛隊首脳部のタカ派を一掃しようと目論むが、事前に計画を察知していた九谷に阻止され、失敗に終わる。かくして九谷は田所一派の一掃に成功するが、日本国内では市民団体による反戦活動が活発化し始めていた。反戦運動を率いる元T大教授の島田は、東京の電力供給網を絶つ大規模テロを計画。武装テログループ「十月の牙」のメンバーとなった高宮清二と手を組む。島田と高宮は発電所を攻撃し、東京の都市機能をマヒさせるが、逆に治安維持を名目に軍体制が強化され、島田の仲間達は当局に次々に刈り取られていく。実は、高宮は鯉淵美代子殺害事件で捕縛された際、体制側に寝返っており、内閣調査室の剣持の命令で反戦グループに潜り込んだスパイであった。かくして島田は逮捕されるが、用済みとなった高宮も剣持の部下によって消される。そして、九谷らの主導のもと、ついに自衛隊のクーデターが勃発。徴兵制度が復活し、日本は再び軍事国家への道を進み始めるのだった。
登場人物・キャラクター
九谷 栄介 (くたに えいすけ)
陸上自衛隊二等陸佐の男性。タカ派のトップである南條三郎太の腹心。父親は元B級戦犯ながら闇物資の横流しで興した事業で成功した人物で、裕福な家庭で何不自由なく育ち、防衛大学を出て防衛庁の幹部となった。作戦の運用にかけては並ぶ者なしと評判の切れ者で、南篠が起こした鯉淵美代子殺害事件を闇に葬り、反戦派の自衛官である田所義男を排除するなど、自衛隊を国軍とすべく暗躍する。西イリアンでの自衛隊活動において化学兵器の使用を検討するなど、効率を第一に考える冷徹な現実主義者で、上官である南條の事も小心なサディストと、内心では軽蔑している。同志であるはずの若手タカ派グループ「護桜会」も血気盛んなだけの連中と見下しており、彼らを利用しながら軍体制の確立に向けて着々と布石を打っていく。学生時代の友人である新藤の元恋人の侑子に思いを寄せていて、新藤の死後に彼女と結婚するが、野心達成に向けて突き進むあまり、彼女の心が離れつつある事に気づいていない。
侑子
クラブ「都」で働いているホステスの女性。インドネシアに駐在する新藤の恋人だが、一方で新生重機取締役の中泉修一郎と7年にわたって愛人関係にあり、中泉との関係解消の際に、手切れ金として銀座に自分の店を得た。新藤がインドネシアで妻帯し、当地で骨を埋める決意をしたため、新藤にふられる形で彼との関係は終わる。それでも新藤に未練を残していたが、彼がジャカルタでテロに巻き込まれて死亡した事から、失意のあまり、かねてから思いを寄せられていた九谷栄介に身体を許してしまう。やがて九谷と結婚するが、彼は自衛隊を国軍とするべく奔走。一人残される虚しさから九谷を裏切り、若い男を部屋に連れ込んでしまう。
高宮 清二 (たかみや せいじ)
「政経事情」というゴロツキ業界紙の社長を務める、ジャーナリスト崩れの男性。元左翼学生で公安に検挙された過去があり、その頃に同志だった女性とのあいだに4歳になる娘がいる。歌手の鯉淵美代子とは、彼女がソープで働いていた時からのなじみで、美代子を南條三郎太のもとに送り込み、自衛隊の動向を探っていた。そのため、彼女が南條に惨殺された時、事件の裏に自衛隊がいる事をいち早く察知。決定的証拠を手に入れて南條を恐喝するが、剣持率いる内閣情報室によって捕縛される。その際、主義を捨てて内閣情報室のスパイとなり、テロ組織「十月の牙」に潜入。島田が率いる反戦グループと接触し、内部から情報を流す。しかし島田の逮捕後、剣持に用済みとみなされ、無惨な最期を遂げる。
新藤
九谷栄介の防衛大学時代からの友人の男性。インドネシアの西イリアン駐在の商社マンで、侑子と恋人関係にあったが、駐在先で妻と子供を持ったため、彼女と別れて動乱のインドネシアで生きていく事を決意する。自衛隊のインドネシアへの派兵に否定的で、一時帰国した際に防衛庁の腹を探るべく九谷に接触。自衛隊の海外進出を目指す九谷を「戦争屋」と罵った。その後、駐在先のインドネシアに戻るが、現地ゲリラがジャカルタで起こした対日テロに巻き込まれて死亡する。
南條 三郎太 (なんじょう さぶろうた)
陸上自衛隊の陸将にして次期幕僚長と目されている実力者の男性。自衛隊タカ派のトップで、財界と組んで自衛隊の西イリアンへの派兵を主導する。気持ちがたかぶると太平洋戦争に参戦していた時の事を思い出して、女性への殺意を抑えられなくなるという性癖を持っており、愛人の鯉淵美代子を情交の最中に惨殺。部下の九谷栄介に事件を闇に葬らせた。その後もしばらく悪癖が収まらなかったが、九谷に脅しに近い形で叱責されて自重。九谷らがクーデターを起こした際、国防軍司令長官となった。
田所 義男 (たどころ よしお)
陸上自衛隊化学学校の主任を務める男性。階級は一佐。父親は旧陸軍で生物兵器の研究を行っていた石井部隊の作戦参謀で、戦後A級戦犯として処刑されている。夜間大学を経て自衛隊入りした苦労人で、任官の1年後に自ら志願して化学学校に所属。自衛隊の若手タカ派グループである「護桜会」の一員となるが、実は父親と戦争を憎む反戦主義者で、化学学校に入ったのも、自衛隊が化学兵器を使用しようとした時に阻止するためであった。そのため、毒ガスの使用を検討する九谷栄介に反発。演習に乗じて自衛隊のタカ派首脳もろとも彼を葬り去ろうとするが、失敗に終わった。
島田 (しまだ)
T大で教授を務めていた男性。70歳過ぎの老人だが、先の戦争で息子を亡くしている事から戦争と軍を嫌悪しており、防衛の名のもとに再軍備への道を進もうとする日本の前途を憂慮。これに抵抗するべくテロ組織「十月の牙」と組んで、東京への電力供給を絶つテロ攻撃を実行に移した。計画は成功し、大停電により東京の都市機能をマヒさせるが、治安維持を名目に保安体制が強化される形となり、当局によって同志達が次々に身柄を拘束された。島田自身も逮捕され、留置所の中で失意に暮れる結果となった。
澄江 (すみえ)
侑子の母親。東京の本所で暮らしている。気丈な女性で、向島の小さな料亭で仲居をしながら女手一つで娘を育てた。夫を戦争で亡くしており、時には進駐軍の米兵に身体を売って生活費を稼ぐなど、戦争で苦労をした事から戦争と軍人を憎悪し、怖れている。一人娘である侑子の事を案じ、なにかと親身になっていたが、彼女が自衛隊のエリートである九谷栄介と結婚した事から、娘に嫌悪感を覚えるようになっていく。
剣持 (けんもち)
九谷栄介の手足となって動く内閣情報室所属の男性。いかなる命令も忠実にこなす非情な人物で、南條三郎太による鯉淵美代子殺害の件を無理心中に偽装。事件の裏に気づいた高宮清二の身柄を押え、彼をスパイとして利用するなど、数々の工作活動を請け負う。
山崎
陸上自衛隊の作戦課に所属する自衛隊員の男性。階級は一尉。九谷栄介の子分を自認しており、九谷の命令で化学学校に潜入し、自衛隊のタカ派を一掃せんとする田所義男の計画の阻止に一役買った。九谷にあこがれているが、強い国防意識などがあるわけではなく、ただ単にかっこいいと思っているだけである。
鯉淵 美代子 (こいぶち みよこ)
URSレコードに所属する女性歌手。元ソープ嬢という過去があり、その頃から高宮清二と愛人関係にあった。高宮に頼まれて、自衛隊の情報をつかむべく南條三郎太に接近。彼と肉体関係を持つようになるが、情交のさなかに気持ちを高ぶらせた南條によって惨殺されてしまう。
唐牛 (からうじ)
警視庁公安勤続30年の男性刑事。高宮清二とは互いに情報を流し合う関係で、南條三郎太による鯉淵美代子殺害の件で、追われる身となっていた高宮に内閣情報室の情報を売るなど、彼の逃亡を手助けしていた。だが、高宮の敵が自衛隊の幕僚幹部と知り、これ以上彼との付き合いを続けていたら自身も危険と判断。高宮の潜伏先を内閣情報室に密告した。
中泉 修一郎 (なかいずみ しゅういちろう)
大手企業である新生重機の取締役を務める男性。侑子の愛人兼パトロン。若作りをしているが、総入れ歯にしているなど実はかなりの年齢。7年にわたって侑子との関係を続けて来たが、彼女と別れる事を決意。その際、手切れ金として彼女に銀座に店を持たせた。
八雲 崇太郎
経団連の顧問を務める老人。元日本軍で中将を務めた事から、周囲の者達に「中将閣下」と呼ばれている。自衛隊の海外進出を東南アジアへの兵器産業進出の契機にしたいという考えから、自衛隊のタカ派グループである「護桜会」を支援しており、九谷栄介に担がれて「護桜会」の顧問となる。
吉村 道夫
反政府グループ「十月の牙」に所属する男性。年齢は26歳。高宮清二と共に島田の計画した発電所へのテロに参加。東京大停電を引き起こすが、当局によって仲間が次々に刈り取られていき、吉村道夫自身もまた内閣調査室所属のスナイパーによって射殺された。
エッちゃん
島田が率いる反戦グループに所属する女性。派出所を襲って警察に追われていた高宮清二ら「十月の牙」のメンバーを助け、彼らを島田と引き合わせた。実は、内閣調査室の剣持の命令で島田のグループに潜り込んでいたスパイで、島田の居場所を当局に密告したあと、用済みになったとして高宮を殺害した。
集団・組織
護桜会 (ごおうかい)
防衛庁の若手幹部で構成されたタカ派グループ。当初はメンバー同士が自論を戦わせるだけのサロン的集まりだったが、九谷栄介の主導で財界の大物である八雲崇太郎を顧問、自衛隊幹部の南條三郎太を評議会議長とする組織となる。防衛庁の主流になった事で勢いに乗り、自衛隊を正式な軍隊とするべく決起するが、九谷に見捨てられ、あっさり鎮圧された。これは九谷が護桜会の暴発を自身の計画するクーデターの布石とするためで、彼に捨て石として利用される結果となった。
十月の牙
反帝武闘戦線を名乗る反政府グループ。高宮清二がスパイとして潜り込んだ。派出所を襲うなど武装闘争も辞さない過激派で、ピストル2発と実弾25発を手土産に島田の率いる反戦グループに合流。島田らと共に発電所を襲い、東京大停電を引き起こした。
場所
西イリアン (にしいりあん)
インドネシアのニューギニア島にある地域。低硫黄の大油田が開発され、利潤を追求すべく日本資本が見境のない経済行為を行った事から排日運動が激化。不測の事態が起こりかねない状況となったため、現地邦人の保護を口実に、自衛隊第一師団が派遣される事となった。
クレジット
- 原作