異星人の悪影響が顕在化した世界
本作の地球は、エイリアンとの戦争に勝利してから50年が経過しており、世界は少しずつ復興しているものの、至るところに戦争の傷跡が残っていた。その最たる例が、周囲の生態系を破壊して自分たちに適した環境を作ろうとしている昆虫型生命体「宇宙害蟲」と、非常に凶暴でエイリアンに代わる新たな脅威とされる巨大生物「宇宙害獣」が挙げられる。そのため、エイリアンの技術をもとにした装備や施設を有する民間軍事会社が多数設立され、宇宙害獣や宇宙害蟲を駆除していた。これらの会社は国に代わって国家安全保障の一角を担っているが、その技術を巡って水面下での争いが激化している。
薄幸の少女が宇宙害獣と融合
スミレは、幼い頃から両親から虐待を受けており、挙句の果てに父親は莫大な借金を残して蒸発してしまう。スミレは年の離れた弟を守るため、高校を卒業してからさまざまな職を転々とし、現在は宇宙害蟲駆除業者「サオトメバスターズ」に勤務しており、借金返済のための激務に追われている。そんな中、スミレはエイリアンの集団に拉致され、宇宙害獣のダスキンと合体させられてしまう。人間を本能的に嫌っているダスキンは、肉体の主導権をスミレから奪い取ろうとするも、ライデン社の凄腕(すごうで)エージェント、狭山ハヅキに首を切り落とされる。すると、切断された肉体が同時に再生して、一体化していたスミレとダスキンは分離する。力を失ったダスキンはライデン社に捕らえられ、宇宙害獣に変身できる能力を得たスミレは、巨大企業「ライデン社」にヘッドハンティングされる。こうしてスミレは、危険が伴うものの高収入で快適な社員寮が完備された新たな職場で働くことになる。
重工業メーカー「ライデン社」の野望
スミレが勤務するライデン社の正式名称は「雷電重工業株式会社」。「石動財閥」の2代目当主である岩倉コウタロウによって1890年に設立された。エナジープラント、インフラ、物流、医療、航空、防衛、宇宙開発など、その事業領域は多岐にわたる。特筆すべきは人間にとって悪影響しかもたらさない宇宙害蟲や、宇宙害獣をエネルギー源として活用している点で、環境エネルギー問題に大きく貢献している。また、宇宙害獣のエネルギーコアをリアクターとして利用することで人間の能力を強化するコンバットスーツを開発するなど、新たな事業も展開している。福利厚生も充実しており、宇宙害獣討伐のために設立された部隊は高収入で、新入社員のスミレには月収100万円が支給される。しかし、危険度はほかの仕事と比べものにならないほど高く、業務中に死ぬことも珍しくないと現社長の石動デンスケが口にするほど。
登場人物・キャラクター
市ヶ谷 スミレ (いちがや すみれ)
宇宙害蟲駆除業者「サオトメバスターズ」に勤務する女性。のちにライデン社の宇宙害蟲討伐部隊「雷伍特務部隊」にスカウトされる。年齢は18歳。父親が投資に失敗して莫大な借金を残し、年の離れた弟を守るために貧困生活を強いられている。学生時代は成績優秀で、高校時代の教師からは将来を嘱望されていたが、高校を卒業してすぐに働くようになる。生真面目かつ実直な性格ながら遅刻魔で、ふだんは会社の人たちからぞんざいに扱われているが、いざという時は大切にされている。だが、自分の感情を押し殺した人生に鬱屈した思いを抱えている。幼い頃から貧困に悩まされてきたことから、ハングリー精神が旺盛で麻雀をはじめとした賭け事に強い。
ダスキン
エイリアンによって、スミレと融合させられた宇宙害獣。宇宙害獣でありながら明確な意思を持ち、スミレと日本語で会話することができる。凶暴な性格で本能的に人類を嫌悪しており、皆殺しにすると宣言している。また、過去の記憶に苦しむスミレを言葉巧みに懐柔し、身体の主導権を握ろうとしたり、約束をすぐに反故(ほご)にするなど狡猾(こうかつ)さと豪胆さを併せ持つ。一方で、絶対的な暴力で他者を屈服させようとする監視者のキヨハルに対して恐怖を覚えるなど、人間らしい一面もある。当初はスミレのことを自分にとって都合の悪い存在としか考えていなかったが、やがて自分の中の本能が目覚め、人間を殺すことより彼女を守ることを優先するようになる。「ダスキン」という名前は、かつてスミレが飼育していたカブトムシから付けられたもの。
書誌情報
雷雷雷 3巻 小学館〈裏少年サンデーコミックス〉
第1巻
(2023-11-17発行、 978-4098530014)
第2巻
(2024-04-18発行、 978-4098532148)
第3巻
(2024-09-11発行、 978-4098535873)