龍とカメレオン

本作は身体が入れ替わった天才漫画家の花神臥龍と、新人漫画家の深山忍の人気を巡る戦いが主題となっている。登場人物は漫画家やアシスタント、編集者がほとんどで、読者の反応は吹き出しをはじめとした文字で表現されている。また、作品を完成させるために求められるさまざまな課題が提示されたり、登場人物たちの漫画に対するこだわりがアピールされたりと、いわば「漫画を描くこと」が多角的な視点から描かれている。

花神臥龍と深山忍の身体が入れ替わったことで、二人の心境や環境に劇的な変化を及ぼす。二人が入れ替わっていることを確信しているのは、かつて忍と因縁のあった編集者の多知川のみで、ほかの登場人物からは多少性格が変わった程度の認識しか持たれていない。売れっ子の臥龍に対して敵対心をむき出しにする忍は、臥龍の立場を利用して名声を手に入れようとする。一方の臥龍は、自分が築き上げた伝説を自らの手で塗り替えるという目標ができたため、お互いに今の立場をすぐに元に戻そうとは思っていない。また臥龍は、忍を取り巻く環境を知るにつれて彼の才能が決して模倣技術のみではないことを見抜く。そして、いつか忍のオリジナル作品を読んでみたいとの願いから、お互いが納得できる落としどころを見つけた暁には、元の身体に戻る方法を共に探そうと考えている。

花神臥龍と深山忍以外にも、遅咲きの新人、大岩源二や一部のファンからは臥龍以上の逸材と言われる天才、榊多聞など、漫画界の頂点を目指すために努力を怠らない漫画家が多数登場する。彼らはそれぞれ負けられない事情を抱えており、臥龍の強力なライバルとして立ちふさがる者もいる。だが、「切磋琢磨（せっさたくま）してこそ名作が生まれる」という持論を持つ臥龍にとっては、むしろ理想的な環境ともいえる。また、臥龍は強力なライバルの存在を歓迎していることから、ほかの漫画家たちにアドバイスを行うことも少なくなく、そのことが多くの漫画家から慕われる理由ともなっている。一方でほかの漫画家たちとの交流を嫌う忍は、臥龍のこういった行動を快く思っておらず、自らの模倣技術をさらに昇華させ、完全なる勝利を目論んでいる。