概要・あらすじ
新人時代の橘大地はタイトルも獲得して将来を期待された騎手だったが、その息子である橘遥歩には、物心がついた時から自分の勝つ姿を見せたことがなかった。負けた原因を適当にでっちあげては遥歩にごまかし続けていた大地は、ある日遥歩がクラスメイトから自分のふがいなさをからかわれる姿を目撃する。それでも遥歩はただ一人、大地の勝利を信じて疑わずにいた。
これを機に大地は気持ちを入れ替え、自分が勝つ姿を遥歩に見せるために奮い立つ。
登場人物・キャラクター
橘 遥歩 (たちばな あゆむ)
騎手橘大地の息子で、馬と話す能力を持つ「ホース・ウィスパラー」。馬を見る目にも長け、一目でその馬の調子や特徴が分析できる。また、騎乗センスも申し分なく、弱冠12歳でクリムゾンを軽々と乗りこなす。将来の夢は大地と共にグランドナショナルに出場すること。
橘 大地 (たちばな だいち)
橘遥歩の父親で35歳。新人時代は新人最多勝勝利騎手を獲得するなど、騎乗依頼の絶えない将来を期待された騎手だったが、落馬事故の際に重傷を負い、1年間の入院生活を余儀なくされ体重が増加してしまう。それからは減量との戦いを強いられるが結局55キロ以下には落とせず、障害騎手へ転向を余儀なくされた。身長175センチ、体重56キロと障害騎手のなかでも大柄。 馬の調教は抜群に上手いが勝ち星から5年も遠ざかっているので、仲間内からは陰口を叩かれている。
橘 遥香 (たちばな はるか)
橘遥歩の母親で橘大地の妻。温和な顔つきにロングヘアーと優しい印象の顔立ちの女性。既に他界しており、一度大地の夢に出てきたことがあるが、その時は大地は「まだそちらにいけない」と告げている。この体験が以降の彼の人生の生きる糧となる。
岡島 (おかじま)
橘大地が落馬して以来、クリムゾンに騎乗していた騎手。ノド鳴りからクリムゾンの病気を察して手放した。その後は「障害レースの帝王」と呼ばれるゴーリキに騎乗し、中山大障害に出場する大地の前に立ちふさがる存在となる。
広森 健司 (ひろもり けんじ)
馬術において元日本一の実力を持つ。牧場の社長で、いつも酔っぱらっている。橘遥歩がクリムゾンと共に行う障害調教や練習の指導を行っている。「競馬会のカリスマ」と言われる東野慶一郎とも知り合いで、彼を「先生」と呼び慕っている。
東野 なずな (ひがしの なずな)
橘遥歩が牧場で知り合った女の子で、「競馬会のカリスマ」と呼ばれている東野慶一郎を父親に持つ。3年前に華々しくデビューした女性騎手で、ルックスも良く注目されていたが結果を残せず、障害レースで再起するために広森健司の牧場へ訪れた。障害の飛越の練習に来ているが、いつも落馬を繰り返している。
東野 慶一郎 (ひがしの けいいちろう)
東野なずなの父親で騎手時代は2000勝、調教師としても数多くの名馬を育てたまさに「競馬会のカリスマ」。障害レースのことを、走ることが満足にできなくなった馬が飛んだり跳ねたりする「曲芸」と見下しており、障害レースで再起を図るなずなに対しても「才能がない」と厳しくあたっている。
柘植 樹 (つげ いつき)
24歳にして500勝を達成した天才騎手。馬の気持ちが分かる騎手として有名だが、機嫌を損ねるとコメントが貰えなくなるなどマスコミ対応が悪い。平地での騎乗はもちろん、競馬学校時代では馬術の世界に進めば確実にオリンピック代表になれると言われたほどの実力を誇り、特に重心の移動が上手い。
柘植 瑞希 (つげ みずき)
天才騎手、柘植樹の妹で橘遥歩と同じ競馬学校の同期生。体操競技で培った柔軟性とバランスには定評がある。兄である樹の七光りと言われないように結果を出そうと努力を重ねている。競馬学校在籍時には遥歩のことをなにかと気にかけていた。
田之上 敏郎 (たのうえ としろう)
橘遥歩が通う競馬学校の校長。厳しい競馬学校の世界においては、力なき者が振るい落とされることは仕方ないと考えている。特に海外騎手の参戦や上位騎手の台頭により多くの騎手が勝つことが難しくなった昨今、競馬学校で育てるべきは競馬界を担う一握りの天才だとし、そういった人材を育て上げることに心血を注いでいる。
務台 翼 (むたい つばさ)
橘遥歩と同じ競馬学校に通う同期で、ジュニア乗馬でタイトルを総なめにしている将来のスター騎手候補。自身も日本一の生産牧場「務台ファーム」の御曹司で、環境にも恵まれており、乗馬の技術はもちろん馬を見る確かな目も持っている。
藤河 慎 (ふじかわ しん)
橘遥歩と同じ競馬学校に通う乗馬初心者の同期。素質には恵まれていないが、絶対に騎手になりたいという強い意志を持ち、尻の皮が剥け出血するまで練習をするなど、人一倍の根性を見せる。何度落馬しても馬を悪く言わずに、逆にいたわるほどに馬のことが好き。過去に父親に置き去りにされたことで孤独な幼少期を送っていた。
小畑 (おばた)
橘遥歩と同じ競馬学校に通う乗馬初心者の同期。騎手だった兄が落馬して他界したことをきっかけに、その夢を継ごうと騎手を志す。誰も見ていないところでフォームチェックしたり、作業も率先して行っているものの、騎手としての実力は伴っておらず、同期生の中では落ちこぼれ認定されている。
鬼窪 (おにくぼ)
橘遥歩が実習で訪れた厩舎の調教助手。調教師が入院しているため、実質的に厩舎を仕切る立場にいる。良い成績を狙うには素晴らしい血統と素質が必要だと考えており、血統の良くない馬や安馬を鍛えて強くするという発想はまったくない。元ダービージョッキーで人脈もあり、そのツテで有名馬主から高額馬を入厩させている。
下平 (しもひら)
橘遥歩が実習で訪れた厩舎所属の厩務員。かつてサプライズマークの世話をしていたが、勝てないことを馬のせいにしていた。その後、潰れそうになった厩舎がサプライズマークの活躍で救われてからは、最もサプライズマークを信頼するようになり、その血統を受け継ぐカムパネルラにも同様に目にかけて大切に育てている。
日向 葵 (ひむかい あおい)
カムパネルラの馬主の娘。裏方への感謝を忘れるなとの母親の教えを忠実に守り、誰に対しても礼儀正しく接する。元々馬術をかじっていた経験もあり、レースの知識もある。カムパネルラが生まれた頃から世話をしていたため思い入れが強く、いつかこの馬を好きになってくれる騎手に乗って欲しいと考えている。
大田浦 慎二 (おおたうら しんじ)
橘大地の後輩で通算100勝を超えるベテラン障害騎手。面倒見が良く、後輩からも慕われている。橘遥歩の面倒もよく見ており、遥歩のことを「遥坊」と呼んでいる。オールドブラウニーの騎乗の際に左腕の靭帯を切ったことで、現役引退を余儀なくされてしまう。
押尾 光志郎 (おしお こうしろう)
公営競馬騎手の男性。元々は地方競馬全国協会の騎手で、橘遥歩が競馬学校にいた時にはその対抗戦で争った。その時から飛越の高さとフォームの良さ共に完璧な優秀な騎手だった。現在もまずまずの勝利数を収めており、礼儀正しい性格で調教師からの評判も良く、以後は乗り馬も増えるだろうと予想されている期待のホープ。
押尾 優香 (おしお ゆか)
押尾光志郎の妹。橘遥歩が光志郎の偵察のため、西関東競馬場に行った際に案内する。父親が調教師で小さな頃から馬に囲まれていたので、馬の気持ちが遥歩同様よく分かっている。光志郎とのレースに挑む遥歩に必勝法を教えた。
流那 (るな)
小さい頃に事故で足を悪くしてしまい、現在は病院に入院している7歳の男の子。カムパネルラの熱心なファンで、競馬場に応援に行くことはできないものの、カムパネルラの騎手を務める橘遥歩によくファンレターを送っている。遥歩はこのファンレターに返事をする際に、ジャパンカップの勝利を約束した。
関ヶ原 房男 (せきがはら ふさお)
数々のミリオンヒットを連発している天才ゲームクリエイターにして経営者。現在は競馬会のカリスマオーナーとしても知られている。馬主になってわずか3年で日本ダービーを制し、その潤沢な資産で良血統の馬を買いあさり、今もなお勢力を拡大し続けている。競馬界に甚大な影響力を持ち、逆らうと競馬界で生きていくことはできない。
クリムゾン
橘大地が春のクラシック出場権を賭けて挑んだ共同通信杯で、大怪我を負った際に騎乗していた馬。その後の大地の騎手人生を狂わせてしまった馬であり、橘遥歩もクリムゾンのことを嫌っていた。その一方で、遥歩はクリムゾンのことを、体も柔らかく若いので障害を飛ぶのに絶好の馬体と評価していた。
フェアリー
東野なずなが担当している競走馬。名馬を父親に持ち、かつて平地でも1勝したがその後はずっと勝ち星がなく、障害馬として再起をはかる落ちこぼれ。いつも、気を悪くしており暴れている。
カシミール
天才騎手である柘植樹が、何年乗り続けても気持ちを掴めずに手を焼いた唯一の競走馬。極限までスピードを追求されて走り続けた馬で、平地のレースで活躍した。それを知っているだけに樹はカシミールを障害なんか飛ぶ馬ではないとし「障害レースを飛ばすのは人間の強制」と障害レース自体を否定するような発言をするほどにカシミールの能力を認めていた。
カムパネルラ
橘遥歩が実習で訪れた厩舎にいた二歳馬。元天皇賞馬であるサプライズマークの遺伝子を持つ馬で、決して人気のある血統ではないが、丈夫で勝負根性があり長らく厩舎を支えてきた。しかし、血統至上主義の鬼窪からは嫌われていて、故障していなくなって欲しいと思われている。
コントラステス
柘植樹がヨーロッパから帰国する際に連れてきた二歳馬。二歳馬離れした馬体を持ちデビュー前から「怪物」と言われている。併せ馬の相手はことごとく潰され、古馬ですら自信を失わせて競走馬として使い物にならなくなると言われるほど群を抜いた実力を誇るダービー候補No.1の馬。
キングオブキング
鬼窪が独立後に育てあげた、分厚い胸板とゴムまりのようなバネを持ち、しなやかで力強い走りをする競走馬。デビューは遅かったものの3戦全勝、合計15馬身差を付けすべてレコード勝ちという圧倒的な戦績を誇る。その強さゆえに、キングオブキングの出場するレースを辞退する馬もいるほど。橘遥歩が競馬学校を卒業後、日本に帰国してから騎乗したカムパネルラの初戦の相手。
オールドブラウニー
元々馬体が大きく、顔もいかつかったため調教においてはずいぶんいじめられた過去を持ち、人間を簡単に信用しない。調教中骨折した人間が2人、蹴られた人間が一人と、手懐けるのが困難な暴れ馬。障害転向後は大田浦慎二に障害調教の基礎である横木またぎから手塩をかけて育てられ、慎二のいうことだけはしっかり聞くようになる。
リリーホワイト
押尾光志郎の父親が経営する、押尾厩舎に所属していた馬。中央のGIを走る馬でも出せないようなタイムを叩きだし、押尾厩舎の将来を担う逸材として期待されていた。しかし、競馬場が廃止されたことによりデビュー戦を走れなくなり、結果未勝利馬としてどこにも行き場がなくなってしまう。
イベント・出来事
グランドナショナル
イギリスで開催される世界最高峰の障害レース。日本ダービーの3倍もの距離を、40もの障害を飛び越えてゴールするという過酷なレースで、出走馬50数頭中完走できる馬は数頭ということも珍しくない。橘遥歩は日本ダービーより名誉ある障害レースとして意識している。
中山大障害 (なかやまだいしょうがい)
中山競馬場で開かれる国内で最も難易度の高い障害レースで、70年近い歴史を持つ。橘大地がクリムゾンに再び騎乗して挑んだレースで、大生け垣を含む11個の難障害と6回もの上り下りに加え、秋の天皇賞2レース分よりも長い4100メートルという長距離を走る過酷なもの。別名「ジャンプのG1」。
その他キーワード
ホース・ウィスパラー (ほーすうぃすぱらー)
橘遥歩が持つ馬と話す能力のこと。話すといっても実際に言葉で話すわけではなく、馬の習性や癖を見抜くことで、必要な行動を示して馬を手なずけることができるといったもの。遥歩はこの能力で東野なずなの担当馬であるフェアリーの気を落ち着かせた。
ノド鳴り (のどなり)
馬が深い呼吸をする際に「ヒィーヒィー」といった音が出る病気。原因ははっきりせず、競走馬に起こりやすい病気で悪化すれば引退となる場合が多い。クリムゾンは一定の距離を走るとこのノド鳴りの症状が出ていたが、自らが呼吸困難になる前に走るのをやめていた。
魔の地雷原 (まのじらいげん)
西関東競馬場のレースで押尾光志郎が橘遥歩を誘導し、陥れようとした初見ではわからない緩い路盤のこと。長年のレースの攻防で路盤が激しくえぐられ、その凸凹が見えない障害となって無数に存在する。肢を取られたら生きて抜けられないと言われている。