あらすじ
漆黒の到来
長い戦乱で室町幕府が弱体化する中、東洋の島国「日ノ本」は血で血を洗う混迷の戦国時代へと突入していた。そんな日ノ本は、南蛮の国からやって来たイスパニア軍による侵攻を受けていた。山海の秘境である紀ノ国の深い森の奥には、八咫烏(やたがらす)を旗印にした鉄砲集団がいた。戦場を駆ける集団の名は「雑賀衆」と呼ばれ、傭兵(ようへい)稼業を主な生業としており、その頭として名跡を受け継いだのは異国から流れつき記憶をなくした青年、雑賀孫一だった。一方、欧州列強からの侵略の気配をいち早く察知し、日ノ本を守るために奔走する謎の青年、三郎は、ある目的のために紀ノ国を目指していた。相まみえるはずのない孫一と三郎の運命は、異国の侵略者の凶刃を通して交錯し、戦国の世に集いし男たちの信念と正義を突き動かそうとしていた。雑賀の里で孫一たちが平和に暮らすある日、気楽な傭兵稼業に励む彼らは、奇怪な鎧(よろい)をまとった集団の急襲を受ける。里の仲間たちを守るため必死に闘う孫一だったが、数に圧倒されて為(な)すすべもなく里は次々と破壊されていく。孫一は敵将を討ち取り、戦いを終わらせようと試みるが、それも叶(かな)わぬままで多くの命が失われる。雑賀衆の仲間ともはぐれてしまい、里人の生き残りを避難させたあと、孫一は尾張(おわり)に逃れる。そこで孫一は、諸国放浪してきた三郎に遭遇して危機を救われ、同じく三郎に救われた木偶と再会。そこで二人が目にしたのは、焼け野原と化した里と無残に殺された人々だった。自責の念に駆られた孫一だったが、死者を供養したあとに三郎から里を襲撃したのは異国からやって来た「コンキスタドール」という侵略者だと知る。もう仲間を失いたくない孫一は、離れた仲間との再会を目指しつつ、いずれ襲ってくるであろうコンキスタドールを迎え撃つこととなる。一方、里の襲撃から逃げのびていた鶴首と蛍火は、傷を負って逃亡生活を送る中で、自分の生い立ちや過去の出来事を思い出していた。雑賀に来る前は幕府の刺客として生きていた鶴首は、冷酷な刺客としての若き日々と、かつての標的であった蛍火との出会いを思い返していた。蛍火の方も実は刺客として育てられた少年であり、彼のアーマである「霊亀流転」は、同様に刺客となるために育てられた子供たちとの殺し合いの末に授けられた武器だった。死に急ぐように戦っていた蛍火は、自らを殺すために現れた鶴首と出会い、やがて共に旅をすることで心に大きな変化が訪れる。そんな蛍火との過去を思い返していた鶴首は、執拗(しつよう)なコンキスタドールの追撃から蛍火を守るべく、ある決断のもとに動き出す。
烏羽色の試練
故郷を追われた雑賀孫一たちは、イスパニア軍のコンキスタドールを迎え撃つ準備を開始する。その中で日ノ本を蹂躙(じゅうりん)する敵将の正体であり、コンキスタドールを率いていたルシオ・コルテスと対峙(たいじ)することになるが、彼は記憶を失った孫一の弟であることが判明する。孫一の記憶を取り戻すためなら、手段を選ばないルシオの攻撃に圧倒される孫一は、その刃が木偶に向けられた瞬間に、秘められた龍眼の力を覚醒させる。我を失い闘う孫一とルシオのあいだに割って入ったのは三郎だった。孫一と三郎、ルシオが抱く思いが交差した時、日ノ本には新たな運命が訪れようとしていた。目覚めた孫一は、木偶をはじめとする雑賀衆の仲間たちと再会。そして、それぞれのアーマを使いこなすために、三郎のもとで地獄の修行が始まる。それぞれの思いを胸に必死に強くなることを目指す孫一たちだが、実戦訓練では三郎が丸腰の状態でも勝てなかった。なかなか思うように修行が進まないことに悩む孫一は、自分を含めた雑賀衆の弱点に気がつく。次の日、仲間を集めて作戦会議をしたうえで連携に成功し、三郎にも認められた孫一は、彼の青い瞳を見つめる三郎から過去の話を聞くことになる。青年時代の三郎は、野盗に襲われていた女性、沙羅と出会う。共に過ごすうちに、互いに惹(ひ)かれていく三郎と沙羅は平穏に暮らしていたが、里で流行(はや)り病が蔓延(まんえん)したことにより、二人の運命は大きく狂い出していた。やがて沙羅の努力も空しく人々は死に絶え、美しく咲き誇る桜の前で彼女と三郎はある約束を交わす。彼女の弟、ルシオと孫一のことを頼まれた三郎は、過去を語ったあと桜の前で新時代を切り拓(ひら)くことを改めて誓う。だが、不如帰がコンキスタドールを引き連れて孫一たちの潜む隠れ里を襲撃し、不如帰の手で雑賀衆は次々と倒れていく。激昂する孫一に対し冷たい言葉を言い放つ不如帰が、孫一に銃口を向け引き金を引こうとした次の瞬間、二人の前に現れたのはルシオだった。そこへ不如帰に倒されていたはずの鶴首たちが現れ、不如帰は雑賀衆を裏切っていたフリをしていただけだと判明する。龍眼を発動させた三郎とルシオは剣戟(けんげき)を繰り広げるが、それを目の当たりにした孫一は、未(いま)だに闘う意義を見出せずにいた。ルシオは孫一を昔のように戻すべく、無理やり彼の記憶を引き出そうとする。それは孫一が「ルカ」と呼ばれていた、イスパニアでルシオと生きていた頃の記憶だった。孫一は長らく忘れていた過去の自分と、ルシオと共に殺戮(さつりく)の数々を繰り返していた日々、そして姉の沙羅との別れについて思い出す。
関連作品
舞台
本作『錆色のアーマ -黎明-』は、舞台『錆色のアーマ』と『錆色のアーマ -繋ぐ-』を原作としている。『錆色のアーマ』は舞台を中心とするメディアミックスプロジェクトの第1作で、戦乱の世を生きる男たちの生き様を描いた和風ファンタジー。2017年6月から東京「AiiA 2.5 Theater Tokyo」と大阪「森ノ宮ピロティホール」で公演された。第2作の『錆色のアーマ -繋ぐ-』は2019年6月から東京「天王洲銀河劇場」、愛知「岡崎市民会館・あおいホール」、大阪「梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ」で公演された。キャストは、雑賀孫一を佐藤大樹が、三郎を増田俊樹が演じている。
メディア化
テレビアニメ
2022年1月から3月にかけて、テレビアニメ版『錆色のアーマ -黎明-』が、TOKYO MXほかで放送された。監督は河原真明、キャラクターデザインは小川さくらが務めている。キャストは、雑賀孫一を佐藤大樹が、三郎を増田俊樹が演じている。
登場人物・キャラクター
雑賀 孫一 (さいか まごいち)
雑賀衆の頭を務める青年。明るい茶髪の短髪で青い瞳を持ち、赤い鉢巻を巻いている。生来の龍眼の持ち主で、明るく情に厚い、仲間思いな性格をしている。愛称は「まごまご」。南蛮・イスパニアの血を引く山の民だが、数年前にすべての記憶を失った状態で日ノ本の雑賀崎に漂流し、自分が何者なのかもわからず悲嘆に暮れる中で雑賀の里に受け入れられる。名前も思い出せずにいたが、雑賀の英雄である「雑賀孫一」を引き継ぐ形で名づけられ、雑賀衆の一員として傭兵部隊に加わる。腕っぷしの強さとアーマの扱いなどで頭角を現していき、棟梁(とうりょう)戦にて勝利してからは頭を務めるようになった。銃刀のアーマである「麒麟(きりん)殺し」を使用する。本来は戦いを嫌っているが、記憶のない雑賀孫一自身を受け入れてくれた雑賀の里への思い入れや恩義は強く、何よりも仲間と里の平和を守るために戦いに身を投じている。ふだんは相棒の木偶と行動を共にしている。雑賀の里を狙う賊や大名を追い払いながら、仲間と共に平和に暮らしていたが、コンキスタドールに里を襲撃され、大勢の人々を失い仲間とも離ればなれになってしまう。尾張に逃れたところで三郎と出会い、木偶とも再会を果たす。その後は三郎からコンキスタドールのことや、日ノ本にせまる危機について聞かされ、敵将であるルシオ・コルテスの正体が自分の弟だと知る。仲間たちと再会後は三郎の厳しい修行を受けながらイスパニア軍の襲来に備えることになり、その中で三郎の過去や姉の沙羅について知る。再会したルシオの攻撃で昔の記憶を取り戻すが、その過去はルシオと二人で生きるために殺戮を繰り返すという過酷なものだった。イスパニア出身で、本名は「ルカ・コルテス」。ルカとして生きていた頃は、ある男に連れられてコンキスタドールの軍人となり、ルシオと共に過酷な戦いに明け暮れていた。沙羅が日ノ本に渡ったあとはルシオとも別れ、それぞれの任務を遂行していたが、任務のために日ノ本に渡った際に記憶をなくしてしまう。三郎の修行開始後に、実はかなり希少な雷属性の持ち主であることが判明する。また、ルシオと同様に陰の龍眼を持ち、その力は怒りや憎しみといった負の感情に強く反応する。記憶を取り戻したあとは、ルシオの人格を歪(ゆが)ませた原因が過去の自分にあると悟り、彼を救うために戦うことを決意する。
三郎 (さぶろう)
雑賀の里を追われた雑賀孫一を助けた謎の青年。長髪を紐(ひも)で一つに束ねており、筋肉質な体型をしている。髪色は銀色だが、昔は暗い茶髪だった。孫一と同様に、数少ない龍眼の持ち主でもある。面倒見もよく、周囲の者をよく観察しており、里を追われた雑賀衆に道を示す兄貴的な存在となる。風呂好きで温泉にも詳しく、入浴の作法にはやたらとうるさい。龍眼や龍脈についてはもちろん、アーマやイスパニア軍についても詳しく、孫一の過去について知っている様子がある。知識豊富で戦闘力も高いが、雑賀衆を救った理由や真の目的は不明で、謎の多い人物。イスパニア軍との戦いに備える孫一たちを訓練し、天下五剣や五つの属性(水・風・火・土・雷)の詳細、アーマを使った戦い方などを教えるが、その指導の厳しさは鬼教官並み。雑賀衆の面々を曲者(くせもの)ぞろいと評しつつも、あらゆる修行を通してそれぞれの特徴や弱点を見極めつつ、的確に指導しながら面倒を見ている。二刀の剛剣のアーマである「天羽々斬拵え直し神断ち」を使用する。フルネームは「織田三郎信長」で、その正体は織田家の嫡男。生まれながらの君主でありながら窮屈な統治者となる運命を嫌い、突飛な恰好(かっこう)をしながら諸国を歩き回り自由奔放に過ごした過去を持つ。そんな中、異国から来た沙羅と出会ってからは互いに惹(ひ)かれ合い、海外のことや龍脈のことなど、さまざまなことを彼女に教わった。沙羅の死後は、生前の彼女が付けていた形見のペンダントを首に付けている。沙羅との誓いもあって日ノ本を守るため、そして世界を導くために過酷な戦いに身を投じている。好きな食べ物は鯛(たい)の天ぷら、焼き味噌(みそ)、湯漬け、干し柿。
鶴首 (つるくび)
雑賀衆の一員で、メンバー最年長の男性。茶髪の長髪で色黒肌を持つ。冷静沈着な性格で、戦況を見極めて柔軟に乗り越える判断力の持ち主。相棒の蛍火と行動することが多く、いつも彼を命懸けで守っている義侠の士。個性的な雑賀衆の中ではもっとも礼節をわきまえており、他人に敬称を付けて呼ぶなど、常識人でもある。愛称は「鶴さん」。槍(やり)としても使える長銃のアーマ「鳳凰落とし」を使用する。火属性を持つ。雑賀の里に身を寄せる前は、暗殺集団「梟」に所属していた。梟(ふくろう)として蛍火の命を狙っていたが、彼の実力や生い立ち、過酷な過去を知るうちに、行動を共にするようになる。梟から身を隠すために雑賀の里で暮らすことになるが、敵の賊の墓を作ってやっている雑賀孫一を見て、乱世で生きるには甘すぎると評していた。現在は何よりも蛍火の生存を優先するほどに、彼を大切に思っている。当初は蛍火から「おじさん」呼ばわりされていたが、行動を共にするうちに「鶴兄」の愛称に変わっていった。
蛍火 (ほたるび)
雑賀衆の一員で、メンバー最年少の少年。兄貴分の鶴首を慕い、彼と行動を共にすることが多い。小柄だが身軽ですばしっこく、忍びに近い戦闘力を持つ。茶髪の長髪を一つの三つ編みにまとめており、昔は無表情で話すことが多かったが、鶴首との出会いで明るい表情を取り戻していった。一人称は「おいら」。もとは帝の御落胤(ごらくいん)として生まれ、公には存在していけない子供として扱われ、生まれた時から冷遇されてきた過去を持つ。幼少期に皇族の意のままに暗殺を執り行う部隊の一員となり、同世代の子供たちと共に暗殺術を教わりながら生きていた。そんな中、当時暗殺集団「梟」に属していた鶴首に命を狙われるが、お互いの過去や生い立ちを知るうちに行動を共にするようになる。その後は、二人で各地を転々する逃亡生活を送りながら、人間性を取り戻していく。親を知らず名前すらなかったが、旅の中で鶴首と共に見た無数の蛍から、彼に「蛍火」と名づけられる。二挺(にちょう)拳銃としても活用できる鎖付き双節棍(そうせつこん)「烏天狗(からすてんぐ)封じ 霊亀流転」を使用する。水属性を持つ。潜在能力や身体能力は高めだが、幼さゆえの無鉄砲さが目立つ。
黒氷 (くろひょう)
雑賀衆の一員で、機械仕掛けの体を持つ青年。茶髪の短髪で顔や五臓六腑(ごぞうろっぷ)を含めた体の一部がサイボーグのように機械化されており、あらゆる場所が銃型のアーマでできている。基本的に口が悪く、他者に対しては高慢で不遜な態度を取ることが多い一匹狼。愛称は「クロ」。右手に仕込んだ機関銃のアーマ「白虎薙(な)ぎ」のほか、体中に仕込まれた武器を使って戦う。自ら考案した銃を自分の体に組み込むなど、銃マニアな一面を持つ。水属性を持つ。生命力は誰よりも強いが、性格から連携には不向き。現在は屈強な体を持つが幼い頃は心臓病を患い、長くは生きられないと言われたため天を呪っていた。それでも手先の器用さを活かして平和に暮らしていたが、故郷が疫病に襲われて黒氷の父以外の家族を亡くす。黒氷自身も動けなくなり、死にかけていたところを沙羅に救われる。命拾いしたものの四肢が動かなくなったところで父親と再会し、白虎薙ぎと心臓の代わりとなる龍玉をもとに体を改造され、強い体を手に入れた。手先が器用なために鍛冶師(かじし)としての才能が芽生え、いつか里の英雄が使う鉄砲を打つことが幼少期からの夢となっていた。しかし雑賀崎に流れ着いた異人の雑賀孫一が雑賀衆の頭となったことから、彼が「孫一」を名乗ることも自分の頭であることも認めず、辛らつな態度を取ることがある。
木偶 (でく)
雑賀衆の一員の男性。灰色のモヒカンヘアで、大柄で筋肉質な体型をしている。酒と騒ぐのが好きでお調子者で軽口を叩(たた)くが、情に厚い性格をしている。五十匁筒(ごじゅうもんめづつ)というバズーカのようなアーマ「玄武砕き」を使用する。雑賀衆の中では特に雑賀孫一と親しく相棒とも呼べる仲で、ふだんは彼と行動を共にしていることが多い。土属性を持つ。屈強な体格を持つが頭の回転が鈍く、攻撃の際にそれらの利点を活かし切れていないところがある。生まれつき体が大きく人一倍力持ちで、恵まれた肉体や力を暴力だけに使っていた時期もあった。改心後は工事を手伝ったり、雑賀の里を賊から守ったりなど、自らの力を他者のために役立てながら生きようと誓っている。雑賀の里が襲撃された直後、三郎に救われたのちに孫一と再会し、ほかの仲間を助ける旅に出た。似顔絵を描くのが得意で、その技術は仲間を捜すための人相書にも役立てていた。
アゲハ
雑賀衆の一員で、中性的な容姿の美少年。蝶(ちょう)の模様があしらわれた女物の着物をまとい、表向きは少女のフリをしている。切りそろえた赤茶色のボブヘアで、オネエ口調っぽい女言葉で話し、爪紅をしている。一人称は「アタシ」で、変装の達人。ふだんは陽気に振る舞っているが、その心の中では誰も信用しておらず、頼れるのは自分だけという孤独な本音を抱えている。仲間たちが修行のために半裸で滝に打たれる時や、温泉に入る時も一人だけ服を着たままで過ごしている。強い男性を好み、男同士が争っている姿を見るのが好き。雑賀孫一がお気に入りだが、全力で拒否されている。元城主の息子として生まれ、瓜二つの双子の姉を心から慕っていたが、戦乱の中で家族を殺害され、唯一生き残る。これらの過酷な経験から誰も信用できなくなり、相手の油断を誘って取り入るために、道化を演じて生きてきた。孤独の中で生きる意味を見出せない一方で、孫一の笑顔を見るたびに、姉の笑顔を思い出していた。敵に幻覚を見せるアーマ「朱雀惑い」を使用し、姉の形見である女物の懐剣も武器として使用する。実はルシオ・コルテスの手下であり、日ノ本最強のアーマ「天叢雲剣」を手にした三郎を急襲する。三郎を殺すつもりだったが、迷いがあることを彼に見抜かれて説得され、ルシオを裏切って雑賀衆に戻った。
不如帰 (ほととぎす)
雑賀衆の一員で、忍の男性。茶髪の短髪で黒いマスクで口元を覆っている。長い前髪で目元が隠れているが、左目の下には泣きボクロが二つ並ぶ。いつも微笑みを浮かべており、丁寧語で話す。雑賀衆の一員ながら思考が読めず、敵なのか味方なのかすらわからないミステリアスな人物。二挺の妖銃のアーマ「青龍穿(うが)ち」を使用する。人とかかわるよりも、動物や植物と戯れる方が落ち着くという変わった一面を持つ。その正体は三郎に昔から仕えている忍であり、間者として雑賀衆に潜入するなど、彼のために諜報活動をしている。また、雑賀の里の地下深くに流れている「陽の龍脈」の監視も担っていた。これといった夢や目標を持たないが、つねに面白い人物について行きたいと思っている。三郎に仕えていると飽きないと感じており、彼に付き従うのは自分探しのためでもある。
ルシオ・コルテス
イスパニア軍のコンキスタドールを率いる首領。刺々(とげとげ)しい全身鎧(がい)を身につけ、青紫色のマントをまとっている。ふだんは兜鎧(とうがい)で顔が隠れているが、その下の素顔は明るい茶髪短髪で紫色の瞳を持つ青年で、孫一と似た容姿を持つ。コンキスタドールを使って雑賀の里を襲撃し、里を滅ぼした。好戦的かつ冷酷非情な性格のリアリストで、道徳観や倫理観は欠如しており、敵対する者は徹底的に破壊しないと気が済まない。死に対して歪んだあこがれを抱き、死にゆく者の最期に命の煌(きら)めきを感じている。配下の中にはルシオ・コルテスに心酔している者が多いが、ルシオ自身は誰のことも信用しておらず、信じられるのは己のみと考えている。謎の多い異国のアーマ「ディオスクロイ」を使用し、陰の龍眼の持ち主でもある。尾張に逃れた雑賀孫一の前に現れ、仲間を倒したうえで彼が自分の兄である事実を告げる。決め台詞(ぜりふ)は「お前に地獄を見せてやる」。かつてはイスパニアで、昔の孫一であるルカ・コルテスと姉の沙羅と三人で身を寄せ合って暮らしていた。しかし、ルカと共にコンキスタドールの軍人となってからは、過酷な環境と戦いの中で誰よりも家族を思う気持ちが強くなるうちに、人格と運命が歪んでしまった。再会した孫一が記憶をなくしていると知り、あらゆる手段を使って彼を昔のような兄に戻そうと目論むなど、強い執着心を見せる。のちに孫一の記憶を強制的に戻し、富士山のふもとに渡って雑賀の里に流れる「陽の龍脈」と、対を成す「陰の龍脈」とを一体化することで彼やその仲間を襲撃し、世界を滅ぼそうと目論む。
沙羅 (さら)
南蛮の異国、イスパニアから日ノ本にやって来た若い女性。金髪のロングヘアと海のような青い瞳を持つ美女で、和服をまとっている。異国から日ノ本にやって来た人々たちが暮らす里に滞在し、野盗に襲われていたところを三郎に救われてからは、疫病患者の世話をしていた。また、疫病で死にかけていた黒氷を助けたこともある。苦しむ人々に手を差し伸べる姿は、まるで聖女のようだと三郎に評されている。日ノ本に咲く桜が好き。かつては故郷のイスパニアで二人の弟と暮らしていたが、わけあって離ればなれになってしまい、弟たちを奪ったコンキスタドールに対抗できる者を求めて日ノ本に渡った過去を持つ。病やケガを治せる不思議な力を持っているが、これはアーマなどに付いている龍玉を介さずに、龍脈の力を駆使する才能を持つためである。三郎が結婚も考えたほどに優しく芯の強い女性であり、彼に外国のことや龍脈について教えるなど、さまざまな知識や影響を与えている。しかし、里に起こった大規模な流行り病で住民が死んでいき、やがて力を使っても治療が追いつかなくなり、体が弱って亡くなってしまう。亡くなる前に、戦いに明け暮れる弟のルカ・コルテス(雑賀孫一)、ルシオ・コルテスのことを三郎に託していた。好きな食べ物はライ麦のパンにチョリソ、魚のパエリア。
黒氷の父 (くろひょうのちち)
黒氷の父親で、口ヒゲと顎ヒゲを生やした男性。護衛を担う傭兵として各地を転々としているため、家にはめったに帰って来ない。故郷が疫病に襲われて黒氷の四肢が動かなくなった時に家に戻り、彼には今更戻って来たことに反感を抱かれていたものの、旅先で手に入れたアーマを四つに分けることで黒氷の体に改造手術を施す。この手術自体は成功したものの、黒氷の父自身は龍玉に魂を授けて黒氷に受け継がせる形で死亡した。死後に読まれることを想定した書物を遺しており、傭兵として各地を回っていたのが黒氷の病の治療を探すためだったことや、離れている家族への思いなどが記されていた。
集団・組織
雑賀衆 (さいかしゅう)
山海の秘境、紀ノ国の深い森の奥にある「雑賀の里」を拠点にしている鉄砲集団。八咫烏を旗印旗としている。主に傭兵稼業を生業としており、現在の頭は雑賀孫一が務める。里には鉄砲作りの明工も多く隠れ住んでいるため、大名や賊に狙われることも多く、そのたびに雑賀衆が返り討ちにしている。このため、里には「鬼が棲(す)んでいる」という噂が一部でささやかれている。メンバーは頭の孫一、木偶、鶴首、蛍火、不如帰、アゲハ、黒氷の7名で、それぞれが異なるアーマを武器として所有している。平和に暮らしていたが、ある日突然襲来したコンキスタドールによって滅ぼされ、住民の大半が死亡した。わずかながら生き延びた里の住民は尾張で三郎の部下に保護された。
その他キーワード
アーマ
日ノ本の地下深くに張り巡らされている「龍脈」の力を使うための神器。龍脈と共鳴することでさまざまな力が宿り、人の限界すら超えた力を発揮する。一見非常に強力な武器に見えるが、まだまだ謎が多く、使い方を間違えたり酷使したりすると、反動が起こるなどのリスクも存在する。使い手は万物を作る「火・水・土・風・雷」の5属性にも分けられ、龍脈について熟知したうえでアーマを使役する者は、それぞれの属性にちなんだ力を発揮できる。アーマのどこかに埋め込まれている龍玉が錆色に輝く特殊なアーマは、「錆色のアーマ」と呼ばれており、凄(すさ)まじい力の代償に使い手の命を求める諸刃(もろは)の剣とされている。
コンキスタドール
日ノ本の国を襲撃する謎の兵士。全身が黒い鎧(よろい)で覆われている。南蛮の異国からの侵略軍である「イスパニア軍」から、世界のあちこちに派兵されている。イスパニアの言葉で「征服者」を意味する。平和だった雑賀の里を襲撃し、住民の大半を殺害して滅ぼしたのち、生き残った雑賀衆のことも執拗(しつよう)に追撃している。島津・毛利・北条の領地すらも征服し、やがて日ノ本全土で無差別な殺戮を繰り返すようになった。日ノ本に襲来したコンキスタドールの大半は、ルシオ・コルテスが率いている。その目的は、戦などで非業の死を遂げた魂が集まったことで生じる「陰の龍脈」を強めながらそのすべて掌握することであり、このために世界各地で虐殺を繰り返している。
クレジット
- 原案
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「錆色のアーマ」プロジェクト
書誌情報
錆色のアーマ-黎明- 全2巻 KADOKAWA〈MFコミックス ジーンシリーズ〉
第1巻
(2021-12-27発行、 978-4046809551)
第2巻
(2022-05-26発行、 978-4046813831)