なんとなく医学部に入った青年の成長を描く
本作の主人公、円千森は、成績が良いというだけで、進路指導の教師に勧められるままに出羽医大に進学した。自分の選択が正しかったのかどうかわからずにいた円は、ある日、大学の古堂教授に誘われて郊外に向かう。そこには、罠(わな)にかかって死んだクマがいた。「医師になる覚悟を決めたいなら、クマに刃を入れろ」と古堂は解体を命じるが、円は「自分の目的で刃を入れるのは、クマに悪い」と断った。それを聞いた古堂は「最良の医師とは、亡くなった患者に感謝される医師」であり「相手を思いやる心を持つ円には医師の素質がある」と言う。その言葉に心を動かされ、円は医学部で頑張ってみようと決意した。本作は、普通の18歳の青年が、様々な試練にあいながら成長する姿をリアルに描いていく。
本作誕生のきっかけ
「ドラゴン桜(三田紀房)公式note」掲載(2022年3月12日)のインタビューによれば、本作誕生のきっかけは、医学部教授である友人の「地方の国立大学医学部には、成績が良いだけで受験しにくる学生もいる」というひと言だったという。医療マンガの読み切りの依頼を受けたものの、ネタに困っていた作者は、その言葉に意外性を感じ、成績が良いだけで医学部に進学する学生を主人公にした。その後、改めて教授の友人を訪ね、「医学部の1年目、2年目で学ぶ過程」「学生の日常生活」を細かく取材して作品に活かしたという。また、朝日新聞出版「AERA dot」掲載の記事(2023年2月10日)によれば、山形大学の全面協力を得ており、例えば解剖実習のシーンは、メスを入れる角度といった細かい部分まで撮影した写真を、医学生に送ってもらっているという。こうした綿密な取材や協力者の存在が、本作のリアルな描写に貢献しているのだ。
知られざる医学生のリアルを描く
円は、同じ高校出身の先輩に、「サークルには絶対に入らないとダメだ」とアドバイスを受ける。医学部の勉強はものすごく大変で、一人では乗り越えられない。みんなで助け合うためにサークルはあるというのだ。また、1年生の秋から基礎医学の科目が始まり、その最初が「骨学」である。本物の人間の骨を、四人1組で人体と同じ形状に並べる実習で、円たちはパズルのように人骨を組み合わせていく。2年生になると、いきなり解剖実習が待っている。人体にメスを入れ皮をはぐ作業に、罪悪感を覚える者や、メンタルをやられる者も続出する。本作は、通常ではなかなか知ることができない医学生のリアルを描いている点が、大きな魅力となっている。
登場人物・キャラクター
円 千森 (まどか ちもり)
山形県にある国立出羽医科大学の45期生の男性。初登場時は18歳で、身長173センチメートル、体重60キログラム。黒縁メガネをかけた何の変哲もない青年で、埼玉県立浦名高等学校出身。高校では鉄道研究部に所属していた。成績がいいというだけの理由で、進路指導の先生に医学部受験を勧められ、出羽医科大学に進学。幼い頃は極度の人見知りで、今でも基本は一人が好き。大学ではサークルに入って仲間を作れという、同じ高校出身の先輩に誘われ、民謡同好会に入る。何の志も持たずにやってきた医科大学だが、骨学の授業を受けたり解剖実習をしたりするうちに、医学への興味を持つようになる。
岩田 菜都子 (いわた なつこ)
山形県にある国立出羽医科大学の45期生の女性。初登場時は18歳。横浜出身で、円千森の同級生。ポニーテールが特徴で、大学では民謡同好会に所属している。8歳から民謡を習い始め、高校時代に全日本民謡コンクール高校生の部で全国8位という実績を持つ。出羽医科大学への進学理由は「医大で民謡同好会があるのは出羽医大のみ」という理由。医師になって民謡も極めることを目標としている。
書誌情報
Dr.Eggs ドクターエッグス 10巻 集英社〈ヤングジャンプコミックス〉
第1巻
(2022-02-18発行、 978-4088922362)
第2巻
(2022-05-18発行、 978-4088923123)
第3巻
(2022-09-16発行、 978-4088924540)
第4巻
(2023-01-19発行、 978-4088925875)
第5巻
(2023-05-19発行、 978-4088927404)
第6巻
(2023-09-19発行、 978-4088928449)
第7巻
(2024-01-18発行、 978-4088931920)
第8巻
(2024-05-17発行、 978-4088933375)
第9巻
(2024-09-19発行、 978-4088933962)
第10巻
(2025-01-17発行、 978-4088935386)