概要・あらすじ
主人公アリスはロンドンの大資産家ジャクソン家のご令嬢。大好きなピアノや素敵な婚約者に恵まれ、何不自由なく暮らしていた。そんな折り、彼女の祖母が一手に引き受けていた事業が失敗して破産。家屋敷は競売にかけられ、婚約も破棄された。アリスたちはロンドンから遠い田舎町ブルーウインドーで新しい生活を始めることとなった。
登場人物・キャラクター
アリス・ジャクソン
ロンドンの大資産家であるジャクソン家の長女。有名なピアニスト・アンナ先生にピアノを学ぶ。また、家柄の良い婚約者クリストファーに愛され、妹のプリシー、弟のエリックとも仲良く過ごしていた。祖母の事業の失敗と共に贅沢な生活も住む場所も失い、田舎町ブルーウインドーへ移り住む。 そこで知り合った画家志望の素朴な青年・ローリーとピアニストへの夢を語り合ううちに恋に落ちるが、アリスの祖母やローリーの父親に反対される。慣れないながらも、率先して家事に従事する健気な性格の少女。ジャクソン家の噂をこれ見よがしにするブルーウインドーの人々の好奇の視線に耐え、病床の祖母の癇癪にも向き合い、プリシーの我が侭も聞いてあげるという苦労人。 だが、自分を殺して我慢する性格が災いして、ロンドンへ行くと言うローリーを追うのが遅れて妹に恋人を取られてしまい、ピアニストになると言う夢も諦めようとする。
ローリー・ルイス
主人公のアリスがロンドンを出て、田舎町ブルーウインドーにやって来て出会った青年。画家になる事を夢見ているが、小学校の校長である父親には自分と同じように教師の道を進んで欲しいと思われている上に、画家になる事を反対されている。同じ夢を語り合えるアリスに恋をし、一緒にロンドンへ行って夢を叶えようとするが、自らのプライドから横恋慕して来るアリスの妹プリシーに熱烈なアタックを受け、最終的にはプリシーの本気の想いに絆される。 田舎町で生まれ育ったため、純朴で奇を衒ったところのない好青年。
ギルバート・ライアン
主人公アリスが、ブルーウインドーの隣町の公会堂で開催されたブルーコンサートで出会った新人ピアニスト。両親と早くに死に別れ、施設で育った。そのせいか素行の悪かった彼は、ロンドンで一、二を争う資産家であるバクスター氏にピアノの才能を見出され、全面的なパックアップを受けて新進気鋭のピアニストとなる。 ブルーコンサートでアリスの演奏を聞くなりその才能に惚れ込み、是非ともロンドンに来て欲しいと訴える。支援者であるバクスター氏を父のように慕い、彼の娘との婚約話まで持ち上がっていたが、自分への支援を破棄してもらっても構わないほどにアリスを愛していた。彼の弾くピアノは大胆で力強く、それでいてたまらなく優しいと、ピアノ教師のアンナに評される。 そしてそれはアリスに似ていた。
プリシー・ジャクソン
主人公アリスの実の妹。良家のご令嬢として我が侭一杯に育ち、また美貌にも恵まれたため、男は皆自分の言いなりだと思っていた。ジャクソン家が事業に失敗して田舎町ブルーウインドーに引っ越してからも、家の手伝いもせず取り巻き連中と遊び回り、病床の祖母の面倒も看ない。そんな中、自分になびかず姉アリスに首ったけのローリーにプライドを傷付けられ、2人の邪魔をするようになる。 憎しみがやがてローリーへ恋に変わり、ロンドンに旅立つローリーに追い縋り、ロンドンでの決して裕福とは言えない生活を必死に生きる。粗末なドレスに身を包み手をあかぎれだらけにして「ローリーに会わないで」と訴えるプリシーの姿に、アリスも心を打たれた。
エリック・ジャクソン
主人公アリスの実の弟。アリス大好きの小学生で、無邪気な男の子。田舎町のブルーウインドーにもすぐ馴染み、ローリーの父親が校長先生をしているA.ルイス小学校に通う。アリスがローリーと共に駆け落ち同然でロンドンに行ってしまうとなると、泣いて縋るような幼さだが、ピアニストとして大成して行く姉を祝福することが出来る素直な少年である。
ジャクソン夫人 (おばあさま)
アリスたち3兄弟の祖母。アリスたちの両親が亡くなったのち、ジャクソン家の会社や事業を一人で守って来た気丈な女性。アリスの婚約者クリストファー・ハドソンの父親から資金援助を受けていたりしたが、事業に失敗してしまう。その無理が祟ったかジャクソン家が破産してから心臓を患い、田舎町ブルーウインドーに越して来てからはほとんど寝たきりになる。 以前からジャクソン家の娘がピアニストなどになることをよく思っていなかったが、病床に就いたことでさらに頑なになって行く。アリスがローリーと共にロンドンへ行くことを断念したのは、祖母の病気も原因の1つ。だが、ギルバートの誠意ある説得についにアリスの才能を認め、改めてロンドンでピアニストのアンナに師事することを許した。
アンナ・パルマン
ロンドン在住の高名なピアニスト。主人公のアリスが幼い頃からピアノを習っていて、その実力を誰よりも評価していた。アリスがブルーウインドーに引っ越してしまうことになったとき、「ピアニストの夢を諦めないで」と励ます。その後もアリスが日々のつれづれに手紙を出すなどして交流は続いていた。 ブルーウインドーの隣町の公会堂で開催されたブルーコンサートに招待されたアンナは、新進気鋭のピアニストであるギルバートを連れて来た。彼との出会いがアリスにピアノへの抑え難い憧憬を蘇らせることになる。その後もロンドンにやって来たアリスにピアノを教え、将来有望と認められた新人だけが出演出来るデビューコンサート、パレス=シアター・コンサートへの出演を出願してくれる。
校長先生 (こうちょうせんせい)
主人公のアリスが田舎町ブルーウインドーで知り合ったローリーの父親で、アリスの弟エリックが通う小学校の校長先生。ローリーに紹介されてアリスを音楽教師に取り上げてくれた上に、好きな時に好きなだけピアノを弾いていいと言う優しい男性。だが、現実主義者でもあり心配性でもある。 息子のローリーが画家を夢見てロンドンに行くことを最後まで許すことができなかった。アリスのピアニストの夢も同じだと語る。だが最終的には、父親の反対を押し切ってロンドンへと旅立って行ってしまったローリーを黙って見守るようになる。
カレン・バクスター
ロンドンで一、二を争う資産家のバクスター氏の娘。ギルバート・ライアンと共にピアノ教師のアンナ・パルマンに師事している。ギルバートに高く評価されるアリスに嫉妬心を持ちピアノの腕を競い合うが、すぐに適わないと知る。だがそれでも、父親がギルバートを支援しているのを半ば笠に着て、ギルバートと結婚するのは自分しかいない、と思っていた。
バクスター氏
ロンドンで一、二を争う資産家で、芸術家たちのパトロンとしても有名。施設で育ち、反抗的だったギルバートをピアニストとして見出し、惜しみない支援を与え、息子としても思っていた。田舎町ブルーウインドーからロンドンへ再起をかけてやって来たアリスのことも支援する。2人がそれぞれ「自分のことはいいから相手の支援を続けてくれ」と訴えて来たことで、自分の娘カレンとギルバートの結婚を諦める。 2人はもはや自分の支援なくとも世間が放っておかない、と悟っていた。
スージィ・メイベル
田舎町ブルーウインドーにあるジャクソン家の別荘を維持管理する別荘番の娘。気さくで明るく、ジャクソン家の噂話にも意に介さず、アリスたちの面倒を見てくれる闊達な少女。慣れない田舎暮らしで、料理・掃除・洗濯などの家事を一切したことのないアリスを手伝い、病床のジャクソン夫人の看病も買って出る。 常にアリスの味方。
クリストファー・ハドソン
ジャクソン家のご令嬢であるアリスの婚約者だった。優しく理知的な男性と思われたが、ジャクソン家が破産したことであっさり婚約を解消する。ジャクソン家に資金援助していたクリストファーの父でさえどうにもできないことを、自分が何とかできるとは思えなかった。
集団・組織
A.ルイス小学校
田舎町ブルーウインドーにある小さな小学校。この町に引っ越して来たアリスの弟エリックが通う。アリスの恋人であるローリーの父親ルイス氏が校長先生を勤めていて、ローリーに紹介されてアリスが音楽教師をすることになる。ピアノへの想いを募らせるアリスが、思う存分ピアノを弾くことを許された癒しの空間でもあった。
場所
ブルーウインドー
ロンドンから遥か遠い所にある田舎町。ジャクソン家は破産し、その借金のカタに全てを取られたが、唯一残されたのがブルーウインドーにある別荘だった。主人公アリスは小さい頃に妹のプリシーと共に行ったことがあった。大自然が美しい、ロンドンとは真逆の土地。
イベント・出来事
ブルーコンサート
田舎町ブルーウインドーの隣町にある公会堂で毎年行なわれるコンサート。時折有名な音楽家を呼ぶこともあり、その年は主人公アリスのかつてのピアノ教師アンナ・パルマンと新進気鋭の新人ギルバート・ライアンが招待されていた。コンサートでは、公会堂は空色の絨毯やカーテンに彩られ、出席する人々も空色のドレスや純白の衣装に身を包んで参加したことから、この名が付けられた。
パレス=シアター・コンサート
将来有望と認められた新人だけが出演出来るデビューコンサート。ロンドンでバクスター氏の支援を受け、ピアノレッスンに励んでいたアリスに舞い込んだ晴れの舞台。本作『風のソナタ』のラストシーンでもある。