麻雀放浪記

麻雀放浪記

阿佐田哲也の小説『麻雀放浪記』のコミカライズ作品。終戦直後の上野周辺を舞台に、天才雀士の阿佐田哲也が経験した勝負の駆け引きをドラマティックに描く。少年時代の哲也が博奕と出合い、その才能を開花させていく形で物語が展開する。同時に、ドサ健や出目徳ら、博奕の才覚で身を立てる数々の玄人(バイニン)たちの強烈な個性も際立つ。「週刊大衆」2017年1月23日号から連載の作品。

正式名称
麻雀放浪記
ふりがな
まーじゃんほうろうき
原作者
阿佐田 哲也
作画
ジャンル
麻雀
関連商品
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あらすじ

第1巻

終戦直後の上野不忍池周辺。まだ十代半ばだった阿佐田哲也は、高齢の父親に代わって、一家の稼ぎ手の役目を担うことになった。しかし、焼け野原となった東京にろくな仕事があるはずもなく、哲也は働きに出るふりをしてぶらぶらと時間を潰していた。そんな折、哲也は上州虎との再会をきっかけに、博奕で金を稼ぐことを思いつく。虎に連れられて訪れた賭場で、哲也は初めて「チンチロリン」というサイコロ賭博を体験する。初めは様子見に徹した哲也は、いち早くルールを飲み込み、勝負師としての力量を発揮する。さらに哲也は賭場にいたおりんから、銀座のクラブ「オックスクラブ」がいい稼ぎ場であることを知らされる。ドサ健に連れられた哲也が訪れると、そこでは進駐軍の米兵が麻雀に興じていた。

第2巻

阿佐田哲也は、「オックスクラブ」で出会った八代ゆきと、恋人兼麻雀のパートナーとなり、ゆきの自宅で同棲を始めた。ゆきは、哲也にイカサマの技術だけでなく、勝負師としての心構えなどを教える。ある晩、ゆきと哲也は米軍の伝手でふだんより高いレートの勝負に挑み、みごと勝利をおさめるものの、銃をちらつかせた米兵の卑劣な脅しに屈して勝ち金を奪われてしまう。これを契機に、哲也は「ゆきを守れるような強い男になりたい」と決意して、ゆきのもとを離れて一人前の博奕打ちを目指して放浪の旅に出る。そんな中、哲也はある雀荘で清水という凄腕の雀士と出会う。清水は牌の種類を裏側から見分けることができる「ガン牌」の使い手であった。

第3巻

ドサ健は、焼け跡から復興しつつある上野で麻雀教室を開いて麻雀を普及させ、傘下の雀荘を増やしていくというビジネスを始めていた。チンチロリンの賭場が減り、博徒としては過去の人となりつつあったチン六は、上州虎の誘いで麻雀を覚え、その魅力に取りつかれる。やがてチン六は、ドサ健から雀荘を買い取って経営者にならないかという誘いを受ける。しかし、これはドサ健と上州虎の仕掛けた罠であり、ドサ健らと麻雀の勝負に挑んだチン六は、熱くなりすぎてイカサマの罠にはまってしまう。金や雀荘の権利書などをすべてを失ったチン六の姿を見て、阿佐田哲也はドサ健の冷徹な手口と、勝負の世界の厳しさを思い知るのだった。

第4巻

凄腕の雀士の出目徳と出会った阿佐田哲也は、ドサ健を倒すという共通の目的から、出目徳とコンビを組むことを了承する。そして出目徳は、哲也に「二の二の天和」の技を仕込む。これはコンビで牌を積み込んだうえ、二人ともがサイコロで「ピンゾロ」を出すことで役満の「天和」を作り出すイカサマ技であった。哲也がその技を習得するとコンビの息を合わせるために、二人は博徒の多い川越街道を北上する旅に出る。しかし、哲也が麻雀で負かした学生に同情して金を返してやったり、出目徳のおヒキ(サポート役)に徹するのを拒んだりと、二人のあいだに亀裂が生じてしまう。それでも、ドサ健と勝負するというお互いの目標から、かろうじてコンビは継続されていた。そんな中、上州虎が仲介したことで、雀荘「喜楽荘」において、出目徳と哲也のコンビとドサ健との対戦が始まった。

第5巻

雀荘「喜楽荘」で、出目徳阿佐田哲也のコンビはドサ健との勝負を開始する。場が進む中、出目徳は点数が無制限に跳ね上がる「青天井」のルールで打つことを提案し、本気の勝負が始まった。老獪(ろうかい)な出目徳は、わざと不審な動きをして、ドサ健にアヤ(イカサマの指摘)をつけさせるように仕掛ける。しかしドサ健が調べた牌にイカサマはなく、そこからドサ健は出目徳にアヤをつけにくくなってしまう。主導権をにぎった出目徳は、ドサ健を挑発するように、連続で「二の二の天和」を上がる。挑発に乗ってしまったドサ健はボロ負けし、所有する店の権利書をカタにして勝負を続行する。ドサ健になかなかとどめを刺せずにいる中、哲也は突如として奇妙な感覚にとらわれる。それは極限の勝負の中で牌が透けて見えるという、今は亡き清水の「うっすらと匂う」イメージと同様のものであった。

第6巻

ドサ健を倒したことで、利害関係のなくなった阿佐田哲也出目徳のコンビは自然と解散状態となる。一人で街をさまよっている哲也の前に、ドサ健との勝負を観戦していた人買いの達が現れる。女衒(ぜげん)を生業にする達は博奕は素人ながら、「博奕打ちがするような真剣勝負をしたい」と、哲也への弟子入りを志願する。初めはその申し出を渋る哲也だったが、達が実際に博奕を打つ姿を見てその実力を認め、弟子入りを許可する。その頃、すべてを失ったドサ健は、恋人のまゆみと共に山谷のドヤ街に住み込んでいた。ある日、ドサ健はかつて麻雀で打ち負かしたチン六のもとに、未払いの負け金を取り立てに行く。しかし、逆にサイコロの目を使った勝負を挑まれ、敗北してしまう。借金の回収に失敗したドサ健は、自分の運が落ち目にあることを自覚する。

関連作品

本作『麻雀放浪記』は、阿佐田哲也の小説『麻雀放浪記』を原作としている。戦後まもない頃の上野を舞台に、主人公の「坊や哲」が麻雀の腕だけを頼りに必死に生き抜く姿を描く。青年期、博奕にのめり込んでアウトローとなった阿佐田哲也の実体験をモチーフとしている。ピカレスク小説の傑作として評価が高く、麻雀ブームの火付け役ともなった。

登場人物・キャラクター

阿佐田 哲也 (あさだ てつや)

終戦直後、上野を中心として活動する博徒の男性。旧制中学の生徒だった戦時中、勤労動員で行った先の工場で、上州虎に麻雀を教わった。戦後の混乱期、十代半ばにして一家を経済的に支えねばならなくなり、博奕で金を稼ぐことを覚える。「博奕の世界の人間関係は、主人と奴隷と敵しかない」という哲学を持っており、安易に他人と迎合しようとしない。麻雀の道に入った当初は、カジノの女主人だった八代ゆきと恋愛関係となり、麻雀のコンビを組んだ。やがて「ゆきを守れるほど強い男になりたい」という思いが強くなり、ゆきのもとから離れて博奕の才能を磨き始める。同じ上野を根城とする博徒のドサ健に対しては、弱い者を食い物にする冷血漢として嫌悪し、強烈なライバル心を抱いている。「ドサ健を倒す」という目的意識から、出目徳の申し出を受けてコンビを組むことになった。そして、ドサ健に勝利したことで目的が達成され、哲也からコンビの解消を申し出た。実在の人物、阿佐田哲也がモデル。

上州虎 (じょうしゅうとら)

左手と左足を失った傷痍(しょうい)軍人の中年男性。本名は「樋口虎吉」。博徒仲間からはもっぱら「虎さん」と呼ばれている。横浜の鶴見の工場で、勤労動員としてやって来た少年時代の阿佐田哲也に、初めて麻雀を教えた。戦後、食い詰めて上野で追いはぎをしていたところ、哲也と再会する。哲也をチンチロリンの賭場に誘い、博徒になるきっかけを作った。その後はドサ健の事業をサポートし、おこぼれに預かる。上州虎自身は博奕は下手だが、他人の勝ち負けを見極める目は確かで、弱者なりにたくましく生き抜いている。その姿に哲也は、「色々なことを教えてくれた先生」のような愛着にも似た感情を抱いている。

ドサ健 (どさけん)

阿佐田哲也の最大のライバルである、博奕打ちの若い男性。上州虎に連れられてやって来た賭場で初めて出会った。博奕打ちとしての腕も立ち、利にさとい一方で他者を冷酷に切り捨てる非情さを持つ。哲也が銀座のクラブ「オックスクラブ」を訪れた時に案内役を務めたが、哲也の窮地を見捨てて逃げ去ってしまう。表向きのビジネスとして、麻雀教室や雀荘の経営などで成功をおさめている。しかし、その手法は詐欺まがい同然で、チン六を罠にはめてすべての財産を巻き上げた。麻雀の打ち手としては、イカサマをいっさい使わない正攻法で勝負する。その代わりにあらゆるイカサマに精通しており、「イカサマ封じ」によって相手より優位に立つことが多い。雀荘「喜楽荘」で、哲也と出目徳のコンビに敗れ、すべての財産を失うが勝負師としてのの矜持は失っておらず、再起の時を狙っている。

チン六 (ちんろく)

阿佐田哲也が、上州虎に連れられて訪れたチンチロリンの賭場にいた中年の男性。チンチロリンでは賭場で最も強いと評されている一方で、闇市に密造酒を卸して荒稼ぎしている。実業家として成功していたドサ健から、雀荘のオーナーになるように誘いを受け、店の権利書を購入する。その直後にドサ健らと麻雀に興じるが、イカサマを駆使するドサ健の罠にはまり惨敗し、金や権利書などをすべて奪われて無一文となる。しかし哲也に当座の金を恵んでもらい、博徒として再起を図る。

おりん

阿佐田哲也が、上州虎に連れられて訪れたチンチロリンの賭場にいた中年の男性。男娼(オカマ)で、つねに女物の服を着ている。サイコロを振る前に念仏を唱える癖があり、その直後は決まっていい目が出る。その立ち振る舞いを怪しんだ哲也に、イカサマのサイコロを使っていることを見抜かれ、口止め料として別の稼ぎ場を紹介した。そこは米兵が集まる銀座のクラブで、哲也が麻雀打ちとして一人立ちするきっかけとなった。

八代 ゆき (やしろ ゆき)

銀座のクラブ「オックスクラブ」のカジノを仕切る女性。阿佐田哲也がオックスクラブを訪れ、米兵と麻雀の対戦をした時、同じ日本人としてひそかに哲也の手助けをした。哲也と麻雀のコンビを組むと同時に、恋人関係にもなる。同棲していた期間中、哲也に「通し(サイン)」や「積み込み」などのイカサマの技術を伝授した。哲也と共に米兵相手の麻雀で勝利をおさめるが、米兵の暴力的な脅しに屈して、手にした金を奪われてしまう。この一件で、「恋人を守れる強い男になりたい」と考えた哲也が、八代ゆきのもとを離れて博奕修業を始めるきっかけとなった。

ジョニー

銀座のクラブ「オックスクラブ」に客としてやって来た米兵の若い男性。クラブを訪れた阿佐田哲也が、初めて麻雀の対戦をした相手でもある。麻雀の技術は哲也に劣るが、相手の手牌には目もくれず上がりだけを目指す大味な麻雀で、哲也を翻弄する。しかし卓を囲んだ全員分の点棒の動きを、端数まで記憶していた哲也の緻密な戦略の前に惜敗。だが哲也の不敵な態度に激高し、負け金を払うのを拒否したばかりか、哲也に理不尽な暴力を振るう。

清水 (しみず)

阿佐田哲也が、ある雀荘で出会った麻雀打ちの男性。慇懃丁寧な物腰だが、その麻雀の腕前は非常に高く負け知らずで、その強さに興味を持った哲也に、打ち筋を観察されることとなった。その結果、牌の種類を裏側から見分ける「ガン牌」の使い手であることが判明。しかも、牌に傷などの印を付けるイカサマではなく、「うっすらと匂う」という直観で牌の種類を言い当てるという超人的な能力であった。その力に感服した哲也から、コンビを組まないかと提案され、いい稼ぎ場を紹介するという条件で了承する。その後、哲也に紹介された銀座のクラブで米兵相手に大勝するが、それが米兵の恨みを買い、進駐軍の車のひき逃げに遭って命を落とす。

出目徳 (でめとく)

凄腕の博奕打ちである中年の男性。阿佐田哲也と雀荘で初めて対戦した時は、「株屋」を自称していた。積み込みの達人であり、自分や対戦相手の手牌をあやつることができる。哲也との初対戦で、積み込みを駆使してわざと哲也に大物手を送り込み、その力量を試した。哲也の麻雀の才能を評価し、ドサ健を倒すことを条件にコンビを結成した。麻雀は生計を立てる手段と割り切っており、コンビでは上がり役とおヒキ(サポート役)が、それぞれの役目に徹すればいいと考えている。しかし勝利至上主義の麻雀ばかりで、刺激的な勝負をしたいと考えている哲也とはすれ違いが生じることとなった。その後、雀荘「喜楽荘」でドサ健に大勝するが、目的を果たした哲也に一方的にコンビを解消されてしまう。

まゆみ

雀荘「喜楽荘」を所有する若い女性。父親の死によって、喜楽荘の権利書を相続している。ドサ健の恋人であり、彼の商売にも協力している。ドサ健が出目徳と阿佐田哲也のコンビに敗れ、すべての財産を失ったあとも、その愛情は変わらなかった。ドサ健と共にドヤ街に住み、収入を失った彼の代わりにナイトクラブで働いて生計を立てている。

ソッキン

ドサ健の部下である若い男性。本名は「上田則近」で、名前を音読みすると「ソッキン」になることからドサ健に気に入られ、文字どおり彼の側近となった。元チンピラで、自分一人で打つ麻雀の能力は非常に低い。しかし金のためなら従順に動くため、ドサ健とコンビを組んでいるときは、それなりの脅威となる。雀荘「喜楽荘」で、阿佐田哲也と出目徳のコンビと対戦するが、ドサ健の負けが続くうちに戦意を喪失し、コンビとして機能しなくなってしまう。

人買いの達 (ひとかいのたつ)

吉原遊郭の遊女を世話する「女衒(ぜげん)」を生業としている若い男性。粋な着流し姿で、色気のある立ち振る舞いをする。プロの博奕打ちではないが、命がけの真剣勝負にあこがれを抱いている。雀荘「喜楽荘」で、阿佐田哲也と初めて対面する。この際、哲也と出目徳のコンビがドサ健を打ち負かした勝負に立ち会い、哲也の腕にほれ込んだ。勝負のあと、上州虎から哲也の情報を得て、哲也に弟子入り志願をする。その実力は手牌を伏せたまま理牌せず、すべて盲牌で上がることができる、素人離れしたものだった。哲也の弟子となって積み込みの技術などを教わるが、素人の自在な発想で哲也に大きなヒントを与えることもある。

クレジット

原作

阿佐田 哲也

構成協力

浜田 正則

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