あらすじ
復讐鬼は女を装う
犯罪組織「青天幇」の殺し屋である如月勇は、得意の女装を生かして標的を暗殺する日々を送っていた。詐欺師の村田浩一、人身売買シンジケートの構成員などの標的を次々と仕留めていく勇だったが、ビジネスパートナーの静華が語る事件の顚末に興味を示すことはなかった。勇の関心事はただ一つ、家族の仇である「刺青の男」の正体をつき止め、自らの手で復讐を遂げることだけだったのだ。そんな勇のもとに青天幇のボス・王威仁から直々に仕事の命令が下される。トラブルを乗り越え、標的の土屋を殺害した勇は、現場に居合わせたキャバクラ嬢・美咲の口封じを意識するが、土屋への復讐だけを考えて生きてきたという彼女の「復讐に意味はあった」という言葉に思うところがあり、美咲を殺さずに現場を去るのだった。
王威仁に伸びる魔の手
王威仁の護衛を担当することになった如月勇は、警備の厳重な極道専用ホテルでの任務に退屈さを感じていたが、何者かの襲撃により、ホテルは銃弾の飛び交う戦場と化してしまう。商談と称して王威仁を呼び出した日本のヤクザ・加瀬間も死亡し、王威仁の身に危険がせまるが、王威仁の護衛を主任務とする紫美の獅子奮迅の活躍により、勇たちは危機を脱することに成功する。さらに勇の活躍で加瀬間の部下が襲撃を手引きしていたことが判明し、静華の尋問によって花の刺青を入れた何者かの関与が明らかになった。
二人のカメレオン
静華の独自調査により、如月勇の仇敵である「刺青の男」と思しき人物の潜伏先が花岡高等学校だと判明する。勇は女生徒として件の学校に転入し、新任の数学教師・黒川涼平に疑いの目を向けるが、苦労の末に確認した黒川の刺青は仇敵のものとは似ても似つかぬ別物だった。標的を見誤ったことを察した勇は撤退を試みるが、変装の達人・カメレオンに背後から襲われ、拉致されてしまう。しかし、生殺与奪の権を握ったカメレオンは、勇を自分と同類の「カメレオン」と見做して気に入り、あろうことか捕縛した勇を逃がそうとする。逃走を拒んだ勇はカメレオンに勝負を挑むが、戦いは熾烈を極め、全治1か月のケガを負ってしまうのだった。やがて傷の癒えた勇は現場に復帰するが、復帰して初めての任務で美園由梨子という一般人を死なせてしまい、復讐を成し遂げるまでにどれだけの人間が犠牲になるのか、意識するようになる。
王威仁の語る真相
如月勇は雑誌記者・神南千尋から、ある猟奇殺人事件の情報を得る。被害女性の薬指が切断されている点から、勇は事件の犯人が「刺青の男」だと確信し、千尋に情報収集を依頼する。自らも任務を消化しながら熱心に情報を集めていたが、王威仁が情報を出し渋っていることを察し、不信感を募らせる。やがて勇は恩人でもあった王威仁に刃を向けて、「刺青の男」の正体を聞き出すことに成功する。しかし、勇が青天幇からの足抜けを宣言した直後、青天幇の事務所は敵対する犯罪組織「八龍幇」の構成員に襲撃されてしまう。絶体絶命の窮地に立たされた勇を助けたのは、勇が疑いの目を向けていた王威仁、そして青天幇の仲間たちだった。王威仁の献身的な姿に感じ入った勇は、組織への残留を決意する。
王威仁の計画
王威仁は、如月勇の復讐への全面協力を約束する。王威仁は神南千尋に「刺青の男」の関連情報を提供し、その正体を記事にして公表するように依頼する。また、部下の虎賢に黒幕を追い込む際に必要となる資料の準備、右腕の黄英道に資料の死守を任せるなど、計画の準備を着々と進めていた。一方、勇は2週間のはりこみを経てついに「刺青の男」と再会し、その拠点をつき止めることに成功する。王威仁の計画も佳境に差し掛かり、勇と「刺青の男」の最後の戦いが始まろうとしていた。
登場人物・キャラクター
如月 勇 (きさらぎ ゆう)
犯罪組織「青天幇」に所属する殺し屋の少年。愛称は「小勇」。誕生日は8月7日で、血液型はA型。ベリーショートヘアで、左胸に花の刺青が入っている。刺青は如月勇の家族を惨殺した「刺青の男」の刺青を模したもので、これを手がかりに仇の正体をつき止め、復讐を遂げることを人生の目標にしている。趣味は釣りと夜市に行くことで、インベーダーゲームにも熱中している。勉強は嫌いながら、日本語と中国語を話すことができる。数人分の食事を平らげるほどの健啖家だが、もりもり食べている姿を見られるのが恥ずかしいとの理由で小食を装い、秘密の食事を静華に盗撮されて脅される一幕もあった。静華には日頃から体を狙われているが、色仕掛けに応じる様子はなく、過干渉な静華を煙たがっている。家族を失って途方に暮れていた際に、救ってくれた王威仁には恩を感じており、彼の指示で暗殺をこなしている。成長の余地の残る矮軀(わいく)を生かした女装が得意で、ウィッグやメイクの使い分けにより、女子高校生からキャバクラ嬢までさまざまな女性に成り済ませる。そのクオリティーは生足を晒す服装でも性別を隠し通すほどで、TPOに合わせた演技も堂に入っているため、女性専門の詐欺師すら欺いてしまう。戦闘力は拳銃などで武装した七人の悪漢を秒殺するほどで、有事には腰部や脚部の隠しベルトに収納したナイフを使用する。敵との間合いを一瞬で詰める瞬発力も有しているが、黄英道に教わったナイフ投げで対応することも多い。また濡れタオルや枕など、あらゆるものを武器にする応用力を備えており、標的の胸ポケットに入っていたペンや居合わせた女性が挿していた簪(かんざし)で人を殺めた例もある。その気になれば素手で人を殺せる。
静華 (じんふぁん)
犯罪組織「青天幇」の幹部を務める女性。誕生日は1月3日で、血液型はAB型。灰色のボブヘアをセンター分けにしている。眉毛が茶色で、垂れ目が特徴。主にパンツスタイルで、ブラウスにコルセットを合わせることが多い。拳銃で武装しており、尋問を得意としている。殺人をシノギにすることに関しては否定的だが、村田浩一に与(くみ)した組織の裏切り者を銃殺するなど、必要とあれば汚れ仕事もいとわない。趣味は麻雀。臭豆腐が好物で、モザイクが必要なレベルの手料理を振る舞おうとする悪癖がある。人情事が苦手で、王威仁を嫌っている。如月勇の世話係でもあり、命令の伝達や車での送迎、資材の調達を任されている。勇とブティックで買い物をするのが何よりの楽しみで、勇に次々と試着をさせる様子はショーさながらである。勇のツンケンした態度や羞恥の表情に目がなく、新たな一面を見るたびに興奮して鼻血を出している。勇を偏愛するあまり犯罪まがいの行為に出ることも多く、シミュレーションと称して勇を押し倒そうとしたこともあるが、買い与えた防犯グッズで反撃され、未遂に終わった。復讐を終えたら同棲しようと提案したこともあるが、あっさり断られている。勇に気に入られようと「刺青の男」の情報収集にも協力しており、勇の部屋に侵入したり、ご褒美のキスやハグをせまったりすることは日常茶飯事となっている。勇からはビジネスパートナーとしか認識されていなかったが、公私を通して献身的に尽くした結果、少しずつ信頼されるようになった。特にインベーダーゲームの腕前を披露したことは大きく、これをきっかけに一目置かれるようになった。なお、車の運転技術も長けており、勇から神南千尋の身辺警護を任された際には、神南を狙う追っ手と壮絶なカーチェイスを繰り広げ、神南を守り抜いている。
王威仁 (わんうぇいれん)
犯罪組織「青天幇」のボスである「老板(ラオバン)」を務める壮年の男性。誕生日は12月25日で、血液型はO型。オールバックの髪型で、サーモントの眼鏡をかけている。胴部には花の刺青が入っている。「孤児院でもやっていそう」と揶揄される柔和な顔立ちで、絡まれることも多い。しかし、喉元に刃物をつきつけられても動じない胆力の持ち主で、親しい人間からは「台湾黒社会の未来を担う傑物」と評価され、彼を怒らせて生き残っている者はいないと恐れられている。頻繁ではないが、筋力トレーニングも行っているため、有事には自ら銃火器を手に応戦することもある。趣味は読書と茶葉で、日本文化を好んでいる。青天幇の構成員を「家族(ファミリー)」と呼んで大切にしており、家族を脅かす存在と過去の自分を嫌っている。如月勇や紫美に居場所を与えた恩人でもあり、紫美からは「先生」と慕われている。勇を「愛しのボウヤ」と溺愛し、肩に手を回すなどのスキンシップを取ることも多いが、勇からは鬱陶しがられている。勇とねんごろになりたい静華に見せつけるように勇に触れることもあり、静華からはひそかに「狐ジジイ」と蔑まれている。「食は百薬の長」との考えから、勇がケガをした際には食事の場を設けることが多い。勇が爆発で負傷した際には、手作りの三杯鶏を振る舞おうとした。堅気の人間を巻き込むことには厳しく、勇が神南千尋に女性刺殺事件の情報を探らせていたことには難色を示していた。勇の頼みで「刺青の男」の情報を集めていたが、やがて情報の出し渋りを見抜かれ、不審を抱かれるようになった。事務所が襲撃された際の献身的な活躍で勇からの信頼を取り戻し、ある計画を発動させる。
黄英道 (ほぁんいんだお)
犯罪組織「青天幇」の幹部を務める男性。長身で彫りが深く、額から左頰にかけて刀傷がある。白い長髪を後ろに撫でつけ、後頭部で一本に束ねている。テンプルに蔦模様が入ったサングラス、ダークカラーのロングコートと手袋を愛用し、拳銃で武装している。ポケットに手を入れたままで、ナイフを所持した数人の暴力団員を叩きのめすほどの実力を誇る。容姿は若々しいが、周囲から「じいさん」と声を掛けられるほどの年齢で、かつて如月勇にナイフ投げの手解きをしたこともある。愛煙家で酒や博打もたしなみ、勇を誘って釣り堀に行くのを趣味にしている。釣果は35勝9敗と大差で勇に勝ち越している。青天幇を率いる王威仁からも絶大な信頼を寄せられているため、「僕が死んでも君がいる」という旨の言葉を掛けられている。紫美からは先生を意味する「老师(ラオシー)」、配下からは長兄を意味する「大哥(ダーグー)」と慕われている。また、静華は黄英道が「頭」と呼ばれる地位にありながら、周囲の期待を裏切って跡を継がなかったことを責めるような発言をしている。勇とは長らく会っていなかったが、再会後は公私にわたって交流している。勇と共に違法カジノに潜入した際には、爆発で負傷した勇を抱えて現場から逃走した。のちに、王威仁の計画に必須となる書類を死守するという重責を担うことになる。
紫美 (ずーめい)
犯罪組織「青天幇」に所属する暗器使いの女性。誕生日は9月9日で、血液型はB型。豊満な肉体の持ち主で、髪は腰に届くほど長く、一部を後頭部で団子状にまとめている。左目は前髪に覆われ、右目尻には紅が入っている。タッセル型の耳飾りと長袖のチャイナドレスを身につけ、両手を袖の内側に隠している。ドレス両サイドのスリットは腰の辺りまで切れ込みが入っており、太腿を大胆に露出している。趣味は筋力トレーニングと武器の調達で、好物はフルーツ。親に売られて死にかけていた時に助けてくれた王威仁に心酔し、彼に敵対する者を嫌っている。また、王威仁のお気に入りである如月勇のことも嫌いで、勇より自分の方が性的魅力にあふれていると豪語している。ただし、目的があれば私情を殺して勇と交流することもあり、王威仁への誕生日プレゼントの選定に勇を同行させている。戦力としては勇と共に王威仁の両腕と評されるほどで、主に王威仁の護衛を担当している。壁を蹴って敵の背後に跳ぶなど身軽さを生かした立ち回りが得意で、短機関銃などで武装した複数の敵を単独で撃破する場面もある。負傷した勇の代わりにパーティー会場での暗殺を担当したこともあるが、こちらは汚れ仕事と認識し、不満を口にしていた。しかし、大量の暗器を持ち歩く悪癖があり、私的な買い物の場面でもコートの袖口に刃物を仕込んでいるのが確認できる。極道専用ホテルでは金属探知機に検知され、暗器の大半を没収されてしまった。この直後、不運にも刺客の襲撃を受けているが、探知を突破した特殊なワイヤーで次々と刺客を殺傷し、王威仁を救っている。
虎賢 (ふーしぇい)
犯罪組織「青天幇」に所属する諜報員の男性。王威仁が秘密裏に進めている計画に必要なDNA鑑定書を入手するべく、ある人物に接触していた。尽力のかいあって当初の任務を成功に導くものの、逃げ遅れて黒幕との最終決戦の現場に居合わせてしまい、如月勇、静華と協力して業務外の死闘に身を投じる羽目になった。
神南 千尋 (かんなみ ちひろ)
株式会社芳櫂社の「週刊実話REDZONE」編集部の記者を務める青年。誕生日は3月12日で、血液型はO型。顎周りに無精髭を生やし、ハンチング帽をかぶり、七分丈のズボンをY型のサスペンダーで吊っている。また、ショルダーホンを持ち歩いており、ポケベルも所持している。趣味はゲームセンター通いで、好きなものはオカルトと「幸子」「涼花」「奈緒」という名の三人の妹たち。ゆで卵と上司を嫌っている。年齢は22歳だが、初対面の相手からは「オッサン」呼ばわりされることが多い。謎の女暗殺者の情報を追っていた際に性質の悪い情報提供者にカツアゲされてしまうが、そこを如月勇に救われ、彼が噂の人物とは知らないまま交流を持つようになった。その後、勇の頼みで女性刺殺事件の情報を集めるようになるが、これをきっかけに謎の勢力を敵に回してしまう。拳銃を所持した大男に襲撃される事態にまで発展しているが、静華の助けを得て窮地を脱している。のちに王威仁から、ある人物のスキャンダルを記事にするように頼まれ、ライター人生を賭けて取り組むことを約束した。なお、勇との関係はビジネスライクなものだったが、勇の頼みで友人のフリをした際に意外と馬が合うことが発覚した。二人が無邪気に遊ぶ姿は本当の友人のようであり、はじめは神南千尋を警戒していた静華も機嫌をよくして、彼に食事を奢るまでになった。ただし、勇と二人きりで遊ぶ許可は得られていない。
店長 (てんちょう)
如月勇や神南千尋が頻繁に利用しているレストランの店長を務める壮年の男性。食べっぷりのよい勇を気に入っており、オーダーの内容だけで勇が来店していることを言い当てることができる。彼の舌を飽きさせないためにひそかに味つけを変えるなどの工夫もしているが、勇の事情に深入りすることはなく、同じく勇に興味津々の女性店員と共に温かく見守っている。なお、店内にはカウンター席とテーブル席があり、インベーダーゲームのテーブル型筐体やテレビも設置されている。
村田 浩一 (むらた こういち)
自称会社経営者の男性。垂れ目でスーツを身につけている。合同コンパで知り合った如月勇と恋人関係になり、会社経営の不振を理由にお金を貸してほしいと頼み込んでいた。この際、年下の恋人に頼る自らのふがいなさを痛感し、勇にふさわしい男になると豪語しておきながら、その後も機材の故障を理由に追加の借金を申し出ている。その正体は女性ばかり食い物にしていた詐欺師で、過去に四人もの女性から金品を騙し取り、殺害している。薬物の横流しにも関与しており、これをきっかけに犯罪組織「青天幇」を敵に回し、組織のヒットマンである勇に命を狙われる事態となった。のちに素性を怪しむ素振りを見せた勇を事務所に連れ込み、悪辣な本性をあらわにしたが、拳銃を用いても勇には歯が立たず、六人の仲間と共に呆気なく殺された。死後に勇から「腐った小物」と酷評されている。
土屋 (つちや)
如月勇に命を狙われることになった中年の男性。髪を七三分けにしており、眉毛が太い。肩書きは不明だが羽振りがよく、つねにキャバクラで豪遊している。美咲をNo.1に押し上げた太客で、彼女とは肉体関係にあるが、内心では年増と蔑んでいる。新入りのキャバクラ嬢に扮した勇を気に入り、行きつけのホテルに連れ込んで行為に及ぼうとしたが、拳銃を構えた美咲の乱入により、修羅場を味わう羽目になった。この際、美咲から銃を奪って一時的に形勢逆転するものの、勇に美咲の簪(かんざし)で耳を刺されて死亡した。なお、土屋の暗殺指令は勇の窓口である静華を介さず、王威仁から勇へ直々に下されたものであり、王威仁に言わせれば私用である。
美咲 (みさき)
土屋が頻繁に通っているキャバクラで働いている女性。左の口元に黒子が二つ縦向きに並んでおり、緩くウエーブしたロングヘアに薔薇の装飾が付いた簪(かんざし)を挿している。苛烈な性格で、太客の土屋に取り入ろうとしていた如月勇を平手打ちで牽制し、「怖い女」と評された。土屋への枕営業によってNo.1の座を射止めた経緯があるが、過去に大切な女性を失っているため、その原因となった土屋を憎んでいる。恨みは骨髄に徹しており、彼に体を許したのも、油断を誘って仇討ちを成し遂げるための苦肉の策だった。のちに土屋と勇の密会現場に拳銃を携えて乗り込んだが、自らの手で復讐を完遂することはできず、勇にその役目をゆずることになった。この際、勇から復讐を終えた気分を問われ、勇の復讐を後押しするような返事をしている。
黒川 涼平 (くろかわ りょうへい)
花岡高等学校の新任数学教師を務める男性。端正な顔立ちで、体に包帯を巻いて胴部の刺青を隠している。同時期に着任した松嶋緑と交際しているとの噂が立っているが、当人は否定している。女生徒の人気を集めているが、そのせいで学内の不良に目をつけられ、暴力を振るわれる事態へと発展してしまう。この際、黒川を「刺青の男」と予想し、周辺を探っていた如月勇に救われている。のちに未成年に売春を斡旋していたことが判明する。
松嶋 緑 (まつしま みどり)
花岡高等学校の新任教師を務める女性。垂れ目が特徴で、80年代に流行した「聖子ちゃんカット」にシースルーバングを合わせたような髪型をしている。黒川涼平が女生徒と会話していると割って入るように現れることから、黒川と交際しているのではないかと噂されている。しかし生徒からは、黒川に一方的につきまとっているだけだと見抜かれている。先輩教師の南條から妙な噂が立つような行為は控えるように口酸っぱく言われているが、つきまといをやめる様子はない。のちに、ある目的を持って黒川の周辺を探っていたことが判明する。なお、花岡高校に転入した如月勇が、一時的に在籍したクラスは松嶋緑が担任を務めていた。
南條 (なんじょう)
花岡高等学校の教師を務める女性。癖のある長髪を後頭部の高い位置でシニヨンにまとめ、前髪に二房の後毛があり、フルリムのオーバル型眼鏡をかけている。校内風紀を厳しく取り締まっており、ベテラン教師の風格を漂わせているが、実際は黒川涼平や松嶋緑がやって来る直前に赴任してきた日の浅い先輩である。
美園 由梨子 (みその ゆりこ)
東遣物産に勤務する女性社員。縮れた長髪を首の後ろで束ね、首と耳にアクセサリーをつけている。バブル期の流行語で、それぞれ送迎、食事、買い物を世話してくれる便利な男性を指す「アッシー、メッシー、ミツグ」をそろえていると豪語しているが、アッシーに関しては実兄であることが判明している。本命は部長の羽賀だが、高嶺の花と見て恋心を押し殺し、合コン漬けの日々を送っている。東遣物産にアルバイトとして潜入していた如月勇をかわいがり、人数合わせと称して合コンにまで連れ回すようになった。しかし、勇が羽賀の命を狙っているとは露知らず、悋気(りんき)から勇と羽賀の接触を邪魔し続けたことで、勇からは迷惑がられていた。結果として勇は暗殺の機会を失い、1週間も余計にアルバイトをする羽目になっている。のちに勇と羽賀の戦いを目撃してしまい、羽賀に恋心を利用された挙句、背後から拳銃で撃たれて死亡した。一般人である美園由梨子を死なせてしまった事実は勇の心に暗い影を落とすことになった。
羽賀 (はが)
東遣物産の社長の御曹司で、がっしりした体型の男性。空手の有段者で、大学を首席で卒業した秀才でもある。部署名は不明だが、部長を務めている。パワハラ課長に堂々と物申したアルバイトの如月勇を高く評価するなど、その振る舞いも人格者と呼ぶにふさわしい。女性社員にとってはあこがれの存在で、美園由梨子からも好意を寄せられているが、内心では彼女を恋愛脳のバカと蔑んでいる。また、銀行の女性たちをたぶらかし込んで「浮貸し」という違法行為に手を染めさせた挙句、自殺者まで出している。羽賀自身は、経営不振の東遣物産の立て直しには必要不可欠な行為だったとして悪びれもしていないが、これをきっかけに父親に見限られ、勇に命を狙われることになった。その実力はナイフで武装した勇と素手で戦えるレベルで、決戦時には拳銃も使用している。また、現場に現れた由梨子を言葉巧みに籠絡し、戦いを有利に進めようとした。
加瀬間 (かせま)
「一清専案」(黒社会に対する大規模な取り締まり計画)の際に王威仁の父親に力を貸した日本のヤクザの中年男性。短髪の強面で、組長とは明言されていないが、部下から「親父」と慕われる立場にある。お抱えの運び屋が捕縛されたことによるブツの流通量の低下を回避するべく、犯罪組織「青天幇」の航行ルートを利用できないかと王威仁に交渉を持ち掛けた。交渉は武器の持ち込みが禁じられた極道専用ホテルで実施されたが、部下に裏切られて射殺されてしまう。
菱川 (ひしかわ)
違法カジノでギャンブル三昧の男性。強面の粗野な性格をしている。トランプゲームで連戦連勝を重ねていた如月勇から軍資金の提供を受け、よりハイリスクハイリターンなギャンブルに挑戦できる別室へ入場した。その目的は一攫千金ではなく、別室に入り浸っているかつての仲間である松原を脅迫し、再び結託することにあった。松原を発見するとワイシャツの下に巻きつけていた時限式の爆弾を見せて交渉に臨んだが、松原の態度に激昂し、当初の目的を放棄して射殺してしまう。その後、拳銃を乱射してカジノの客を無差別に殺傷するという暴挙に及び、勇に首をへし折られて死亡した。菱川が装着していた爆弾は死後に起爆し、勇を負傷させた。また、ケガ人の救護に奔走していた朝桐晴人を病院送りにした。
御手洗 謙司 (みたらい けんじ)
御手洗グループの代表を務める熟年の男性。明るい色の髪をオールバックにしている。表向きは王威仁を評価しているような素振りを見せているが、内心では「先代の威を借る狐」と蔑んでいる。持ちビル内のディスコで若い女性が消息を断つ事件が多発している状況を受けて、警察が動く前に解決してほしいと王威仁に依頼した。これを受けて如月勇が事件の解決に駆り出され、人身売買の実行犯たちの殲滅(せんめつ)に成功している。任務達成の報告を受けた際には、持ちビルでの人身売買が明るみに出れば、御手洗の名前に泥を塗っていたと胸を撫で下ろしていた。しかし、きな臭いものを感じた王威仁の調査により、人身売買シンジケートの元締めが御手洗だったこと、手駒の不手際の処理を外部の組織に委ね、最悪の場合は組織同士の抗争と言い張って罪を逃れようと企んでいたことが判明する。これによって王威仁の怒りを買い、依頼人から一転して勇に命を狙われる立場となった。
座豪 (ざごう)
座豪グループの総帥を務める熟年の男性。長髪をオールバックにしており、前髪に二房の後毛があり、和服を身につけている。自分の欲望を満たすためなら周囲が被害を被ることもいとわない非道な人物で、過去に親友とその家族を謀殺して「キヨコ」という女性を奪い取ったことがある。また、息子の朝桐晴人を溺愛しており、晴人のことになると見境をなくしてしまう。「親子の時間を邪魔しないのが座豪のルール」と宣言し、晴人との会話に割って入った側近を壺で殴打したこともある。この際、馬乗りになって側近が痙攣(けいれん)するまで追撃しているが、晴人に制止されて我に返り、殺害には至らなかった。
朝桐 晴人 (あさぎり はると)
座豪の息子。目の周りが黒ずんでおり、左目の下に泣き黒子がある。センターパートのツーブロックの髪型で、大きなフチなしの丸眼鏡をかけている。植物を慈しみ、胴部に花の刺青を入れている。穏やかな性格ながら、少々なことでは動じない胆力を持ち、殺気を感じる能力にも長けている。世話人の手を借りながら座豪に与えられた立派なマンションに住み、父親がいなければ生きていけないと自覚している。父親が半殺しにした人間を病院に連れて行くようにうながしたり、ケガ人の止血を行ったりと、道徳的な行動が目立つ。違法カジノでのアルバイト中に如月勇と知り合い、マイペースな行動によって菱川の撃破に貢献するものの、菱川が巻きつけていた時限爆弾の爆発に巻き込まれて負傷し、入院する羽目になってしまう。なお、座豪から優しすぎるのが長所と評されているが、常人には理解し難い異常性を抱えており、ある条件に合致する人間を殺害することに躊躇がない。しかも、その条件は一つではない。朝桐晴人の世話係を務めていた長谷川という男性は「第二の父親」とまで慕われていたが、晴人の嫌いな「ある歌」を口ずさんだという理由で殺されてしまう。
羽金 (はがね)
朝桐晴人の世話係を務める男性。明るい色の髪をアップバングにしており、サイドを後ろに撫でつけている。左眉尻に一つ、両耳に大量のピアスをつけている。愛煙家で、路上や他人のマンション内でもつねに煙草を吸っている。主に車で晴人の送り迎えを担当している。羽金自身は「ガキのお守り」と面倒がっているが、仕事だと割り切ってこなしている。ふざけて晴人を「ご主人様」と呼ぶ場面もあるが、従者らしい言葉使いを晴人が嫌がるため、基本的にはタメ口で接している。社会の闇を担う人間とコネクションがあり、晴人に死体運びの手伝いを頼まれた際には、死体を車まで運搬したうえで、死体処理業者の紹介を買って出た。しかし、死体の臭いで吐きそうになったり、血液ですべって転んだりと、初心な一面を晒す結果になってしまった。晴人の異常性を初めて目の当たりにした際には、堪えきれず嘔吐している。
カメレオン
「カメレオン」を自称する暗殺者。軽佻浮薄な男性で、上半身に花の刺青が入っている。変装の達人で、老若男女に化けることができる。仕事の完了と同時に容疑者が、この世から消失することに喜びを覚える性質で、同じ人物には二度と変装しないというポリシーを貫いている。花岡高等学校に潜伏していた際に、如月勇の高度な女装技術を目の当たりにして、彼を自分と同類の「カメレオン」と見なし、好感を抱くようになった。正体を嗅ぎ回っていた勇を一度は拉致しているが、勇の能力を惜しんで雇い主への引き渡しを取り止め、解放している。しかし、解放した勇に顔を傷付けられて逆上し、壮絶な殺し合いを演じることになった。この際、「カメレオンは顔と人格があって初めて七色に輝くことができる」という旨の哲学を熱弁している。
刺青の男 (いれずみのおとこ)
かつて如月勇の家族を惨殺した仇敵。その犯行には強姦して薬指を持ち帰るという特徴があり、勇の家族を殺めたあとも凶行を繰り返している。体に花の刺青が入っていること、男性であること以外はいっさいが謎に包まれている。のちに、特定の容貌の女性ばかりより好みして襲っていたことが判明する。
知花 優 (ちばな ゆう)
如月勇の姉で、故人。その外見は勇が女装した姿によく似ている。石垣島にある屋根にシーサーの乗った伝統的な民家で、両親や勇と共に暮らしていた。しかし、勇が不在のタイミングで「刺青の男」に殺され、薬指を持ち去られてしまう。この際、在宅していた両親も惨殺されている。帰宅して家族の遺体を発見した勇は、押し入れに隠れて息を潜め、知花優の亡骸が辱めを受けるさまを目の当たりにすることになった。この時点で勇は家族の死を受け入れることができず、現場に現れた王威仁に姉の診察券を差し出し、病院に連れて行ってほしいと懇願している。この凄絶な体験が、勇を復讐鬼に変貌させるきっかけとなった。
集団・組織
青天幇 (ちんてぃえんぱん)
王威仁が組織のボス「老板(ラオバン)」として率いている台湾マフィア組織。2560人もの構成員を擁しており、日本の警察やヤクザともつながりがある。先代の「老板」は王威仁の亡き父親で、「老大(ラオダー)」あるいは「教父」と呼んで区別することが多いが、まれに王威仁を指して「老大」を使う場合もある。「刺青の男」に惨殺された如月勇の両親は正式には青天幇の構成員ではないが、長期にわたって運び屋として働いていたことで「家族(ファミリー)」も同然の扱いを受けていた。また登場している構成員の多くが、日本語と中国語を状況に応じて使い分けている。
東遣物産
羽賀や美園由梨子が勤務している総合商社。新宿区大久保の超高層ビルにオフィスがあり、アジアにも支社を置いている。社長の疎放な経営によって倒産寸前の状況まで追い込まれていたが、社長の御曹司である羽賀の尽力により、危機を脱することに成功した。如月勇はアルバイトとして東遣物産に潜入し、羽賀の暗殺を試みるものの失敗している。その結果、地下駐車場で羽賀と直接対決することになってしまう。
御手洗グループ (みたらいぐるーぷ)
御手洗謙司が代表を務める企業グループ。犯罪組織「青天幇」の王威仁をして、慎重な対応を強いられるほどの組織として認知されている。人身売買にも関与しており、御手洗の持ちビル内のディスコは若い女性を釣り上げるための罠として機能している。
座豪グループ (ざごうぐるーぷ)
座豪が総帥として君臨している企業グループ。銀行や不動産を中核としながら、重工メーカーと提携して航空機事業にも乗り出している。メディアに報道規制をさせるほどの力があり、反社会的勢力ともつながっている。座豪グループの前身である座豪財閥は、「日本十五大財閥」の一つと設定されている。
場所
極道専用ホテル (ごくどうせんようほてる)
黒社会の人間だけが利用できる特別な宿泊施設。「極道専用ホテル」とはあくまで通称であり、ホテルとしての正式名称は別に存在する。銃や刃物の持ち込みが禁止されており、ロビーでは金属探知機を使った入念なボディーチェックが実施されている。王威仁と加瀬間の商談に利用されたが、従業員として潜り込んでいた刺客が銃火器を用いて両名を襲撃する事件が発生し、安全神話は崩壊してしまう。この際、王威仁の意思をくんだ支配人の判断により、ホテル内で起きた事象は内々に処理するというルールは適用されず、襲撃に関与した下手人は犯罪組織「青天幇」に引き渡されることになった。のちに、王威仁と神南千尋の面会にも利用されている。また、神南は無謀にもホテルへの取材を企画したことがあるが、実現しなかったという。
花岡高等学校 (はなおかこうとうがっこう)
如月勇の家族の仇である「刺青の男」の潜伏場所として、名前が浮上した男女共学制の高等学校。立て続けに何人もの教師が赴任しており、その不自然さは生徒たちのあいだでも話題になっていた。勇は女子高校生に変装して噂の新任教師の一人・松嶋緑が担任を務めるクラスに在籍し、「刺青の男」の正体にせまろうとした。
書誌情報
鈍色のカメレオン 全4巻 KADOKAWA〈角川コミックス・エース〉
第1巻
(2019-02-09発行、 978-4041078044)
第2巻
(2019-11-09発行、 978-4041083420)
第3巻
(2020-08-07発行、 978-4041094358)
第4巻
(2020-09-10発行、 978-4041094365)