あらすじ
第1巻
借金に苦しむ40代の男性・堤は、ある日強盗未遂を働いてしまう。結局何も盗まずに逃げた堤だったが、声をかけてきた謎の少女から「迷宮魔術団」というショーのチラシを受け取り、テントに入る。しかし、テントの中で行われていたのは、月見信継をはじめとする団員たちの、過酷な過去を模した残酷なショーであった。そこで堤は、信継の正体は16世紀に生まれた武士である事、命令によりオランダに渡り現地で結婚するが、魔女狩りにより妻のヘラと娘のミーナを火刑に処され信継も殺された事、信継が死の間際に現れた悪魔と契約し、家族三人が永遠の命を手に入れる代わりに、人間の魂を悪魔に捧げ続けるという契約をした事を知る。信継ら三人の辛い境遇を知った堤は、自分はまだあきらめてはいけないと自首と自己破産を決意する。(エピソード「開演」)
内藤強は、子供の頃に母親と義父を亡くしたが、その件に関するいっさいの記憶をなくしたまま成人し、刑事として働いていた。そんなある日、強は、大集満人が、夜な夜な女性を集団強姦しているという事実を知る。満人を追う過程で、強は「迷宮魔術団」のテントを訪れる。そこで行われている残酷なショーを見た強は、ショーの内容と、自分の母親と義父が死んだ経緯を重ね、記憶を取り戻す。強の母親は、義父に殺されたのである。しかし、過去を思い出し苦しむ強の前に、子供の頃に親しくしていたが、すぐに姿を消してしまった少女ミーナが現れる。ミーナの言葉により、母親の死は殺人ではなく事故であり、義父と母親は愛し合っていた事を理解するのだった。(エピソード「記憶」)
作家の十部真一は、5年前にヒット作を出して以来、鳴かず飛ばずの状態が続いていた。家族にも愛想を尽かされた真一の新作を待っているのは編集者の上条沙優花と、「S・K」と名乗るファンだけで、真一は「S・K」のメールに励まされる日々を送っていた。そんなある日「迷宮魔術団」のチラシを手に入れた真一は「迷宮魔術団」を題材に小説を書く事を思いつくが、売れっ子作家の京院省吾もまた「迷宮魔術団」に目をつけていた。どうしてもあきらめきれない真一は、省吾に合作にする事を持ち掛け、二人は取材として「迷宮魔術団」のショーを見に行く事となる。しかし、そこで繰り広げられていたのは、真一にはとても耐えられない残酷な内容のショーだった。真一は、ショーを目の当たりにした事で無理にヒット作を生もうとせず、自分の作風を大切にしようと考え直す。しかしショーの最中、省吾が本性を現して豹変。省吾の正体は黒魔術教団「K」の教祖であり、自分の理想世界を作るために、誘拐した沙優花の生き血を利用して悪魔をあやつり「迷宮魔術団」の団員たちを倒してその力を手に入れる事が省吾の目的だった。省吾の思惑を知った真一は、その過程で沙優花こそが「S・K」である事に気づき、省吾の野望を止めるためにも沙優花を助けに向かう。(エピソード「家族」)
作田吾一は、まじめでお人好しだが、さえない容姿のために女性にふられ続けている。ある日、吾一は傷心旅行で訪れた般若町の自殺スポットで、自分を裏切った元恋人を見かけたという情報を耳にする。しかしそこに彼女はおらず、代わりに吾一は謎の少女ミーナと、自殺志願者の女性・菜津子に出会う。ミーナと共に菜津子の自殺を止めた吾一だったが、なんとそこに全裸で傷だらけの姿になった元恋人が現れ、三人に襲い掛かる。彼女は般若町を牛耳る般若家の守護神であり、吸血鬼でもあるエド・サルストにより生き血を抜かれ、吸血鬼化してしまったのである。般若家の秘密を知った吾一たちは捕らわれ、逃げる途中で崖から落ちたミーナと離れ離れになってしまう。しかし、ミーナを保護した月見信継とヘラは般若家に現れ、エドを倒し、吾一らを助ける。その戦いの最中で吾一は瀕死のケガを負うが、信継の治療により回復する。そして、事件がきっかけで菜津子は吾一に思いを寄せるようになり、二人は、1年後結婚するのであった。(エピソード「復讐」)
第2巻
俳優の佐竹宙也は、役者としていまひとつ目が出ず、恋人の若手女優・近藤真央との人気の差に悩んでいた。ある日公園で演技の練習をしていた宙也は、そこに現れたヘラから「迷宮魔術団」のチラシを受け取り、ヘラに惹かれるようになる。一方真央は、宙也の課した「自分と交際を続けたければ、真央の所属する大手事務所に入れるよう、事務所社長に頼んでくれ」という条件を果たすため、事務所社長を呪術によってあやつろうとしていた。しかしそれはすぐさまばれてしまい、真央を案じて事務所社長の家に足を運んだ宙也もまた、事務所社長の手のものに大ケガを負わされてしまう。真央はそのまま捕らえられ、「迷宮魔術団」のショー中に集団強姦されそうになる。しかし、駆けつけた宙也は、ヘラの協力のもと真央を救出。怪我をヘラの力によって治療された二人は現在の事務所を離れ結婚し、夫婦二人だけで演劇を続ける事を決意する。(エピソード「信頼」)
名門大学・集英館女子大学に通う山野風花は、実家の地方銀行が倒産した事で仕送りがなくなり、極貧状態にあった。アルバイトを探していた風花は、偶然「迷宮魔術団」のチラシを拾う。しかし、アルバイト経験のない風花は、まじめに働くよりも、自分に好意を寄せているらしい貴明を利用する事にする。しかし、貴明の正体は、気に入った女性を、仲間と集団強姦して楽しむ極悪人であった。それを知らず、ある日風花は貴明に誘われ「迷宮魔術団」のショーに訪れる。そこで風花は、ショーに登場する父親キャラクターが、自分の父親に酷似していると気づく。自分のために尽くして苦しむ家族を無視してまで楽に暮らそうとする自分を、風花は一瞬省みるが、そこで貴明の仲間が現れ、ショーの最中でありながら風花を襲おうとする。だが、風花を助けたのは、はるばる実家から駆けつけた飼い犬のタロであった。 (エピソード「故郷」)
元野球選手の渋沢宅美は、以前はスーパースターとして活躍していたが、現在は肘を壊し、保険の営業として働く鬱屈した生活を送っていた。そんなある日、宅美は夢の中で悪魔と出会う。悪魔は、宅美が大切にしているものを一つ捨てれば、望みを一つだけ叶えてくれるという。一方「迷宮魔術団」の面々は、前回の貴明らとの戦いによりヘラが負傷し、悪人の生き血を十人吸った現在も、完全には回復できずにいた。ヘラを案じた月見信継とミーナは、ヘラの回復には、血以外にも何かが必要であると考える。そして「パラスリハビリテーションセンター」に不穏なものを感じた信継たちは、「迷宮魔術団」として「パラスリハビリテーションセンター」への慰問を決意する。その頃「パラスリハビリテーションセンター」では、院長がリハビリと称して、宅美の妻に自分の子種を注入し、彼女を吸血鬼達の食料となる子供を産ませる「食料製造機」にしようとしていた。 (エピソード「居場所」)
お笑いコンビ「デンシ・レンジ」のツッコミ担当として活躍する伝次は、相方を激しく殴打するという、過激な笑いで人気を博していた。しかし、連日の公演のせいで相方は鼓膜が破れ、脳内に出血までしてしまう。伝次は医者に殴打は控えるように言われ、さらに最近巷で人気のお笑い芸人「まだら男(ブンティング)」の噂を聞き、焦ってしまう。そこで伝次は「まだら男」の笑いのネタを盗み、自分のものにする事を思いつき「まだら男」の舞台に出向く。しかし、そこで行われていたのは人間達を巨大なネズミ捕りの中に落として殺し、その光景を見せて客を笑わせるという恐ろしいショーであった。やがて伝次もネズミ捕りの中に落とされそうになるが、そこに子供の頃に出会った少女ミーナが助けに現れる。ミーナは伝次に伝えたい事があるのだという。それは、当時の二人の共通の友人が、伝次のお笑いに関するスタンスに疑問を持っており、人に「笑われる」事で誰も幸せにならないお笑いよりも、人を「笑わせる」事でみんなが幸せになるようなお笑い芸人になってほしいというメッセージであった。「まだら男」たちは駆けつけた信継とヘラによって倒され、友人からのメッセージに考えを改めた伝次は、相方を酷使するお笑いをやめる。そしてコンビ名を「タキ火兄弟」と改めた伝次と相方は、お笑いコンビとして再出発を果たすのであった。(エピソード「笑い」)
第3巻
新聞社「集英新聞」で働く艶条貴和子は、恋人であり上司の有井良人の浮気癖に疲弊し、別れたいと考えていた。貴和子の亡くなった父親も同様に、貴和子の母親の浮気に苦しめられた結果家を去られ、辛い思いをしたからである。悩む貴和子は、ある日良人の命令で、京都府にある辞世寺へ取材に行く事になる。そこには尼の辞世院君子がおり、君子の言葉により自分を見つめ直そうと考えた貴和子は、しばらく辞世寺で過ごす決意をする。そこで貴和子は、君子が実は辞世寺に湧く「生き水」と呼ばれる水の力で400年以上生きている16世紀の人間で、当時からの思い人である月見信継を今でも待っている事を知る。一方、貴和子の行動を快く思わない良人は、無理やり貴和子を連れ戻すべく、仲間を連れて京都までやって来る。だがそこで、良人が極悪人であると判断した「迷宮魔術団」のショーが始まる。ショー中の良人の告白により、良人こそが父親を事故に見せかけて殺した犯人であると知った貴和子は、本性を現し、化け物となった良人を殺す。そして400年ぶりに信継と再会した君子は、現在の信継の境遇を知り、思いを告げる事なく別れるのであった。(エピソード「煩悩」)
「吸血鬼狩人(ヴァンパイアハンター)」の称号を持つルーマニア人の男性ヘルシングは、亡き妹ロレアの恨みを果たすため、仇である「迷宮魔術団」を追って日本にやって来た。妹は60年前、村に現れた吸血鬼に嚙まれた事で自らも吸血鬼にされ助からなくなり、ヘルシングが自らの手で殺したのである。東京に到着したヘルシングは、自分に「迷宮魔術団」討伐を依頼してきた人材派遣会社「エンジェル」本社を訪れる。「エンジェル」社長の周辺では人が次々行方不明になる事件が起きており、社長はストリガという協力者を通じてヘルシングの存在を知ったのだという。早速「迷宮魔術団」のショーに訪れるヘルシングであったが、ヘルシングと「迷宮魔術団」が交戦中に、突如ストリガが現れる。なんとロレアを吸血鬼にした真犯人は、当時「迷宮魔術団」と同時期にヘルシングの村を訪れていたストリガであり、ストリガは日本に来てからも何人もの女性を吸血鬼にしていたのだという。真実を知ったヘルシングはストリガに倒されかけるが「迷宮魔術団」と協力しストリガに勝利する。こうして仇を討ったヘルシングは、ルーマニアへ戻るのであった。(エピソード「仇」)
ヘルシングとの一件で、ロメ・バリアーニの仲間の住む家を突き止めた信継とヘラは、ロメに関する情報を得るため、遺品を調査していた。調査の結果、信継とヘラは、ロメが人類を滅ぼすため、ヨーロッパで「血の神」と呼ばれる謎の存在を復活させようとしている事を知る。一方その頃ミーナは、散歩中通りがかった集英中学校で山部良高と出会う。良高は父親を亡くしたうえ、父親の持ち物であり、父親の死後中学校へ寄付した鳩たちを何者かに惨殺され、深いショックを受けていた。その後すぐに信継たちは、ロメを追ってヨーロッパに向かう事が決まる。しかし、良高の事が気になるミーナは、ヨーロッパ行きの船へ乗る直前、もう一度集英中学校を訪れる。そこでは、鳩を殺した真犯人である校長が、良高を殺そうとしていた。ミーナの様子に事件の匂いを嗅ぎつけた信継とヘラもミーナを追い、集英中学校で、日本では最後となる「迷宮魔術団」のショーを開催する。 (エピソード「西欧へ」)
「迷宮魔術団」は、ロメを追い、ヨーロッパへ向かう事になった。豪華客船「チェリーマーメイド号」に隠れて乗船した三人は、そこで密航者の中野治と出会う。治の父親は海賊に襲われ殺されてしまい、治は仇を探しながら密航生活をしているのだという。治の生き方に感銘を受けた信継は、治に協力を申し出る。さらにその直後、仇は「チェリーマーメイド号」に乗船しているやくざの若頭・飛田であることが分かり、信継たちは「迷宮魔術団」のショーを開催、ショーの中で飛田を倒そうとする。しかしそこに、ロメの仲間である紅羅(こうら)が船内に蛭をばらまき、蛭に見出された飛田は、大量の蛭が融合したような姿の化け物に変貌する。化け物となった飛田は強力で、信継たちは苦戦するが、最終的には治の一撃が決め手となって飛田は倒される。しかし、この戦闘中に「チェリーマーメイド号」は大量に浸水してしまい、ヨーロッパ行きを中止して香港に到着する事になる。「迷宮魔術団」はひとまず船を降り、気を失ったままの治を治療し、日本大使館の前へ置いて、香港の街へと向かうのであった。(エピソード「出発(たびだち)」)
第4巻
月見信継ら「迷宮魔術団」は、ロメ・バリアーニを追い、香港に到着していた。そこでいっしょに船を降りたはずのロメの刺客・紅羅を探していた信継たちは、子供に暴力を振るう若い女性・美蘭を発見する。美蘭を悪人と判断したヘラは「迷宮魔術団」のチラシを渡すが、信継とミーナは、ヘラの様子がどこかおかしい事に気づく。ヘラには現地の亡霊が取り憑いており、ヘラはそのために普段よりも感情的になっていたのである。しかし、どうやら亡霊は紅羅に殺された人間のもので、亡霊が自分たちへ、紅羅に関する何らかのメッセージを発している事に気づいた信継は、ひとまず亡霊をそのままにし、紅羅探しの手掛かりにする事を決める。そして紅羅との戦いになり、勝利した信継たちはロメが「血の神」という神を復活させようとしており、もしそれが成功した場合、何百人もの人間が死ぬほどの大惨事が起こる事を知る。そして信継たちは、次は大陸横断バスに乗ってヨーロッパを目指すのであった。(エピソード「血の神」)
「迷宮魔術団」は、ロメを追い、香港からヨーロッパへ向かう大陸横断バスに乗車していた。しかし、その途中でバスが突如停車し、まったく進まなくなってしまう。この先にあるダムでバスが通行不可になるような事件が起きており、それが解決するまでバスはこのままなのだという。一方その頃、ダムでは瀕死の紅羅があやつり人形たちを使って「血の神」の復活条件である1万人の人間の血を集めていた。ダムにはダム建設の責任者である大東敏男も訪れていたが、紅羅の攻撃により、危機的状況にあった。そこに、信継たちと共にバスに乗った乗客・黄敏明がやって来る。敏明は、かつて自分の母親である可秀を強姦した敏男を殺すためにバスに乗車しており、今こそがその機会と考えていたのである。しかし、敏明が敏男を射殺しようとした瞬間、突如「迷宮魔術団」のショーが始まる。その中でお互いの本心を知り、ようやくわかり合えた二人だったが、敏男は紅羅に致命傷を負わされ、間もなく亡くなってしまう。しかし、敏男の本心を理解した敏明は、信継たちと交戦中の紅羅にとどめを刺し、これから敏男の遺志を継いでダムを守る事を誓う。(エピソード「父親」)
フリーのルポライター橋爪圭介は、戦争のルポを書くために、シベリア鉄道に乗車していた。そこでロシア陸軍のウラジミール・スルコフが、大量の武器を持って移動する姿を見かけた圭介は、関心を持ち、ウラジミールの車に隠れて乗り込む形で追いかける。一方その頃、大陸横断バスに乗ってロメのいるスイスを目指していた信継は、昔の友人である近藤居織ら四人の夢を見る。居織とは幼い頃から親しく、400年前にはオランダ友好使節団としていっしょにオランダへ渡った仲だったが、オランダに残ってヘラと結婚した信継に対し、四人は日本へ戻り、その後は音沙汰もなかった。なぜ今更居織たちの夢を見たのだろうと信継が不思議に思っていると、竜巻によって巻き上げられた石や木が降ってきた事により、バスが突如止まってしまう。飛んできた人形から、ロメの気配を感じた信継たちは、ロメが近くにいる事に驚きつつも、バスの運転手に頼んで気配のある方向へと向かう。(エピソード「友」)
信継のかつての友人たち四人は、サイカスクスでロメの手下となり、狼藉を働いていた。そのうちの三人を倒し、残る一人である居織もまたロメにあやつられていると考えた信継は怒りに燃えるが、三人に負わされた傷は深く、その場に倒れてしまう。助かるには新鮮な血液が必要だが、そのためにはこれまで通り悪人を探し、すぐさま吸血しなくてはならない。そうするには時間が足りず、混乱するヘラとミーナの前に、サイカスクスの町長が現れ、自分の命と引き換えに信継に血を与える。一方その頃、ウラジミールと圭介は、ナターシャがいるはずの町長宅へ突撃していた。しかしナターシャは敵に連れ去られてしまい、二人が追いかけていった先では、ついに再会した信継たちとロメが戦っていた。戦いは信継が優勢かに思えたが、そこに、ロメの手下がやって来る。それはなんと居織であった。信継は居織がロメにあやつられているだけだと信じるが、そんな信継に、居織は衝撃の事実を告げる。居織は400年前から信継に思いを寄せており、信継のそばにいたくていっしょにオランダに渡った。しかし、信継は自分ではなくヘラを選び、オランダに残ったため、居織は信継への愛情が憎しみに変わり、信継が自分のものにならないのなら自分の手で殺してしまおうと考え、自らロメの手下になったのだという。深いショックを受ける信継だが、そこに再び巨大な竜巻が吹き、信継たち三人は竜巻に巻き込まれてしまうのであった。(エピソード「再会」)
ロメらとの戦闘中、信継ら「迷宮魔術団」は、突如吹いた竜巻に巻き込まれてしまう。居織から受けた攻撃と、竜巻のダメージで瀕死の信継のもとに、信継たちを吸血鬼にした悪魔が現れる。悪魔は信継とロメの戦いを楽しみにしていたが、信継があっさり負けてしまいそうなので、つまらないのだという。そんな悪魔に、信継は「死にゆく自分をもう一度蘇らせ、ロメたちと戦う力を与えてほしい」と頼む。悪魔は了承するが、それには相応の見返りが必要で、具体的には、信継が、2つの儀式を通じて、信継の中に残っている人間らしい心を捨て去る必要があるのだという。もはや時間がないと判断した信継は、先ほど悪魔が言った、2つの儀式を実行する。その1つ目とは、幼き純粋な血で信継の口を濡らす事で、2つ目は、親しき者から、心からの憎悪を受ける事であった。(エピソード「運命(さだめ)」)
ロメの手によって1万人分の人間の血は集められ、とうとう「血の神」が復活してしまった。その正体は、太陽を覆うほどの暗黒の霧であり、1億年前に恐竜が絶滅したのも、10万年前に氷河期が起きたのも、実はこの「血の神」が降臨した事が原因なのだという。「血の神」が放たれ、少しずつ霧が広まっていくその頃、信継とミーナは、居織にあやつられたヘラを追う形で、ロメと居織のいる場所へ向かっていた。二人は本拠地であるアルプス山中の城におり、城は、ロメたちの手によって吸血鬼にされた人間に守られていた。しかし信継は吸血鬼たちとのコミュニケーションに成功し、共にロメを倒すため、ロメに恨みを持つ彼らを連れて城へと向かう。するとそこには、ミーナのかつての師であるバグザスが待っていた。バグザスは400年前、不当な魔女裁判によりミーナとヘラを失った事を今でも後悔しており、ミーナが姿を消したあと、ペストが大流行し、自分の生徒たちが次々と死んでいく際も、つねにミーナの事を思い出していたのだという。(エピソード「暗黒」)
「血の神」の正体である暗黒の霧が着々と太陽を覆うさなか、信継は、居織を倒す事に成功する。その直後、自らも心臓を貫かれてしまう信継だったが、すでに悪魔との儀式により怨念の化身と化した信継は吸血鬼の弱点をものともせず、即座に回復。吸血鬼を超えた「鬼」に変貌する。そんな信継の姿に悪魔は喜び、信継こそが自分の息子であり、自分の次に地上を支配する後継者であると宣言する。しかし、それを聞いたロメは、自分もまた悪魔によって蘇った存在である以上、後継者になる資格はあると名乗りを上げる。悪魔はそれを気に入り、信継とロメ、勝った方が次の地上の支配権を得ると言い出す。しかしミーナは、信継が悪魔になる事を嫌がり、信継を必死で説得する。ミーナは「迷宮魔術団」として旅をするうちにロメへの復讐心を忘れ、事件に巻き込まれた人々を心から思って活動するようになっており、それは信継も同じだったのではないかと語る。そしてその思いは天に届き、なんとミーナは生前いつも祈りを捧げていた神の力によって、天使に姿を変える。天使となったミーナは、信継を元の人間に戻す力を得て、正気を取り戻した信継はとうとうロメを倒す。ロメの死と同時に「血の神」も消え、地球には太陽の光が戻る。悪魔は後継者候補を失った事を残念がりつつも、去っていき、地球は平和を取り戻すのであった。そして、神の力により、歴史はほんの少しだけ変わる。ロメによってヘラとミーナが殺された事件は消え、信継ら三人は、魔女裁判を逃れて山の中に移り住んだという形に書き換えられたのである。そして16世紀のオランダで、三人は人間としての命を取り戻し、幸せに生きていくのであった。(エピソード「天使と悪魔」)
登場人物・キャラクター
月見 信継 (つきみ のぶつぐ)
殺人劇団「迷宮魔術団」の一員である日本人男性。前髪を目が隠れそうなほど伸ばし、青い髪全体を左に向かって流したショートカットヘアにしている。若い男性の姿をしているが、実際は1564年生まれで、若い頃に悪魔と契約し吸血鬼として永遠の命を得たため、実際は400年ほども生きている。もともとは日本に生まれ、武士として暮らしていた。 しかし、1582年、戦国大名の大村純忠がオランダに送った「オランダ友好使節団」の一人としてオランダへ渡り、そこで知り合った貿易商の娘ヘラと結婚。日本には戻らず、オランダ人として生きる事となり、のちに娘ミーナをもうけた。そんな中、ロメ・バリアーニにヘラとミーナを魔女裁判にかけられる事となり、二人は月見信継の目の前で焼き殺され、自らもロメによって瀕死の重傷を負わされてしまう。 そこに現われた悪魔と、ヘラとミーナと共に不老不死の吸血鬼となる代わりに、人間を殺してその魂を悪魔に捧げるという契約を交わした。現在は悪魔との契約を守りながら、同時にロメを追い、復讐しようとしている。なお、悪魔に捧げるのは悪人の魂だけにすると決めており、悪人と思われる人間に「迷宮魔術団」のショーのチラシを渡して招待しては、候補者の人間性を見極めている。 そして、たとえば残酷なショーを見てもなお喜んでいるような極悪人のみを殺して回っている。
ヘラ
殺人劇団「迷宮魔術団」の一員であるオランダ人女性で、月見信継の妻であり、ミーナの母親。前髪を真ん中で分け、赤紫色の長い髪を、高い位置で一つにまとめたシニヨンヘアにしている。若い女性の姿をしているが、実際は16世紀生まれで、若い頃に悪魔と契約し吸血鬼として永遠の命を得たため、実際は400年ほども生きている。 もともとはオランダに生まれ、貿易商の娘として暮らしていた。1582年、日本から「オランダ友好使節団」の一人としてやって来た信継と出会って結婚し、娘ミーナをもうけた。そんな中、ロメ・バリアーニに魔女裁判にかけられ、信継の目の前でミーナと共に焼き殺されてしまう。そこで信継が悪魔と契約を交わした事で、現在は悪魔との契約を守りながら、同時にロメを追い、復讐しようとしている。 普段は落ち着いた女性として振舞っているが、心の中にはロメへの憎しみが渦巻いており、ロメのような悪人には容赦がない。殺される直前にロメに強姦された事と、ミーナという娘がいる事から、性暴力に関する事件と、子供に関する事件に関しては特に敏感に反応する。
ミーナ
殺人劇団「迷宮魔術団」の一員で、日本人・月見信継とオランダ人ヘラのあいだに生まれたハーフの娘。前髪を真ん中で分け、胸まで伸ばした金髪を縦ロールにしている。7歳の少女の姿をしているが、16世紀に生まれ、その後吸血鬼として永遠の命を得たため、実際は400年ほど生きている。明るく心優しく、正義感の強い性格をしている。 7歳の頃、ロメ・バリアーニに魔女裁判にかけられ、信継の目の前でヘラと共に焼き殺されてしまう。そこで信継が悪魔と契約を交わした事で、信継とヘラと共に不老不死の吸血鬼となる代わりに、人間を殺してその魂を悪魔に捧げる定めを負う事となった。ロメを追って世界中を旅しながら「迷宮魔術団」でショーを行っているため、一つの土地にとどまる事ができず、また吸血鬼という自分の正体を明かせないため、友人を作るのが難しい環境にある。 しかし、ミーナ自身は友達がほしいと強く願っており、事件に巻き込まれた一般人たちとも積極的にコミュニケーションを取っている。その過程で次第にロメへの復讐心を忘れ、純粋にかかわった人々の役に立ちたいと願うようになり、心が浄化されていく。 行く先々でできた友人の事はみんな「ちゃん」を付けて呼ぶ。
ロメ・バリアーニ (ろめばりあーに)
元オランダの検事長を務めていた男性で、現在は吸血鬼となっている。月見信継ら「迷宮魔術団」に仇として追われている。前髪を目の上まで伸ばしてカールさせ、顎の高さでカールさせたボブヘアにベレー帽をかぶり、口ひげとあごひげを長く伸ばしている。中年男性の姿をしているが、16世紀に生まれ、その後吸血鬼として永遠の命を得たため、実際は400年ほども生きている。 元は普通の人間で、ヘラに思いを寄せていた。しかしヘラに冷たくあしらわれた事で逆恨みし、やがて検事長という立場を利用して、ヘラとミーナを魔女狩りの標的にしようと思いつく。そしてヘラを連れ去り強姦、妊娠、堕胎させたのち、信継の目の前でミーナと共にヘラを焼き殺した。そこで信継が悪魔と吸血鬼になる契約を交わした際、悪魔が信継たちを苦しませるために、ロメ・バリアーニも吸血鬼にして永遠の命を与えた。 以降、信継たちと400年以上にわたって憎み合っている。現在は「血の神」と呼ばれる存在を利用し、地球を自分たちのような不死の存在だけの星にしようと暗躍している。そのため、世界各地で見つけた見込みのある人間を吸血鬼にしながら、「血の神」の復活に必要な、1万人分の人間の血を集めている。 のちに「血の神」を復活させるが、最終的には信継に倒され、計画に失敗して死亡する。
堤 (つつみ)
エピソード「開演」に登場する。有限会社「堤モータース」の社長を務める40代の男性。前髪を右寄りの位置で斜めに分けた癖のあるショートカットヘアにしている。妻の堤時江と、娘の堤理香がいる。「堤モータース」を経営しながら家族三人で平凡に暮らしていたが、ある日突然銀行から融資を打ち切られ、「毒島(ぶすじま)金融」に借金をして再建を試みる。 しかしそれも失敗し、多重債務者となってしまう。借金苦を思いつめ、コンビニへ強盗に入るが結局何も盗まず、逃げて来たところをミーナに声をかけられ、「迷宮魔術団」のチラシを受け取る事となった。その後「迷宮魔術団」のショーに訪れるが、そこで月見信継たちの過酷な境遇を知り、信継たちに比べれば、自分はまだやり直しが利くと考え直し、自首と自己破産をして真っ当に生きていく決意をする。 その過程で信継に「悪人ではない」と判断されたため、殺される事なく平和な日常に戻っていった。
毒島 健作 (ぶすじま けんさく)
エピソード「開演」に登場する。毒島(ぶすじま)金融の社長の息子で、年齢は20歳。前髪を上げて額を全開にした撫でつけ髪をし、三白眼が特徴で目がギョロギョロしている。10代の頃、幼い少女を二人殺し、5年間少年院に入っていた小児性愛者。出所後は毒島金融に入社し、現在は研修期間にある。堤時江とは、ある日父親が時江に借金返済を迫りに行った際、同行していた事で知り合った。 その時現れたヘラから「迷宮魔術団」のチラシを受け取り、興味を持って開催地へ向かう。その途中で倒れていた堤理香を発見して襲おうとするが、理香と親しくなっていたミーナによって撃退され、死亡した。
内藤 強 (ないとう つよし)
エピソード「記憶」に登場する。ミーナの友人で、刑事として働く若い男性。がっしりした身体つきで、スポーツ刈りにしている。ミーナからは「強ちゃん」と呼ばれていた。父親は警察官だったが内藤強が幼い頃に亡くなり、その後母親は再婚するが、新しい父親は、事故で母親を死なせてしまい、その直後に自殺した。強はその光景を目撃したショックで記憶喪失となり、事件に関する記憶をすべて忘れたまま、孤児院に引き取られて育った。 さらに、警察官になってから知り合い、婚約中だった恋人のマリアが、風俗嬢として過酷な労働条件下で働かされた結果、過労死したという過去を持つ。以来、女性を乱暴に扱う人間を絶対に許さず、これまでにそのような男を5人以上も半殺しにした事がある。 ある日「大集英商事株式会社」の副社長・大集満人が行っている凶悪犯罪について知り、調査を行う過程で「迷宮魔術団」のテントを訪れる。ミーナとは子供の頃に知り合い、いじめられているミーナを助けたのがきっかけで「親友」と呼ばれるほど親しくなる。しかし、ミーナとの「お互いの知られたくない秘密については、聞かない約束をする」という約束を破って「迷宮魔術団」のテントを覗こうした事がきっかけで、「決して正体を知られてはならない」という「迷宮魔術団」の掟に従ったミーナに去られてしまった。 最終的には「迷宮魔術団」のショーの中で、ミーナの手助けにより過去に関する記憶を取り戻し、同時に満人が行っていた連続集団強姦事件の被害者である柊綾香と出会い、恋仲になる。
大集 満人 (たいしゅう みつと)
エピソード「記憶」に登場する。「大集英商事株式会社」の副社長を務める若い男性。前髪を七三分けにしたストレートショートカットヘアに、眼鏡をかけている。一見品行方正に振る舞っているが、「レイプクラブ」と称して、ナンパして連れて来た柊綾香をはじめとする女性たちを、毎日のように集団強姦して楽しんでいる。また、女装癖もある。ある日「迷宮魔術団」のチラシを受け取り、関心を持ってテントを訪れる。 その際に醜い本性を現して月見信継たちに悪人と判断され、信継や内藤強に罪を暴かれたのち、警察に捕まった。
十部 真一 (とおべ しんいち)
エピソード「家族」に登場する。小説家の中年男性。前髪を右寄りの位置で斜めに分けたストレートショートカットヘアにし、頬がこけてややえらが張った顔をしている。5年前「妖美舞踊」という作品でヒットを飛ばすが、その後は鳴かず飛ばずで、現在は出版社「滑蛭(ぬめひる)書店」に300万円もの借金がある。そのため妻の十部陽子と娘の十部美久とも不仲になり、現在は別々に暮らしている。 陽子からは東京を離れ、陽子の父親の工場を手伝いながら小説を書くのはどうかと打診されているが、作家としてのプライドが邪魔をして承諾できず、悩んでいる。ある日、何とかしてヒット作を生み出そうと、偶然手に入れた「迷宮魔術団」のチラシから着想を得て小説を書く事を思いつく。しかし同じく「迷宮魔術団」に目をつけていた京院省吾と合作で「迷宮魔術団」の小説を書く事になったのをきっかけに、省吾のたくらみに巻き込まれていく。 その過程で、家族や唯一のファンである「S・K」の助言通り、無理に時流に乗った作品ではなく自分らしい小説を書くと決意する事となる。最終的には陽子の言葉に従い東京を去る事になるが、「S・K」の正体と分った女性編集者・上条沙優花には、「新作ができたら最初に送る」と約束をする。
京院 省吾 (きょういん しょうご)
エピソード「家族」に登場する。小説家の中年男性。前髪を真ん中で分けて額を見せ、肩につくほどまでのセミロングヘアにしている。発表したすべての作品が大ヒットする売れっ子作家として知られているが、その正体は黒魔術教団「K」の教祖で、教団員達からは「教祖」と呼ばれている。裕福な家に生まれるが、父親も母親も別々に愛人を持ち、京院省吾自身はほとんど無視されながら育ったという境遇から「家族」という制度に強い疑問を抱いている。 そのため害悪しか生まない制度である「家族」制度を破壊し、自分の考える新しい価値観のもと、全世界の子供を導く父親として君臨したいと考えている。その手段の一つとして「迷宮魔術団」を秘密裏に調査しており、月見信継らを蘇らせた悪魔の力を借りたいと考え、信継たちをおびき寄せようとしている。 また、信継たちのそばにいる悪魔をあやつる儀式に使うため、処女の血を持つ上条沙優花を捕らえ、その生き血を抜いた。一度は悪魔をあやつる事に成功するが、その思惑を知った十部真一によって沙優花を救助され、信継に倒されて死亡した。
上条 沙優花 (かみじょう さゆか)
エピソード「家族」に登場する。出版社「滑蛭(ぬめひる)書店」で働く若い女性社員で、ファッション誌を担当している。前髪を目の上で切って右寄りの位置で斜めに分け、顎の高さまで伸ばしたボブヘアにしている。かねてから十部真一の大ファンで、真一とは2年前に1か月だけ担当編集者としていっしょに働いた事がある。しかし、2年経った現在でも真一が新たなヒット作を生み出せていない事を案じており、正体を隠して「S・K」のハンドルネームで、毎日のように真一に励ましのメールを送っている。 ある日「滑蛭書店」で真一の新作が発売できるよう編集長に掛け合ってもらうため、京院省吾に相談し、彼の家で行われたパーティに参加する。しかしそこで、悪魔をあやつるために処女の生き血を求めていた省吾に拘束されてしまう。 その後、何度も生き血を抜かれて瀕死の状態に陥るが、省吾の目的を知った真一により助けられ、また月見信継の力で治療を受け、回復した。真一の作品で特に好きなのは「妖精王の伝説」。
作田 吾一 (さくた ごいち)
エピソード「復讐」に登場する。雑貨関係の会社に勤める若い男性。スポーツ刈りで、小柄で太めの体型をしている。団子鼻が特徴。生真面目で心優しい性格だが、容姿がよくないために、女性からふられ続ける人生を送っている。そのため、失恋するたびに傷心旅行に出るのが趣味になっていた。ある日思いを寄せていた風俗嬢のキリカに裏切られ、般若町へ旅行に来たところ、自殺の名所となっている冥府岬でキリカを見かけたという噂を聞きつけ、冥府岬へ向かう。 そこでミーナと菜津子と出会い、親しくなる。出身地は九州で、父親は「作田工務店」の社長であった。しかし取引相手の倒産で不渡りを出し、ノイローゼとなり父親が自殺してしまう。その後母親も心労により亡くなり、現在は天涯孤独となってしまっている。 女性にほんのわずかでいいから、心から好かれたいというのが夢。最終的には、般若町で行われて続けてきた恐ろしい事件を「迷宮魔術団」と共に暴き解決させ、菜津子と結婚する。
エド・サルスト (えどさるすと)
エピソード「復讐」に登場する。ロメ・バリアーニの部下で、オランダ貴族の吸血鬼。前髪を真ん中で分けて額を全開にし、肩につくほどの長さのセミロングヘアにしている。鼻が高く、顎が割れており、般若のような顔立ちをしている。中年男性の姿をしているが、400年前、自分たちの命を狙う「迷宮魔術団」の団員から自衛するため、ロメらと共に吸血鬼となった。 そのため、実際は数百年間生きている。その後は「迷宮魔術団」から逃げる人生を送ってきたが、300年前、乗っていた船が難波し、100年間海底をさまよう。そして200年前に般若町に漂着し、般若街を牛耳る一族・般若家に、海底にいた頃に得た知識で漁業をサポートするようになる。そして現在は般若家に代々伝わる神様「般若明神」となり、般若家の人間に食料となる人間を捕らえてきてもらう代わりに、サポートを続けている。 だが、現在の生活に嫌気がさしており、今では人を殺して血を飲む事、特に若い女性の血を飲む事だけが楽しみになっている。しかし、般若家の人間が作田吾一、ミーナ、菜津子の三人を襲った事件を機に「迷宮魔術団」に居場所を突き止められ、月見信継によって倒され死亡した。
佐竹 宙也 (さたけ ちゅうや)
エピソード「信頼」に登場する。俳優志望の若い男性。前髪を右寄りの位置で斜めに分け、肩につくほどまで伸ばしたセミロングヘアにしている。小学2年生の頃、母親が恋人を作って逃げ出した事、初めて真剣に交際した女性との仲を父親に裂かれた事などから女性に対して不信感を抱いており、女性とは、いつか自分の前から去っていくものだと捉えている。 そのため現在の恋人である近藤真央に対しても素直になれず、自分を置いて有名になってしまった真央にコンプレックスを感じ、冷たく接するようになってしまっている。そのため「自分と交際を続けたければ、真央の所属する大手事務所に入れるよう、事務所社長に頼んでくれ」と無理難題を押しつけていた。ある日公園で演技の練習をしていたところヘラに声をかけられ、ヘラに惹かれたのを機に「迷宮魔術団」のチラシを受け取り、ショーに訪れる。 そこで真央が事務所社長の九世らに強姦されそうになっている事を知り、致命傷を負いながら助ける。そのため一時は死にかけるが、ヘラの力により治療され、最終的には現在の小さな事務所を離れて真央と結婚し、夫婦で演劇をする道を選んだ。 ヘラに出会った当初は、彼女に惹かれた理由が、ヘラと真央の容姿がよく似ているからというのには気づいていなかったが、ヘラに指摘された事で、真央への強い思いを自覚した。
近藤 真央 (こんどう まお)
エピソード「信頼」に登場する。佐竹宙也の恋人で、大手事務所「OKプロダクション」に所属する新進気鋭の若手モデル兼女優。前髪を真ん中で分け、肩につくほどの長さの外はねセミロングヘアにしている。ヘラに顔立ちがよく似ている。宙也とは、アルバイトでミスをして首になり、食事するお金にも困っていたところを助けられたのがきっかけで知り合った。 その後交際を始め、お互いが劇団の研究生であった頃は仲睦まじく暮らしていた。しかし、やがて近藤真央だけが成功し、役者としての二人に差が出るようになってしまってからは、宙也が冷たくなり悩んでいる。そのため宙也の「自分と交際を続けたければ、真央の所属する大手事務所に入れるよう、事務所社長に頼んでくれ」という条件を受け入れ、事務所社長の九世を自分の意のままにあやつる事を思いつく。 そして占い師に相談をし、呪術に手を出してしまうが、すぐさま九世に気づかれ、捕らえられてしまう。その落とし前として「迷宮魔術団」のショーを見ながら強姦されそうになるが、ヘラと宙也に助けられる。最終的には「OKプロダクション」を去り、宙也と結婚し、夫婦で演劇をする道を選んだ。
山野 風花 (やまの ふうか)
エピソード「故郷」に登場する。名門大学・集英館女子大学に通う女子大生。元は地方銀行の社長の娘だったが、銀行が倒産した事で、現在は仕送りが止まり、極貧状態にある。そこで、楽して金銭を手に入れるため、貴明を利用しようと思いつく。しかし、貴明の正体は強姦魔である事を知らず、ある日貴明に誘われて「迷宮魔術団」のショーに訪れる。 そこで貴明の仲間に襲われそうになるが、自分を追ってやって来た飼い犬のタロによって守られた。それ以降は自分の行いを反省し、まじめに働く決意をする。現在は高飛車で身勝手な性格になってしまっているが、子供の頃は優しい性格で、タロにも非常に愛されていた。
渋沢 宅美 (しぶさわ たくみ)
エピソード「居場所」に登場する。元野球選手の若い男性。現在は保険の営業として働いている。がっしりとした体型で、髪型はスポーツ刈りにしている。野球選手時代はスーパースターとして知られ、将来を嘱望されていた。しかし、ある日妻の渋沢知華とマスコミの取材に応じていたところ、知華が乗ったままの車椅子を無理に持ち上げた事で肘を痛め、選手生命を絶たれてしまう。 それ以降は保険の営業として働く事になるが、野球選手としての人生に強い未練があり、知華との関係も悪くなっていた。そんなある日夢で悪魔と出会い「宅美が大切にしているものを一つ捨てられたら、宅美の願いを一つ叶えてやる」と持ち掛けられる。その「大切なもの」とは知華であると考え、一度は離婚をしようとするが、最終的には知華よりも大切なものはないと考え直し、野球をやめたあとの新たな人生と向き合う決意をする。
渋沢 知華 (しぶさわ ちか)
エピソード「居場所」に登場する。渋沢宅美の妻。前髪を右寄りの位置で斜めに分けたショートカットヘアをしている。交通事故により足が不自由で、車椅子に乗っている。宅美とは幼なじみで、宅美にとっては初恋の相手でもある。まじめで思いつめやすい性格。宅美が野球選手であった頃、マスコミを利用してさらに人気選手になろうと考える宅美の意向に従い、取材などに仕方なく応じていた。 しかし、ある日撮影中に宅美が渋沢千華が乗ったままの車椅子を無理に持ち上げた事で肘を痛め、選手生命を絶たれてしまう。この件を非常に気に病んでおり、そもそも自分が交通事故にさえ遭わず、車椅子生活にならなければ、宅美がこんな思いをする事はなかったと考えるようになる。そのため少しでも宅美の役に立とうと「パラスリハビリテーションセンター」を訪れ、院長に宅美のリハビリを依頼する。 しかし院長からは、千華自身のリハビリを勧められ、千華はそれが院長の陰謀である事を知らないまま従ってしまう。最終的には「パラスリハビリテーションセンター」の陰謀に気づいた「迷宮魔術団」の面々と「迷宮魔術団」のショーを訪れていた宅美に助けられ、宅美との夫婦の絆を取り戻す。
伝次 (でんじ)
エピソード「笑い」に登場する。ミーナの友人で、人気お笑いコンビ「デンシ・レンジ」のツッコミ担当として活躍する25歳の男性。ミーナと子供の頃の友人ユウからは「デンちゃん」と呼ばれている。前髪を真ん中で分けて額を全開にし、左右に流した撫でつけ髪をしている。相方のレンジを、ツッコミの一環として毎回激しく殴打するという過激すぎる笑いで人気を博しているが、現在の自分の立場に不安を感じていた。 幼い頃はいじめられっ子で、自分を慕っていたユウと共にいじめられた際、ユウを見捨ててユウいじめに加担した事を悔やんでいる。さらにそのままユウが転校してしまったため、謝る事もできずにいた。しかし、巷で人気のお笑い芸人「まだら男(ブンティング)」のショーに参加したのがきっかけでミーナと再会し、ミーナから当時ユウが難病に侵されほとんど学校に通えず、唯一できた友人が伝次であった事と、ユウが伝次のお笑いに対するスタンスに疑問を抱いており、過激なネタで客に「笑われる」お笑いよりも、客を喜ばせ幸せな気分にする、客を「笑わせる」お笑いを目指した方がいいと考えていたという事を知る。 それによって改心し、「迷宮魔術団」の面々に「まだら男」から助けられたあとは、コンビ名を「デンシ・レンジ」から「タキ火兄弟」に改名し、過激なお笑いから温かい雰囲気の、当然レンジを殴打する事もないお笑いに転向する。
艶条 貴和子 (えんじょう きわこ)
エピソード「煩悩」に登場する。新聞社「集英新聞」で働く若い女性。前髪を左寄りの位置で斜めに分け、顎の高さまで伸ばした内巻きボブヘアにしている。生真面目で何事も一生懸命に取り組む性格。交通事故で亡くなった新聞社社長の父親を強く尊敬しており、自分も父親のように記者として世の中をよくしていきたいという願いを叶え、記者になった。 母親は父親を裏切ってほかの男性と失踪しており、そのため父親からは「一人の男性に一生尽くす女性になれ」と言われて育った。だが現在は上司であり恋人の有井良人の浮気性に苦しめられており、別れたいと考えている。しかし、良人と別れてしまうと父親の教えを破る事になってしまうため、別れを決断できずにいるという苦しい状況にある。 ある日取材で辞世院君子のいる辞世寺を訪れ、君子の温かな人間性に惹かれて悩みを打ち明ける。そして自分を見つめ直すためにしばらく辞世寺で暮らす事にするが、そこで君子の正体と、不老不死の水である「生き水」の存在、そして自分を追いかけてやって来た良人の醜い本性を知る事になる。「人生は勝つか負けるかである」という考えを持っており、競争に負ける事に対して強い不安を感じている。 しかし最終的にはその呪縛から解き放たれ、自分を信じて強く生きる決意をする。
有井 良人 (ありい よしと)
エピソード「煩悩」に登場する。艶条貴和子の恋人で、新聞社「集英新聞」で働く若い男性。前髪を上げて額を全開にした撫でつけ髪をしている。集英新聞においては、驚異的な若さで営業本部長常務取締役となった期待の存在であり、現在では次期社長候補にまでなっている。一方で女性遊びが激しく貴和子を含め10人以上の恋人がいる。しかし、本心ではまじめな女性と付き合いたいと思っている。 そのため、浮気を繰り返しながらも貴和子を手放そうとはせず、貴和子に強い執着心を抱いている。実家は「有井製作所」であったが経営がうまくいかず、両親が借金に苦しんだ結果、母親が身体を売った過去がある。その過去から「自分は何でもできる強い男性になる」と誓い、現在の地位に昇りつめた。 ある日取材に行って以来戻ってこない貴和子を追いかけて「辞世寺」を訪れるが、そこで突如始まった「迷宮魔術団」のショーに巻き込まれる。さらに、水を浴びた人間の心の姿を映す水「生き水」を浴びてしまい、恐ろしい化け物に変化する。その際、貴和子の父親を交通事故に見せかけて殺したのは自分であると白状してしまい、怒りに燃えた貴和子に殺害された。
辞世院 君子 (じせいいん きみこ)
エピソード「煩悩」に登場する。月見信継が仕えた、戦国大名の大村純忠の娘。若い女性の姿をしているが、実際は16世紀から生きているため、実年齢は400歳以上である。現在は京都府にあるお寺「辞世寺」の尼として、寺から一歩も出ずに生活しており、坊主頭にし、尼姿をしている。エッセイストとしても活動しており、非常に人気がある。 特に「人生の華」という連載エッセイは、掲載誌の売り上げを2倍にも伸ばしたとされている。そのため辞世院君子の文体には魔物が宿っているとまでいわれており、辞世院の正体は「八尾比丘尼」ではないかとすら噂されていた。基本的に取材は受けない方針でいたが、ある日「集英新聞」にだけは関心を持ち、艶条貴和子を辞世寺に迎える。 そして貴和子と親しくなり、自分の境遇を打ち明ける事になる。400年前から信継に思いを寄せているが、信継は純忠の命令によりオランダに行く事が決まっていたため、思いを打ち明けられずに別れてしまった。しかしその後も信継の事が忘れられず、煩悩を打ち払うために京都府へ行き尼となった。だがそこを悪魔に狙われ、悪魔から「寺の裏庭に、生き水と呼ばれる永遠の命が与えられる水が湧いている」と教えられて興味を持ち、浴びてしまう。 そして、生き水を浴びながら信継を待ち続けようと考え、以来400年間を過ごしてきた。しかし、生き水の効果は不老不死になるだけではなく、浴びた人間の姿を、その人間の心に合わせて変化させる力がある。たとえば、水を浴びた人間が嫉妬や憎しみなど、恐ろしい事を考えていた場合、その姿も鬼のように変化してしまう。 そのため自分の姿が突然変化して周囲を脅かさないように、寺からはいっさい出ないようにして過ごしてきた。だが、貴和子が取材に訪れたあたりから身体に変化が出始め、腕が鬼のような姿になってしまっていた。それを「無意識に信継の気配を感じ取っているからではないか」と考えていたところ「迷宮魔術団」として辞世寺にやって来た信継と再会する。 最終的には信継に思いを打ち明けず、ただ信継たちに挨拶し、その幸せを祈る形で別れた。
ヘルシング
エピソード「仇」に登場する。ルーマニアに住む鍛冶屋の男性で、優しい性格をしている。年齢は77歳。禿げ上がった頭に、眉の高さから肩につくほどまで伸ばしたセミロングヘアにし、口ひげを生やしている。鍛冶屋として、代々教会へ鉄製品を納める仕事をしており、非常に裕福な生活を送っている。また、先々代の時代に吸血鬼が村に現れ、ヘルシングの先々代が対策を練り、倒した事から、バチカンにも認められる「吸血鬼狩人(ヴァンパイアハンター)」という、法王のナイトしての称号を持つ。 60年前の17歳の頃、第二次世界大戦の真っただ中に、村に慰問にやって来た「迷宮魔術団」を先祖代々の勘で吸血鬼の集団であると見抜く。しかし倒そうと向かったところ時すでに遅く逃げられ、さらに2歳年下の妹であるロレアが吸血鬼にされ、自らの手で殺したという過去を持つ。 60年たった今でもロレアの仇である「迷宮魔術団」を追っており、ある日、日本に「迷宮魔術団」が現れたとの情報を得て東京にやって来る。そして仇を討つためショーを訪れるが、そこで、真犯人は協力者であったはずのストリガである事を知る。そこで「迷宮魔術団」と協力しストリガを倒し、その後はロレアの仇を討った事に満足し、ルーマニアへ戻った。
山部 良高 (やまべ よしたか)
エピソード「西欧へ」に登場する。ミーナの友人で、集英中学校に通う1年生の男子。前髪を眉の高さで切ったショートカットヘアにしている。ミーナからは「良っちゃん」と呼ばれている。伝書鳩の育成が趣味で、亡き父と育てた伝書鳩たちは、かつて日本チャンピオンに選ばれた過去を持つ。しかしその父親が交通事故で亡くなり、新しい父親の意向で鳩を手放す事になってしまい、淋しい思いをしている。 鳩たちは通っている集英中学校に寄付されたが、ある夜、鳩たちが何者かに惨殺されている光景を目にしてしまう。そこを偶然通りがかったミーナと出会い、親しくなる。しかし、自分の身に起こる不幸を他人のせいにしがちな一面があり、一度はミーナに呆れられてしまう。だが、その後ミーナの指摘を受けとめて自分を変える決意をし、最終的には鳩たちを殺した犯人である校長と、集英中学校に現れ自分を騙していた敵ハルピアを「迷宮魔術団」のメンバーたちと共に倒した。 保健室教諭の育川に密かにあこがれている。
育川 (いくかわ)
エピソード「西欧へ」に登場する。集英中学校で保健室教諭を務める若い女性教師。前髪を右寄りの位置で斜めに分け、肩につくほどまで伸ばした外はねセミロングヘアにしている。3か月前に集英中学校に赴任して来たばかりの新任教員でもある。明るく心優しい性格で、保健室に来る事が多い山部良高を案じている。同時に、山部家が寄付した鳩たちが、近所の苦情により処分されそうになっている事を不安視し気にかけていたところ、校長が鳩たちを殺そうとしている場面を目撃する。 一度は校長にナイフで刺され致命傷を負うが、そこに駆けつけた「迷宮魔術団」により、校長と、事件の真の黒幕であるハルピアは倒され、育川の怪我も治療され平和な日常に戻っていった。
紅羅 (こうら)
エピソード「出発(たびだち)」「血の神」「父親」に登場する。ロメ・バリアーニの手下の一人。ベビーカーに乗った、幼い少年の姿をしている。しかし、生まれたのは800年ほど前であるため、実年齢は800歳程度。800年ほど前、ジンギスカンの血を引いて生まれたが、妾の子供であったために、幼い頃から一族のものにいじめられて育つ。 その後、戦の最前線の司令塔に配属されるが、満足な兵士を与えられなかったためにあっさり全滅し、怨念を抱いて死亡する。それから400年後、紅羅の怨念に吸い寄せられて中国へやって来たロメの手によって蘇り、ロメの配下となった。蘇生の際、ロメが自分の精液と血液を混ぜて作った「反魂液」を蛭に吸わせ、紅羅はその蛭たちを内臓や肉として与えられたため、蛭をあやつったり、蛭に血を吸わせた人間をあやつる事ができる。 月見信継たちが日本を旅立って以来、三度にわたり妨害をし続けたが、最終的には黄敏明によって倒された。
中野 治 (なかの おさむ)
エピソード「出発(たびだち)」に登場する。客船「チェリーマーメイド号」に密航して、父親の仇を追っている少年。年齢は10歳程度。前髪を右寄りの位置で斜めに分け、髪全体をツンツンに立てたショートカットヘアにしている。父親はもともと「太宝丸」の船長であったが、ある日船が海賊に狙われ、殺されてしまう。その後母親も身体を壊して亡くなり、天涯孤独になりながらも「チェリーマーメイド号」内に犯人がいると考え、復讐の機会をうかがっていた。 そこで船内を調査中に、偶然「迷宮魔術団」の面々と出会い、その生き方を月見信継に気に入られ、協力を得る。その直後、やくざの飛田が「太宝丸」での事件を裏であやつっていた張本人であると知り、「迷宮魔術団」と共に飛田たち暴力団員と戦う事になる。 最終的には飛田をその手で倒し、復讐を果たす。そして中国の日本大使館に保護された。
美蘭 (びらん)
エピソード「血の神」に登場する。中国の香港で、娼婦として働く若い女性。前髪を右寄りの位置で斜めに分け、ロングヘアを後ろで一つにまとめた髪型をしている。娘の華蓮と二人で暮らしているが、香港の正式な居住権がないために昼間の仕事につく事が難しく、過酷な労働条件で現在の職場で働かされている。そのため多大なストレスを感じており、華蓮に暴力を振るう日々を送っていた。 しかし、客として出会った日本人男性・田中の助言により仕事を変えるべきか考えていたところ、「田中との話に夢中になり、仕事をさぼっている」と判断した監視役たちに暴力を振るわれてしまう。だが、そこで「悪人が集まっている」と判断したヘラの手により突如目の前で始まった「迷宮魔術団」のショーに巻き込まれる。 ショーの最中、本性を現し狂暴化した監視役や、紅羅にあやつられたミーナに華蓮、田中ともども命を狙われるが月見信継らに助けられ、最終的には田中の言葉に従い仕事を変える決意をした。
黄 敏明 (こう びんめい)
エピソード「父親」に登場する。中国の上海で、税理士として働く若い男性。前髪を右寄りの位置で斜めに分け、後ろの髪の毛は刈り上げている。中国人の母親・可秀と、日本人の父親・大東敏男のあいだに生まれたハーフだが、戦時中、可秀が日本兵である敏男に強姦されて生まれた子供であるという境遇を持つ。そのため日本人を激しく憎んでおり、自らの出自を隠して暮らしていた。 ある日仕事で敏男の情報を偶然手に入れ、復讐を誓う。そして敏男の居場所を目指して、香港からの大陸横断バスに乗車し敏男がいるはずのダムへ向かう。そこで突如始まった紅羅からの攻撃に苦しむ敏男を、混乱に乗じて殺そうとする。しかし、その瞬間始まった「迷宮魔術団」のショーの中で、自分が持っている敏男に関する情報はすべて誤りで、両親は愛し合っていたが泣く泣く別れてしまった事、敏男は今でも自分を気にかけていた事を知る。 最終的に、紅羅に負わされた傷により敏男は死んでしまうが、敏明は敏男の遺志を継ぎ、代わりにダムを守っていこうと決意する。
橋爪 圭介 (はしづめ けいすけ)
エピソード「友」「再会」「運命(さだめ)」に登場する。フリーのルポライターとして活動する34歳の男性。髪型は短いパンチパーマにしている。戦争に関するルポを書くため、ある日シベリア鉄道に乗車していたところ、偶然見かけたウラジミール・スルコフに関心を持ち、ウラジミールの車に隠れて乗り込む形でついていく。ウラジミールにはすぐにばれてしまうが、彼が故郷のサイカスクスの異変を感じ取って急いで向かっている事を知り、また、ウラジミールにそこで起きている事を記事にしてほしいと頼まれ、サイカスクスへ同行する。 ウラジミールと出会った当初は完全にスクープ狙いであり、事件に関しても興味本位だった。しかし、サイカスクスで起きている吸血鬼にまつわる事件に巻き込まれ、月見信継と出会ううちに自分が最も大切にしているのはスクープやライターとしての地位ではなく、家族であると考えを改める。
ウラジミール・スルコフ (うらじみーるするこふ)
エピソード「友」「再会」「運命(さだめ)」に登場する。ロシア陸軍の伍長を務める若い男性。ハバロフスクにある駐屯地にいたが、ある日竜巻により、故郷であるサイカスクスにあるはずの品々が血まみれの状態で飛んできた事により、異変に気づく。そこでサイカスクスに武器を積んだ車で向かっていたところを、スクープを求めて勝手について来た橋爪圭介と出会う。 そして二人でサイカスクスで起きている吸血鬼事件を知り、吸血鬼に捕らわれた恋人のナターシャの救出に向かう。月見信継をはじめとする吸血鬼のような、人ならざる者を知った当初は毛嫌いしていたが、近藤居織により吸血鬼化させられたナターシャをヘラが身を挺して救ってからは考えを改める。
近藤 居織 (こんどう いおり)
エピソード「友」「再会」「運命(さだめ)」「暗黒」「天使と悪魔」に登場する。月見信継の友人で、16世紀に生きた武士の男性。現在は「イーオ」と呼ばれている。癖のあるウェーブがかった前髪を目が隠れそうなほど伸ばし、肩につくほどまで伸ばしたセミロングウェーブヘアにしている。信継と同年代の若い男性の姿をしているが、16世紀に生まれ、その後吸血鬼として永遠の命を得たため、実際は400年ほども生きている。 信継とは幼い頃から非常に親しく、1582年、大村純忠の命令で信継が「オランダ友好使節団」の一人としてオランダへ行く事になった際も、本来メンバーに選ばれていなかったにもかかわらず、自ら純忠に志願して同行した。その後任期を終え、信継との共通の友人である権左、半兵衛、友介と共に日本に戻ったはずであったが、その後は音信不通となっていた。 そして400年が経過し、ロメ・バリアーニの手下として信継と再会する。再会した当初はロメに脳を手術され、あやつられていると思われたが、実際は信継に会うために、自らロメの仲間となっていた。幼い頃から信継に思いを寄せており、強くあこがれていた。 しかし、信継が自分ではなくヘラを選び、日本に戻らずヘラのいるオランダを選んだ事に激しい怒りを感じている。そのため、信継が自分のものにならないなら、自分の手で殺してしまおうという考えのもと、ロメに力を貸している。そして自分の手で直接信継を狙うだけでなく、権左、半兵衛、友介の三名をあやつって殺そうとしたり、自分の血を誤って飲んでしまったヘラをあやつって殺そうとしたりと、数々の残忍な手口で信継の命を狙い続け、最終的には信継によって倒された。
血の神 (ちのかみ)
地球を滅ぼす力を持つ神。太平洋台湾沖深くに、棺に入れられて安置されている。その正体は、太陽を覆うほどの量と厚さを持つ暗黒の霧で、1億年前に恐竜が絶滅したのも、10万年前に氷河期が起きたのも、実はこの「血の神」が降臨した事が原因である。ロメ・バリアーニは「血の神」を、地球を滅ぼし、地球を吸血鬼である自分たちのような氷河の世界に耐性のある生き物だけの星にする手段として利用しようとしている。 ロメが発見した当初は、すべてを忘れて眠っており、卵の中にいる鳥の雛と変わらない状態にあった。そのため「血の神」は目覚めて最初に目にしたものの思考を読み取り、その通りに生きていくと知ったロメは、なんとしてでも血の神が目覚めた瞬間傍にいなくてはならないと考え、太平洋台湾沖に安置されていた血の神をスイスとオーストリアの国境付近のアルプス山脈にある自分の城へ連れて行く。 そして一度はロメによって放たれるが、月見信継がロメを倒した事により「血の神」もその力を失い、消えていった。
集団・組織
迷宮魔術団 (めいきゅうまじゅつだん)
月見信継、ヘラ、ミーナの三人で構成される劇団。三人の持つ吸血鬼の力で作られた、サーカスのテントのような異空間でショーを行う。そのためショーは場所を問わずに開催でき、また、三人が招待に値すると判断したものだけがショーを鑑賞できる。ショーは基本的には開催日が決まっており、三人は候補者にチラシを渡す事で招待を行っている。 しかし、信継の判断で突然ショーが始まり、まったく知識のないものが巻き込まれる事もある。ショーでは人の身体が切断されたり、女性が乱暴されたりと残酷な見世物が多い。だが、それらはすべて三人が盗んできた死体を、生きている人間であるかのように見せて行っているだけで、すべては幻である。また、そのような残酷なショーを見る事で、鑑賞する人間は、自分の本性をさらけ出してしまう作用がある。 そのため信継たちは、ショーに呼んだ人間が、悪魔に魂を捧げても問題ない悪人、つまり殺してもいいような人間かどうかを判断するためにショーを開催している。