世界観
動物たちの暮らす現代社会
草食動物や肉食動物、爬虫類、鳥類などの動物たちが現代の人間のように暮らす世界が舞台となっており、動物たちは服を着て、機械を使い、学校や仕事に行くという文明的な生活をしている。作中の登場人物はあくまで動物であるため、人数の数え方は「一匹」で、「一人」とは数えない。また性別も「男」「女」ではなく、「オス」「メス」表記となっている。さまざまな種族が雑多に存在しているため、生来の性質に由来した種族間の溝も存在する。文明的な生活をする動物たちは、その溝に対して生態時間などを作って一定の配慮を行っているが、完全には解消できていない。特に肉食動物と草食動物の食う食われるの関係は根深いもので、本作の世界では肉食動物が草食動物を食べる事を「食殺(しょくさつ)」と言い、最大のタブーとされている。動物観の恋愛も独自なもので、基本は同種族で恋愛をするが、異種族と恋に落ちるケースも存在する。ただし、大型種が小型種に恋愛するなどのケースは倒錯的な性癖を持つとされ、世間の目は厳しい。また異種族間でも子供は生まれるが、胎生や卵生など肉体的な作りが種族的にかけ離れた存在であればあるほど出産の確率は下がり、リスクも大きくなる。生まれた子供は、どちらかの種族の特性を色濃く受け継ぐ。
海洋生物
草食動物や肉食動物などの陸の動物以外にも、魚類をはじめとした海洋生物たちも海で人間のように生活している。ただし海洋生物たちの文明は、陸の動物たちとは言語からして違う別の文明で、海洋生物は陸の動物たちとは違う別の価値観を持って生きている。特に死生観に価値観の違いは強く表れており、海洋生物はたくさんの卵を産んでは食べられる過酷な生存競争を生き抜いているため、生まれ変わって再び親しい仲間と出会う「輪廻転生」を信じ、母なる海に生死を委ねるのを信条としている。このため「食殺」という言葉もなく、海洋生物は種族の違いに寛容な者が多い。貝殻を通貨代わりにしており、陸の動物たちとの取り引きにも貝殻を用いている。海では衣服は存在しないため、海洋生物には衣服を着用する習慣がない。アザラシやトド、ペンギンなどの陸と海、両方で生活できる者は「ハーフ」と呼ばれ、海から出てきて陸で生活する者も存在する。魚類の場合はそのままでは陸上で呼吸できないため、陸に出る場合は専用のエラ呼吸ヘルメットをかぶって陸の動物と交流する。
作品誕生のいきさつ
本作『BEASTARS』の、たくさんの動物がいっしょに暮らす世界を舞台とした話は、作者の板垣巴留が小学2年生の頃に考えていた「宇宙人も動物も恐竜も、いっしょに暮らすというテーマ」がもとになっているとインタビューで語っている。その後、美大で映画を学ぶが、完成まで莫大な労力が掛かる事を知って断念。紙とペンさえあれば映画と似たような事ができると考え、漫画を描き始める。就職活動に失敗後、持ち込んだ漫画が秋田書店の編集者の目に留まる。その後、板垣巴留は『BEAST COMPLEX』を短期集中連載で発表。その独創的な世界観はすぐに話題になり、『BEAST COMPLEX』の本格連載版である『BEASTARS』の連載が決定された。
あらすじ
ハイイロオオカミのレゴシ(第1巻)
肉食動物と草食動物が共に通うチェリートン学園では、アルパカのテムが肉食動物に食い殺される事件が起き、騒然としていた。犯人が何者かわからず、怯える草食動物たち。そんな中、演劇部に通うアンゴラヒツジのエルスは、ハイイロオオカミのレゴシが自分をずっと見ている事に気づく。エルスが一匹になった途端、自身にせまるレゴシを見て、エルスはテムを殺したのはレゴシではないかと怯える。しかし、彼が差し出したのはテムがエルスにあてたラブレターだった。思いを伝えきれずに死んでしまったテムの無念を、レゴシはエルスに伝えたいと思っていただけで、一連の不気味な行動はレゴシなりの気遣いだったのだ。エルスはレゴシを不器用な動物だと思いながら、去っていくレゴシの姿を見送る。
新歓公演「アドラー」(第1巻~第2巻)
演劇部は新歓公演の「アドラー」に向けて準備を始めていた。演劇部の美術チームに所属するレゴシは、役者長であるルイから夜間練習の際の見張りを命じられる。深い世闇の中、退屈していたレゴシはふと草食動物の気配を感じる。レゴシはハイイロオオカミの本能に支配されてウサギを襲ってしまうが、寸でのところでわれに返り、ウサギを逃がす。一方、ルイは夜間練習中にケガをしてしまうが、レゴシたちにそれを周囲に漏らさないように命令する。日が変わり、演劇に使う花をもらいに園芸部に行ったレゴシは、一匹のウサギのハルと出会う。ハルこそが襲い掛かったウサギと確信したレゴシは、ハルに色々尋ねるが、彼女はあの夜の事を覚えていなかった。肉食動物に怯える事なく距離を縮めるハルに興味を覚えるが、それをハルに肉体関係を求めていると誤解される。ハルにせまられるレゴシはとまどい、その場をあとにするも、オスとして求められた事に充実感を感じ、ハルが気になり始めるのだった。新歓公演の本番がせまる中、ルイのケガは悪化する一方だった。それでも無理を押して初日公演をやり切るが、ルイはケガを悪化させて疲労骨折してしまう。急きょ、代役としてビルを指名し、ビルがルイの代役をする事で空いてしまう役を埋めるべく、レゴシも舞台に立つ事となる。初舞台に緊張するレゴシだったが、前向きなビルの姿勢に励まされる。しかしビルは、ウサギの血を景気づけに飲んでいた事を知る。肉食動物の本能に抗うレゴシはビルの態度が許せず、舞台の上で本気の殴り合いを繰り広げる。劇が台無しになる寸前だったが、ルイがアドリブをきかせて舞台は無事に終幕を迎えるのだった。迫真の殴り合いとルイのアドリブで劇は結果的に大成功となり、彼らの活躍は学校中に知れ渡る。
隕石祭(第3巻~第6巻)
新歓公演はなんとか成功に終わり、彼らの過ごす季節は夏へと移り変わろうとしていた。夏の一大イベントの隕石祭を控え、学校の空気は浮ついていた。そんな中、レゴシはひょんな事からハルと再会。彼女といっしょに食事をして、彼女の名前を聞き出す事に成功する。そして日は変わり、レゴシたちの演劇部は隕石祭の準備を手伝う事となる。その準備のために町へと繰り出す事となったレゴシ、ビルを中心とした肉食動物の生徒たちだったが、彼らは町で裏市を見つける。裏市で肉食動物の本能を刺激される生徒たちの中、レゴシは今まで見た社会の裏側に潜むものを知り、愕然とする。仲間たちと別れ、裏市をあとにするレゴシだったが、裏市の番人のゴウヒンに捕まる。レゴシはゴウヒンから肉食動物の現実と自身のあやうさをつきつけられ、あらためてハルとの関係を考え直すのだった。学校に戻ったレゴシはハルに会いに行くが、そこでレゴシはハルとルイの仲睦まじい姿を目撃する。その姿を見て嫉妬に駆られたレゴシは、自らの感情に気づくのだった。さらに同属のジュノからも思いを寄せられ、レゴシの関係は複雑と化すが、レゴシは隕石祭でハルに告白する事を決意する。しかしその直後、ハルが何者かにさらわれる事件が発生する。事件の犯人がシシ組だと知ったレゴシは、ゴウヒンの助けを借りてシシ組のアジトに乗り込む。レゴシは激しい戦いの末、シシ組のボスを倒してハルを救出する事に成功する。そして迎えた隕石祭当日、レゴシはジュノから告白されるが、先輩後輩の間柄と思って無意識のうちに拒み、ハルに思いを告白するのだった。一方、時はさかのぼり、シシ組の騒動の渦中でルイは事情を知りつつも、大人たちから生徒を抑え、静観するように言われていた。しかし、ハルのために駆けつけたルイは、二匹を守るべく、意識を取り戻したシシ組のボスを銃で殺す。そして多数のシシ組の構成員に囲まれたルイは、そのまま彼らに食われる事を選ぶが、シシ組の構成員のイブキから自分たちのボスになれという提案を受ける。ルイは残酷な運命に翻弄されつつも、生きて己を貫くため、シシ組のボスになる事を受け入れ、学園から去るのだった。
大晦日の決闘(第7巻~第11巻)
チェリートン学園の学長は極秘に開催された全生物集結評議会で、長年チェリートン学園からビースターが排出されていないのを問題視される。会議の末、テムが食殺された事件を解決した者をビースターにするという決議が下される。そんな中、学園生活を満喫していたレゴシも学園の警備員のロクメと出会い、彼から食殺事件の犯人を捕まえてほしいと依頼される。テムと交友のある肉食動物は演劇部のメンバーだけであるという情報から、レゴシは演劇部を調べ始める。しかしそんな中、演劇部の新入部員のピナが新たな騒動を巻き起こす。犯人探しと新たな騒動に巻き込まれたレゴシは、ほどなくして食殺の犯人に襲われてケガを負う。犯人からの脅しだと感じたレゴシは、犯人に対抗する力を得るためにゴウヒンを頼る。彼に弟子入りし、レゴシは肉食動物の本能に向き合う事で新たな力を得る。そしてゴウヒンの仕事を手伝いながら修行を続けるレゴシは、地道な捜査を続けて行くうちに、テムを食殺した犯人がリズである事に気づく。タオとキビが引き起こした事件をきっかけに正体を現したリズは、レゴシを脅すが、たまたま一連の出来事を見ていたピナに逆に脅され、その行動を抑止される。リズに勝つための力を蓄えつつ、一触即発な関係を続けるレゴシだったが、ある日、二匹の殴り合いの末、大晦日に決着をつけるとお互いに約束を交わす。レゴシはシシ組のボスとなったルイに立ち合いを頼み、大晦日に向けて準備を進める。そして迎える決着の日、お互いに本音で語り合いつつも、レゴシはリズの力の前に次第に追い詰められていく。そこにシシ組を抜けたルイが駆けつける。レゴシはルイが自ら差し出した右脚を食らい、友の血肉を食らった代償で大きな力を得て、リズと戦う。リズは食う食われるの関係になっても、友情の絆で結ばれたルイとレゴシを前に敗北を認める。リズに勝ったレゴシだったが、食肉を犯した彼は駆けつけた警官によってリズもろとも、捕縛されてしまう。
新たな生活(第12巻~第13巻)
リズを捕えて食殺事件を解決したものの、レゴシはルイを食べた事で食肉前科獣の烙印を押されてしまう。幸い、ルイやリズの証言でレゴシは微罪で済んだものの、食肉を犯した事でその社会的生活は大きな制限を課せられる事となる。また、レゴシとルイの同意のうえの食肉が社会に与える影響を鑑み、レゴシの活躍は伏せられ、ルイが食肉事件を解決したと報じられる。レゴシはその経緯も食肉の罪も受け入れ、食肉を犯した自分なりの生き方を模索するべくチェリートン学園を退学する事を決意。コーポ伏獣での一匹暮らしや、うどん屋「べべべ」でのアルバイト生活を始める。コーポ伏獣の生活は、隣人のセブンや海洋生物のサグワンなど個性的な面々ぞろい。肉を食らった事でレゴシは禁断症状に苦しみつつも、祖父のゴーシャとの再会をきっかけにして少しずつ前向きにがんばろうと決意を固める。そんな中、レゴシは骨肉麻薬をばらまく犯罪者たちに遭遇する。道行く肉食動物に、本人たちも知らないうちに血肉の味を覚えさせようとする犯罪者をレゴシは撃退し、大手柄を上げるのだった。一方、現壮獣ビースターであるヤフヤは風変わりのハイイロオオカミのレゴシが、かつての友であるゴーシャの孫である事を知る。レゴシに興味を持ったヤフヤは、彼に犯罪者を捕えたお礼として餅と手紙を送るのだった。
作風
動物たちが擬人化した作品の中でも、本作『BEASTARS』は、表面上はすべての動物たちが仲よくしつつも、本能から来る種族間の価値観の多様性に焦点を当てている。特に肉食動物が草食動物を食べる「食肉」に関して掘り下げており、文明的で平和な生活をしているが、本能を抑圧されて悩む肉食動物の姿と、そんな肉食動物に対して本能から来る怯えで接してしまう草食動物の姿を緻密に描いている。「動物たちのヒューマンドラマ」がテーマで、異種族同士が仲よく暮らすために種族特有の本能を抑圧するという、矛盾した社会の状況や相容れぬ異種族同士でありながら友情や恋愛を感じるという、若者の葛藤が巧みに表現されている。このため、日常の和気藹々(あいあい)とした景色の中で、突然肉食動物の本能が表れ、凄惨な展開が繰り広げられたり、肉食動物が草食動物に友情を感じつつも食欲を感じてしまったりするなど、ギャップの激しい作風となっている。またヒューマンドラマだけあり、キャラクター一匹一匹に誕生日や血液型など細かいプロフィールが決められており、作中の遷移に合わせて身長や体重などが細やかに変化している。これらの詳細なプロフィールは、コミックス巻末などに記載されている。
関連作品
本作『BEASTARS』の世界観は、本作の前に短期集中連載された『BEAST COMPLEX』を原型にしている。『BEAST COMPLEX』は板垣巴留のデビュー作を含む、6作品の短編が収録されており、それぞれ草食動物と肉食動物のドラマを描いている。『BEASTARS』は『BEAST COMPLEX』が人気を博して本格連載に至ったという経緯がある。
評価・受賞歴
本作『BEASTARS』は、2018年に「このマンガがすごい! 2018」オトコ編第2位、第22回「手塚治虫文化賞」新生賞、第42回「講談社漫画賞」少年部門、第21回「文化庁メディア芸術祭賞」マンガ部門新人賞、「マンガ大賞2018」大賞など、数々の賞を受賞している。
登場人物・キャラクター
レゴシ
チェリートン学園に通う生徒の一匹。種族はハイイロオオカミで、性別はオス。本編開始時点では高等部2年生で、年齢は17歳。身長は185センチ、体重は71キロ。誕生日は4月9日のおひつじ座で、血液型はO型。物静かでおとなしい性格ながら、不器用で人付き合いが下手なため、草食動物たちからは恐ろしい存在だと思われがち。演劇部の美術チームに所属する。虫が好きで、死にかけているカブトムシを保護して飼っている。肉食動物であるが、肉食の本能を抑え込み、たびたび湧き出す肉食の欲求に翻弄されている。そんな中、ハルと出会って彼女に惹かれていく。ゴウヒンに弟子入りし、レゴシ自身の中の草食動物への思いに向き合ってからは、本能を抑え込む事に成功する。ハイイロオオカミであるために嚙む力が強かったが、本能を抑え込んで以降は嚙む力が衰えた代わりに、強靱な四肢を手に入れた。食殺事件の犯人がリズだと気づいて以降は、リズ自身を救うために通報せず、自分の手で決着をつける事を決意。大晦日の決闘で、ルイの右足を食べて肉食動物の力を解放して勝利する。しかし、その代償として食肉前科獣となってしまう。一度食肉の禁忌を犯したため、禁断症状に悩まされており、チェリートン学園を退学する事を決意。自分なりの生き方を模索するべく、コーポ伏獣での一匹暮らしや、うどん屋「べべべ」でのアルバイト生活を始める。実は祖父はコモドオオトカゲのゴーシャで、その体には異種族の血が流れている。
ルイ
チェリートン学園に通う生徒の一匹。種族はアカシカで、性別はオス。本編開始時点では高等部3年生で、年齢は18歳。身長は172センチ、体重は53キロ。誕生日は3月29日のおひつじ座で、血液型はA型。ホーンズ財閥の御曹司で気品にあふれている。演劇部に所属し、役者チームのリーダーである役者長を務める。人望と才能に恵まれた優等生で、次期ビースターと目されている。しかし実は裏市で生き餌として飼育され、跡取りを欲したオグマに買われた過去があり、内心では過去を知られる恐怖や周囲の期待からくる重圧、ルイ自身が草食動物である事への劣等感を感じていた。その中でハルは唯一、等身大の自分を見てくれた存在として好意を抱いており、肉体関係を持っている。ハルがシシ組にさらわれた際は、市長から自身の過去を持ち出されたうえで、学校で生徒を抑える役目を任される。何もできない状況に追い込まれてルイ自身の無力さを痛感したうえで、レゴシにハルは自分がもらうと宣言される。その後、レゴシがハルを助けた場面にひそかに駆けつけており、レゴシを銃で狙っていたシシ組のボスを銃で撃ち殺して二匹を助けている。その後はルイ自身もシシ組構成員にあえて身を投げ出して食われるつもりだったが、イブキにその度量を買われてシシ組のボスとなる。その後はシシ組のボスとして学校の仲間たちと決別し、組織の勢力を拡大させていく。しかし、レゴシにリズとの決闘の立会人を請われ、大晦日にフリーに見送られてシシ組を脱退。レゴシのもとへ駆けつけ、苦戦していた彼に自らの右脚を差し出した。その後は、失った右脚を義足にして学校に舞い戻り、卒業式にも出ている。レゴシの名前が伏せられたため、実質的にリズを捕まえた英雄となるが、本人はレゴシに尻拭いを押し付けられたと不満に感じている。このため、青獣ビースターの称号授与の話も固辞している。卒業後は大学に進学する予定。
ハル
チェリートン学園に通う生徒の一羽。種族はドワーフ種のウサギで、性別はメス。本編開始時点では高等部3年生で、年齢は18歳。身長は105センチ、体重は15キロ。誕生日は10月19日のてんびん座で、血液型はO型。愛らしい外見をしているが、そのせいで周囲が自分を赤ん坊のような「弱者」としか見ない事に絶望を抱いていた。そのため、ほかの動物と唯一対等な存在になれる性行為の時間に充実感を感じ、多くの動物と肉体関係を持つようになる。その行為は噂として学校中に広がっているため、友人と呼べる存在はおらず、同性の生徒からもいじめを受け、孤立している。そんな境遇から学校内の事情に疎く、ルイの評判も知らず、等身大の存在としてルイと交流を重ね、お互いに惹かれ合っていく。しかし、ルイとは肉体関係を持ちつつも、異種族で結ばれない運命にある事から本心を伝えられずにいる。レゴシに一度襲われたが、その際の記憶をなくしている。そんな経緯をきっかけにして、レゴシに強く意識される存在となった。シシ組のボスに食材としてさらわれた事件では、死を覚悟した状況でレゴシに助けられた事で彼を一気に意識するようになる。その後、隕石祭でレゴシに告白され、彼と順調に仲を深めていく。しかし、レゴシが退学以降は彼が律儀に秘密を守り、事情を説明しなかったのが仇となり、だんだん距離が離れていってしまう。
ジャック
チェリートン学園に通う生徒の一匹。種族はラブラドールレトリバー種のイヌで、性別はオス。登場時点では高等部2年生で、年齢は17歳。誕生日は12月22日で、血液型はO型。身長は167センチ、体重は55キロ。学年トップの成績を誇る優等生で、レゴシとは幼い頃から付き合いのある親友同士。寮ではレゴシと共に701号室に住んでいる。イヌはオオカミから品種改良して生まれたため、「作りもの」として同級生に馬鹿にされていた。本物のオオカミのレゴシにも当初は劣等感を抱いていたが、一度ケンカをした事をきっかけに仲よくなる。その後は、肉食動物でありながらどこか純粋な部分があるレゴシの成長をそばで見守ってきた。レゴシの家庭の事情も知っており、レゴシにとって唯一の理解者。ただし、レゴシがハルと出会って以降は、レゴシの変化や奇行にやきもきしている。レゴシが退学して以降は、コーポ伏獣の住所を教えてもらっており、友人を引き連れてレゴシのもとを訪れている。また、レゴシの祖父のゴーシャにレゴシの住所を教えた。寂しがり屋でレゴシが退学して以降は、彼が残していったサイズの合わない大きな寝巻きを愛用している。
ビル
チェリートン学園に通う生徒の一頭。種族はベンガルトラで、性別はオス。登場時点では高等部2年生で、年齢は17歳。血液型はB型。演劇部の役者チームに所属する。陽気で人当たりがいい動物で、ルイからもその世渡り上手な部分と熱心に役者として練習をしている部分は認められていた。そのため、ルイが疲労骨折で新歓公演「アドラー」の役ができなくなった際、直々にアドラーの代役を頼まれている。実は不良の生徒とも付き合いがあり、ひそかに草食動物の血液を入手し、それを使って肉食動物の本能から来る欲求を満たしていた。ビル自身が肉食動物である事を受け入れ、それを誇りに持った生き方をしているため、真逆の行き方をするレゴシとはたびたび衝突している。アドラー2日目の舞台では、本番中にレゴシと本気の殴り合いをする。真にせまった戦いとルイのアドリブで結果的に劇は大成功となり、それ以降はレゴシとは反発しつつも本音を語り合う仲となる。ルイたち3年生が卒業後は、次期演劇部部長に任命される。またレゴシが退学したあともレゴシとは交流を続けており、コーポ伏獣のレゴシの部屋を訪れている。
ジュノ
チェリートン学園に通う生徒の一匹。種族はハイイロオオカミで、性別はメス。登場時点では高等部1年生で、年齢は16歳。身長は170センチ、体重は51キロ。誕生日は2月12日生まれの水瓶座で、血液型はAB型。演劇部の役者チームに所属する。美しい容姿をしているが、肉食動物であるためにいわれのない中傷を受ける事もある。そんな境遇に理不尽さを感じており、肉食動物が日の当たる場所で輝けるようにしたいと考えている。同学年の生徒に襲われているところを、レゴシに助けられて彼に強く惹かれる。レゴシがハルに惹かれているのを知り、彼女に対抗心を抱きつつ、隕石祭では衆人環視のもと、レゴシがハルを助けた事を称え、告白をする。しかし、レゴシからは恋愛対象として見られておらず、告白も通じていなかった。隕石祭での行動とルイの失踪で次期ビースターと目されるようになり、新年公演では「アドラー」の役を授かる。レゴシへの思いはあきらめきれずにいるが、ルイの行方を追って再会後の彼から本心に触れる事でルイにも惹かれ始める。ルイの卒業式では彼とキスをする。異種族恋愛の難しさからルイにあえてつき放されるが、ルイも内心では強く意識していた。
ピナ
チェリートン学園に通う生徒の一匹。種族はウシ科のドールビッグホーンで、性別はオス。登場時点では高等部1年生で、年齢は16歳。身長は174センチ、体重は55キロ。誕生日は12月27日で、血液型はB型。偶蹄類として誇りを持った生き方をしており、ピナ自身の角に絶対の自信を持っている。また女遊びが趣味で、角の生えたメスなら誰でも受け入れるストライクゾーンの広さを持つ。そのため、現在は5股を掛けている。隕石祭以降、姿を消したルイと入れ替わる形で演劇部に入部し、役者チームに所属する。マイペースな性格で自信家。ルイの代わりに花形役者となろうとするも、入部早々の発言で部内の肉食動物と草食動物の対立をあおり、肉食動物から大きな反感を買っている。ひょうひょうとした態度を取る事が多いが、頭の回転は早く、度胸もある。リズがレゴシに対して正体を現した際も、いつもの調子で彼らに接し、一触即発の状態を防ぎ、言葉だけでリズの行動を大幅に制限する。大晦日の決闘ではレゴシに本気を出させるため、リズに捕われる。リズは殺したと言っていたが生きており、監禁場所から自力で脱出して通報する。結果的にレゴシが食肉前科獣として逮捕される原因となる。
ボス
チェリートン学園に通う生徒の一匹。種族はフェネックで、性別はオス。登場時点では高等部2年生で、年齢は17歳。誕生日は2月14日で、血液型はA型。身長は40センチ、体重は15キロ。寮の部屋番号は701号室で、レゴシのルームメイト。小柄な見た目に反して強気な性格の持ち主。レゴシに対しても口悪く接するが、口が悪いのは気を許している証拠であり、基本的にレゴシとも仲がいい。小動物であるため、移動に一苦労していたが、隕石祭以降はレゴシが周囲に気をつかえるようになったので、彼に移動を手助けしてもらっている。
コロ
チェリートン学園に通う生徒の一匹。種族はイングリッシュシープドッグで、性別はオス。登場時点では高等部2年生で、年齢は17歳。誕生日は10月30日で、血液型はAB型。身長は177センチ、体重は67キロ。寮の部屋番号は701号室で、レゴシのルームメイト。レゴシに並ぶ大柄な体格をしており、名前が記入されていないレゴシとコロの下着が混同する騒ぎを引き起こしている。ふだんは前髪を伸ばして目の部分を隠しているが、強い目力を持っているため、目を出したら女子はたちまちとりこになるらしい。
ミグノ
チェリートン学園に通う生徒の一匹。種族はブチハイエナで、性別はオス。登場時点では高等部2年生で、年齢は17歳。誕生日は8月2日で、血液型はA型。身長は160センチ、体重は51キロ。寮の部屋番号は701号室で、レゴシのルームメイト。ハゲワシの友達と「残飯処理」というバンドを組んでギターを担当している。
ダラム
チェリートン学園に通う生徒の一匹。種族はコヨーテで、性別はオス。登場時点では高等部2年生で、年齢は17歳。誕生日は7月7日で、血液型はB型。身長は170センチ、体重は60キロ。寮の部屋番号は701号室で、レゴシのルームメイト。いつも機嫌が悪そうな顔をしており、同じく怖い顔をしているレゴシとは「強面同盟」を組んでいる。相撲好きで、卒業までにレゴシに相撲で勝つのを目標としている。
キビ
チェリートン学園に通う生徒の一匹。種族はアリクイで、性別はオス。演劇部の美術チームに所属し、役者の着る衣装をそろえる仕事をしている。アリシェイクが大好物。ハルの評判を知っており、園芸部に訪れた際には、彼女との会話をレゴシに押しつけた。年末に冬公演の準備をしている際、ストレッチ中に右腕をタオにもがれてしまう。重症を負った事で錯乱して肉食動物を拒絶するが、唯一レゴシだけは受け入れ、彼に運ばれて治療される。四肢の縫合手術を受けて、無事に右腕はつながり、現在はリハビリを受けている。罪悪感に苛まれつつ見舞いに来たタオと右腕で握手をして和解した。
タオ
チェリートン学園に通う生徒の一匹。種族はクロヒョウで、性別はオス。演劇部の役者チームに所属する。年末に冬公演の準備で、キビのストレッチを手伝っている際に、力の加減を誤ってキビの右腕をもいでしまう。チェリートン学園ではまれにある事故として処理され、タオ自身も2週間の停学処分を受ける。だが、キビに対して強い罪悪感を抱いており、彼の見舞いに行った際も痛々しい彼の姿を見て近づけずにいた。しかしキビの方から歩み寄り、治療を受けた彼の右腕と握手した事で和解した。
アオバ
チェリートン学園に通う生徒の一羽。種族はハクトウワシで、性別はオス。登場時点では高等部2年生で、演劇部の役者チームに所属する。ビルと仲がよく、彼の話をいつも聞いている。裏市では、肉食動物の本能を押さえ込む葛藤を知るために頑なに肉食を拒絶するレゴシを批判する。しかし、内心では仲間の草食動物の事で頭がいっぱいで、その後肉を食べずに裏市をあとにし、レゴシに謝罪した。長く付き合っている彼女がいるらしく、レゴシの草食動物に向ける感情を「信仰」と評し、恋愛はもっと気楽に楽しめと助言をした。
リズ
チェリートン学園に通う生徒の一頭。種族はヒグマで、性別はオス。登場時点では高等部2年生で、演劇部の音響チームに所属する。ハチミツが大好物。温和な顔立ちをしており、朗らかで面倒見のいい性格をしている。ふだんは「ハチミツが大好きな大きくておとなしいクマさん」を演じているが、実はテムを食殺した犯人。身長が2メートルを超えた事で、薬物投与によって筋肉を弱める義務を課せられていた。食肉衝動はハチミツを舐めて誤魔化していたが、本能が抑圧される事に強いストレスを感じる。そんな中、裏表なく接するテムに悩みを話す事で悩みが軽減される。テムにあるがままの自分を理解してもらうため、薬を飲まずに会うが、テムの「怪物」という言葉でわれを失って食べてしまう。テムとの思い出を守るため、その所業をテムとの真の友情の結果と美化し、「食」は「友情」という歪んだ思想を持つに至る。レゴシとピナに正体がバレたあと、大晦日に決着をつけると宣言した。大晦日の決戦では自分の心の弱さを吐露し、レゴシと本音でぶつかり合う。そしてレゴシの危機に駆けつけたルイとレゴシの本当の友情の前に破れ、完敗を認める。その後はテムを食殺した事が明るみに出て、警察に逮捕された。
エルス
チェリートン学園に通う生徒の一匹。種族はアンゴラヒツジで、性別はメス。演劇部に所属し、ダンスチームを担当する。漫画が好きで、ビルと仲がよく、漫画を貸りる事もある。レゴシを怖がっていたが、テムのラブレターを渡されて、彼を不器用で優しい人と評する。その後は、レゴシとは部内でたびたび会話している。ビルやレゴシとの交流を経て、肉食動物との交流にも前向きになり、年末のチェリートン学園の肉食草食の完全別学化のお知らせの際にはビルに発破をかけて、共に反対運動を行った。
シイラ
チェリートン学園に通う生徒の一匹。種族はヒョウで、性別はメス。登場時点では高等部3年生で、年齢は18歳。演劇部に所属し、ダンスチームのリーダーである振り付け長を務める。金欠で14歳の頃に「肉食メスクラブ」というクラブで女王様の役をアルバイトでやっていたところ、演劇部にスカウトされた過去を持つ。最近は動物たちのあいだで流行っているSNS「ビーストブック」で、草食動物と肉食動物がいっしょに写っている写真が人気となり、クラスメートから写真を撮るたびに呼び出されるのに辟易している。ジュノにその事を相談して以降は、クラスメートのピーチに自分の方から歩み寄り、仲よくなった。
レゴム
チェリートン学園に通う生徒の一羽。種族はニワトリで、性別はメス。レゴシはクラスメートで、名前順で座るため、となりの席同士。レゴシとは親しい関係ではないが、物静かで困り顔のレゴシを内心「八の字」と呼んでいる。無精卵を産んで、食堂に売るバイトをしており、レゴシが好んで食べているたまごサンドウィッチはレゴムが産んだ物が使われている。レゴシとはあまりしゃべらないが、自身のたまごサンドウィッチを好んで食べる彼をレゴムのたまごの顧客第一号として認定している。レゴムのたまごを使ったサンドウィッチは水曜日に販売されていたが、彼女の努力によって卵の品質が上がり、お客が多い金曜日に販売されるようになった。レゴシがその事に気づかず、水曜日のたまごサンドウィッチの味が変わった事に残念がっているのを知っており、彼が金曜日のたまごサンドウィッチに気づくのを心待ちにしている。
テム
チェリートン学園に通う生徒の一匹。種族はアルパカで、性別はオス。第二講義室で何者かに襲われて殺された。演劇部に所属しており、レゴシとは友人同士。エルスに片思いし、ラブレターを用意していたが、恥ずかしがって渡せずにいた。思った事をそのまま口に出してしまう率直な性格をしており、大型肉食動物であるリズに対しても物怖じせずに思った事をそのまま伝えていた。リズからは自分の理解者として強く信頼されていたが、その思いが暴走して最終的にリズに食べられてしまう。
ゴウヒン
裏市の番人を務める。種族はジャイアントパンダで、性別はオス。登場時点での年齢は39歳。身長は205センチ、体重は103キロ。誕生日は6月9日の双子座で、血液型はO型。心療内科を務める医者で、肉食動物が草食動物を襲って食べるというタブーを引き起こさないように、錯乱した肉食動物のカウンセリングを行っている。襲い掛かる肉食動物を抑え込むため、笹を食べて体を鍛え上げており、筋骨隆々とした肉体を持つ。本能に目覚め、肉食に依存して中毒状態となった肉食動物たちを捕まえ、その治療を行っている。ただしあくまで行うのは治療のみで、世直しのための逮捕などはする気はない。治療した肉食動物たちから治療費は受け取っていないが、一般の病院では手に負えない凶悪な肉食動物を患者として受け入れる裏市に欠かせない存在のため、複数の大病院から多額の出資を受けている。裏市を訪れて錯乱したレゴシを捕え、彼にゴウヒン自身の危険性を認識させる。その後、レゴシから大人として頼られる事が多く、シシ組の事件では彼の手助けをした。またテムの食殺事件の犯人を捜すレゴシが頼ってきた際には、彼に修行をつけた。
ゴーシャ
レゴシの祖父。種族はコモドオオトカゲで、性別はオス。異種族恋愛の末、ハイイロオオカミと結ばれ、娘に恵まれた。実はヤフヤとは若い頃、親友同士で当時は種族間の闘争に必ず現れ、圧倒的な強さで全種族を恐怖で震え上がらせた存在だった。ヤフヤと二匹でいっしょにビースターになる「ビースターズ」を目指していたが、異種族恋愛の末、その夢をヤフヤに託してあきらめた。コモドオオトカゲは口から毒を吐き出すため、世間的に偏見の目で見られる事が多く、結婚などにも制限が多い。また、ハイイロオオカミとのあいだに子供を授かる可能性も極めて低いが、ゴーシャは奇跡的に授かったため、それを機に家族のために生きる事を決心した。しかし世間的には結婚は認められておらず、戸籍上は孫のレゴシとも他人扱いとなっている。
オグマ
ホーンズ財閥の社長を務める、ルイの義理の父親。年齢は46歳。種族はアカシカで、性別はオス。冷静沈着な性格の上品な風格を漂わせた牡鹿で、ルイからも何を考えているのかわからないと評される。生まれつき子供を作れない体で、13年前、裏市で生き餌として売られていた5歳のルイを買う。生き餌を買ったのは身寄りがないのが都合がよかったからだが、ルイのひたむきさから来る愚行を気に入っており、内心では親子の情を持っていた。シシ組のボスとなったルイに拳銃で脅されても眉一つ動かさず、逆にオグマ自身の意思を彼に押し通すほど徹底した鉄面皮だが、その後はルイの写真を見る時間が増え、内心では心配していた。大晦日以降、ルイが戻って来た際には、ルイがオグマと向き合う決心を固めたのもあり、ビジネスな話に加えて親子の会話をした。
ヤフヤ
壮獣ビースター。種族はウマで、性別はオス。350度の広い視野を持つため、ふだんはそれを抑えるための目隠しをしている。目隠しをしているが、目元まで持ってくれば書類の類いは確認できる。手作りのニンジンジュースが好物で、よく自分で作っている。強者はすべてを支配する権利を持つが、同時に強者は優しくなければならないという信念を持ち、神出鬼没に現れて動物たちの犯罪や不正を撲滅し、虐げられる弱者たちを助けている。一方、歴代ビースターの中で唯一、政治やメディアにいっさい関与していないため、表社会では死亡説すら流れており、その存在は「生きとし守護神」の異名で呼ばれ、都市伝説扱いされている。ゴーシャとは36年前、共に二匹でいっしょにビースターになる「ビースターズ」になる目標を掲げていた。しかし、ゴーシャがハイイロオオカミと恋に落ちて夢をあきらめた経緯を持つため、ビースターは孤独でなければならない、異種族愛は災いを生むという価値観を持つに至っている。現在もゴーシャには愛憎入り乱れる複雑な執着を見せるが、ゴーシャと再会した際、彼のあまりの変わりように毒気を抜かれる。その後、食肉前科獣や骨肉麻薬組織捕縛で世間を騒がしたゴーシャの孫のレゴシに興味を持ち、彼に餅と手紙を送りつけた。
イブキ
シシ組の構成員。種族はマサイライオンで、性別はオス。登場時点の年齢は35歳。身長は192センチ、体重は85キロ。誕生日は11月3日で、血液型はB型。趣味はタバコと読書。シシ組の実質的なNo.2で、ボスがルイに殺されたあと、ビースター最有力候補と謳われるルイをボスにする事を提案する。そのもくろみは成功し、ルイの手腕でシシ組はさらなる躍進を遂げる事となる。実は貧しいライオン一家の生まれで、12歳の頃に威怪薬の店に売り飛ばされた過去を持つ。商品になる前に逃げ出す事に成功するが、体中に威怪薬の素材である事を示す刺青が残っている。表社会出身なため、シシ組の中でもインテリに属し、ボスとして振る舞おうとするあまりに憔悴するルイとも対等に接した。そのうち、草食動物でありながら肉食動物と対等に接するルイに本当に心酔するようになる。陰ではルイを内心で軽視していた構成員を脅迫したり、フリーにイブキ自身がルイに危害を与えそうな時は、銃で撃てと命令したりしていた。ルイが表社会に帰ろうとした際、あえてシシ組のライオンとしてルイに襲い掛かり、フリーに殺される。そして、後悔のない安らかな死に顔をルイに看取られた。
フリー
シシ組の構成員。種族はインドライオンで、性別はオス。登場時点の年齢は30歳。身長は188センチ、体重は72キロ。血液型はA型。ビリヤードが趣味。上半身の前面に「猫邪羅死」と大きな刺青を彫っているのが自慢。明るく軽薄な性格で、抗争前に必ずマタタビを吸うなど言動も無責任な物が多かった。しかし、ルイがシシ組のボスになって以降は、次第に彼を認めるようになり、ボスを守るという責任感を持つようになる。イブキからも信頼が厚く、彼からもし自分が肉食動物としてルイを襲ったら銃で撃ち殺せと命令を受けていた。大晦日の晩、ルイに襲い掛かるイブキを言いつけを守って撃ち殺す。イブキの最後の遺志を汲んでルイを表社会の入り口まで送り届け、ルイを次に見かけたら食い殺すという約束を交わして見送った。
ロクメ
チェリートン学園唯一の警備員。種族はガラガラヘビで、性別はオス。体の模様が四つの目のような形をしているため、学内では変な音を出す六つ目のお化けの怪談として噂されていた。ふだんは身を隠してこっそり学内を監視し、問題行動を起こしそうな生徒には陰から警告するのにとどめているため、その存在を知る者は少ない。新歓公演で舞台に立ったレゴシの姿を見て以降、彼に興味を示し、レゴシに対してストーカー紛いの行動を取って彼の近辺を調べる。その結果、レゴシを信頼に足る動物だと認識して彼の前に姿を現し、食殺事件の犯人探しを依頼した。
セブン
コーポ伏獣の住人。部屋は503号室。種族はメリノ種のヒツジで、性別はメス。年齢は29歳。大手スポーツメーカー「メタルマウス」に勤めている。幼い頃からスポーツ用品が好きで、高学歴なのとスポーツ用品への情熱で就職に成功した。職業上、オスの肉食動物が圧倒的に多い職場で、同僚の肉食動物たちから陰湿ないじめを受けていた。会社内では本名で呼ばれる事もなく、ラム肉を意味する「ラム」の名で呼ばれる。花形の営業部に所属しているのを心のよりどころにしていたが、部署異動で接待要員となり、遂に心が折れてしまう。その後は無意識のうちに自殺願望に心が冒され、初対面の肉食動物であるレゴシの目の前で、自ら食べられようとする。しかし、逆にレゴシに説教をされた事で心を持ち直した。部署異動を機に高級マンションを引き払って引っ越しするつもりで、不動産屋を訪れた際にレゴシと再会。コーポ伏獣にはレゴシと同時期に引っ越し、おとなりさん同士となる。年下だが強力な肉食動物であるレゴシと当初は距離を測りかねていたが、少しずつお互いへの理解を深めていく。
サグワン
コーポ伏獣の住人。種族はゴマフアザラシで、性別はオス。海洋生物のハーフで、最近海から出てきて陸で住んでいる。陸の書物を海洋語に翻訳する仕事がしたくて、その勉強のために陸に出てきた。海洋生物でもあるため、独特の価値観と寛容な精神を持ち、彼の生死観はレゴシに大きな衝撃を与えた。海洋生物は衣服を着用する習慣がないため、海では全裸で過ごしていた。陸には衣服の文化があると知りつつも、現在もその癖が抜けきらず自室では全裸で過ごしている。
エビス
コーポ伏獣の住人。部屋は304号室。種族はカラスで、性別はオス。希少なアルビノで、ふつうのカラスと違って真っ白な毛並みを持つ。その希少性から犯罪者たちにその身を狙われており、現在はコーポ伏獣に暮らしながらエビス自身の身を守るため、体を鍛えている。
ムギ
コーポ伏獣の住人。部屋は202号室。種族はシバイヌで、性別はオス。シバイヌは動物たちのあいだで人気者らしく、カレンダーのグラビア撮影を主な仕事としており、年末年始の収入だけで1年分の生活費を賄っている。
ボーグ
コーポ伏獣の住人。部屋は201号室。種族はツキノワグマで、性別はオス。大柄な体格で眼鏡をかけている。ボーグ自身の種族をウサギと偽って小説家として活動している。
オイゲン
コーポ伏獣の住人。部屋は403号室。種族はヨークシャーブタで、性別はオス。剥製師で、生き物の美しい姿を保ったまま剥製にするのを誇りに思っている。
フィーナ
コーポ伏獣の住人。部屋は602号室。種族はスナネズミで、性別はメス。年齢は31歳。広告代理店で働くオフィスレディ。小動物であるために移動にも一苦労で、通勤時間は体の小さいネズミにとって命の危機が付きまとう。そのため、毎日ライカの背に乗って通勤しており、代償として彼の生活の面倒を見て養っている。喫煙家で時々、煙草を吸っている。
ライカ
コーポ伏獣の住人。602号室で暮らしているフィーナに養われているヒモ。種族はオオワシで、性別はオス。年齢は21歳。自らがヒモである事を平気で公言する、陽気で軽薄な性格をしている。フィーナからもいい加減な男と思われているが、飛行免許を持っており、運転が上手。彼女から、毎日の通勤と雑用を手伝う代わりに生活の面倒を見てもらっている。
アイ
ゴウヒンの病院の患者。種族はチベットスナギツネで、性別はメス。肉食動物界随一のポーカーフェイスといわれるチベットスナギツネであるため、無表情である事が多く、感情を表に出さない。食殺をしたところ、ゴウヒンに捕まって治療を受ける。当初は食殺をした罪悪感から逃げるため、心を閉ざしていたが、ゴウヒンといっしょにいるうちに少しずつ感情を取り戻す。食殺前は大学に通っていたが、第一志望の大学に落ちた事と、草食動物至上主義の教育でストレスを溜め、ウサギのホームレスに絡まれた事でついに溜まった不満を爆発させてしまう。本来は情深い性格をしているため、ゴウヒンは治療を早期に切り上げ、そばに寄り添う事でケアした。完治のあとは、退院祝いでゴウヒンと会話をして警察に出頭する決心を彼に伝える。
コナ
アルガマ地区担当の警察官。種族はマウンテンゴリラで、性別はオス。コーポ伏獣の治安の悪さを懸念しており、たびたびコーポ伏獣の周囲を巡回している。骨肉麻薬の捜査の際にもコーポ伏獣を訪れ、セブンに注意喚起した。
集団・組織
演劇部 (えんげきぶ)
チェリートン学園の部活動の一つ。本編開始時点で33名の生徒が所属している。部員は訳ありの生徒が多いが、これは顧問が「生き様を見せる」という裏テーマにのっとってスカウトしているため。毎年、10匹から20匹ほどの中学1年生が顧問にスカウトされ、入部している。演劇部は演出担当を頂点に、その下に部長、さらにその下に各チームのリーダーと台本担当が集まり、運営されている。チームは「役者チーム」「美術チーム」「音響チーム」「ダンスチーム」の四つが存在する。
シシ組 (ししぐみ)
裏市を取り仕切る犯罪組織。「シシ」の名のとおり、ボスはライオンが務めている。構成員も35頭のライオンで構成されている。食殺をビジネスにし、見せしめとして草食動物の死体をアジトの前につるす凶暴極まりない組織で、裏市でも恐怖の象徴となっている。しかし近年はボスのワンマン経営が祟り、敵を作りすぎて裏社会でも孤立していた。ボスがルイに殺されて以降、イブキの提案でルイが新たなボスとなる。草食至上主義に傾いている社会で、ビースター候補であるルイをボスにするという試みはうまくいき、シシ組は草食動物を商品として扱う裏市で一気に勢力を拡大した。
場所
チェリートン学園 (ちぇーりとんがくえん)
肉食動物と草食動物が共に通う全寮制の学校。中高一貫のエリート高校で、全国で最も多く壮獣ビースターを輩出している名門。草食動物と肉食動物が共に暮らせるように配慮をしているが、種族間の軋轢は根深く、また数年に一度は力加減を誤った肉食動物によって草食動物がケガを負うような事故も起きている。このため、肉食動物と草食動物の活動場所を完全に分ける完全別学化の動きもあるが、同時に肉食動物と草食動物の共学を止めるべきではないという、生徒たちの声も多数存在する。
コーポ伏獣 (こーぽふくじゅう)
築56年のオンボロ安アパート。風呂は付属されておらず、トイレと洗面台は共用。地上6階建てで、家賃は2万5千円となっている。都心のセンター街まで電車で10分、裏市までは徒歩で10分で行けるが、裏市が近いために周辺の治安はよくない。また、草食動物や肉食動物問わずに住める規制のゆるいアパートであるため、家賃が安くなっている。チェリートン学園を退学したレゴシが部屋を借りて、住み始める。
その他キーワード
隕石祭 (いんせきさい)
すべての動物たちの祖先である、恐竜の霊を迎え入れるために行われる夏の一大イベント。恐竜たちが隕石で絶滅したのが夏だったとされるため、毎年、暑い夏の時期に開催される。祭りの会場は中央に大きな隕石の張りぼてが置かれ、その周囲に恐竜の張りぼてが至るところに飾られる。祭りが行われる夜には蠟燭によって盛大に点灯され、祭り会場は華やかな明るさに包まれる。また隕石の張りぼての点灯式で、いっしょに蠟燭を置いたカップルは必ず結ばれるというジンクスが存在する。
全生物集結評議会 (ぜんせいぶつしゅうけつひょうぎかい)
全種族の長が集まって行う評議会。極秘の評議会で、開催される際は評議会の中央に置かれた液体の入った壺に、全種族の長全員が体の一部を投入するという儀式を行う。この儀式は「評議会の内容は決して口外しない」という誓いを立てるもので、全種族の体の一部が入る事で、壺の液体は青く染まる。評議会の内容はビースターの排出にも深くかかわっており、チェリートン学園が長年、ビースターを排出しなかった事も問題視され、食殺事件を解決した者を青獣ビースターにすると約束をさせられた。チェリートン学園の学長は全種族の価値観が違いすぎて、円滑に意見交換できるはずがないと考えており、評議会の結論はロクな事にならないと嘆いていた。
ビースター
動物たちの中で目覚ましい活躍をした者に送られる英雄的称号。全国の大きな学園の中で生徒が選ばれる「青獣(せいじゅう)ビースター」と、その青獣ビースターたちが卒業後、特訓を受け、その中からさらに最も優秀な動物が選ばれる「壮獣(そうじゅう)ビースター」が存在する。歴代の壮獣ビースターは学園卒業後、政治家やスポーツ選手となり、世界の牽引役となっているため、学園の動物でこの称号の事を知らない者は存在しない。チェリートン学園出身の青獣ビースターは、最も多く壮獣ビースターとなっているために名門学校とされていたが、ここ5年ほどは青獣ビースターを輩出しておらず、問題視されている。
生態時間 (せいたいじかん)
動物たちが自分の生態に合った部屋で過ごす時間。この世界の法律で、動物たちは健やかに過ごすため、2日に1回、1時間程度、各種族に合わせて調整された部屋で過ごさなければならない決まりとなっている。チェリートン学園では生態時間のある日を「生態の日」としており、校舎の地下に生態時間に使う各部屋を備えている。部屋の設備は各種族によって違い、レゴシたち、オオカミの部屋は月を再現した灯りで月光浴ができる部屋となっている。
裏市 (うらいち)
肉食動物が法律で禁止された肉を秘密裏に取り引きする市場。草食動物や幼い動物には秘密にされているが、成人した肉食動物たちのあいだでは半ば公然の秘密となっている。裏市で出回っている肉は、主に葬儀屋や病院がひそかに提供しているものだが、中には自分自身の肉を身売りしている草食動物も存在する。また「生き餌」として専門に育てられた草食動物たちも一定数存在する。生き餌は倫理観が薄い裏市ですらタブー視されるが、需要はつねに存在し、生き餌を売っているビルは客足が絶えない。このほかにも威怪薬のように、逆に肉食動物が売り物にされる店や、草食動物の行うストリップ劇場など、さまざまな店が裏市には存在する。
威怪薬 (いかいやく)
裏市の奥でひそかに作られている薬品。複数の生薬と肉食動物を素材として作られる医薬品で、草食動物が商品として扱われる事が多い裏市で、威怪薬関係は逆に肉食動物が商品として扱われる。金銭的に困窮した肉食動物が文字どおり身売りし、それを金持ちが買う仕組みとなっている。病気やケガで追い詰められた金持ちが、健康や強さへの渇望から最後に行き着く療法であるため、威怪薬の取り引きには莫大な金銭が動く。
食肉前科獣 (しょくにくぜんかじゅう)
食肉を犯した者に課せられる罪科。草食動物への配慮から、草食動物を食べた肉食動物は微罪であっても食肉を犯した前科者という記録が残ってしまう。食肉前科獣となった肉食動物は、草食動物との異種族結婚の禁止、大学入試や就職活動で審査が厳しくなるなど、社会生活で多くの制限が課せられる。またアパートを借りる際にも入居審査ではじかれる事が多く、基本的に借りられるのは訳あり物件のみとなっている。
骨肉麻薬 (こつにくまやく)
草食動物の骨や血で作った麻薬。食肉よりも罪悪感を抱かずに、肉食の本能を抑えられるため、若い肉食動物を中心に流行っている。顧客が減少傾向にある裏市の商人が、裏市に顧客を取り戻すべく、栄養食品やエナジードリンクなどに混ぜて何も知らない肉食動物に肉の味を覚えさせるべく、ばらまいていた。
餅 (もち)
もち米を用いて作られた食材。食に関して制限の多い肉食動物にとって、胃袋に大きな満足感を与えてくれる炭水化物は、重要なエネルギー源となっている。また、肉食動物は牙を持て余し気味なため、硬い物を食べるのを好む傾向にある。このような事情から炭水化物であり、嚙み応えのある餅は動物たちの世界では高級嗜好品扱いされている。
海洋語 (かいようご)
海洋生物が使う言語。陸の動物たちが使う言語とは別物で、レゴシらチェリートン学園の生徒は必修科目として習っている。ただし海で暮らす海洋生物との接点が少なく、授業内容も単純な単語や文法の暗記がほとんどなため、ネイティブに会話できる者は少ない。このため海洋語の通訳や翻訳は一定の需要があり、それを職業にしている者もいる。
書誌情報
BEASTARS 全22巻 秋田書店〈少年チャンピオン・コミックス〉
第1巻
(2017-01-06発行、 978-4253227544)
第18巻
(2020-04-08発行、 978-4253229067)
第19巻
(2020-07-08発行、 978-4253229074)
第20巻
(2020-08-06発行、 978-4253229081)
第21巻
(2020-10-08発行、 978-4253229098)
第22巻
(2021-01-08発行、 978-4253229104)