JIN-仁-

現代の日本で働く脳外科医・南方仁は、ある日突然、140年前の江戸時代にタイムスリップしてしまった。そんな仁が、現代の先進医療技術を駆使して、病に苦しむ人々を救うため奔走する姿を描いた、医療と人情の幕末歴史漫画。「スーパージャンプ」2000年第9号から2010年第24号にかけて連載された作品。

あらすじ

第1巻

2000年6月、東都大学付属病院脳外科医局長の南方仁は、頭蓋骨内に胎児型の腫瘍を宿した中年男性の手術を担当する。その頃から幻聴に悩まされるようになった仁は、その翌日の夜、摘出した腫瘍のことが気になり、病院へ赴く。すると腫瘍の標本を中年男性が盗み出し、病院から逃げようとしていた。彼ともみ合いになった仁は階段から落ち、気がつくと森の中にいた。そして仁は、そこで若い武士・橘恭太郎と、お共が襲われている場面に遭遇する。仁の機転により敵は逃げ出すが、お供の男性は亡くなり、恭太郎も大ケガを負ってしまう。そこで仁は緊急手術をするために、橘家へと向かう。そして恭太郎の母親・橘栄と、妹・橘咲の協力を得て、無事に手術を成功させるのだった。こうしてようやく落ち着きを取り戻した仁は、咲に今が一体いつの時代なのかを尋ねる。そこで仁は、今は文久2年、つまり旧暦1862年だということを知り、自分が140年前の時代にタイムスリップしたらしいことに愕然とする。ひとまず記憶喪失ということにして橘家で暮らすようになった仁だったが、現在の江戸が麻疹に脅かされていることを知る。

第2巻

旧暦1862年秋。南方仁は、大勢の人々を麻疹から救ったことで評判になり、勝鱗太郎からも気に入られるようになっていた。そんなある日、仁は鱗太郎、橘恭太郎と共に横浜へ出向き、西洋人医師たちを紹介される。そこで仁はウィリアム・ウイリス、ジェームス・カーティス・ヘボンと話していると、侍に斬られた水兵・ポールが運ばれてくる。ポールは酒に酔った勢いで武士の妻に襲い掛かり、事態を知った夫に斬られてしまったのだ。非はポールにあるものの、この傷がもとで彼が死ぬと、仲間のイギリス人水兵たちがポールの仇を取ろうとするため、日本は窮地に追い込まれることが予想された。逆にポールを助けることができれば、この件を表沙汰にしたくないイギリス人たちと交渉が可能になる。そこで仁はすぐさま手術にとりかかるが、その場にいた西洋人医師たちは、仁の所有する見たこともない技術や器具に驚愕する。仁は、これがきっかけで医学の進歩が早まり、歴史が変わってしまうかもしれないことに罪悪感を覚えながらも、手術を成功させるのだった。こうして仁の評価はさらに高まり、鱗太郎は今後仁に対して全面的に協力することを宣言。その後、仁は西洋医学所に呼ばれ、伊藤玄朴や緒方洪庵らと共に現在大流行中のコレラと戦うこととなる。しかし診察の最中、仁は自身もコレラに感染して倒れてしまう。

第3巻

南方仁は、コレラから人々を救ったことが評判となり、坂本龍馬と出会い親しくなる。そんなある日、仁は龍馬から吉原に誘われる。仕方なく付き合うことになった仁は、そこで鈴屋彦三郎お抱えの呼び出し花魁・野風と出会う。しかし野風には冷たくあしらわれ、二人は帰ろうとしていると、そこに彦三郎の妻である女将がやって来る。最近彦三郎は体調が優れず、ここ数日は呼びかけにも応じることができなくなっていた。これを聞いた二人は、すぐに彦三郎の診察を開始。そして女将からの情報も得て、慢性硬膜下血腫の可能性に至る。そして仁は手術を始め、見事成功させて鈴屋の面々からの信頼を得る。そんな中、仁は野風に頼まれて、梅毒に侵されている花魁・夕霧に会いに行く。しかし梅毒は、この時代では仁にすら手の施しようがない病気だった。そのまま年が明け旧暦1863年、仁は大学時代の友人・友光に、青カビからペニシリンを作る方法を教えてもらったことを思い出す。仁は西洋医学所の協力を得て青カビの培養を始め、青カビと夕霧の身体から取れるブドウ球菌を使って、ペニシリンを作り出すことに成功する。ペニシリンを投与された夕霧は劇的な回復を見せるが、数日後に急死してしまう。仁はこれを悔やみつつも、例え歴史を変えることになってもペニシリンの効力を高め、苦しんでいる人々を救う決意をするのだった。

第4巻

旧暦1863年5月。南方仁橘咲と浅草に出かけた際、喜市と再会した。その直後仁は、喜市の知人女性・の手術を頼まれる。茜は仕事中に頬から首にかけて大やけどを負ってしまい、皮膚移植手術をしなければ痕が残ってしまう状態にあった。すぐさま仁は手術を開始するが、手術に必須のペニシリンを製造する医学所が火災に遭い、ペニシリンが足りなくなってしまう。そんな窮地に陥った仁を救ったのは、緒方洪庵と共に茜の手術を見学していた男性だった。彼の正体は「醤油づくりヤマサ」の当主・濱口儀兵衛で、仁の技術を見学するために、わざと素性を隠していたのである。その後、ヤマサの醤油倉でペニシリンを製造できることになり仁は安堵するが、ここで儀兵衛が衝撃の事実を告げる。洪庵は肺結核にかかっており、余命いくばくもない状態なのだという。これを知った仁はすぐさま洪庵に会いに行くが、翌月洪庵は亡くなってしまう。8月のある日、仁は坂本龍馬と共に「鈴屋」を訪れる。そこで仁は野風から、初音という花魁を診てほしいと頼まれる。初音は先日、人気歌舞伎役者・澤村田之助の子供を妊娠するも、堕胎したことで、ずっと体調を崩していたのだ。さっそく初音を診た仁は、敗血症と診断するがこの病気を完治させるには、ペニシリンの純度を高めるために高額の設備投資が必要だった。

第5巻

旧暦1863年8月、澤村田之助からの資金援助を受け、以前よりも純度の高いペニシリンが製造できるようになっていた。そんなある日、江戸を大火事が襲い、南方仁橘咲は、福田玄孝と忠吉の協力も得て、現地で被災者治療にあたることになる。しかしその最中、火消しの千吉が気道熱傷になってしまう。仁は近くまで炎が迫る中、千吉の手術を開始。その姿に心打たれた新門辰五郎は、仁の医院「仁友堂」の設立の際には、土地と資金を出資し全面的に協力する。その直後、仁のもとに野風から手紙が届く。野風は最近身請けされることになり、その前に身体検査を受ける必要があった。そこで検査医、または医師として、どうしても仁に同席してほしいとの依頼だった。その申し出を快諾した仁は当日立ち会うが、三隅俊斉曰く特に異常はないということで終了する。しかし野風は、この診断に不安を覚えていた。野風は最近右の乳房にしこりを発見し、嫌な予感を感じていたのだ。これを聞いた仁は改めて診察するものの確信は持てず、悩んでいた。そんなある日、仁は自分のもとで最近学ぶようになった佐分利祐輔が乳癌の研究をしていることを知り、彼に協力を仰ぐ。

第6巻

旧暦1864年5月、南方仁の医院「仁友堂」が診療を開始した。医師は仁、佐分利祐輔、福田玄孝の三人で、ペニシリンの製造所の指揮は山田純庵が務める。看護師は縁談を破談にして橘家を離れた橘咲、そして雑用係は花魁を辞めた野風と、各々が忙しい日々を送っていた。そんなある日、仁友堂に野風の浮世絵を描くために通っていた桜川雲泉が、急に来なくなってしまう。心配に思った仁が雲泉に会いに行くと、彼が手根管症候群であることが発覚。すぐに仁は食事療法か手術を勧めるが、雲泉はまるで聞く耳を持たず、6月になってしまう。そんなある日、雲泉の娘であるお志津の縁談が決まるが、お志津は雲泉を心配するあまり断ろうとしていた。このままではいけないと考えた雲泉はついに手術を決意し、手術は無事に成功して雲泉は再び筆を持てるようになる。そして7月15日、仁は勝鱗太郎坂本龍馬に頼まれ、瀕死の佐久間象山を救うため京都に向かう。しかし象山はすでに大量に失血しており、輸血なしでは助けられない状況にあった。それでも仁はできる限りの延命措置をとるが、その途中で目を覚ました象山は衝撃の事実を告げる。象山は10歳の頃に木から落ちてケガをし、目を覚ますと未来の世界にいたという。象山はすぐにこの時代に戻ってこられたのだが、いつか同じ体験をした人間に出会ったら、このことを伝えようと考えていたのである。象山は仁に、自分と同じく未来を知る者として、今後は代わりに仁が戦う番だと告げられる。

第7巻

南方仁は徳川慶喜の命令で、虫垂炎にかかっている西郷隆盛の手術を行うことになった。しかし手術中、薩摩軍に恨みを持つ長州軍の兵士たちが屋敷に侵入し、仁たちは危機に陥る。どうにか隆盛の手術は成功するが、仁は自分は隆盛が日本の歴史における重要人物だから助けたのか、それとも患者はすべて平等で守るべきものだから助けたのか、悩むようになる。その直後、仁は沖田総司に頼まれて、大ケガをした猫の手術をする。これを機に、仁は今後も自分は患者を差別せずに困っている人たちを助けることを決意。こうして仁は気持ちも新たに江戸へ戻るが、仁友堂は相変わらず外科の患者が少ないままであった。仁はヒマな時間を利用して研究を始めるが、そこに橘恭太郎がやって来て、橘栄が体調を崩しているから診察してほしいと頼まれる。すぐさま仁は橘家に向かうが、栄は橘咲が破談になり橘家を去ってから、生きる意欲をなくしていた。そのため、ほかの医者から脚気と診断されるも、小食・偏食を直そうとせず、そのまま死のうとしていたのだ。これを知った仁は、どうやって栄にビタミンB1を摂ってもらおうかと悩むが、栄の好きなお菓子からビタミンB1を摂ってもらうことを考えつく。

第8巻

旧暦1864年の中秋の名月。南方仁は、橘咲たちと作った「安道名津(あんどうなつ)」を持って橘家に向かう。そこで仁は、橘栄に生きる意志がないのなら、今後は好きな食べ物だけを食べて暮らすのはどうだろうかと提案。甘いものが好きな栄はこの提案に乗り、仁の持っていた現代のお菓子を食べるようになる。これによってビタミンB1を摂った栄は回復し、ついに元気を取り戻すのだった。一方その頃、澤村田之助は桜川雲泉の描いた野風の浮世絵にヒントを得て、新作演目「傾城野分廓恋鑑(けいせいのわけくるわこいかがみ)」で大成功を収めていた。さらに田之助が劇中で安道名津を食べたことが大きな宣伝効果となり、「傾城野分廓恋鑑」の主人公・野分のモデルである野風と、安道名津は大人気となる。しかも、野風がこの人気に便乗して仁友堂の宣伝を行ったことで、仁友堂もにぎわい始める。そんなある日、仁と咲、田之助は、松本良純に頼まれて、とある寺院で皇女和宮のために「傾城野分廓恋鑑」の上映と、安道名津の提供を行なうことになる。しかし、その途中で皇女和宮が倒れ、毒を盛られていたことが発覚。仁の胃洗浄手術により皇女和宮は一命を取り留めるも、毒を盛った疑いをかけられた仁と咲は牢屋敷へ送られてしまう。

第9巻

牢屋敷に送られた南方仁は、その夜、耳の中に虫が入ってしまった牢名主を助け、さらに心房細動で命を落としかけた彼の命を救ったことがきっかけで、囚人たちの信頼を得る。これを機に牢内の環境も改善され、仁は病囚たちの治療をする「三番役」として働くことになるが、皇女和宮に毒を持った疑いは晴れずにいた。そんな中、お菓子から砒素が検出されたことで、仁は死罪を覚悟する。しかし奉行所で下された判決はなぜか無罪で、仁は無事解放される。こうして仁がすでに解放されていた橘咲と共に仁友堂に戻ると、お菓子には砒素の入ったお茶がかけられていたこと、証拠としてそのお茶の入っていた茶碗が見つかったことで、疑いが晴れたことを知らされる。その茶碗を探し出したのは、仁たち医学所のライバルであるはずの、医学館の多紀元琰だった。元琰は、今回の一件で医学館が有利になることよりも、あえて仁を助けることで、今後仁たちと協力して医学・医療を成長させることを選んだのである。仁は元琰に深く感謝するが、その直後、野風から衝撃の事実を知らされる。野風は、仁の牢屋敷に差し入れをするために、自らジャン・ルロンに身請けされることを決めていたのだ。

第10巻

旧暦1864年の末、南方仁澤村田之助の頼みで、鉛中毒に侵された坂東吉十郎の治療にあたることになった。田之助は兄貴分である吉十郎を、1月15日からの新春狂言の初日に、どうしても立たせたかったのである。仁はこの病に特効薬がないため、手探りで治療を続けていると吉十郎は徐々に回復していく。しかし座頭たちは、今の状態の吉十郎ではとても舞台には立つことはできないだろうと考え、彼に舞台に立つことをあきらめるよう諭す。それでも田之助と吉十郎は応じず、もし吉十郎が無事演じきれなかった時は、息子の与吉と共に小屋から出て行くと約束して、出演が決まるのだった。こうして吉十郎は初日を迎えるが、幕が上がる直前になって全身が硬直し、動けなくなってしまう。そこで仁は、ゴムの駆血帯と包帯を組み合わせてサポーターを作り、吉十郎は無事演じ切ることに成功。吉十郎は役者として素質の高い与吉に自分の演技を見せたことで、その翌日満足して息を引き取る。ある日、仁は多紀元琰に相撲観戦に誘われるが、元琰のひいきである陣幕久五郎は、ケガで休場を続けていた。仁は久五郎から、肘をまっすぐに伸ばすことが困難であると聞き、彼の治療にあたる。しかし、これがきっかけで、仁はライバルである医学館と懇意にしているという噂が流れ、医学所の学生たちは仁のもとを去って行く。

第11巻

旧暦1865年の春。南方仁は、ペニシリンの粉末化に向けた研究を始めていた。しかしそんなある日、研究の中心人物である山田純庵の母親が亡くなってしまう。さらに純庵が母親の葬儀に欠席したことで心配になった仁は、ペニシリンの材料である青カビの培養を行っている蔵まで純庵を探しに行く。純庵は生前から母親に、たとえ純庵が結婚して子供を作らなくても、純庵が心血を注いで作った薬こそが子供であり、自分にとっては孫であると言われていたのだ。そして、純庵がふと蔵を見に行ったところ、非常に産生度の高いアオカビが育ったのを発見し、この場に留まっていたのだった。こうして仁たちが粉末化の研究を進めていると、そこに多紀元琰がやって来る。川越藩の藩主の正室・恵姫が瘤を患っており、その除去手術ができる医師を探していたのだ。仁はアオカビの粉末化に成功したこともあり、橘咲と共に恵姫の治療のために川越へ向かうことになる。その途中で泊まった宿で、仁は初めて会った気がしない不思議な少女・お初と出会う。そこで仁は帰りも同じ宿に泊まることにするが、川越藩に到着すると、恵姫は医師たちの度重なる失態により、医師への信頼を失っていた。しかし、女性であれば治療を受けてもいいと言われたことで、咲が治療を行うことになる。

第12巻

橘咲の活躍もあり、恵姫の手術は無事成功した。しかしその帰り道、南方仁は、お初が大ケガをしたことを知る。すぐに仁たちは手術を始めるが、その途中で咲は仁の身体が透明になり、消えそうになる姿を目撃する。この現象に仁は、もしお初の手術が成功すると未来が変わり、自分の存在そのものが消滅することを予感する。それでも仁は手術を続行するもうまくいかず、そのままお初は亡くなってしまう。その後、二人は仁友堂に戻るが、先日の一件で咲には元気がなく、仁もまた存在が不確かな自分が、この時代で医療活動をすることが許されるのかと悩んでいた。しかし、仁友堂にはペニシリンの粉末化が成功したことを聞きつけた医師たちが集まっており、仁は慌ただしく彼らにペニシリンに関する講義と実習を行なうこととなる。そして9月になったある日、仁は医学所の依頼で、ペニシリン普及のために長崎県へ出向くことになる。そこで仁は、長崎県奉行所内にある精得館(しょうとくかん)医学所で講義を始めるが、11月初旬のある日、刺客に目を斬られたトーマス・ブレーク・グラバーの手術をすることになる。無事手術を成功させた仁は、これまでどこか距離を置かれていた塾生たちや、教授のA・F・ボードウィンの信頼を得ることとなる。

第13巻

精得館(しょうとくかん)に坂本龍馬がやって来た。そこで南方仁は、龍馬と楽しい時間を過ごすが、11月末に精得館での勤務は終了してしまう。仁は江戸に戻る途中で、仁友堂のある材木町が火事に巻き込まれ、材木町は焼け野原になったものの、仁友堂は無事だった事を知る。しかしその直後、今度は近くの田原町で火事が発生。この火事の犯人に心当たりのあるお駒は田原町に向かうが、材木町の火事の時も近くにいたことで、お駒が放火したのではないかと疑われてしまう。しかしこれは、お駒に恨みを持つ岡っ引き・ガマの策略だった。ガマは、これまで散々自分をこけにしてきたお駒に放火の濡れ衣を着せ、さらに襲おうとしていたのだ。この事態を察した火消しの千吉がその場に現れ、その後真犯人が出頭したことでお駒の疑いは晴れる。それから千吉が消火中に負ったケガも回復するが、千吉はお駒への思いを断ち切れずにいた。そんな中、千吉は仁とフグ鍋を食べに行くが、食事中フグ中毒になってしまう。

第14巻

南方仁は、フグ中毒になった千吉を救うため、人工呼吸器を付ける。しかし回復させるには、半日以上、アンビュバックを使ってずっと空気を送り込む必要があった。その窮地にお駒が現れ、その役を引き受ける。この甲斐あって千吉は息を吹き返し、お駒は仁に自分の本当の気持ちを打ち明ける。そして、二人は旧暦1866年の正月、結婚する。その直後、坂本龍馬が薩長同盟を結んだことで、寺田屋事件が起こる。のちに龍馬の手紙を受け取った仁は、たとえこの時代に自分が存在していても、歴史は基本的に史実通りに進んでいくこと、そこには自分がもたらした新しい医術もかかわっていることを実感し、複雑な気持ちになるのだった。そんな春のある日、仁は勝鱗太郎の妻に、くも膜下出血の疑いがあることを知り、これまでにないほど難しい手術になることを覚悟しつつ、手術を開始。無事に手術を成功させるものの、その頃から江戸では打ちこわし騒動が発生するようになる。

第15巻

旧暦1866年の7月。徳川家茂が亡くなり、江戸全体に不穏な空気が漂っていた。南方仁仁友堂もまた、高価な医療器具を次々注文したことで資金繰りに苦しんでいたが、以前治療した曲芸師・濱碇定吉が、本来の医療費よりも多額の治療費を払ってくれたことで事なきを得る。また、この時に濱碇一座の横浜公演に誘われたことがきっかけで、仁と橘咲は、野風に再会。しばらく横浜に滞在して外国人医師たちに講義をしながら、10月末に行われる野風とジャン・ルロンの結婚パーティの日を待っていた。しかし10月20日に横浜で大火が発生し、野風たちは無事だったものの、パーティの日程を早めることとなる。そこで野風は、仁に乳がんの再発の疑いがあることを打ち明ける。驚いた仁はさっそく診察するものの、再発の可能性は高く、それに加えてがんは肺に転移していた。そこで仁は野風の生存率が、今後2年で50%程度であることを伝える。しかし野風は気落ちすることなくパーティに参加し、後日新婚旅行へ旅立っていく。仁と咲は、野風はもう日本には戻ってこないことを悟りつつも、その姿を見送るのだった。

第16巻

旧暦1867年。南方仁は、この年に起きる坂本龍馬の暗殺を、どうにかして阻止したいと考えていた。そこで仁は、唯一自分の正体を知る橘咲に龍馬が暗殺されることを告げ、これを防ぐために、いっしょに京都に行ってほしいと頼む。そんな9月のある日、以前から鉛中毒の疑いがあった澤村田之助仁友堂にやって来る。仁は田之助に、脱疽のある右足切断を勧めるが、田之助はそれに応じず、そのまま帰ってしまう。そして9月12日、仁は山田純庵たち仁友堂医師団と共に、橘恭太郎を連れて京都へ出発する。しかしその直後、田之助の右足が悪化しているという報せが入る。そこで仁たちは、横浜で手術を無事成功させて、田之助の容体が落ち着いたのを確認してから、再び京都へ出発する。仁たちは10月下旬には京都に着く予定だったが、道中は険しく、小田原から箱根宿に向かう途中では、刺客に襲われてしまう。恭太郎が撃退したことで仁たちは事なきを得るが、仁は何者かが自分の命を狙っていることを察する。

第17巻

橘咲は、金谷宿で出会った少年・松五の開腹手術中に手が動かなくなってしまった。なんとか手術は成功させるものの、あまり役に立たなかったことに自信を失った咲は、一度は京都行きを辞退しようとする。しかし、南方仁の励ましにより、旅を続けることを決意。そんな10月の中旬に徳川15代将軍の徳川慶喜が政権返上し、22日には佐分利祐輔の婚儀も行われた。ここで一度祐輔と別れた仁たちは、11月1日に大坂へ到着するのだった。こうして11月15日の坂本龍馬が暗殺される当日、仁たちは京都に向かう途中で再び刺客に襲われる。そこで背中を斬られた仁は危機に陥るが、偶然通りがかった沖田総司に助けられ、近くの酒造で手術が行われることになる。しかし、刺客に右手を切られた山田純庵は執刀できず、仁の指示のもと、咲が麻酔なしで執刀することになる。どうにか手術は成功するものの、治療に必要なペニシリンが足りなかったことで、その日から仁は寝込んでしまう。それでも徐々に回復して10日には抜糸するものの、13日になっても、龍馬の居場所はわからずにいた。そこで仁は最後の手段として、総司に龍馬暗殺の件を打ち明け、協力してもらうことにする。

第18巻

旧暦1867年11月15日深夜。南方仁は、沖田総司の協力で坂本龍馬を発見し、暗殺は阻止できるかに思えた。しかし、仁たちが安心して食事を始めたところ、3年前に仁が治療した人物で、龍馬や総司とも面識のある、東修介が訪ねて来る。仁たちは不思議に思いつつも彼を迎え入れるが、修介の目的は龍馬の暗殺だった。修介は薩摩と結託して龍馬を探していたのである。それでも修介は、龍馬が今後見せてくれるという新しい世界に希望を託して暗殺を思い留まるが、その場にかつて自分の仲間を殺した総司もいたことで、修介は衝動的に総司に斬り掛かろうとする。しかし斬られたのは、総司をかばった龍馬だった。修介はその場から逃げ出し、額を斬られた龍馬は緊急開頭手術をすることになるが、すでに非常に危険な状態にあった。それでも仁は手を尽くし無事に手術を終えるが、まだ油断はできない状況で、龍馬は脳浮腫と脳腫脹と戦うことになる。そのあいだ、仁たちは総司に提供された場所で治療を続け、22日には龍馬の意識が戻るものの、その後に髄膜炎となり、12月1日に亡くなってしまう。

第19巻

坂本龍馬を助けることができなかった南方仁は、江戸に戻ることにした。しかし、結核が進んで体調の優れない沖田総司を診ているうち、王政復古の大号令が発せられ、旧暦1868年になってすぐに旧幕府軍は京都に向かって大坂城を進発する。旧幕府軍と新政府軍(薩長軍)の戦いが始まり、仁たちは旧幕府軍側として、大阪城に設けた治療所で負傷兵の手当てをすることになる。しかし、9日には徳川慶喜が江戸へ逃げ出したことで、新政府軍の勝利に終わるのだった。これによって仁たちも江戸に戻り、医学所と医学館に運び込まれた負傷兵たちを、手当する日々が続く。春を迎え、勝鱗太郎と西郷隆盛の会談により、新政府軍による江戸の総攻撃は中止され、江戸の人々は安堵する。しかし、橘恭太郎は旗本であることから、今後どのように生きていけばよいのかと悩んでいた。そんなある日、恭太郎にヨーロッパ留学の話が舞い込む。鱗太郎によると、フランスとイギリスの公使が仁友堂の医師に関心を持っており、弟子を派遣してほしいとのことだった。悩んだ末、恭太郎は今後の日本を自分なりの方法で支えていこうと、留学を決意する。

第20巻

勝鱗太郎と西郷隆盛の会談により江戸は無血開城されたが、これに不満を抱く幕臣は多く、戦火は東北へと拡大していた。江戸では、上野寛永寺に陣取る彰義隊の旗のもとに、3000名の兵が結集していた。そんな旧幕府軍に対し、新政府軍は攻撃を開始し、上野戦争が始まった。一方その頃、南方仁橘恭太郎が留学する前に、橘咲と結婚しようと考えていた。上野戦争は一日で終わり、その夜、負傷した彰義隊が仁友堂にやって来る。仁は危険な状態にある彼らを受け入れ、追ってきた新政府軍に命を狙われるが、咲の機転により新政府軍を説得し、治療を続けられることになる。しかし、この日なぜか治療を手伝っていた元医学所の医師・三隅俊斉は、裏でガマとつながっており、仁の命を狙っていたのだ。そんなある日、仁は危篤状態の沖田総司を診察するために咲、恭太郎と三人で総司のもとへ向かうが、そこで刺客に襲われて恭太郎が亡くなる。咲もケガを負って総司を診察することができなくなってしまう。恭太郎の葬儀後も咲のケガは治らず、仁は自分がこの時代にやって来た際に持っていた薬・ホスシミンが、恭太郎と出会った森の中に残っていないか探すことにする。

登場人物・キャラクター

南方 仁 (みなかた じん)

東都大学付属病院脳外科医局長を務める男性で、年齢は34歳。前髪を眉上で短く切った、癖のある刈り上げで、口ひげと顎ひげを伸ばしている。穏やかな心優しい性格で、非常に前向きで順応性が高い。また、医師としても非常に優秀で、豊富な医療知識を持つ。そのため、専門外の麻疹やコレラなどの病気にも対応することができる。さらに江戸時代の物資の限られた状況下でも、治療を可能にする臨機応変さがあり、周囲の信頼も厚い。しかしお金や地位、名誉、女性に対しては無頓着で、時には無償で手術を行うため、金銭面で非常に苦労している。2000年6月、頭蓋骨内に胎児型の腫瘍を宿した中年男性の緊急手術を担当する。これをきっかけに幻聴が聞こえるようになり、その翌日、病院を抜け出そうとした中年男性ともみあいになった際に階段から落下。これにより、江戸時代末期、旧暦1862年の日本へタイムスリップしてしまう。そこで出会った橘恭太郎の急性硬膜外血腫の手術を行ったことをきっかけに、現代医療の知識を用いて、病やケガに苦しむ人々を次々に救っていく。当初は、自分が江戸時代の人々を救うことによるタイムパラドックスや、現代の人々への影響を心配していた。しかし、救える命を放っておくことはできないという、医者としての使命感から、未来の人々の運命を変えることも覚悟する。自分が未来人であることは、ごく限られた人物以外には隠している。

橘 咲 (たちばな さき)

旗本・橘家の長女で、湯島四丁目通り樹木谷に住んでいる。年齢は16歳。橘栄の娘で、橘恭太郎の妹。父親は旧暦1858年にコレラで亡くしており、現在は三人暮らし。仁の助手となり、看護師としていっしょに働くようになり、やがて南方仁の勧めで医師を志すようになる。日本髪を結っており、明るく好奇心旺盛で、肝が据わっている。知識欲が高く勉強家で、呑み込みが早くて手先も器用。さらに緊急時でも非常に落ち着いて対応するため、周囲の信頼も厚い。仁とは、旧暦1862年のある日、恭太郎が脱藩浪人に襲われて大ケガを負い、急性硬膜外血腫となったことがきっかけで出会う。この時、仁が恭太郎の手術を行い、橘咲と栄がその手伝いをしたことで親しくなる。仁に強い恩を感じ、橘家へ迎え入れた。その後、流行り病の麻疹に罹って命の危機に晒されるが、仁の治療によって命を救われる。また、仁がコレラに罹った際は、付きっきりで看病を行って仁の命を救った。こうして、仁と共に苦難を乗り越えていく中で、彼に好意を寄せるようになる。優秀な頭脳と医療に対する適性を持っており、仁の治療に付き添う中で、医療に関する豊富な知識を吸収していく。仁が未来人であることを知る数少ない人物の一人である。

坂本 龍馬 (さかもと りょうま)

幕末志士の男性。多弁で男気あふれる性格で、土佐弁で話す。南方仁とは、師匠である勝鱗太郎を通して知り合った。最初は出自のわからない仁を信用していなかったが、その後すぐに打ち解け、親友の間柄になっていく。「土佐の田舎者」と自分を卑下しつつも、日本の行く末を案じ、自分の野望を雄弁に語る。史実どおり、倒幕のために各地を奔走しており、旧暦1867年11月15日には暗殺されることになっている。そのため、仁はたとえ歴史を変えることになろうとも、坂本龍馬を救いたいと考えるようになっていく。実在の人物、坂本龍馬がモデル。

野風 (のかぜ)

吉原の遊廓「鈴屋」の主である鈴屋彦三郎抱えの、呼び出し花魁の若い女性。禿の頃の名前は「ちどり」。初音とは、禿の頃からの友人でもある。華やかで妖艶な美形で、気が強く他人に媚びない性格の持ち主。7歳の頃に奉公にあがり、引込禿として彦三郎直々に和歌や俳諧、漢詩、書道、茶道など、昔の太夫にも負けないほどの芸事を教わる。そのため彦三郎のことを、実の父親以上に慕っている。南方仁とは旧暦1862年の冬、仁が坂本龍馬に連れられて吉原にやって来たことで知り合った。当初は仁に関心をまったく持ってなかったが、最近体調を崩している彦三郎が、手術をすれば回復する可能性があると聞き、仁に手術を頼む。そして、手術を成功させたことで仁を信頼するようになり、次に幼なじみの夕霧がおかされている梅毒の治療を頼み、次第に仁に思いを寄せるようになる。旧暦1863年夏、自らが患った乳癌の診断と手術を仁に依頼。この手術により胸に刃を入れたことで花魁を辞め、以後しばらくは仁友堂で雑用を務めていた。しかし、皇女和宮毒殺未遂の容疑で仁が投獄された際に、牢獄への差し入れのために250両を工面するため、フランス人貿易商ジャン・ルロンに身請けされ、仁友堂を去った。その後も、仁たちとは交流を持ち、手紙でやり取りもしている。

橘 恭太郎 (たちばな きょうたろう)

旗本・橘家の長男で、小笠原順三郎支配内の若い武士。湯島四丁目通り樹木谷に住んでいる。橘栄の息子で、橘咲の兄。端整な顔立ちで、まじめな性格の礼儀正しい好青年。攘夷を掲げる脱藩浪人たちの襲撃に遭い、致命傷を負うが、南方仁の手術により一命を取り留める。橘恭太郎の洋学の師である勝鱗太郎との出会いが、仁の人生を大きく変えていくこととなる。

(あかね)

浅草の団子茶屋で働く若い女性。本所撞木橋にある、つき米屋の娘。日本髪を結い、たれ目が特徴。かつて江戸一番の美人ともてはやされていた女性、笹森お仙の再来と呼ばれるほどの美形。性格も穏やかで心優しく、店の看板娘として非常に人気がある。旧暦1863年の5月、餡を作っている際に頬から首にかけて、大火傷を負う。しかし、喜市によって南方仁を紹介され、皮膚移植手術を受けることとなる。術後は火傷痕がどこにあったのかわからなくなるほどにまで回復した。その後、脚気を患った茜の母親の治療のため、仁と共に「安道名津」というドーナツに似た菓子をはじめ、さまざまな脚気対策の菓子を作った。そしてこの安道名津は、名物菓子としてその名を知られるようになり、江戸に住む多くの人々を脚気から救うことになる。また、のちに橘恭太郎とも交流を深めていく。

澤村 田之助 (さわむら たのすけ)

猿若町守田座の三代目・澤村田之助を務める男性で、年齢は18歳。女形の歌舞伎役者で、史上最年少の16歳の若さで立女形となった。忠吉とは幼なじみ。釣り目釣り眉の中性的な美形で、細身の体型をしており、つねに芝居がかった口調で話す。気が強くプライドの高い頑固な性格で、芸を磨くためには手段を選ばないところがある。歌舞伎界を代表する人気役者として名を馳せていたが、身分を隠して吉原に登楼するうち、初音を妊娠させ堕胎させてしまう。そのため、初音の治療として南方仁から資金援助を頼まれるが、初音を助けたいと言う割には、真剣さが感じられない仁のことが気に入らず、一度はこれを断った。しかしその直後、仁が新薬の専売権を担保にしてでも資金を作ろうとしていることを知り、考えを改める。そこで、専売権をだまし取ろうとする中条から仁を救うために資金を全額出資。この件がきっかけで仁に関心を持つようになり、忠吉を紹介する。その後も仁たちとは親しく付き合っていくが、やがて鉛中毒におかされてしまう。

お駒 (おこま)

浅草、田町に住む仕立て屋の女性。スリの常習犯で、千吉の幼なじみでもある。左目に泣きぼくろがある。ある日、銭湯での喧嘩がきっかけで、右手人差し指の腱を断裂。今後いっさいスリをしないという約束で、南方仁に手術と術後の治療を施してもらう。その後、仁との約束を破り、性懲りなく再びスリを行うようになる。しかし次第に考えを改め、スリからは足を洗い、仕立て屋として生きていくことになる。

緒方 洪庵 (おがた こうあん)

西洋医学所の頭取を務める中年男性。前髪を上げて額を全開にし、胸の高さまで伸ばしたストレートロングヘアにしている。まじめな落ち着いた性格で、医学に対して非常に真摯に取り組んでいる。もとは大坂に住んでおり、江戸には旧暦1862年にやってきた。南方仁とは、コレラの流行を防ぐために仁が西洋医学所でコレラに関する説明を行った際に知り合った。出会った当初は仁の唱える治療法をあまりにも斬新すぎると感じ、心の整理がつかずにいたが、仁の治療を間近で見たことで全面的に協力するようになる。医師としての面子にこだわらず、仁が山田純庵の治療を行う様子も見ている。コレラの流行が終息したあとも、仁の医術を人々に広めるために尽力し、やがてこの時代では考えられないほどの高度な医療技術を目の当たりにしたことで、仁が未来人であることを見抜く。そして仁の、孤独にも理解を示した。しかし、53歳の旧暦1863年の春から体調を崩し、仁に緒方洪庵自身の亡きあとの日本の医学を支えていってほしいとの願いを託して、肺結核で亡くなった。実在の人物、緒方洪庵がモデル。

山田 純庵 (やまだ じゅんあん)

西洋医学所に務める蘭方医の中年男性で、山田タミの息子。髷を結っており、たれ目で釣り眉。まじめな性格の勉強家だが、不愛想でやや卑屈なところがある。しかし、信頼した相手には懸命に尽くす。南方仁とは旧暦1862年の秋、コレラの流行を防ぐために仁が西洋医学所でコレラに関する説明を行った際に知り合った。説明を受けた際は仁の唱える治療法があまりにも高度なために反発するが、その直後、コレラで倒れる。その時、献身的に治療にあたった仁を医師として信頼するようになり、それ以降は自ら進んでサポートするようになる。その後は主に医学所でペニシリンの製造と管理を任せられていたが、のちに製造所が火災に見舞われる。これに責任を感じて一度は自殺も考えるが、この失敗を取り戻すために、より高純度のペニシリン製造を目指して努力を重ね、仁友堂にとってなくてはならない存在になっていく。 

三隅 俊斉 (みすみ しゅんさい)

西洋医学所に属する蘭方医。常ににたにたとした表情をしている慇懃無礼な物腰の男性。野風の診断医を任されるが、乳癌を発見することができなかった。その後、自分の面目を潰した仁を逆恨みし、仁を陥れるために様々な策略を企てるようになる。計画と自分の保身のためならば、手下を平気で切り捨てる冷徹非情な男。

勝 鱗太郎 (かつ りんたろう)

幕末に活躍した志士、勝海舟その人である。洋学において、橘恭太郎、坂本龍馬の師匠である。日本と海外の関係に、すぐれた考察力と先見の明を持つ。彼との出会いにより、仁は坂本龍馬をはじめとした著名な人物たちと関わり合うようになっていく。

新門 辰五郎 (しんもん たつごろう)

江戸町の火消しで、浅草十番組「を組」の頭取を務める男性。年齢は63歳。白髪で髷を結い、たれ眉で目が細く、いつも目を閉じているように見える。やや小柄な体型をしている。幕府に忠義一筋の頑固者で、蘭学が大嫌い。火事場でのずば抜けた統率力と、数々の大げんかを仲裁した胆力で俠名を上げ、3000人もの配下を持つ。さらに浅草寺の掃除方で、境内の大道芸人や商人、香具師を取り締まる役目も担っており、毎日莫大な上げ銭が入るために財力にも恵まれている。さらに、町人ながら徳川慶喜にも気に入られており、旧暦1862年の暮れに慶喜が上洛する際には、300人の手下と共に京都まで護衛した。南方仁とは、澤村田之助に会った際に知り合った。当初はあまり仁を快く思っていなかったが、直後に発生した江戸の大火で、仁が火消しの千吉を救ったことで考えを改める。それからは仁に全面的に協力するようになり、仁友堂建設の際も、土地や建設費用を全額出資した。実在の人物、新門辰五郎がモデル。

福田 玄孝 (ふくだ げんこう)

漢方医の中年男性で、江戸城の大奥で奥医師を務めている。スキンヘッドで、非常に瘦せた体型をしている。まじめな性格の勉強家で、十数年間の努力の果てに幕府の奧医師まで上り詰めた。ある日、多紀元琰の命令により、南方仁を医学館に連れていく。しかし到着直後に体調を崩して倒れ、仁の診断によって胃潰瘍であることが発覚。仁に手術を勧められるが、当初は仁の技量を信頼できず断ろうとした。しかし、元琰の勧めで手術することになり、無事成功して回復した。その後は奥医師を解雇され、医学館も去り、町医者として江戸で開業する。旧暦1863年6月の江戸の大火の際には、仁と橘咲と共に治療にあたった。その後、仁友堂の漢方内科医となり、元琰のスパイとして働くようになる。しかし、これは仁にはばれており、仁からわざと技術を盗ませてもらいながらもいっしょに働き、関係を深めていく。

鈴屋 彦三郎 (すずや ひこさぶろう)

吉原の遊廓「鈴屋」の楼主を務める男性で、年齢は52歳。髷を結っており、やや太めな体型をしている。ある冬の日、神棚の水を取り替えようとして台から足を踏みはずし、左の額をケガする。その後、しばらくしてから頭痛に悩まされるようになり、さらに片足を引きずる症状が出てしまう。同時に元気がなくなり、ぼんやりするようになる。その後、南方仁と出会った頃には、右手右足までが麻痺し、意識の混濁が進行して寝たきりとなっていた。仁に慢性硬膜下血腫と診断され、手術をすることとなる。これで回復に向かい、以降は妻と共に仁に協力する。野風を非常に大切に思っている。

初音 (はつね)

吉原の「玉屋」で花魁を務める女性で、野風の友人。身分を隠して登楼した澤村田之助に思いを寄せるようになり、やがて田之助の子供を妊娠するが堕胎した。しかしこの時、堕胎手術による感染症となってしまう。その後は次第に体調が悪化し、起き上がれない状態になるが、これを重く見た野風が南方仁に診察を依頼したため、敗血症であることが発覚。すぐさま手術を行うが、当時製造できるペニシリンでは効果が弱く、危機的状況が続いていた。しかし、仁が新薬の専売権を担保として資金を手に入れ、より品質の高いペニシリンを完成させて回復した。のちに、田之助とも再会した。

多紀 元琰 (たき げんえん)

奥医師を務める中年の男性漢方医。漢方の官設医学学校医学館における陰の実力者でもある。スキンヘッドの釣り目たれ眉で、体型はかなり太め。かつては強大な勢力を誇り、旧暦1849年には日本の医書の出版は、すべて医学館の許可が必要とされるほどだった。しかし同時期に牛痘法が広まり、医学の流れが漢方から蘭方に変わったことに加え、旧暦1858年に蘭方禁止令が解かれ、蘭方医が重用されるようになったことに不満を抱いていた。また、最近評判の南方仁を怪しむようになり、仁のような出自がはっきりしない男が、官立の組織に出入りしていることに疑問を持つ。そこで福田玄孝に命じて、仁の素性を暴こうとする。しかし玄孝が仁を連れて医学館に到着直後、体調を崩して倒れ、胃潰瘍であることが発覚。仁の実力を見抜くために、手術に立ち会うこととなる。その際、手術を嫌がっていた玄孝に手術を勧め、またこの責任を取るために、手術が失敗に終わった際には切腹すると宣言した。最終的に手術は成功するものの、以来仁を脅威に感じて仁が生きている限り、漢方に未来はないと考えるようになる。しかし同時に、日本の医学が発展するためには仁の力が必要であり、敵対している医学所と医学館は協力するべきだとも考えるようになり、少しずつ歩み寄るよっていく。

喜市 (きいち)

本所相生町二つ目の長屋に住む少年で、妙の息子。妙と共に、町で枝豆とゆで卵を売っている。髷を結い、前歯は抜けてしまっている。明るく人懐っこい性格の持ち主。ある日、妙といっしょに働いていたところ、馬に蹴られそうになる。妙がかばってくれたおかげで無事だったが、妙が大ケガを負ってしまい、強い責任を感じる。しかし、その場に偶然居合わせた南方仁が、すぐに手術を行ったために回復して、仁を慕うようになる。その後は、麻疹に侵されてしまうが、妙と仁が治療したことで回復。しかしその直後、妙が仁にお礼の品を渡しに行く途中、村田虎三郎に斬り殺されて亡くなる。そのため、一度は麻疹から回復したことさえ呪わしく思うが、やがて元気を取り戻す。その後は田舎の縁者のもとに身を寄せるが、その後江戸に戻り、小豆問屋の丁稚(でっち)小僧となる。また、この時に茜と親しくなり、医師を志すようになる。

伊東 玄朴 (いとう げんぼく)

将軍侍医、奥医師を務める中年男性。スキンヘッドの釣り眉で、瘦せた体型をしている。南方仁とは、コレラの流行を防ぐために仁が西洋医学所でコレラに関する説明を行った際に知り合った。出会った当初は、仁の唱える治療法があまりにも斬新なために心の整理がつかずにいたが、まずは緒方洪庵と共に仁が山田純庵の治療を行う様子を見に行くことにする。その後、洪庵と話し合い、仁の処方による経口補液を患者たちに与え、仁の使っている医療器具を大量生産させると決意する。これを松本良順を介して江戸中の蘭方医に伝えた。

友光 (ともみつ)

南方仁の大学時代の友人の男性。前髪を眉の上で切って左寄りの位置で斜めに分けた刈り上げヘアで、丸眼鏡を掛けている。体型は細めで鼻が高い。大学時代のある日、仁に青カビからペニシリンを作れないかと質問されて関心を抱き、個人的に研究を始める。後日この結果を仁に知らせ、この研究成果が仁の江戸時代での治療に大きく貢献した。

村田 虎三郎 (むらた とらさぶろう)

旗本小普請組の若い武士で、釣り眉で瘦せた体型をしている。廓に通うためのお金欲しさに辻斬りを繰り返しており、ある日、南方仁を襲うが逃げられてしまう。その後、妙を襲って殺害するが、仁に顔を覚えられていたことから、人相書きを描かれたことで見つかり、捕まった。

ジェームス・カーティス・ヘボン

アメリカ人の中年男性で、アメリカ領事館付の医師を務めている。前髪を上げて額を全開にした、巻き毛の短髪にしている。ふだんは神奈川県の成仏寺に住み、宣教医として日本人の患者たちを無料で治療している。旧暦1862年8月に起きた生麦事件では、ウィリアム・ウイリスと共に負傷したイギリス人の治療にあたった。南方仁とは、勝鱗太郎の紹介で知り合った。この時、麻疹の治療方法について質問していたところ、武士に斬られたイギリス人水兵のポールが運ばれてきたため、仁の手術に立ち会うことになる。そして仁の素晴らしい手腕を目の当たりにし、仁を認めた。その後、澤村田之助の大腿切断手術にも立ち会うこととなる。実在の人物、ジェームス・カーティス・ヘボンがモデル。

忠吉 (ちゅうきち)

舞台用の大道具を作る長谷川家の若い男性で、澤村田之助の幼なじみ。釣り目釣り眉で髷を結い、丸眼鏡を掛けている。小柄な体型で、非常に手先が器用。田之助いわく、次代当主、つまり十四代目「長谷川勘兵衛」になることまちがいなしの天才。南方仁とは、田之助に紹介されて知り合い、その後は手先の器用さを生かして仁の医療器具の制作を行うようになる。

橘 栄 (たちばな えい)

旗本である橘家の主人を務める中年女性で、橘恭太郎と橘咲の母親。夫はコレラで亡くしており、現在は三人暮らし。日本髪を結い、釣り目で釣り眉が特徴。まじめな性格で、非常に頑固な一面がある。そのため、なかなか自分の考えを変えられず、周囲と衝突してしまうこともある。南方仁とは、ある日、恭太郎が脱藩浪人に襲われて大ケガを負い、急性硬膜外血腫となった出来事がきっかけで知り合う。この時、仁が恭太郎の手術を行い、咲と橘栄がその手伝いをしたことで親しくなる。そして、仁に強い恩を感じるようになり、橘家に迎え入れた。その後は仁を信頼しつつも、摩訶不思議な医療を行う仁が周囲からおかしな目で見られないかと心配していた。また、咲が医療に強い関心を持ち、看護師を志すことに不安を覚えていた。それでも咲の縁談が決まり、仁が橘家を去ったために安堵していたが、土壇場で咲が破談にし、橘家を出て行ってしまう。これが原因で栄は体調を崩し、脚気(かっけ)となるが、仁が用意した「安道名津(あんドーナツ)」によって回復。次第に咲が選んだ看護の道にも理解を示すようになる。

(たえ)

本所相生町二つ目の長屋に住む女性で、喜市の母親。喜市といっしょに町で枝豆とゆで卵を売っている。日本髪を結い、細めの体型をしている。穏やかな心優しい性格で、喜市とも仲がいい。ある日、喜市といっしょに働いていたところ、喜市が馬に蹴られそうになり、彼をかばったことで頭に大ケガを負う。しかし、その場に偶然居合わせた南方仁が、すぐに手術を行ったために回復。その後は、麻疹におかされた喜市を、仁といっしょに看病した。だが、喜市が回復した頃、仁にお礼の品を渡しに行く途中、村田虎三郎に切り殺されて亡くなった。

夕霧 (ゆうぎり)

元花魁の女性で、吉原で働いていた。年齢は24歳。髪の毛は禿げ上がり、肌はぼろぼろで体は瘦せ細っている。かつては名のある絵師に浮世絵も描かれており、花魁道中の時には、その姿を一目見たさに何百人もの見物客が押し寄せた。しかし、梅毒にかかってからは床に臥せたきりで、高名な医者による水銀の治療薬も使ったが完治しなかった。そんな中、野風に紹介されて南方仁と出会う。その後も完治することはなかったが、仁の手によって一時的に回復して精神的に救われた。

濱口 儀兵衛 (はまぐち ぎへえ)

実業家の中年男性で、「醬油造りヤマサ」の当主を務めている。たれ目たれ眉で髷を結い、やや眠そうな目つきをしている。雅号は「梧陵」。以前から医療への関心が高く、医学所の前身である「種痘所」の再興や、医学研究に莫大な資材を援助してきた。旧暦1863年に医学所で、緒方洪庵から南方仁と彼が製造したペニシリン溶液について聞き、仁に関心を持つ。そこで洪庵に頼み込み、素性を隠して仁が執刀する茜の手術を見学。その直後、ペニシリン製造場が火災に巻き込まれたことや、洪庵の命のすべてを懸けても、仁の医術を今の世に生かすべきだとの思いに心打たれ、協力と決意を誓う。そして、醬油造りの倉をペニシリン製造所として提供するようになる。実在の人物、濱口儀兵衛がモデル。

ウィリアム・ウイリス

イギリス人の中年男性で、イギリス公使館付の医師を務めている。頭頂部近くまで禿げ上がった頭で、癖のあるもじゃもじゃの短髪が特徴。顎ひげを長く伸ばし、顎は二つに割れている。旧暦1862年8月に起きた生麦事件では、ジェームス・カーティス・ヘボンと共に負傷したイギリス人の治療にあたった。南方仁とは、勝鱗太郎の紹介で知り合った。この時、麻疹の治療方法について質問していたところ、武士に斬られたイギリス人水兵のポールが運ばれてきたため、仁の手術に立ち会うことになる。そして仁の素晴らしい手腕を目の当たりにし、仁を認めた。実在の人物、ウィリアム・ウィリスがモデル。

多紀 元琰 (たき げんえん)

医学館の奥医師であり、陰の実力者。この世のものとは思えぬ高度な医術を扱う南方仁を、医学館の未来を潰しかねない輩として最初は危険視していた。しかし、仁友堂に派遣した福田玄考の探り込みによって、医学館の存続には、仁のもたらす医学との共存が不可欠であると判断し、仁に助力するようになる。 和宮毒殺未遂の嫌疑をかけられた仁の無実を証明した。モデルは実在の医官多紀安琢。

集団・組織

仁友堂 (じんゆうどう)

『JIN-仁-』に登場する医療所。西洋医学所から離れた南方仁が設立した外科診療所。患者の診断、手術の他、ペニシリンの研究をしている。野風の浮世絵が世に広まってからは、野風を一目見ようと見物に来る人々も増えた。

その他キーワード

ペニシリン

『JIN-仁-』に登場する薬。細菌による感染症を防ぐ抗生物質。本来ならば1928年にフレミングにより発見されるはずのものであるが、南方仁が、医学部生時代に友人から聞いていたペニシリンの原始的製造方法をもとに開発・製造した。徐々に改良が加えられ、効用、生産性、携帯性が向上していった。

クレジット

監修

酒井シヅ , 冨田泰彦 , 大庭邦彦

書誌情報

Jin :仁 全20巻 〈ジャンプコミックスデラックス〉 完結

第1巻

(2001年4月発行、 978-4088591742)

第2巻

(2002年4月発行、 978-4088592961)

第3巻

(2003年5月発行、 978-4088593562)

第4巻

(2004年11月発行、 978-4088594477)

第5巻

(2005年12月発行、 978-4088595474)

第6巻

(2006年12月発行、 978-4088596105)

第7巻

(2007年2月発行、 978-4088596273)

第8巻

(2007年5月発行、 978-4088596402)

第9巻

(2007年9月発行、 978-4088596686)

第10巻

(2008年1月発行、 978-4088596846)

第11巻

(2008年5月発行、 978-4088597010)

第12巻

(2008年8月発行、 978-4088597201)

第13巻

(2008年11月発行、 978-4088597409)

第14巻

(2009年4月発行、 978-4088597669)

第15巻

(2009年7月発行、 978-4088597850)

第16巻

(2009年10月発行、 978-4088598024)

第17巻

(2010年1月発行、 978-4088598178)

第18巻

(2010年4月発行、 978-4088598390)

第19巻

(2010年10月発行、 978-4088598598)

第20巻

(2011年2月発行、 978-4088598710)

JIN :仁 全13巻 集英社〈集英社文庫〉 完結

第1巻

(2010年7月発行、 978-4086191548)

第2巻

(2010年8月発行、 978-4086191555)

第3巻

(2010年9月発行、 978-4086191562)

第4巻

(2010年10月発行、 978-4086191579)

第5巻

(2010年11月発行、 978-4086191586)

第6巻

(2010年12月発行、 978-4086191593)

第7巻

(2011年1月発行、 978-4086191609)

第8巻

(2011年2月発行、 978-4086191616)

第9巻

(2011年3月発行、 978-4086191623)

第10巻

(2011年4月発行、 978-4086191630)

第11巻

(2011年5月発行、 978-4086191647)

第12巻

(2011年6月発行、 978-4086191654)

第13巻

(2011年7月発行、 978-4086191661)

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