あらすじ
第1巻
レビウス=クロムウェルのGrade-Ⅰ昇格戦から1年後、世界は火薬庫状態へと様変わりしていた。いつ大戦争が起きても不思議ではない状況の中、間もなく開催される機関拳闘の世界大会「サザンスラム」は各国の思惑が絡み、優勝者を輩出した国が世界を制する権利を得る、代理戦争へと変貌していた。そんな中、レビウスと同じく昇格戦で負った負傷で生死の境をさまよっていたザックス=クロムウェルは目を覚ます。様変わりしていた情勢をビル=ウェインバーグから説明されたザックスは、これからのレビウスの戦いに、かつて戦ったA.J.ラングドンの協力が必要不可欠だという話を聞かされる。記憶を失い、不安に苛まれていたA.J.をザックスは体を張って説得する。そしてA.J.の知識を借りることで、レビウスの治療も進み、彼らは新たな戦いに向けて一歩ずつ前進するのだった。一方、レビウスの復帰とジムの移籍を知ったナタリア=クロムウェルは、彼の妻を自称し、自身もレビウスといっしょのジムに移るべく行動し始める。
第2巻
ナタリア=クロムウェルはレビウス=クロムウェルと再会後、彼と仲よさげなA.J.ラングドンに嫉妬してトラブルを引き起こすが、レビウスと同じジムに受け入れられる。そしてその翌日、復帰したレビウスにサザンスラムでの初試合がマッチングされる。しかしその対戦相手は、機関拳闘の頂点に君臨する生ける伝説と呼ばれるオリバー=E=キングスレーだった。Grade-Ⅰ最強と末席という異例のマッチングに疑問を抱く周囲だったが、オリバーが会話をするためにレビウスを招待するという知らせを受け取る。オリバーの招待を受け、彼のもとに赴いたレビウスが目にしたのは、父親のダニエル=クロムウェルの朽ち果てた遺体だった。かつてダニエルの知己であり同志であったオリバーは過去を語り、自身が目指すべき存在「est」に至るため、レビウスを打ち倒すと宣言する。オリバーと会話するうち、彼とかつて会っていたことを思い出したレビウスは、因縁深い彼との戦いに気持ちを新たにする。
第3巻
サザンスラムには代理戦争の側面もあるため、最強との戦いを前にしたレビウス=クロムウェルの評判は下がり、圧倒的アウェイ状況に追い込まれる。しかし。それでも最強に挑戦すべく、レビウスは仲間たちと一致団結し、戦いに備えて牙を研ぎ澄ます。一方で世界の裏側では、かつてレビウスが戦った軍事企業アメジストが静かに蠢動していた。サザンスラムに向けた予選の一つ、第15エリアの試合ではバルテュス=J=ラングドンが戦いに参加していた。A.J.ラングドンの弟であり、アメジストの手駒として人体改造されたバルテュスは謎の力で対戦相手を瞬殺する。その戦いを偶然、見ていたナタリア=クロムウェルは事情を知らなかったため、A.J.にバルテュスのことを話してしまう。A.J.は失われた家族の存在を求めてレビウスのもとから去るが、危険人物としてマークされていたA.J.はロナルド=チェンバレンに追っ手を差し向けられる。そしてレビウスとナタリアたちジムの人間は、一丸となってA.J.を見つけ出し、ロナルドを説得してなんとか事なきを得る。
第4巻
遂に開幕するサザンスラム。レビウス=クロムウェルは試合会場を訪れると、昇格して初めて機関拳闘連盟の重鎮たちとあいさつを交わす。ピエール=ピスコッティとのあいさつをつつがなく終わらせるレビウスだったが、そこでピエールに紹介されたのはかつての敵、Dr.クラウン ジャック=プディングだった。A.J.ラングドンやバルテュス=J=ラングドンの運命を弄んだ元凶を前に、怒りをあらわにするレビウスだったが、機関拳闘連盟の重鎮となったDr.クラウンはその身分を傘にしてレビウスを挑発する。レビウスは怒りを飲み込み、サザンスラム優勝者に与えられる特権を使ってでもDr.クラウンを打ち倒すと、彼らに宣戦布告するのだった。一方、サザンスラムGrade-Ⅲトーナメントでは、ナタリア=クロムウェルとバルテュス=J=ラングドンがマッチングしてしまう。危険なバルテュスを前に、ティモールジムの面々はナタリアの命を守るため、彼女の意思を無視してでも棄権しようと考える。しかしナタリアは戦うことを選び、バルテュスと対峙するのだった。
第5巻
ナタリア=クロムウェルはレビウス=クロムウェルたちの思いを受け取り、バルテュス=J=ラングドンとの試合に臨む。バルテュスの力は圧倒的で、ナタリアは成す術もなくあっという間に追い詰められるが、辛うじて1ラウンド耐え抜く。Dr.クラウン ジャック=プディングに邪悪な挑発をされつつも、ナタリアはセコンドであるバルト=フレイザーたちと力を合わせて活路を見いだす。そしてバルテュスの戦いを見ていたビル=ウェインバーグは、彼の力の正体に思い至る。圧倒的な力を振るっているように見えて、その実、実験体として使い潰されつつあるバルテュスの現状を知ったナタリアは、なんとしてでも自分の声をバルテュスに届けることを誓う。満身創痍(そうい)の体を押して戦いに臨むナタリアの思いは、遂にバルテュスに届くが、その瞬間、バルテュスの人格は別のものへと入れ替わる。攻撃的なバルテュスの別人格は圧倒的な力を振るい、ナタリアを追い詰める。圧倒的窮地に追い込まれるナタリアだったが、それでも食い下がり、バルテュスに起死回生の一手を打ち込む。
第6巻
ナタリア=クロムウェルはバルテュス=J=ラングドンとの激闘の果てに、バルテュスと心を通い合わせることに成功するが、起死回生のカウンターに失敗して敗北。集まった超蒸気の力はナタリアを中心に爆発し、バルト=フレイザーがナタリアをかばい、重症を負ってしまう。そして彼らの努力をあざ笑うDr.クラウン ジャック=プディングだったが、ナタリアと心を通い合わせたバルテュスが暴走し、Dr.クラウンはその暴走に巻き込まれる。会場で暴れまわるバルテュスはオリバー=E=キングスレーに処理されそうになるが、レビウス=クロムウェルに助けられて処理を保留されるのだった。そして戦いも終わり、それぞれはサザンスラムの最終日に向けて準備を始める。レビウスはセコンドにA.J.ラングドン、エンジニアにロナルド=チェンバレンと新たなメンバーを加え、遂にオリバーとの対戦の日を迎える。そしてレビウスとオリバーはリングの上で対峙し、世界が注目する一戦を始める。
単行本の装丁
本作『Levius/est』のコミックスはバンド・デシネを意識した装丁をしており、横書き左開きというスタイルで刊行されている。本作のバンド・デシネ風スタイルは、webアニメ『Levius レビウス』に大きな影響を及ぼしており、総監督の瀬下寛之はこのスタイルを核にアニメを作ったと語っている。
関連作品
本作『Levius/est』は、「月刊IKKI」で連載されていた中田春彌の『Levius -レビウス-』の続編となっている。『Levius -レビウス-』は、本作の1年前が舞台となっており、若き男性機関拳闘士のレビウス=クロムウェルがGrade-Ⅰに昇格するまでの軌跡が描かれている。『Levius -レビウス-』は第3巻までが小学館から刊行されているが、『Levius -レビウス-』のWEBアニメ化に合わせて、集英社より『Levius 新装版』が上下巻で刊行された。
登場人物・キャラクター
レビウス=クロムウェル
若き男性機関拳闘士。幼い頃、欧州最大の悲劇「グリーンブリッジ強襲上陸作戦」に巻き込まれる。救助部隊に助けられるが、母親はレビウス=クロムウェルをかばって意識不明の重症となり、自身も右腕を失う大ケガを負う。その後、右腕に医療用の義手を装着。ザックス=クロムウェルに保護され、母親の幻影に導かれるように機関拳闘を始めるようになる。機関拳闘でも軍用の義手を使わず、医療用の義手一つで戦い抜き、昇格戦でA.J.ラングドンを倒し、世界最高峰のGrade-Ⅰの末席「No.13」となる。しかし昇格戦での負傷が原因で1年間、戦闘不能状態となっていた。戦いの後遺症で痛みにのた打ち回る日々を送っていたが、A.J.の助言によって劇的に改善し、機関拳闘の世界に舞い戻る。復帰早々、サザンスラムの開催に伴ってジムを移籍。世界最高峰の戦いに臨むが、世界最強の帝王とされるオリバー=E=キングスレーに一回戦の対戦相手として指名される。オリバーとはあらゆる意味で因縁深き関係で、彼の打倒を誓う。A.J.の運命を弄んだDr.クラウン ジャック=プディングを嫌悪しており、彼が機関連盟の所属となっているのを知ったあとは、サザンスラムで優勝し、その特権を使ってでも彼らを叩き潰すと宣言している。
A.J.ラングドン (えーじぇいらんぐどん)
軍事企業アメジストに所属していた女性機関拳闘士。弟のバルテュス=J=ラングドンを助けるため、Dr.クラウン ジャック=プディングに人体改造され、言われるがままに殺戮を繰り返していた。黒いボブカットの髪型で、本来はおとなしくやさしい性格をしている。レビウス=クロムウェルと戦い、その後はダンテレオス国際医療機関に保護される。戦いで受けた傷の後遺症でアメジストにいた時代の記憶をすべて失い、精神が非常に不安定な状態となっていたが、ザックス=クロムウェルに説得されて過去に向き合うようになる。アメジスト時代に培った知識と技術は、ビル=ウェインバーグに太鼓判を押されるほど確かなもので、それらを使ってレビウスの治療などを助言する。弟の存在もほとんど忘れているが、大切なものとして惹かれており、サザンスラムで弟の存在を見つけた時は我を忘れて捜しに向かった。過去の行いからロナルド=チェンバレンに危険視されており、心臓の部分に発信機を埋め込まれているが、弟を捜しにいく際に力づくで取り外している。その行為がロナルドに脱走と見なされて殺されかけるが、ナタリア=クロムウェルとレビウスにかばわれ、ロナルドの監視下に戻るとともに彼らに弟のことを託す。レビウスとオリバー=E=キングスレーの試合では、レビウスのセコンドを担当する。
ナタリア=クロムウェル
女性機関拳闘士。勝気な性格で、思い至ったら即行動に移す行動派の金髪美少女。レビウス=クロムウェルの幼なじみで、彼に好意を抱いているが、レビウスからは妹のように思われており、思いは一方通行。また勝手に婚姻届を出して「クロムウェル」の家名を名乗っているが、婚姻届は取り消されたため「妻」は完全に自称となっている。よくも悪くも裏表がない性分をしており、場外乱闘や反則行為の常習犯。しかし、その破天荒な行動と容姿の美しさからGrade-Ⅲ拳闘士の中では、非常に人気がある。エドガー=ブラウンのジムにレビウスが移籍した際には、エドガーに直談判して半ば殴り込みに近い形でジムを移籍している。問題行為ばかりを引き起こすが、さっぱりとした立ち振る舞いから悪感情をあとに引かず、ムードメイカーとしてジムの仲間たちとも打ち解けていく。バルト=フレイザーとも、出会いは取っ組み合いの大ゲンカを行ったが、彼が選手として引退したあとはナタリアのセコンドとなるほど信頼関係を築いた。レビウスに近しいA.J.ラングドンには敵愾心を抱いていたが、彼女の身の上を知り、バルテュス=J=ラングドンとの戦いに臨む。サザンスラムではバルテュスとは激闘の果て、彼と心を通い合わせるが敗北した。
ザックス=クロムウェル
レビウス=クロムウェルの叔父であり、レビウスの担当トレーナーを務めている。髪もヒゲも伸ばし放題にした、恰幅のいい体型をした中年男性で、がさつだが面倒見のいい性格をしている。レビウスのGrade-Ⅰ昇格戦で大ケガを負い、意識不明の重態となる。その後、ダンテレオス国際医療機関で治療を受け、1年後、意識を取り戻して回復する。体中にケガの後遺症を残し、左目も完全に失明した。A.J.ラングドンの境遇に同情しており、記憶を失った彼女の求めに応じて、彼女に過去を教えて説得。親身になってA.J.の世話をしつつ、彼女と共にレビウスを支える。若かりし頃は、ボクシングに打ち込んでおり、地下ボクシングで世界ランカーと試合が組まれたこともある。しかし、戦争によってその試合は中止になってしまい、それ以降はずっと自分の中で拘泥とした思いが燻ることとなる。レビウスがオリバー=E=キングスレーと戦うことになった際には、その思いを打ち明けてレビウスに共に乗り越えると誓う。
ビル=ウェインバーグ
レビウス=クロムウェルを担当する男性エンジニア。黒髪の優男で、眼鏡を掛けている。皮肉屋だが豊富な知識と確かな技術を持つすご腕のA級技師として知られる。レビウスの昇格戦のあと、1年間、レビウスとザックス=クロムウェルの治療を担当し、目覚めたザックスに現状を説明した。A.J.ラングドンの治療も担当しており、医療機関内でも危険視されている彼女の処遇に関しては葛藤している。ロナルド=チェンバレンとは古い付き合いで、情に流されやすい部分があるビル=ウェインバーグは、彼からよく皮肉を言われる。しかしお互いの腕は認めており、レビウスとオリバー=E=キングスレーの試合では、ロナルドにレビウスの専属エンジニアになってほしいとお願いした。
バルト=フレイザー
男性機関拳闘士で、ティモールジムに所属している。スキンヘッドのベテラン機関拳闘士で、Grade-Ⅱまでのぼり詰めたが、すでに伸び代がないと周囲からは判断されており、色々なジムをたらい回しにされてティモールジムにたどり着く。現在は機関拳闘士として死に場所を求めており、リングの上で果てたいと考えている。同ジムに所属していたヒューゴ=ストラタスを慕っていたため、彼をバカにする言動をしたナタリア=クロムウェルとは当初は取っ組み合いのケンカをするほど仲が悪かった。ナタリアからはスキンヘッドをからかわれ、「ハゲ丸」と呼ばれる。サザンスラムでは格上の選手と戦って善戦し、満身創痍(そうい)になりつつも勝利をもぎ取り、選手として引退した。その後はナタリアのセコンドとなり、彼女の戦いを支える。バルテュス=J=ラングドンとの戦いでは、周囲からナタリアを棄権させるように指示されるものの、ナタリアの意思を汲み、試合に参加させる。バルテュスとナタリアの戦いを最後まで見守っていたが、バルテュスの蒸気に飲み込まれたナタリアを助けるためにリングに上がり、これが原因でナタリアは反則負けとなってしまう。またその際に、ナタリアへの負担を肩代わりしたため、瀕死の重症を負う。
ロナルド=チェンバレン
ダンテレオス国際医療機関に勤める男性。ビル=ウェインバーグと同じすご腕のA級技師で、ビルを情に流されやすいと批判しつつも、その腕前を認めている。軍事局の局長の地位に就いており、アメジストを含むテロリスト組織への対応を主な仕事とする。そのためにA.J.ラングドンを危険視しており、彼女が暴走しかけた際には抹殺しようとしていた。現在はA.J.が落ち着いているために静観しているが、少しでも怪しい動きをしたらすぐに始末できるようにA.J.に発信機を仕込んでいる。レビウス=クロムウェルとオリバー=E=キングスレーの試合では、ビルに頼まれ、エンジニアとしてレビウスに力を貸す。辛らつで嫌味な言動が多いが、仕事に私情は持ち込まず、その仕事ぶりは誰よりも評価できるとビルに評されている。
エドガー=ブラウン
ティモールジムの現会長を務める男性。禿げ上がった頭の高齢男性で、金儲けが大好きな守銭奴。レビウス=クロムウェルの移籍という幸運をつかみ、そのビッグチャンスを利用してさらなる金儲けを行おうともくろむ。一見すると金の亡者だが、一介の清掃員から大手ジムの所長に成り上がり、一代で財を築いた大富豪で、その眼力の高さは確か。また他人には選手たちは「金を稼ぐ道具」と話し、ドライな態度を見せるが、裏では選手の本心を叶えようと奔走したり、命の心配をしたりする情厚い一面を持つ。ナタリア=クロムウェルは半ば強引に自分のジムに移籍してきたが、自分が会長になって初めて移籍させた選手であるため、ふだんは邪険に扱っているが実は特別に目をかけている。またバルテュス=J=ラングドンを危険視し、バルテュスがナタリアの対戦相手になった場合、不調をでっち上げてもナタリアを棄権させろと隠れて指示を出していた。ナタリアが指示を無視してバルテュスと戦うのにも気づいており、最終的には彼女の意思を汲んだ。またA.J.ラングドンが脱走した際にも、言い訳をでっち上げて彼女をかばっている。
ピエール=ピスコッティ
機関拳闘連盟の総裁を務める老齢の男性。ひょうひょうとした態度で眼鏡を掛けている。長く続く機関拳闘にマンネリを感じているため、Dr.クラウン ジャック=プディングの残虐性にエンターテインメントを見いだし、機関拳闘を盛り立てようと彼を連盟にスカウトする。刺激を求めているため、レビウス=クロムウェルが連盟に対して行った宣戦布告じみた宣言も楽しみ、彼を気に入っている。機関拳闘を盛り上げるためならなんでもするというスタンスだが、機関拳闘への思い入れは人一倍で、レビウスとオリバー=E=キングスレーの試合では、オリバーの最後の戦いを見届けるべくセコンド席に着いて観戦する。
バルテュス=J=ラングドン
A.J.ラングドンの弟。Dr.クラウン ジャック=プディングに非道な人体改造を受けており、現在は正気を失い、感情の起伏が激しい状態となっている。その肉体にはDr.クラウンによる改造で高濃度の新たな「人工血液」が注ぎ込まれており、それを利用した特殊な赤い蒸気をあやつる。サザンスラムのルールには適用されないその力をアドバンテージにして、大会では残虐な戦いを行う。ただし、人工血液にバルテュス=J=ラングドンの臓器は耐えられず、使えば使うほど彼の体を蝕む諸刃の刃となっている。Dr.クラウンはバルテュスを戦わせることで、人工血液のデータ取りを行っており、バルテュスの安全は考えていない。またバルテュスを戦わせることで、A.J.とレビウス=クロムウェルを挑発して楽しんでいる。心を壊され、Dr.クラウンの言いなりとなっているバルテュスだが、辛うじて残っている正気の部分では自死を望んでいる。しかし一方で、度重なるトラウマと人体実験の副産物ですべてを憎み、壊したいと考える人格が生まれており、Dr.クラウンですら制御が難しい多重人格状態となっている。ナタリア=クロムウェルの試合では別人格が現れ、激闘の果てに勝利。だがナタリアの心に触れたことで別人格にも大きな影響が現れて暴走し、Dr.クラウンの体を破壊している。
Dr.クラウン ジャック=プディング (どくたーくらうん じゃっく ぷでぃんぐ)
軍事企業アメジストに所属する高齢の男性。A.J.ラングドンやバルテュス=J=ラングドンの運命を弄んだ元凶で、残虐で狡猾な性格をしている。赤鼻を付けた道化師のような仮面と化粧をしており、芝居がかった慇懃無礼な話し方をする。邪悪な人物で、バルテュスの姉と父親を彼の目の前でいたぶり、彼を自責の念で追い込む。さらにバルテュスに度重なる人体実験を施して精神崩壊させ、Dr.クラウン ジャック=プディング自身のあやつり人形とする。その残虐性にエンターテインメントを見いだしたピエール=ピスコッティにスカウトされ、連盟に所属する。サザンスラム開催時には機関拳闘連盟に新たに所属し、総裁補佐という確固とした地位を手に入れる。レビウス=クロムウェルとはかつて敵対していたが、体制側に属したため、彼が手を出せないのを見越したうえで形だけの謝罪を行い、彼の怒りをあおる。また試合を半ば私物化し、残虐的なファイトを演出する。バルテュスとナタリア=クロムウェルの試合では、得意の甘言で会場を引っ搔き回すが、試合後バルテュスの暴走に巻き込まれて体を吹き飛ばされ、首だけの状態となる。
オリバー=E=キングスレー (おりばー いー きんぐすれー)
機関拳闘界現王者の男性。齢13歳で王座に君臨して58年間の長きにわたり、その王座を守り続けた無敗の「帝王」。最年少記録と最年長記録を併せ持つ最強の猛者で、彼と戦った者は悲惨な敗北を遂げるといわれている。戦前の時点ですでに王者だったが、国のために軍に志願。そこでダニエル=クロムウェルの部下となる。ダニエルとは親子ほど年が離れていたが、次第に彼の思想に感化され、「力」を持ってestを目指すようになる。幼い頃、戦争に巻き込まれたレビウス=クロムウェルを助けた老兵その人。彼が機関拳闘士にあこがれた起源となった人物でもある。サザンスラムでは対戦相手にレビウスを指名し、レビウスの乗り越えるべき最大の壁となって立ちふさがる。対戦前にレビウスにダニエルのことを話した。試合の際には宇宙服のようなスーツを身にまとう。実は蒸気症を発症しており、ふだんのスーツ姿はその症状を軽減するためのもの。レビウスとの対戦では、その戦いを自身の最後の戦いと考え、あえてスーツを身につけずに最低限の装備で戦いの舞台に立つ。レビウスと同じく、右腕が機械化された義手となっている。
クリストファー=テッド=エルフィンストン
Grade-Ⅰ「No.6」の座に就く男性機関拳闘士。黒い髪を長く伸ばした美丈夫で、陰気な雰囲気を漂わせた黒ずくめの格好をしている。ナタリア=クロムウェルとバルテュス=J=ラングドンの試合では、試合を止めようとしたレビウス=クロムウェルの妨害を行った。estに強い興味を抱いており、レビウスの邪魔をしつつも、彼に警告を行っている。
ダニエル=クロムウェル
レビウス=クロムウェルの父親。欧州多国籍連合の軍人で、現在は故人。戦争時はオリバー=E=キングスレーの上司だった。「運命」を知り、自分に与えられた役割を全うしようと振る舞う。そのため、自分が運命を果たすまで死なないと確信し、爆撃の際に立ち続けて敵を偵察していたりと常軌を逸した行動を取っていた。欧州戦争末期にはダニエル=クロムウェル自身が死ぬことを承知で、運命に従って敵国に渡る。そこで引き起こした革命が原因となり、100万人以上の人間が命を落とすが、それが結果的に戦争を終結させるきっかけとなった。戦争終結後、古い宗教遺跡にたどり着き、仲間の肉を食らい生き永らえていたが、オリバーに発見され、彼にみとられて死亡した。「和」の力を持ってestを目指しており、レビウスにその夢を託した遺言を残している。
その他キーワード
サザンスラム
世界最大の機関拳闘の大会。試合会場はスチームランドに設立された巨大人工島で、試合内容は昇格トーナメント4つと、現No.1からNo.13による頂上決定戦、通称「王者戦」が行われる。試合は開会式を合わせて6日間行われ、試合会場は厳重な警備で警戒されており、試合選手は安全上の理由から観客用施設の利用を禁止されている。現大会は世界中が火薬庫状態となり、戦争寸前の中で行われている「世界大戦の代理戦争」としての側面もあり、世界組織の後ろ盾のもと機関拳闘連盟の主催で開催され、各国の思惑が複雑に絡み合っている。優勝者の属する国家組織には世界を制する権利が与えられ、同時に優勝者にも相応の栄誉と権利が与えられる。
超蒸気 (ちょうじょうき)
現在のインフラを支える蒸気技術。通常の「水を熱して作られる水蒸気」とは原理から異なる別物で、「星水」と呼ばれる特殊な資源が用いられる。通常の蒸気機関よりも遙かに効率よく、大量の蒸気を生み出すことが可能で、現在では「蒸気」といえば専らこの超蒸気を指す。情報や交通、通信機関、あらゆる社会インフラを支える力となっており、現在は星水を利用した「大蒸気時代」となっているが、その一方で蒸気症や星水の争奪による紛争などの諸問題も発生している。また星水の発見者であるダグラス=ドレイクはこの超蒸気技術に革命をもたらし、少ない星水で効率よく動力を得る仕組み「機械」を発明。この技術は義肢関係の技術に応用され、機関拳闘の礎となった。また次なる超蒸気技術の革命として「人工血液」が注目されている。
星水 (せいすい)
超蒸気に用いられる特殊な液体。18世紀に探検家であり発明家でもあるダグラス=ドレイクによって、中央大陸の巨大な帯水層「アガルタ」、その地に眠る特殊な化石水を生成することで発見された。「星水」という名前の由来は現地の宗教になぞらえて付けられたもの。その性質は「血液中の誘導体分子と結合すると一瞬にして大量の蒸気に変わる」と「血液主の意思で自在に操れる」という特異なもので、通常の水を熱するよりも遙かに効率よく大量の蒸気を発生させることができる。これによってインフラ技術に大革命が起き、星水は各国が求めて止まない資源となり、時にはこれを求めて戦争も起きている。また星水の「血液主の意のままに動く」という性質はサイボーグ分野に応用され、義肢の高性能化が進んだ。星水を意のままに動かすのは使い手の体力を大量に消耗するため、義肢が高性能であればあるほど、その負担は少なくなる。
est (えすと)
ダニエル=クロムウェルの残した謎の言葉。古い言葉で、神や超越者といった「究極の存在」を意味する。古くより伝わる預言で赤い月ののぼる時、estは生まれるとされる。そしてこの預言の時は偶然にもサザンスラムのレビウス=クロムウェルとオリバー=E=キングスレーの対戦の日となっている。
蒸気症 (じょうきしょう)
超蒸気を長期間浴びすぎると発症する病気。超蒸気によって人の遺伝子情報が傷つき、欠陥細胞が生まれたり、免疫機能が働かなくなったりと、さまざまな症状が現れる。戦前は各地で星水不足が巻き起こり、粗悪な物が出回ったために、多くの人がこの蒸気症を発症した。また、戦時中の軍人は物資不足から汚染された星水に頼らざるを得ず、機械化された軍人の多くはこの病気を発症したとされる。現在では星水の安全基準が改められたため、機関拳闘など超蒸気を酷使する界隈以外ではめっきり姿を消している。
機関拳闘 (きかんけんとう)
肉体を機械化したことを前提に行われる競技。試合後の生存率が低く、「最後の檻」とも呼ばれる。競技人口は全世界で300万人ともいわれ、そのGrade(階級)は頂点の「Ⅰ」から最下位の「Ⅴ」まで5段階存在する。現在、Grade-Ⅰに君臨するのはたったの13人だけで、彼らは「大いなる十三闘士(グランド・サーティーン)」と呼ばれる。Grade-Ⅲ以下の戦いでは、蒸気を噴出する外殻孔の使用が禁止されているため、基本的に機械の手足を使った殴り合いとなる。Grade-Ⅱ以上の戦いでは外殻孔の使用が解禁されるため、蒸気を利用した魔法のように派手なバトルとなり、Ⅲ以下の戦いとはまったく別の様相を呈することとなる。また蒸気の力を十全に利用するGrade-Ⅱ以上は完全に才能が物を言う世界で、努力だけではついていけない場所とされる。