あらすじ
第1巻
魔王さまは、代替わりにより新たに魔族を統率することになった。彼のお世話係候補に選ばれたヨユヤ・レイン・エンダーボルトは、上司であるネーベルの命令で、ダンジョンの視察に赴く魔王さまと同行することになる。初めて踏み入れた冒険超初心者用ダンジョンは、床の加重によって作動する落とし穴や吹き矢、迫り来る床や天井など、さまざまな罠に満ちており、ヨユヤを大いに驚かせる。しかしそれ以上に彼女が驚いたのは、魔王さまがそれらのトラップにことごとく引っかかっていることだった。ヨユヤは、思い描いていたものとはまったく違う魔王さまの姿に、彼がネーベルの用意した偽物ではないかと疑い始める。しかし、トラップに引っかかりつつも決して歩みを止めず、さらにヨユヤのやる気を評価したり、部下となる魔族たちを大切に思う彼の姿を見て考えを改め、次第に彼についていこうとする決意を固めると共に、自身も魔王さまの役に立ちたいと願うようになる。冒険超初心者用ダンジョンで魔力結晶への魔力補充を終えた二人は、静謐の樹林や総やかなる大穴などの視察をつつがなく終えて、黄昏の斜塔では、シャトンを交えて宝箱のデザインや配置などもこなしていく。そんな中、炎龍の試練に挑戦することになった魔王さまは、ヨユヤを連れて炎龍伯が住まう慟哭の山へと足を踏み入れる。二人は炎龍族のヴァシャナーの案内に従い、例によってトラップに何度も引っかかりつつも、奥地へと到達する。しかしそこに待っていたのは、炎龍伯の側近であるレイアースで、案内していたヴァシャナーこそが本物の炎龍伯だった。ヴァシャナーは、魔王さまの道中での様子から、彼に試練を受けさせるまでもないと豪語する。しかし、彼が魔王魔術・魔炎竜巻でレイアースを撃破すると、実は自身が炎龍伯に相応しい力を持っているかを不安視しており、魔王さまを下すことで自信をつけたがってることを明かして直接対決を望む。魔王さまとヨユヤはそんなヴァシャナーに対して、慟哭の山を何よりも大切にしているヴァシャナーこそ、既に立派な炎龍伯であると主張する。そして、彼らの心意気に触れたヴァシャナーも、炎龍の試練の成功を認めるのだった。
第2巻
ある朝、魔王さまが愛用していたオリハルコン製のヘルメットがなくなっていた。突然の出来事に、ヨユヤ・レイン・エンダーボルトは慌てふためくが、魔王さまは気にする様子を見せず、騒ぎを聞きつけてやってきたヴァシャナーも、ヘルメット一つくらい捜す必要もないのではないかと訝しむ。しかし、そのヘルメットが伝説の金属で作られていることが発覚すると、ヴァシャナーの様子が一変。ヨユヤと共に、なんとしてでも見つけ出すよう要求する。昨夜、ヘルメットをかぶって遊んでいた角ネズミが怪しいと思い至った三人は、ザドスの鍛冶屋や大食堂、大図書室などを巡って角ネズミの行き先を追い、魔王城の中庭でようやくヘルメットを発見する。だが、角ネズミがヘルメットを取ったのは、身重の妻が安全に出産するためだということが判明し、魔王さまは「新しい命以上に守るべきものはない」として、ヘルメットをその場に置いていく。そして後日、角ネズミからヘルメットを返してもらうと、新たなダンジョンへと視察に赴く。魔王さまたちは、訪れた人同士の絆を試す仁愛の門戸や大量の結晶が見る者を惑わす玲瓏峡谷など、癖のあるダンジョンに翻弄されながらも、持ち前の経験を活かし、順調に視察を進めていく。さらに、漂動鉱山でマタンゴのクサビラを仲間に加え、彼やヴァシャナーを加えた四人のメンバーで、邪神ダンジョンへと挑む。ダンジョンの中には、自らを邪神と名乗る壺のような物体が置いてあり、魔王さまは彼女の頼みを受けて、邪神ダンジョンの魔力結晶に魔力を注入する。しかしそれは復活を目論む邪神の罠で、ヨユヤの身体を乗っ取られたうえに、ほかの三人も強制逸走の魔法を受けてダンジョンの外へと追い出されてしまう。邪神は、ヨユヤを助ける条件として完全復活した邪神ダンジョンの攻略を条件付け、魔王さまたちもこれに応じる。
第3巻
魔王さま、ヴァシャナー、クサビラの三人は、邪神に身体を乗っ取られたヨユヤ・レイン・エンダーボルトを助けるために、完全復活した邪神ダンジョンへと再度進入する。中では、強力な力を持つ門番のガーゴイルが待ち構えており、三人はそれぞれの力を合わせた連携攻撃によってこれを撃破する。一方のヨユヤは、邪神の意思が体内に入り込んだことで、彼女の記憶を垣間見る。邪神ダンジョンは、邪神自身と訪れた相手の両方を楽しませるために造られたものだったが、いつしか誰も訪れなくなってしまい、邪神は楽しませる相手がいなくなったことに深い悲しみを抱くようになっていた。また、復活を目論んでいたというのも方便で、真の目的は身体が完全に消滅する前に、活性化したダンジョンを魔王さまたちと共に楽しむことだったという。目的を果たした邪神はそのまま消滅してしまうが、今際の際にヨユヤが彼女の存在が消えないよう願ったことで実体を取り戻し、そのまま魔王城に居着くことになる。視察のための新たな仲間を加えた魔王さまたちは、ネーベルを交えて霧が立ち込める霞の飛泉を視察したり、ツェッピンボンザの提案に乗って新種のポーションを開発するなど、楽しい日々を過ごす。しかし、そんな日常を引き裂くかのように、魔王城に崩壊の危機が訪れる。魔王さまたちは、崩壊の原因が魔王城の地下に存在するダンジョン、闇の覇道にある魔力結晶のエネルギー切れであることを突き止め、魔力補充のために闇の覇道の最深部へと向かう。そこにまつられていた魔力結晶は、ほかのダンジョンにあったものとは比較にならないほど巨大で、魔王さまやヨユヤ、邪神などの魔力をもってしても再稼働させるには及ばなかった。魔王さまは、自らの命と引き換えに魔力結晶を活性化させることを決意し、ヨユヤたちに脱出をうながす。しかし、魔王さまを失いたくないヨユヤたちは、志を同じくする魔王城の仲間たちを集めて、全員で魔力結晶を再起動させ、魔王城の崩壊を食い止める。魔王さまは、最高の仲間たちに恵まれたことを深く感謝しつつ、まだ見ぬダンジョンの視察に向けて動き出すのだった。
登場人物・キャラクター
魔王さま (まおうさま)
魔王城に住む魔族たちを束ねている青年。魔王城の主として認められた時に自分の名前を捨てており、現在は主に「魔王さま」と呼ばれている。頭に2本の大きな角があり、身体が熱を持った際には、そこから放熱することで体温を下げることができる。前任者から新たに魔王城の主の座を引き継いでから日が浅く、歴代の魔王たちが造り上げたダンジョンに関して、書類上に記載されていることしか知らない。そのため実際にダンジョンに赴いて視察しつつ、ダンジョンの動力炉である魔力結晶を活性化させて回っている。少々天然気味で見え見えの罠にことごとく引っかかるなど、お世話係のヨユヤ・レイン・エンダーボルトからはつねに心配されている。しかし、魔王と呼ばれるだけあって身体が非常に丈夫で、罠に引っかかっても平然としていることが多い。戦闘能力も高く、魔王魔術・魔炎竜巻や魔王魔術・魔凍波動などの強力な魔法を自在に使いこなす。心優しい性格で、魔王城の住人たちの名前や特徴などをほぼ完全に覚えているほか、笑顔で声を掛けるなど気さくな一面を見せることが多い。また、魔王城の主は決して逃げてはならないという自負を持ち、どのような窮地においても決してあきらめず、最後までやり遂げようとする。これらのことから、仲間たちからは絶大な信頼を得ており、魔王さま自身も頼れる仲間たちに囲まれていることを幸せに思っている。「ダンジョンとは楽しいもの」という持論を持ち、どのようなダンジョンも隅々まで探索し、視察を心の底から楽しんでいる。なお、視察の際にはつねにオリハルコン製のヘルメットをかぶっているが、これはマイペースな魔王さまが毎回被害に遭うため、それを心配したネーベルによって贈られたものである。
ヨユヤ・レイン・エンダーボルト
下級悪魔の少女。魔王さまのお世話係を志願した。お世話係を志したのは、十二人の弟や妹の世話を焼くことに慣れていることと、安定した収入を得て家族の暮らしを向上させるためである。上司であるネーベルの言いつけで、魔王さまのダンジョン視察のサポートを請け負う。初めの頃は、罠にことごとく引っかかったり、つねに緊張感に欠ける魔王さまの資質に疑問を抱いており、冒険超初心者用ダンジョンではネーベルが用意した偽物ではないかと疑ったことすらあった。しかし、彼が部下たちへの思いやりや、彼なりの矜持を持ってダンジョンを視察していることなど、魔王城の主としての自覚をきちんと持ち合わせていることがわかると、彼の役に立つために尽力することを決意。それからはさまざまなダンジョンを魔王さまと共に視察し、魔王さまが天然ながら頼りがいのある一面を見せ始めると、一方のヨユヤ・レイン・エンダーボルト自身が魔王さまの足を引っ張っているのではないかと不安に思うようになる。のちに漂動鉱山でクサビラと出会い、行動を共にするうちに彼から姉のように慕われ、ヨユヤも彼をかわいがるようになる。邪神ダンジョンでは、完全復活を目論む邪神に一時的に身体を乗っ取られるが、その中で彼女の本当の願いを知り、消滅の危機から救ったことで深く感謝された。魔王さまからは基本的に幼児扱いされており、当初はその扱いに抵抗を感じていたが、次第に慣れていった。
ネーベル
魔王さまの側近を務めている魔族の女性。ヨユヤ・レイン・エンダーボルトの直属の上司にあたる。生真面目な性格で、魔王さまのマイペースな性格にいつも頭を悩ませている。特に魔王さまがダンジョンの視察に集中するあまり、魔王城での書類整理などを怠った際には、口うるさく説教することが多い。また、すぐにトラップに引っかかってしまうことを心配するあまり、オリハルコン製のヘルメットをかぶるよう求めるなど、過保護な一面も見られる。その一方で、部下を思いやったり、ダンジョンへの愛情をあらわにする様子を見せられることを喜ぶなど、彼の性格自体には好感を抱いている。また、直属の部下であるヨユヤに対しては、ダンジョン視察などでひどい目に遭っていないか気にかけることもあり、ヨユヤからも、厳しくも優しい上司として尊敬されている。本体は霧の集合体で、放っておくと飛散してしまうことから、特殊な防護用のマントをつねに着用している。そのために本当の姿を明かすことは滅多になく、ヨユヤからは長いあいだ性別すら知られていなかった。しかし、魔王さまやヨユヤと共に霞の飛泉の視察に赴いた時に、高濃度の霧が立ち込めていることから飛散の心配がないとしてマントを外したところ、美しい女性の姿を現したことでヨユヤを大いに驚かせた。また、身体を構成している霧を操作することで、狼や鬼のような姿になることも可能で、サギリオオガラスとの戦いでは、巨大な鳥に変化して魔王さまと共に正面からぶつかり合った。なお、霧に近い生態を持つことから、邪神からは「モクモク」と呼ばれている。
ゴーレム
人造の魔物。冒険超初心者用ダンジョンの魔力結晶を守護している。はるか昔に、数多の冒険者たちを葬ってきたとされる超古代兵器で、魔王さますら文献でしか見たことがなかった。魔力結晶の存在を冒険者たちに気づかせないための、門番としての役割を果たしており、冒険超初心者用ダンジョンを攻略するレベルの冒険者では手も足も出ない。魔王さまは、ゴーレムが排除するのは人間のみで、魔族である自分やヨユヤ・レイン・エンダーボルトは素通りさせてくれると考えていた。しかし、冒険超初心者用ダンジョンを作り上げた先代の魔王城の主が、「誰も通してはならない」という命令を下していたため、魔族に対しても容赦なく攻撃を仕掛けるようになっていた。身体能力は魔王さまをはるかに上回り、パンチ一撃で彼を床に沈めるほど。その一方で、巨体ゆえに身体のバランスを維持することが不得手で、そこに着目した魔王さまによる魔王柔術・葦払いでバランスを崩され、倒れ込んだ。さらに、「敵意を持たずに一人で向き合い、ゴーレム自身をいたわる存在が現れたら通してもよい」と言われていたため、魔王さまに感服して彼とヨユヤを魔力結晶のある場所へ案内した。
ヘルモスキート
蚊の魔物。静謐の樹林に生息している。侵入してきた冒険者の血と魔力を吸い取る性質を持つ。その生態から、魔力が高い相手の血を好む傾向があり、魔王さまが視察に訪れた際には大量のヘルモスキートが殺到し、我先にと魔王さまの血と魔力を吸収する。魔王さまはこれに対して「持っている者が飢える者に分け与えるのは当然のこと」と言い切るが、吸われたあとの身体は明らかにやつれていた。
ヅキ
植物の魔物。静謐の樹林の魔力結晶を守護している。巨大な樹木のような形状をしていることから「巨大魔樹」の異名を持つ。根っこの下に魔力結晶を隠しており、魔力を補充する時のみ、地面から掘り出すよう指示されている。温厚かつ礼儀正しい性格で、訪れた魔王さまやヨユヤ・レイン・エンダーボルトに対して恭しく接する。さらに、魔王さまが視察の最中に魔力を使い果たしてしまい、魔力結晶への補充ができないことが判明すると、体内の生命力を凝縮させて魔力を回復させる実を生成できることと、自分の力で実を体外に排出できないことを告げると、ヨユヤの申し出に応じて、彼女に体内に進入することを快諾する。その際に、魔王さまに対してヨユヤ一人だけを体内に派遣するのは危険ではないかと問いかけるが、部下を信じて待つのも魔王城の主としての役割であると返され、彼らのあいだに強い絆が結ばれていることを実感する。
マタンゴ
キノコの形状を持つ魔物。総やかなる大穴に生息している。おとなしい性格で、繁殖に適した場所を探し歩き、胞子を振りまいて子供を作る性質を持つ。魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルトが視察に赴いた際に遭遇し、魔王さまの角が苗床として都合がいいと考えて、彼に向けて胞子を散布する。その結果、しばらくあとに角から子供となる幼生が生まれた。幼生は魔王さまによって「クサビラ」と名づけられる。
クサビラ
魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルトが総やかなる大穴の視察に赴いた際に、魔王さまの角にマタンゴの胞子が振りかけられたことで生まれた少年。生まれてすぐにヨユヤに懐き、それからは彼女を母親のように認識している。総やかなる大穴の視察から戻る際に、置き去りにされたくない一心で魔王さまの荷物に隠れて魔王城まで同行していた。そして、魔王さまから「クサビラ」と名づけられ、彼の許可のもとで、ネーベルの側近として使えさせて近侍としての教育を施された。その結果、魔族の男性のような姿へと変貌する。胞子を自在にあやつる能力を持ち、ヒツジキノコやシモフリマッシュルームを生成したり、胞子を集めて粘糸に変化させることも可能。魔王さまとヨユヤが漂動鉱山を視察する際に同行するが、ヨユヤに対してかたくなな様子を見せ、ヨユヤからは頼りにならないから軽く見られているものと思い込まれていた。しかし実際は、ヨユヤを慕うあまりに格好悪いところを見られたくなかっただけで、共に進むにつれて打ち解け合い、やがて姉弟のようになかよくなる。それからは、時おり魔王さまとヨユヤのダンジョン視察に同行するようになり、邪神ダンジョンでは慕っているヨユヤの身体が邪神に乗っ取られたことで、彼女を助け出そうと奮起。魔王さまやヴァシャナーと共に、魔王城で身につけた魔法を駆使してガーゴイルを撃破し、ダンジョンの攻略に貢献した。
シャトン
魔族の女性。魔王さまに仕えている。つねに宝箱の形をしたヘルメットをかぶっているため、素顔を見せることは滅多にないが、素顔は美しく、性格とのギャップを指摘されることが多い。宝箱の管理を担当しており、デザインや配置、中身の厳選など、さまざまな役割を一手に引き受けている。宝箱の中身が風化したり腐ったりすることを懸念し、つねに質のいい宝物を用意するなど、一攫千金を狙う冒険者たちに敬意を払っている。すべての宝箱について完全に把握しているというわけではなく、太古より存在しているものを中心に、シャトンが管理できていない宝箱も多く、いつの日かすべての宝箱を自らの手で管理することを目標としている。宝箱に対しては並みならぬ思い入れを抱いており、宝物は宝箱の中に入っているからこそ価値があるのだと本気で信じている。また、宝箱への愛情が暴走するあまり、他者に対して宝箱に入ってみないかと迫ることもあり、ヨユヤ・レイン・エンダーボルトからは「しっかりしているけどダメな人」という辛辣な評価を下された。黄昏の斜塔に太古の宝箱が配置されていることが明らかになると、魔王さまやヨユヤと共に視察へと赴く。その際、宝箱に対する愛を語り、ヨユヤからは引かれる一方で魔王さまとは意気投合する。最深部に配置されていた古代の宝箱の罠に三人揃って翻弄され、その挙句に箱の中身が空っぽだったことに愕然とする。しかし、魔王さまから宝箱そのものが宝であるという、今まで考えていなかった可能性を指摘され、感涙した。
マグマテッポウウオ
魚の形状をした魔物。慟哭の山に生息している。ふだんはマグマの中に潜んでおり、冒険者などを口から発射したマグマで撃ち落とし、捕食するという性質を持つ。ただし、マグマを撃ち出すまでの挙動が大きくわかりやすいため、そこに注目していればマグマを避けることは比較的容易とされている。魔王さまもその弱点は把握していたが、天然気味な性格が災いしてマグマテッポウウオの発射したマグマの直撃を受けてしまう。
ヴァシャナー
慟哭の山で暮らしている炎龍族の青年。ふだんは一般的な魔族の姿をとっている。炎龍の試練の案内係を自称し、慟哭の山を訪れた魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルトを出迎える。そして、慟哭の山を案内する中で、ダンジョンに対する愛着を見せつつ、炎龍伯がいるといわれる最深部まで案内した。しかしその正体は、先代より座を継承した本物の炎龍伯で、案内係として行動していた際は恭しい態度を示していたが、本来は尊大な性格の持ち主。自らが炎龍族であることに強い誇りを抱いており、魔族に従属させられることを快く思っていない。炎龍の試練に対しても懐疑的で、仮に魔王さまが試練に失敗した際は、逆に炎龍族が魔族を従属することを宣言する。魔王さまのことは、彼が道中で多数のトラップに引っかかっていたことから軽く見ていたが、彼が炎龍族最強といわれるレイアースを簡単に撃破したことから考えを改める。一方で、自分がまだ炎龍族としては比較的若く、炎龍伯の座を継いで間もないことに内心で強いコンプレックスを抱いており、魔族に対する対抗意識もそこから生じたものである。そのため魔王さまの力を認めつつも、負けるわけにはいかないと意気込むが、慟哭の山に対する愛情や炎龍族への誇りを抱いていることから、ヨユヤからは既に立派な炎龍伯であると断言される。さらに魔王さまから、炎龍伯としての自信を得られるのなら、喜んで炎龍族に従属すると言われると、彼の懐の深さに負けを認めて炎龍の試練の合格を宣言する。それからは、炎龍伯として自信を持つようになると共に魔王やヨユヤを気に入り、時おり魔王城に遊びに行くようになる。また、魔王さまたちによる邪神ダンジョンの視察に同行した際は、邪神の復活を許し、ヨユヤが身体を乗っ取られるというアクシデントに見舞われるが、魔王さまやクサビラと力を合わせてダンジョンを攻略し、無事にヨユヤを救出した。
火炎草 (かえんそう)
花の形状をした魔物。慟哭の山の中腹にある「炎龍の寝息」に生息している。体内に含まれているガスを使って火を放ち、その上昇気流に乗せて耐火性の花粉を飛ばす。繁殖期には火炎草が一斉に火を噴いて花粉が舞うことで炎龍の寝息を彩り、幻想的な風景を作り出す。なお、火炎草が吐き出す火の大きさは個体によって異なり、人一人を丸焼きにするレベルの炎を吐く火炎草は滅多にいないとされているが、運悪く魔王さまが近づいた火炎草からとんでもない大きさの炎が吐き出され、大きな手傷を負ってしまう。
マグマヒポポタムス
カバの形状をした魔物。慟哭の山の中腹にある「炎龍の雫」に生息している。おとなしく人懐っこい性格で、背中に乗られてもまったく驚くことがない。さらに動きも遅くのんびりしているため、マグマの河を渡るのに利用される。魔王さまやヨユヤ・レイン・エンダーボルトも、マグマヒポポタムスの背中に乗ってマグマの河を渡ろうとしたが、魔王さまは不運にもちょうど飛び乗ろうとしたところでマグマヒポポタムスが動き出したことで、マグマの中に転落してしまう。
レイアース
炎龍族の男性。慟哭の山で暮らしている。ふだんは老年の男性の姿をとっているが、戦闘時は巨大な龍の姿に変化し、魔王さまからはその様子を「豪壮」と評された。現存している炎龍族の中では最強といわれる実力を誇り、炎龍の試練の対戦相手として、魔王さまの前に立ちはだかる。炎龍族最強というだけあって自分の力に自信を持っており、炎龍の試練では、自らに一太刀でも浴びせれば合格にすると宣言した。しかし、魔王さまの力には到底及ばず、炎龍劫火を片手で受け止められたうえ、それをはるかに上回る威力を持つ魔王魔術・魔炎竜巻を受けたことで、身体の自由を奪われるほどのダメージを受けて敗北を認めた。ヴァシャナーのことは未熟であると理解しつつも、彼自身もそのことを理解していること、そして自身の非力さにコンプレックスを抱きつつも、それに屈することなく抗い続けていることを認めており、彼のために全力を尽くすことを誓う。
角ネズミ (つのねずみ)
角の生えたネズミ型の魔物。魔王城の中庭で暮らしている。小柄な体型で動きもすばしっこい。扉を開けたり、魔王城に張り巡らされてるセンサーを回避するため、大図書室の第一区画の司書の力を使ってわざと吹き飛ばされるなど、高い知能を持つ。ある日、魔王さまの寝室へと忍び込み、彼がいつも身につけているオリハルコン製のヘルメットを一生懸命に運ぶ様子から、魔王さまにその勤勉さを称えられる。しかし、彼が眠ったところを見計らってヘルメットを持ち去ったことで、騒ぎになってしまう。角ネズミには魔王さまたちを困らせようとする意図はまったくなく、ヘルメットを持ち去ったのは、身重の妻が安心して出産できる環境を整えるためだった。のちに魔王さまがそのことを知ると「新しく生まれてくる命以上に大切なものはない」として、ヘルメットを預けられた。そして、妻が無事に出産を終えると、感謝のしるしとして庭で取れた木の実を添えつつ、魔王さまにヘルメットを返却した。
ザドス
ドワーフ族と巨人族のハーフの男性。ザドスの鍛冶屋の主を務めている。見た目は魔王さまやヨユヤ・レイン・エンダーボルトと変わらないが、彼らより二回り程度大きく、初めて出会ったヨユヤを驚かせた。筋肉を誇示することを趣味としており、魔王さまとはお互いに筋肉を見せ合うという特殊な挨拶を行う。魔王さまの天然気味な性格を熟知しており、ヨユヤに対して、魔王の世話をこなしていることを高く評価する。ただし、魔王さまの人柄自体は好ましく思っており、彼のことを鞴(ふいご)のような人だと評する。魔王さまたちから、オリハルコン製のヘルメットを持ち去った角ネズミの居場所を尋ねられるが、見ていないために役に立てなかった。また、ヴァシャナーの鱗に高い価値があることを知っており、彼の変身した姿を見るや否や目の色を変えて、鱗をはぎ取って買い取ろうとするが、すんでのところで阻止された。本業は鍛冶屋だが、魔力も高く、魔王城が崩壊の危機を迎えた時にはヨユヤの招集に応じ、闇の覇道の魔力結晶を再起動させるため、魔物たちと共に魔力を送り込む。
第一区画の司書 (だいいちくかくのししょ)
大量の目が付いた巨大な魔物。大図書室の第一区画の主を務めている。あちこちから大量の本を取り寄せ、魔王城に住む魔族や魔物たちに対して開放している。誰であろうと騒ぐことを許さず、大きな声を出した相手を容赦なく捕らえて、天窓から中庭へ向けて放り投げる。オリハルコン製のヘルメットを持ち去った角ネズミを追う魔王さまたちが大図書室に立ち寄った際、ヴァシャナーがつい大声を出したところ、彼の足をつかんで中庭へと追放する。さらに連帯責任として、魔王さまやヨユヤ・レイン・エンダーボルトにも同じ処置を行い、彼らの情報収集を失敗させた。角ネズミは第一区画の司書の持つ習性を逆に利用し、彼にあえて投げられることで魔王城に張り巡らされていたセンサーを回避するという芸当をやってのけた。
ツインヘビルズ
人型の形状を持つ爬虫類型の魔物。仁愛の門戸に生息している。頭部は2匹の蛇が絡み合ったような形をしており、両方の蛇を同時に攻撃しなければダメージを与えられないという特性を持つ。マイマライダーと共同で道をふさいでおり、魔王さまは、これらの魔物に対して、仁愛の門戸を訪れた二人の絆を図るために配置したものと推測する。
マイマライダー
仁愛の門戸に生息している魔物。ツインヘビルズと共に道をふさいでいる。カタツムリ型の騎士の上に小型の魔法使いが乗っており、下部には物理攻撃が通用せず、上部は魔法攻撃のいっさいを無効化する。このため、剣術と魔法の両方を使いこなせる者か、それぞれの要素を得意とする二人組でなければ対処はできない。
シャドルマーネ
イタズラ好きの魔物。仁愛の門戸に生息している。本体はつねに影の中に隠れている。検見の門・弱が着用を義務付けた魔法の服から侵入者の情報を読み取り、彼らが理想とする相手の姿を模した幻影を生み出す能力を持ち、それを活かして色仕掛けやトラップへの誘導を行っては冒険者を惑わす。魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルトが視察に訪れた際は、二人が着用した魔法の服から、お互いの好みとなる異性のタイプを算出するが、魔王さまの好みがあまりにも漠然とし過ぎていたため、ヨユヤ好みの男性ばかりに化ける羽目に陥った。
ロロブカ
魔王さまに仕える四天王の一人。大地の力を司り、「不壊のロロブカ」の異名を持つ。巨大な雄牛のような形状をしており、その体軀に見合った強大な力を発揮する。また、土で構成されている魔物であることから、鉱石などを主食としている。心優しい性格で仲間たちからも親しまれているが、動きや思考などがどんくさく、そのことにコンプレックスを抱いている。ある時、中庭でヴァシャナーの鱗を踏んでしまい、それが足に刺さったことで生じた痛みにうめいていたが、通りがかったヨユヤ・レイン・エンダーボルトに鱗を抜かれて助けられる。このことに恩義を感じて、ヨユヤに対して恩返しを願い出ると、彼女から友達になって欲しいとせがまれ、これを快諾する。魔王さまとヨユヤが玲瓏峡谷に視察に赴いた際にはこれに同行し、主にヨユヤの乗り物として行動したほか、峡谷の中に多数配置されていた結晶を食べたり、仕掛けられた罠による崩落から二人を救助するなど、縦横無尽の活躍を見せた。また、魔王城が崩落の危機を迎えた際には、一人で闇の覇道の魔力結晶を再起動させようとする魔王さまに助力するべく、ヨユヤと共に駆けつける。
邪神 (じゃしん)
邪神ダンジョンの奥深くに眠る壺の中に封印されていた女性。他者の感情を自らの力に変換する能力を持つ。全身が壺に覆われているため姿は見えないが、移動することは可能で、吸盤が備わった触手や口からスミを吐くなど、イカに似た生態を持つ。気まぐれな性格で、はるか昔に魔族と人間が戦争をした時は、負けている方に加勢する方が面白いというだけの理由で人間側の味方をした。それが災いしてかつて先代の魔王に封印されており、魔王さまと出会った際は、彼のことを快く思っていない素振りを見せる。しかし、スミを吐きかけることで水に流し、魔王さまにしかできない、邪神ダンジョンの魔力結晶の再起動を依頼する。しかし、依頼通りに魔王さまが魔力結晶に魔力を補充すると、突然壺の中から姿を現し、魔力結晶を再起動させることで封印が解け、完全な復活を果たすことを明かす。さらにヨユヤ・レイン・エンダーボルトの身体を乗っ取ると、強制逸走の魔法で魔王さまやヴァシャナー、クサビラを入り口へと追放し、ヨユヤを助けたければ、完全稼働した邪神ダンジョンを再度攻略するよう迫る。しかし実際は悪意を持っておらず、完全な復活を果たしたというのも実は方便で、彼らに邪神ダンジョンの攻略を求めたのは、間もなく魂が消え去ってしまうため、最期に純粋に自身の造り上げたダンジョンを楽しんでほしいという思いによるものだった。そして、魔王さまたちが本心から楽しんでいたことを確認すると、満足気な表情で彼らに別れを告げる。しかし、憑依されているあいだに邪神の内心を知ったヨユヤが、消えないでほしいと願ったことで、すんでのところで消滅を免れた。その後は、命の恩人となったヨユヤの守護霊として彼女と共に行動するようになり、魔王さまの許しを得て魔王城で暮らし始める。
ガーゴイル
邪神ダンジョンの門番を務める石造りの魔物。ダンジョンの門の前に2体が配置されている。魔王さまの数倍以上の体軀を誇り、片方は巨大な斧を、もう片方はトゲ付きのメイスを振るって侵入者を排除しようと執拗に攻撃を仕掛ける。魔王さまが、邪神ダンジョンの魔力結晶を再起動した際に復活し、邪神に身体を乗っ取られたヨユヤ・レイン・エンダーボルトを助け出すために訪れた魔王さまたちを迎撃しようとする。ヴァシャナーの炎龍烈爪撃を受けて粉々に砕け散るが、その破片が自動的に集まって、瞬く間に再生してしまう。これを見た魔王さまからガーゴイルを破壊することは難しいと判断されると、クサビラが魔王茸流・粘糸拿捕で動きを封じているあいだに、彼から魔王魔術・魔厭による高重力攻撃を受けて行動不能に陥った。
サギリオオガラス
霞の飛泉に生息している巨大な烏型の魔物。大樹の上に巣を構える。光り物に目がなく、冒険者などから金品を奪い取っては、巣の中にしまい込むという習性を持つ。霞の飛泉の視察に訪れた魔王さまと邪神を襲撃し、邪神が住処として愛用している壺と、魔王さまがつねに身につけている魔法玉を強奪してしまう。魔王さまたちはこれを取り戻すため、巨大な鳥に変身したネーベルと魔王さまとで注意を惹き、そのあいだにヨユヤ・レイン・エンダーボルトと邪神が巣の中に侵入してアイテムを取り戻すという作戦を立てる。そして、その作戦にみごとに引っかかり、奪った宝物を奪還される。その際、邪神が誤って巣から転落すると、それを助けようと旋回したネーベルに攻撃を仕掛けようとするが、魔王さまが投げつけた大量のギール硬貨によって目を回し、その場で崩れ落ちた。
ツェッピンボンザ
雄のスライム。魔王城でポーションの研究および開発を行っている。かつては小さなスライムだったが、筋トレとポーションの試飲を繰り返したことにより、ヨユヤ・レイン・エンダーボルトの数倍以上の大きさにまで成長した。魔王さまたちが色調稜線に視察に訪れることが決まると、霞の飛泉で失ったギール硬貨を補填するため、新種のポーションの素材となる極上薬草を入手するために彼らと同行する。そして、卓越した身体能力を活かして彼らを載せて運び、極上薬草があるという山頂へとたどり着く。しかし、道中で筋力を使い過ぎたために足が動けなくなり、極上薬草を入手する役目までは果たせなかった。ヨユヤの活躍によって極上薬草が手に入ると、魔王さまと共に加工を行い、強力なポーションを完成させた。
クリフヒヅメ
ヤギの形状を持つ魔物。色調稜線に生息している。外側が硬く、内側が柔らかい蹄を持っており、小さな突起をつかむことを得意としている。そのため、急斜面を難なくのぼり下りすることが可能で、ほかの魔物たちでは進入できない場所にある植物を主なエサとしている。また食事とは別に、大地からにじみ出ているマナを舐めることで、強靭な体力と豊富な魔力を得ている。高い魔力を持つ存在に惹かれる性質を持ち、魔王さまや邪神に目をつけると、極上薬草までの道をふさいでしまう。しかし、魔力も体力もほとんど持ち合わせていないヨユヤに対しては親切に振る舞い、彼女が極上薬草を採取する手伝いをした。
オハナアンコウ
アンコウのような姿を持つ魔物。色調稜線に生息している。ふだんは地面の中に潜んでおり、きれいな花がついた鼻だけを地上に露出させる。そして、その花におびき寄せられた冒険者を、地中から襲撃するという狩猟を得意とする。ただし、地面に現れる際に土を掘り起こす必要があるため、オハナアンコウの生態を知っている者が狩られることはほとんどない。魔王さまもオハナアンコウについて熟知しているため、罠に引っかかりそうになったヨユヤ・レイン・エンダーボルトを制止できた。しかし、その直後にオリハルコン製のヘルメットを花の近くに落としてしまい、うっかり近寄ったところ、結局オハナアンコウに襲われてしまう。
グンセイオオアリ
巨大なアリの形状を持つ魔物。世界樹ユグドラシルに生息している。世界樹から、葉でできた居住区や蜜などを提供してもらう代わりに、部外者を攻撃する役割を担っている。そのため、冒険者を見つけた場合は即座に攻撃を開始するが、魔族は基本的に部外者ではないので、むしろ友好的に接するといわれている。魔王さまからグンセイオオアリの生態を知らされたヨユヤ・レイン・エンダーボルトは、安心して近づくが、彼女があまりに非力であるためエサと勘違いされてしまい、あやうく巣まで運ばれかけてしまう。
スカルドラゴン
闇の覇道に生息している魔物。名前のとおり骨のみで構成されたドラゴンで、身体をばらけさせて亡骸に擬態し、近寄ってきた獲物を襲うという習性を持つ。魔王城の崩壊を食い止めるため、闇の覇道へと赴いた魔王さまやヨユヤ・レイン・エンダーボルトたちの前に立ちはだかり、無差別に襲い掛かる。しかし、魔王さまの荷物に紛れて隠れていたクサビラが攻撃を食い止め、彼と邪神の助力を受けて高く跳びあがった魔王さまから、至近距離で魔王魔術・魔凍波動を受け、全身を氷漬けにされて戦闘不能となった。
集団・組織
炎龍族 (えんりゅうぞく)
魔族と親交のある種族。ふだんは魔族と変わらない姿をしているが、巨大な龍に変身する能力を持つ。慟哭の山に本拠を構えており、炎龍伯と呼ばれる存在によって統治されている。炎龍族は魔王城の主に従属するという契約が結ばれており、魔王城の主が代替わりした際には炎龍の試練を行って契約を更新する必要がある。なお、変身した炎龍族の鱗は非常に硬質で価値があるものと知られており、ザドスが一枚で50万ゴールドもの価値があると断言するほど。
検見の門 (けみのもん)
門の形状をした魔物。仁愛の門戸の中で番兵を務めている。検見の門・弱、検見の門・中、検見の門・強、検見の門・終の4種類が存在し、それぞれが提示する条件を満たさないと先に進めないようになっている。仁愛の門戸のコンセプトに従って、条件はいずれも男女の絆を試すものとなっており、魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルトが視察に訪れた際は、検見の門・弱が同じ柄の服を着用することを、検見の門・中が手をつなぐことを、検見の門・強が二人で一つのグラスからジュースを飲むことを、検見の門・終が複数の質問に答えることを、それぞれ条件づけた。なお、検見の門・弱が着用させた服には、情報を読み取る魔法がかかっており、検見の門・中以降が課した条件に影響を与えた。
場所
魔王城 (まおうじょう)
魔王さまをはじめ、多くの魔族たちが暮らしている城。北方魔城、西方魔城、南方魔城、そして中央大魔城の四つのブロックに分けられている。敷地は円形の城壁に囲まれているうえに、魔界の根と呼ばれる監視用の植物が張り巡らされており、異常があったらすぐに感知できるようになっている。その正体は、初代の魔王が作り出した最古にして最大のダンジョン。下層区画である闇の覇道に配置されている巨大な魔力結晶によって維持されており、魔力が切れた場合は魔王城自体が崩壊してしまう。
ザドスの鍛冶屋 (ざどすのかじや)
魔王城の中で開かれている武器商店。中央大魔城の南西部に位置する。ザドス自らが鍛え上げたさまざまな武器が販売されているほか、貴重な素材の買い取りなども行っている。身につけていたオリハルコン製のヘルメットが紛失した魔王さまと、彼についてきたヨユヤ・レイン・エンダーボルト、ヴァシャナーが訪れた際は、ザドスの鍛冶屋でも同様の被害がないか懸念されたが、そのような事実はなかった。
大食堂 (だいしょくどう)
魔王城の中で開かれている食堂。中央大魔城の中央部に位置する。大勢のコックが勤務しており、食事のみならず料理のテイクアウトも可能で、つねに多くの魔物や魔族たちで賑わっている。魔王さまがいつも身につけているオリハルコン製のヘルメットを紛失した際に、持ち去ったと思われる角ネズミの情報を求めて訪れるが、彼が来るや否や大勢の魔物たちから料理のおすそ分けを受け、これを見ていたヨユヤ・レイン・エンダーボルトは、魔王さまが仲間たちから高い人気を誇っていることを強く実感した。
大図書室 (だいとしょしつ)
魔王城の中で開かれている図書室。中央大魔城の東部に位置する。古今東西のあらゆる書物が収蔵されており、中央の机で読むことができる。第一区画から第五区画まで存在し、それぞれ別の司書が管理している。静謐さを何より重要視しており、仮に大きな声を発してしまった場合、第一区画の司書によって捕らえられ、天窓から追放されてしまう。さらに、区画が進むほど禁止事項が増えていき、その厳しさから魔王さまですら第三区画より奥へ立ち寄ったことはない。
冒険超初心者用ダンジョン (ぼうけんちょうしょしんしゃようだんじょん)
魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルトが最初に視察に訪れたダンジョン。内観石造りの迷宮のような内観をしており、魔造ダンジョンに分類される。床の加重によって起動する落とし穴や吹き矢、迫り来る天井など、基本的といえるトラップが多数配置されているなど、名前通りの初心者用ダンジョンとして仕上がっている。そのため、注意を払っていれば冒険超初心者用ダンジョンのトラップに引っかかることはまずないが、魔王さまはマイペースな性格からあらゆるトラップに引っかかり、ヨユヤに強い不安を植えつけてしまう。なお、魔力結晶は隠しフロアに存在しており、初心者の冒険者などからはまず発見されないが、万が一見つけられた時の対策として、門番のゴーレムが配置されている。
静謐の樹林 (せいひつのじゅりん)
魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルトが視察に訪れたダンジョン。多くの樹木が茂る森林で、天然ダンジョンに分類される。冒険者を迷わすために似たような景色ばかりが続くという特徴を持つ。また、食虫植物や天然の落とし穴などのトラップが仕掛けられているほか、正しい道の前には、進入を拒むように巨大なイバラが張り巡らされている。そのうえ、中では多数のヘルモスキートが生息しており、油断していると血と魔力を吸収されてしまう。最奥部には樹木の魔物であるヅキが鎮座しており、彼の根っこの下に魔力結晶が埋め込まれている。
総やかなる大穴 (ふさやかなるおおあな)
魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルトが視察に訪れたダンジョン。湿度が高い洞窟で、天然ダンジョンに分類されている。中にはヒカリダケやシグルイダケ、カンフラダケ、シモフリマッシュルームなど、多種多様のキノコが生えていることから「キノコダンジョン」の異名を持つ。生息している魔物たちはキノコと共生関係にあり、魔物はキノコを食用や特殊な攻撃、擬態などに使っており、キノコは魔物から養分を摂取したり、心地よい住処として活用したり、胞子を拡散させるための移動手段として用いる。そのため、ダンジョンの中だけで一つの生態系が完成し、延々と巡り続けている。ただし、キノコの大半は魔力結晶の放つ魔力を糧にしているため、仮に魔力結晶の魔力が切れた場合は大半のキノコが死滅し、総やかなる大穴そのものの滅亡につながってしまう。
黄昏の斜塔 (たそがれのしゃとう)
魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルト、シャトンが視察に訪れたダンジョン。高くそびえたっている斜塔のような外観をしており、魔造ダンジョンに分類される。古くから存在している関係上、古代の財宝が眠っているともいわれている。深部には古代の宝箱があり、宝箱の管理に心血を注いでいるシャトンは強く興味を引かれている。魔王さまやヨユヤも、古代の宝箱の中身に興味を示すが、宝箱には、触れるとランダムな場所に転移されてしまうトラップが仕掛けられており、これに引っかかった魔王さまは、こともあろうに石の中へと埋まってしまう。さらに、中身が空っぽであったことが発覚するが、魔王さまはこの宝箱自体が黄昏の斜塔で最も価値のある宝であると結論付け、シャトンを感心させた。
慟哭の山 (どうこくのやま)
魔王さまが炎龍の試練を受けるべくヨユヤ・レイン・エンダーボルトを伴って訪れたダンジョン。炎龍族が暮らしており、炎龍伯が魔力結晶を管理しているため、魔王管轄外ダンジョンに分類される。至るところにマグマが流れている火山で、その影響で温度と湿度が非常に高く、肌を露出していた場合はヤケドを負う危険性もある。また、マグマテッポウウオなど、マグマを使って攻撃を仕掛けてくる魔物もいるため、つねに気を抜けない。ただし、中腹にある「炎龍の寝息」では、火炎草が生い茂っており、繁殖期には幻想的な風景を演出するため、人気が高い。炎龍伯であるヴァシャナーは、このダンジョンに強い愛着を抱いており、自分の手で維持および管理できることを誇りに思っている。
仁愛の門戸 (じんあいのかど)
魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルトが視察に訪れたダンジョン。デートに適したテーマパークのような趣の建物で、魔造ダンジョンに分類される。男女二人一組でしか攻略できないという特徴があり、「恋人専用ダンジョン」の異名を持つが、必ずしも二人の関係が恋人である必要はないため、魔王さまとヨユヤでも進入自体は可能。ダンジョンの中には、ツインヘビルズやマイマライダーなど、二人がうまく連携して戦わなければ苦戦を強いられる魔物が多数生息する。また、検見の門やシャドルマーネなど、二人の仲を引き裂く結果を生みかねない、悪趣味とすらいえるような要素も多く存在する。しかし、最後まで到達した際には、二人の前途を祝福するようなシステムが作動するなど、悪いことばかりというわけでもなく、視察を終えたヨユヤは、先代の魔王が恋人同士の絆を再認識させるためにこのダンジョンを作ったと推測する。なお、魔王さまとヨユヤの関係は、恋愛という意味においてはいっさい進展しなかった。
漂動鉱山 (ひょうどうこうざん)
魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルト、クサビラが視察に訪れたダンジョン。かつて浮遊石を採掘するために利用されていた鉱山で、天然ダンジョンに分類される。既に廃鉱となっているが、現在も質のいい浮遊石が多数存在している。その一方で、浮遊石に擬態して冒険者を狙う魔物なども多数生息しており、油断していると四方八方から襲撃を受ける羽目になる。また、奥の方には足場と足場のあいだにかかっている吊り橋の中に蔦非吊橋が混ざり、冒険者を惑わす「草吊り橋」と呼ばれる難所がある。魔王さまがトラップに幾度も引っかかるため、ヨユヤとクサビラの連携が求められたが、互いの思いのすれ違いから意思疎通がうまくいかず、苦戦を強いられた。
玲瓏峡谷 (れいろうきょうこく)
魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルト、ロロブカが視察に訪れたダンジョン。天然ダンジョンに分類される。大地の中で育まれた珍しい鉱石や、大地に宿る生命力やマナが凝縮された結晶石が多く、漂動鉱山と異なり、今でも多くの冒険者がそれらを採掘するために訪れている。道中には共鳴結晶と呼ばれる結晶石が多く配置されており、決まった手順で行動しなければ奥まで進むことができない。また、魔力結晶に通じる道には鋭い結晶が張り巡らされている「結晶湖畔」が行く手を阻んでいるなど、ダンジョンとしての攻略難易度はかなり高い。しかし、大地の力を司るロロブカの活躍によって仕掛けの解除に成功し、無事に魔力結晶へとたどり着けた。
邪神ダンジョン (じゃしんだんじょん)
魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルト、ヴァシャナー、クサビラが視察に訪れたダンジョン。古い宮殿のような内観が特徴。当初はダンジョンであるかどうか定かではなく、それを確かめるという意味も兼ねて探索が進められた。ダンジョンの中では邪神教のものと思われるシンボルが多数見受けられ、ダンジョンではなく、邪神教が本拠としていた神殿と予測されていた。しかし、奥には本物の邪神が封印されており、のちに彼女が自ら造り上げた魔王管轄外ダンジョンであったことが判明する。ただし、邪神の力が封印されているため、彼女の力では魔力結晶への魔力の補充ができず、その状態で長らく放置されていたため、現在はダンジョンとしての機能がほぼ失われている。だが、邪神から依頼を受けた魔王さまが魔力結晶を再起動させたことで、復活を果たした。復活後は敷地ごと空中に浮かび上がり、強力なガーゴイルが門番を務めるほか、死角から爆薬が備え付けられた矢が飛んできたり、雷撃を纏ったスパイクが飛び出し、天井から氷柱が降り注ぎ、挙句の果てには魔力を固めた巨大な拳が襲い掛かるなど、桁外れの高難度ダンジョンへと変貌した。
霞の飛泉 (かすみのひせん)
魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルト、邪神、ネーベルが視察に訪れた荒野のダンジョン。天然ダンジョンに分類される。つねに霧に覆われているうえ、発霧石や霧を発生させる魔物などの存在により、最悪の場合は目の前すら見えないほどの濃霧に包まれることとなる。また、左右から丸太が飛んできたり、身体を吹き飛ばすほどの突風が吹き荒れるなどトラップも健在で、視界が悪いなかでこれらに対応する必要がある。さらに、深部にはサギリオオガラスの巣が存在し、彼に襲われた冒険者は金目の物を奪われてしまう。一方で、霧で構成されてるネーベルは、防護用のマントを着用せずに済むほか、力の源である霧が立ち込めている影響で、全力を発揮することが可能で、サギリオオガラスと同等の大きさを誇る鳥に変身し、彼と互角の戦いを繰り広げた。
色調稜線 (しきちょうりょうせん)
魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルト、邪神、ツェッピンボンザが視察に訪れたダンジョン。険しい崖が目立つ山脈で、天然ダンジョンに分類される。クリフヒヅメやオハナアンコウなど、気性の荒い魔物たちが多く生息する。また、標高の高い地点でつねに強風が吹き荒れており、土壌にもマナや栄養素などが乏しいなど、植物が生育しづらい環境となっている。それだけに、この地に生えている薬用植物は、強靭な生命力と高い効能を備えており、中でも山頂に生えている極上薬草の効果は極めて高く、ポーションの材料として最適といわれる。魔王さまたちは、魔力結晶への魔力補充以外に、霞の飛泉で失ったギール硬貨の補填のために開発した新種のポーションを完成させるため、極上薬草の採取を行うべく山頂へと向かった。
世界樹ユグドラシル (せかいじゅゆぐどらしる)
魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルトが視察に訪れたダンジョン。世界に4本しか存在しない巨大な樹木がダンジョン化したもので、魔力結晶が存在しないため魔王管轄外ダンジョンに分類される。ダンジョンを構成している世界樹は夏の季節を司るといわれており、生い茂った青葉に紛れるように、数多くの魔物が住み着いている。また、頂上付近には世界樹の葉が茂っており、冒険者たちからも人気のスポットになっているが、生息している魔物も相応に強力で、熟練者以外では近づくことすらままならない。
闇の覇道 (やみのはどう)
魔王城の地下に広がっている区画。「対勇者用決戦ダンジョン」の異名を持ち、上層区画である魔王城と合わせて、魔造ダンジョンに分類される。魔族の拠点を守る役割を担っている影響から、ギロチン型の振り子や炎を吐く彫像などの凶悪なトラップが張り巡らされ、スカルドラゴンなどの強力な魔物が多数生息している。かつては「勇者」と呼ばれる強力な人間が魔王城に攻めてくる可能性が懸念され、上層区画となる魔王城もトラップに満ちあふれていた。しかし、長らく人間と魔族や魔物の関係が比較的平和だったため一向に勇者が現れず、トラップの必要性が薄れていき、数度の増築改修の末に地下に埋もれてしまう。そして、下層区画のみがダンジョンとなったことで「闇の覇道」と改名され、現在に至る。最奥部に配置された超巨大な魔力結晶が、魔王城と闇の覇道を含めた一帯の構造を維持しており、この結晶の魔力が切れた場合、魔王城は崩壊してしまう。始祖の魔王がこのダンジョンを作り出して以来、魔力切れの危機を迎えたことは一度たりともなかったが、不幸にも魔王さまの代でこの問題が発生し、対策に追われることとなる。魔王さまの魔力は始祖の魔王には遠く及ばないため、自分の命と引き換えに全魔力を放出し、不足分を補おうとする。しかし、魔王さまを失いたくない一心で駆けつけたヨユヤ・レイン・エンダーボルトと、彼女に追随するように現れた多くの魔物たちの全員がありったけの魔力を放出して魔力結晶を安定させ、魔王城崩壊の危機は回避された。
その他キーワード
魔力結晶 (まりょくけっしょう)
膨大な魔力が凝縮された結晶石。「魔石」とも呼ばれている。多くのダンジョンは魔力結晶によって維持されており、仮に魔力結晶に込められた魔力が尽きた場合はトラップが停止し、生息している魔物にも多大な悪影響を与え、最悪の場合はダンジョンそのものが崩壊および死滅するといわれている。ダンジョン各地の魔力結晶は、基本的に当代の魔王が管理することが義務付けられているが、慟哭の山などのようにほかの存在が魔力の補充を行うダンジョンや、世界樹ユグドラシルなどのように魔力結晶なしで稼働するダンジョンも存在し、魔王管轄外ダンジョンと呼称されている。なお、始祖のダンジョンである闇の覇道には、超巨大な魔力結晶が配置されており、上層区画である魔王城を含めた一帯の命綱として機能している。
ヒカリダケ
キノコの一種。総やかなる大穴に自生している。魔力に反応して発光する性質を持ち、総やかなる大穴におけるたいまつや発光石などの代わりを務めている。光の明るさには、魔力結晶から流れる魔力が関係しており、魔力が尽きかけている状態のヒカリダケからは、ヨユヤ・レイン・エンダーボルトが頼りないと感じるほど、微かな光しか放てなかった。しかし、魔王さまが魔力結晶を再起動させたことで、日光にも負けず劣らずのまばゆい光を放つようになる。
シグルイダケ
キノコの一種。総やかなる大穴に自生している。ヨユヤ・レイン・エンダーボルトが一目で気に入るほど、かわいらしい見た目をしている。その一方で、「死ななければ毒ではない」と言い切る魔王さまですら、毒キノコと迷わず認定するほどの猛毒を含んでいる。
カンラブダケ
キノコの一種。総やかなる大穴に自生している。主に洞窟の天井に生えており、リンゴの芯のような見た目をしている。あやまって口にした場合は身体がしびれて動けなくなるため、しびれ薬の素材として使われることが多い。なお、魔王さまからは、食べても死なないので毒キノコには分類されないと評される。
ヒツジキノコ
キノコの一種。総やかなる大穴に自生している。傘の部分が羊の毛のような物質で覆われている。あやまって口にした場合は即座に昏睡状態に陥るほどの強い催眠効果を持ち、その特性から睡眠薬の素材として用いられる。また、調合の仕方によっては、逆に目を覚ますための薬としても利用が可能。カンラブダケと同様に、魔王さまからは食べても死なないという理由で毒キノコに分類されていない。クサビラが胞子から生成させることも可能で、漂動鉱山の視察では、浮遊石に擬態していた魔物たちに投げつけて、眠らせることにより動きを封じる。
ココピョンタケ
キノコの一種。総やかなる大穴に自生している。傘がなく、先がぜんまいの茎のように曲がっているのが特徴。幻覚作用を持ち、幻惑剤や魅了剤として使われることが多い。しかし、魔王さまからは、カンラブダケやヒツジキノコなどと同様に、食べても死なないという理由だけで毒キノコとして認められていない。
シモフリマッシュルーム
キノコの一種。総やかなる大穴に自生している。非常にグロテスクな見た目をしており、ヨユヤ・レイン・エンダーボルトからは、一目見るなり毒キノコと推測される。しかし、実際は生でも食べられる高級食材で、初めは怖がっていたヨユヤも、魔王さまに勧められたことで恐る恐る口にしたところ、たちまちその味の虜となった。クサビラが胞子から生成させることも可能で、漂動鉱山の視察では、ヨユヤの手によって魔物たちに向けて投げられ、彼らの気を散らせることに成功する。
古代の宝箱 (こだいのたからばこ)
黄昏の斜塔の深部に配置されている巨大な宝箱。転移魔法がかけられており、うっかり触れると、強制的に別の場所に瞬間移動させられてしまう。シャトンは、これだけの罠が仕掛けられているからには、中には貴重なアイテムが眠っているだろうと推測し、古代の宝箱を求めて魔王さまやヨユヤ・レイン・エンダーボルトの視察に同行する。そして、実際に古代の宝箱を目の当たりにするが、中には何も入っていなかった。シャトンはこの事実に呆然とするが、魔王さまは、古代の宝箱自体が、黄昏の斜塔で最も価値のある宝であると結論付けた。
オリハルコン製のヘルメット (おりはるこんせいのへるめっと)
魔王さまがダンジョンの視察に赴くさいに身につけているヘルメット。毎回罠に引っかかる魔王さまを心配するネーベルからプレゼントされた。伝説の金属といわれているオリハルコンで作られており、どのような衝撃を受けても傷一つつかないといわれる。ある時、魔王さまの寝室に侵入してきた角ネズミによって持ち去られ、騒ぎとなってしまう。ヨユヤ・レイン・エンダーボルトやヴァシャナーと協力して行方を追ったところ、中庭にある巣に持ち帰られ、妻のネズミが安全に出産するためのバリケードとして利用していたことが発覚する。魔王さまは、家族を思う一心で行動を起こした角ネズミの心情を慮り、彼らにオリハルコン製のヘルメットを譲る決意を固める。そして、妻の出産が終わったのちに、角ネズミ自らの手によって魔王さまに返却された。
魔法の服 (まほうのふく)
仁愛の門戸で、魔王さまとヨユヤ・レイン・エンダーボルトが、検見の門・弱に着せられたペアルックのセーター。胸元にハートマークの柄が描かれている。身にまとった者の情報を読み取り、ほかの検見の門や魔物たちへ発信する魔法がかけられており、シャドルマーネや検見の門・終などがヨユヤを翻弄するきっかけを作った。
浮遊石 (ふゆうせき)
漂動鉱山で採掘できる鉱石の一種。地面を巡っているマナを吸収して斥力を発するという特徴を持ち、つねに浮遊していることから「浮遊石」と呼ばれている。強度も高く、多くの荷物を載せられるため、主に行商人やキャラバンなどが運搬用に使用することが多い。また、ダンジョンなどの足場として用いられることもある。
魔王玉 (まおうぎょく)
魔王城の主が代々受け継いでいる秘宝。三つの宝玉で構成されており、それぞれ「威光」「叡智」「妙味」を司る。魔王城の主に就任するには、魔王玉に選ばれる必要があり、就任後は魔王玉を大切に保管する必要がある。魔王城の宝物庫などに保管するのが一般的だが、魔王さまはいつ物を紛失するかわからないため、ネーベルからつねに肌身離さず持ち歩くよう厳命されている。魔王さまが霞の飛泉を視察した際には、光り物を好むサギリオオガラスに目をつけられ、突風で煽られて奪われてしまう。しかし、巨大な鳥に変身したネーベルが陽動しているスキを突いて、ヨユヤ・レイン・エンダーボルトが巣の中に侵入し、奪還に成功する。
ギール硬貨 (ぎーるこうか)
主に人間が通貨として使用している硬貨。魔王城で発行されており、冒険者と戦うことに同意した魔物に渡される。強力な魔物ほど多くのギール硬貨を持つことを許され、冒険者は強力な魔物を倒すことで大量のギール硬貨を得られるという仕組みになっている。また、魔物にとっては強さを測るバロメーターの一種となっており、より多くのギール硬貨を持つ魔物が、一目置かれる結果となる。魔王さまは実に一億ものギール硬貨を所有しているが、冒険者と戦ったことがないため、半ば宝の持ち腐れとなっている。そのうえ、霞の飛泉では、魔王さまがサギリオオガラスの目を欺くためにばら撒いたことで、魔王城の予算が傾くほどの経済的打撃を負った。なお、魔王城ではギール硬貨ではなく、「ゴールド」と呼ばれる通貨が使用されている。
ポーション
ツェッピンボンザが開発および販売している回復薬。薬草などの成分を凝縮した液体で、疲労や傷を癒す効果を持つ。塗り薬としても飲み薬としても使用できる優れもので、ツェッピンボンザはかつて小さなスライムだった頃に、ポーションを毎日愛飲しつつ筋トレを続けた結果、魔王さまの数倍以上の大きさにまで成長した。そのうえで、現在は新種のポーションを開発しており、その素材として、色調稜線に自生する極上薬草に目をつけている。
エナス草 (えなすそう)
薬草の一種。色調稜線に自生している。服用することで、毒や麻痺、睡眠など、どのような状態異常もたちどころに治す効果を持っている。ただし、即時性の激しい嘔吐や発汗、下痢などの症状が生じてしまい、状態異常の治癒も、体内に蓄積された毒素を無理やり排出した結果に過ぎない。そのため体内が綺麗になるものの、服用前よりやつれてしまうという副作用を持つ。
極上薬草 (ごくじょうやくそう)
薬草の一種。色調稜線に自生している。人間の世界では非常に高価で、極上薬草の葉1枚で城を建てられるほどの価値があるとされる。効能も優れており、服用するだけで全回復魔法に匹敵するほどの治癒力を得られる。ただし、色調稜線の中でも限られた場所にしか生えておらず、その治癒力を狙う魔物があとを絶たないため、採取は困難を極める。魔王さまとツェッピンボンザは、新種のポーションの素材として極上薬草を取り入れようと考え、魔力結晶への補充と並行して、極上薬草の採取を目指す。そして、群生地を発見するが、大量のクリフヒヅメが徘徊しており、魔王さまは魔力を欲するクリフヒヅメに殺到され、ツェッピンボンザも疲労のため動けなくなってしまう。これにより、極上薬草を得る機会は潰えたかに見えたが、同行していたヨユヤ・レイン・エンダーボルトが、非力ゆえにまったく敵意を向けられなかったため、彼女があっさりと採取することに成功する。
探知魔導具 (たんちまどうぐ)
ヨユヤ・レイン・エンダーボルトが邪神から与えられた二つのペンダント。片方は邪神の魔力が込められており、ヨユヤが探知魔導具に魔力を込めると、邪神のいる方向を指し示す。もう片方は、探知相手の登録がなされておらず、ヨユヤが望んだ相手を探知するために渡されたものである。ヨユヤは当初、互いに迷子になりづらいよう、魔王さまを探知相手として登録しようと考える。しかし、邪神から先んじて忠告を受け、安易に魔王さまを登録するのは単に楽をしたいだけなのではないかと思い悩む。そして、世界樹ユグドラシルの視察を経て、今はまだお世話係として未熟なので、探知魔導具に頼らずに役割を遂行しようと決意し、魔王さまの登録を先送りにした。
世界樹の葉 (せかいじゅのは)
世界樹ユグドラシルに茂っている葉。極上薬草をはるかに上回る治癒力を誇り、ふつうの薬草数1000枚分の効果に相当するといわれている。ただし、世界樹の根元から中腹にかけてに茂っている葉はそこまでの効果を持っておらず、一般的に「世界樹の葉」と呼ばれるものは、生命力が凝縮する頂上付近でのみ採取できる。また、世界樹ユグドラシルに生息する魔物たちは世界樹の葉を主食としており、その影響からほかのダンジョンの魔物より強力なことが多い。そのため、やっとの思いで手に入れた世界樹の葉をその帰路で使ってしまい、手元に何も残らなかったという笑い話が、冒険者のあいだで流行っていたこともある。
ダンジョン
魔族や魔物などのテリトリーとして機能している迷宮の総称。トラップが仕掛けられていることが多い。中心に魔力結晶と呼ばれる石が存在し、そこに蓄えられた魔力によって稼働している。その魔力が尽きた場合、トラップが停止し、生息している魔物や植物に重大な悪影響を与え、最悪の場合はダンジョンそのものが崩壊、ないし死滅するといわれている。ダンジョンは、魔物たちが集まることで魔力結晶が自然発生した「天然ダンジョン」と、魔王の一族が魔力結晶を配置して造り上げた「魔造ダンジョン」に分類される。魔力結晶への魔力の補充は、基本的に魔王城の主によってなされている。しかし、魔力結晶なしで稼働していたり、既にダンジョンとしての機能を失っていたり、魔王以外の存在によって魔力結晶の維持がなされている場合はその限りでなく、そういったダンジョンは「魔王管轄外ダンジョン」と呼ばれる。
炎龍伯 (えんりゅうはく)
炎龍族の長を務める存在。部下の炎龍族を統率しているほか、本拠地である慟哭の山の管理や、魔力結晶への魔力補充など、さまざまな役割を果たしている。また、魔王城の主が代替わりした際は、炎龍の試練を課すことでその器を見極め、相応しいと認めた相手と契約を結ぶ習わしがある。現在はヴァシャナーが炎龍伯を務めているが、彼は炎龍伯に就任してから日が浅いため、自分の力に自信を持てずにいた。さらにその反動から、魔王さまが炎龍の試練に赴いた際は、彼の力を中々認めようとしなかった。しかし、彼と真っ向から向き合うことでコンプレックスをある程度解消したうえで和解を果たすと、次第に炎龍伯に相応しい振る舞いを見せるようになった。
マナ
大地や河川などに宿っている生命エネルギーの総称。呼吸や食事などによって体内に取り込まれ、魔力に変換されるという特徴を持つ。また、生命体のみならず、浮遊石などの無機物にも流れ込み、独自の進化を遂げるきっかけとなることもある。マナの豊富な地点などは植物や動物などの成長や進化が誘発されやすく、天然ダンジョンが発生する要因になることも多い。
蔦非吊橋 (つりばしかくれ)
植物の一種。漂動鉱山の深部に自生している。吊橋に擬態して、勘違いして乗ってきた冒険者たちを橋半ばで下に落とす習性を持つ。強い衝撃を与えると解けてしまうが、冒険者を誘い込むためにかなりしっかりした構造で、床の一部分だけをわざと脆くしてあるため、その部分を見極めることで落下を防ぐことができる。
共鳴結晶 (きょうめいけっしょう)
結晶石の一種。玲瓏峡谷で多く見られる。巨大な結晶と小さな結晶が対になっており、小さな結晶に衝撃を与えると、同じ色の巨大な結晶と地中で引き合うという性質を持つ。人為的に配置することも可能で、巨大な共鳴結晶で道をふさいで、小さな共鳴結晶を開閉用のスイッチ代わりにするという使い方もある。また、巨大な共鳴結晶を、岩などを支える楔の代わりにして、小さな共鳴結晶に触れた途端に土砂崩れを引き起こすなど、罠として利用することもできる。
邪神教 (じゃしんきょう)
かつて人間と魔族が争っていた時代に栄えていた教団の一つ。邪神は気まぐれによって、人間にも魔族にも味方することがあるため、やがてその両方から崇拝されるようになり、当時としては珍しい、人間と魔族の合同組織として勢力を伸ばしていた。邪神は他者の感情によって力を増す性質を持つため、彼女が猛威を振るった一因ともなっていた。しかしある時、邪神がかつての魔王城の主に封印されたことで行方不明となり、それが原因となって邪神教も廃れてしまう。現在は魔王さますら存在を知らなかったが、彼らが視察のために邪神ダンジョンに赴いたところ、活動の名残と思われる文献が発見されたことで、実在していたという事実が発覚した。
発霧石 (はつむせき)
魔石の一種。霞の飛泉に存在している。煙突のような形状をしており、穴の部分から無尽蔵に霧を噴出する特性を持つ。霞の飛泉は生息している魔物や植物の影響から、ただでさえ霧が発生しやすく、発霧石との相乗効果で、つねに周りの視界すら満足に確保できないほどの濃霧に覆われている。
着生植物 (ちゃくせいしょくぶつ)
寄生植物の一種。世界樹ユグドラシルに自生している。土の上ではなく、木や岩の上に根を張るという特徴を持つ。ただし、宿主から栄養を得ているわけではなく、漂っている雲から水分を吸収したり、外套葉と呼ばれる部分に溜まる落ち葉を腐葉土として利用したり、魔物の排せつ物を肥料にするなど、自分自身で栄養を賄っている。
魔王柔術・葦払い (まおうじゅうじゅつあしばらい)
魔王さまが使用する技の一つ。流れるような動きで敵の攻撃を回避し、同時に脚部にめがけて蹴りを放つカウンター攻撃。冒険超初心者用ダンジョンでゴーレムに対して使用され、目論見通りに彼を転倒させることに成功した。しかし、その際にゴーレムが魔王さまに向けて倒れこんだためにその下敷きとなり、ゴーレムに与えた以上のダメージを受けてしまう。
魔王魔術・魔風 (まおうまじゅつろあえ)
魔王さまが使用する魔法の一つ。前方に手をかざし、広範囲に向けて超高圧の空気を放出する。静謐の樹林を視察した際に、行く手をふさいだ巨大なイバラに対して使用され、一撃でバラバラに吹き飛ばした。しかし、その際にイバラについていたトゲが四方八方に飛び散り、魔王さまの身体に突き刺さってケガを負わせてしまう。
魔王魔術・魔炎竜巻 (まおうまじゅつばにんぐねーど)
魔王さまが使用する魔法の一つ。拳を握ることで相手の足元に魔法陣を描き、地中から巨大な火炎をまとった竜巻を現出させる。レイアースの使用する炎龍劫火をはるかに上回る規模と威力を誇り、炎龍の試練では、炎龍劫火を手のひらで受け止めた直後にカウンターとして発動し、最強の炎龍族であるレイアースが戦闘不能に陥るほどの大きなダメージを与えた。
魔王剛術・震空蹴り (まおうごうじゅつしんくうげり)
魔王さまがロロブカと協力して放つ連携技。ロロブカがありったけの力を込めて魔王さまを投げつけ、その勢いを利用して強化された蹴りを放つ。玲瓏峡谷の視察の際に、共鳴結晶の罠によって落下してきた岩などを破壊するために用いられ、魔王さまはおろかロロブカすら上回る大きさの結晶石を粉々に砕くことに成功する。
魔王魔術・魔厭 (まおうまじゅつらびでぐ)
魔王さまが使用する魔法の一つ。手のひらに魔法陣を発生させ、それを向けた相手を中心に高重力を発生させる。重力に捕まった存在は移動することができなくなり、地面に張り付かざるを得なくなる。また、効果時間が長いため、強力な敵の動きを封じるために利用されることが多い。邪神ダンジョンでガーゴイルに襲われた時は、粉々に砕いても即座に復活する彼らに対抗すべく、クサビラが魔王茸流・粘糸拿捕で絡めとったスキを突いてこの魔法を発動し、行動不能に追い込んだ。
魔王魔術・魔凍波動 (まおうまじゅつひゃまど)
魔王さまが使用する魔法の一つ。手のひらに魔法陣を発生させ、そこから冷気を放出して相手を氷漬けにする。魔王魔術・魔厭と同様に、純粋にダメージを与えるだけでなく、動きを封じる用途にも利用できる。闇の覇道でスカルドラゴンに襲われた際に用いられ、氷漬けにされたスカルドラゴンはその怪力をもってしても氷を砕くことができず、その場に留め置かれた。
魔王茸流・粘糸拿捕 (くさびらりゅうねんしだほ)
クサビラが使用する技の一つ。身体から発生させた胞子を束ねて造り上げた糸をあやつり、敵の身体を縛り上げる。糸は自在に伸ばせるため、クサビラより大きな魔物などにも通用する。邪神ダンジョンでガーゴイルと戦った時は、その特性を活かしてガーゴイルの自由を奪い、魔王さまが魔王魔術・魔厭を発動するまでのスキを作った。
炎龍烈爪撃 (おれさまのちょうすごいつめ)
ヴァシャナーが使用する技の一つ。腕と肩のみを龍の形に変化させて、爪を構えながら高速で飛行し、勢いをつけて敵を切り裂く。切れ味は非常に鋭く、邪神ダンジョンのガーゴイルを一撃で粉砕するほど。しかし、ガーゴイルは粉々に破壊されても即座に再生する特性を持っているため、決定打を与えるには至らなかった。
炎龍劫火 (じいやすぺしゃる)
レイアースが使用する技の一つ。口から超高温のブレスを吐きかけ、命中した相手を焼き尽くす。大地を焼き消すほどの威力があり、直撃すれば炎龍族ですらただでは済まないといわれる。炎龍の試練の最中に使用され、魔王さまに直撃させる。しかし片手で受け止められ、焼き尽くすどころか、大した傷を負わせることすら叶わなかった。
炎龍の試練 (えんりゅうのしれん)
魔王城の主が代替わりした際に、炎龍伯に対して力を示すことで、炎龍族が従属するにふさわしい器を持つかどうかを見極めるための試練。炎龍族の本拠地である慟哭の山の山頂で執り行われる。当代の炎龍伯であるヴァシャナーは、そもそも炎龍族がほかの種族に従属すること自体に不満を抱いており、炎龍の試練に対しても乗り気ではなかった。そこで、案内人に扮して魔王さまやヨユヤ・レイン・エンダーボルトを出迎え、ダンジョン内での行動を監視していたが、魔王さまがドジを連発したことで、ますます彼を軽く見るようになる。そして、試練の内容が、側近のレイアースに一太刀でも浴びせたら合格というものに決まる。しかし、魔王さまは一太刀どころか、レイアースを圧倒し、戦闘不能にまで追い込む。さらに、ヴァシャナーが自信をつけることを望む発言を聞かされ、その器量に感服し、炎龍の試練の合格を認めた。なお、炎龍の試練には、魔王城の主の力量を計る以外に、炎龍伯自身がほかの炎龍族たちに、炎龍伯たる器を示すという目的もあったことが、のちに判明する。
魔王城祭 (まおうじょうさい)
魔王城で定められている記念日の一つ。魔王城に住む魔物たちが総出で、下層区画の闇の覇道に存在する巨大な魔力結晶に魔力を注ぎ込む。魔王城が崩壊の危機を迎えた際に、魔王さまが自分の命と引き換えに魔力の補充を行おうとしたところ、魔王さまを失いたくない魔物たちが団結して魔力の補充を行い、危機を脱したことをきっかけに、新たに制定された。
書誌情報
魔王さまの抜き打ちダンジョン視察 3巻 講談社〈KCデラックス〉
第1巻
(2019-05-09発行、 978-4065150801)
第2巻
(2019-10-09発行、 978-4065171561)
第3巻
(2020-04-09発行、 978-4065185155)