LES MISERABLES

LES MISERABLES

ヴィクトル・ユーゴーの小説『レ・ミゼラブル』のコミカライズ作品で、新井隆広の代表作の一つ。19世紀のフランスを舞台に、わずか一片のパンを盗んだため、19年間も監獄に入れられていたジャン・ヴァルジャンの絶望と憎悪、波瀾(はらん)万丈の生涯を描いたヒューマンドラマ。タイトルの「LES MISERABLES」はフランス語で「哀れな人々」を意味しており、主要人物ほぼ全員が悲惨な境遇を強いられるが、その運命に抗(あらが)うことで自分や他者の幸せを追い求める姿が見どころとなっている。小学館「ゲッサン」2013年10月号から2016年6月号にかけて掲載の作品。

正式名称
LES MISERABLES
ふりがな
れ みぜらぶる
原作者
ヴィクトル・ユーゴー
漫画
ジャンル
ヒューマンドラマ
 
サスペンス
レーベル
ゲッサン少年サンデーコミックス(小学館)
巻数
全8巻完結
関連商品
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宿業の男、ジャン・ヴァルジャンの波瀾万丈の生涯を描く

貧しい農村に生まれたジャンは、社会情勢と貧しさのため疲弊していく家族を見ていられず、彼らのためにわずかなパンを盗んだことで、5年の投獄生活を強いられる。さらに、家族が気になるあまり脱獄を4回も繰り返して14年の刑が追加され、19年もの歳月を牢獄の中で過ごすことになった。刑期を終えたジャンは、もはや自分を待っている家族など誰もいないことを知り、釈放後にも偏見の目に晒(さら)され、自暴自棄になっていた。そんな中、フランス南部のディーニュを訪れたジャンは、絶望のどん底にいたが、司教のシャール・フランソワ・ミリエルの親切心から家に泊めてもらう。自我を失っていたジャンは、ミリエルの家から銀の食器を盗んで身柄を拘束されるが、ミリエルは自分があげたものだと主張し、その場で解放される。ミリエルの慈悲に心打たれたジャンは、彼のような聖人になるべく改心することを誓う。

ジャンとジャヴェールの長きに渡る確執

モントルイユ・スュール・メールで警視を務めているジャヴェールは、頑(かたく)なに法のみを遵守し、哀みの感情を差し挟むことを強く拒絶する冷血漢。社会秩序を絶対的に信奉する法の番人であるジャヴェールは、ジャンが刑期を終えて釈放される場所で、身分による差別を訴えるジャンを静かに罵倒し、もう一度悪事を働けばその首を切り落とすと言い放つ。時は流れ、ジャンは「マドレーヌ」と名を変えて市長となっていた。ジャヴェールはジャンの顔をすでに覚えていなかったが、マドレーヌが馬車の下敷きになった市民・フォールシュヴァンを助けるために怪力を発揮したことで、彼が「起重機のジャン」ではないかと疑いの目を向ける。さらに、貴族とトラブルになったファンティーヌを捕らえた際、マドレーヌから解放するよう要請されたことで、本格的な対立が始まる。

フランスの暗部を象徴する出来事

身寄りのない少女のファンティーヌは、やがて美しい女性に成長し、パリで高貴な身分の青年・トロミエスと恋に落ちる。さらに、トロミエスとのあいだに一人娘のコゼットをもうけるが、彼はファンティーヌを置いて突然姿を消してしまう。トロミエスの庇護を失ったファンティーヌは、父親がいない娘を育てているとの悪評から職場を解雇されてしまう。パリを離れたファンティーヌは、自分一人ではコゼットを幸せにできないと考え、地方で宿屋を営んでいたテナルディエ夫妻にコゼットを預ける。しかし、彼らは外面だけがいい悪質な詐欺師で、コゼットを召使い同然に扱った挙句、ファンティーヌからお金をだまし取り続ける。自暴自棄になったファンティーヌは、貴族とトラブルになりジャヴェールに身柄を拘束されるが、その場に居合わせたジャンに救われる。そんな中、ファンティーヌは重い病にかかり、帰らぬ人となる。彼女を看取ったジャンは、せめて娘のコゼットを守るため、テナルディエ夫妻から彼女を引き取る決意を固める。そしてジャンにとってコゼットとの出会いが、かつてミリエル司教から与えられた慈愛の心を理解する大きな礎となる。

登場人物・キャラクター

ジャン・ヴァルジャン

貧しい枝切り職人の家に生まれた男性。かの英雄ナポレオンと同じ1769年生まれ。子供の頃から力仕事を続けたことから人並み外れた腕力を誇り、「起重機のジャン」のあだ名で呼ばれることがある。慈悲深い性格で、法と自由の両方を重視しつつも、良心に従って行動することに躊躇(ちゅうちょ)がない。一方で理不尽な扱いを受けた時は、後先考えずに行動をして後悔することが多い。若い頃に貧困に耐えかねて、わずか一片のパンを盗んだことで身柄を拘束され、19年の長きに渡る牢獄生活を過ごし、世の中に絶望と憎悪を抱くようになる。しかし、ミリエル司教の慈愛の心に触れて救われ、やがて彼のような正しい人になることを志す。その後、フランスのモントルイユで「マドレーヌ」を名乗るようになり、ミリエルから譲り受けた財産を元手にして成功を収め、やがて市長に就任する。のちにミリエルが亡くなったことを聞いた日は感謝と敬意を込めて喪に服し、以後も愛情を抱き続けている。

シャール・フランソワ・ミリエル

ディーニュで司教を務める老年男性。司教という立場にありながら、その地位をひけらかすことはいっさいなく、質素な家で妹のパティスティーヌや、手伝いのマグロワールと共に暮らしている。自らの役割を、神のしもべではなく多くの人を救うことと定めており、その慈悲深さと行動力から多くの人に深く慕われている。また、他者の心情を慮(おもんぱか)ることに長けており、大聖堂の宝を奪った山賊に単身で交渉を行い、改心に導いて宝を譲り受けたこともある。ある時、一夜の床を貸したジャンに銀の食器を盗まれ、憲兵に捕まった彼と対面するが、ジャンに食器を譲ったと証言したうえに燭台を与え、荒(すさ)み切っていた彼の心情が変化するきっかけとなる。ジャンが去ってからも自らの生き方を変えることはなく、他者への慈しみを施しながら82歳で人生の幕を閉じる。

クレジット

原作

ヴィクトル・ユーゴー

翻訳

豊島 与志雄

書誌情報

LES MISERABLES 全8巻 小学館〈ゲッサン少年サンデーコミックス〉

第1巻

(2013-12-12発行、 978-4091245366)

第8巻

(2016-07-12発行、 978-4091273505)

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