フリーの探偵が主人公のなんちゃってギャグミステリー。座間美味士(ざまうまし)は、ペット捜索から不倫調査、果ては殺人事件の捜査まで何でもこなすフリーの探偵だ。シャーロキアンキャップ&外套をまとった姿はまさに探偵だが、他人の不幸話を聞きながらご飯を食べることが大好きという悪癖あり。警察官をしている兄の座間笑太(わろた)から、おかず=不幸話がくっついてきそうなネタの提供を受け、人の不幸を肴にご飯を食べるため依頼者の元へ向かう。
インターネットの匿名掲示板で誕生した言葉「メシウマ」の意味は、「他人の不幸で飯がうまい」。実際にご飯を食べる人はいないだろうが、美味士は茶碗に盛られた白米をモリモリと口に運ぶ。依頼者の話を聞きながら嬉々として白米をかっこむ姿は、相手を煽っているようでハラハラさせられるが、彼はご飯がおいしく食べられさえすれば基本OK。しかし、最初は怒り心頭だった依頼者が次第に冷静になり、自身の気持ちに整理をつけ、新たな一歩を踏み出していくのだから侮れない。話を聞くことで、相手の心に変化をもたらすのがテクニックだとすれば探偵として超一流にも思えるが、幸せな話を聞くと吐くのだから偶然の産物なのだろう。ミステリ仕立てになっているので、美味士が推理を披露することもあるが、ご飯のインパクトが強すぎてなんとも残念な探偵だ。
探偵の主人公と先輩が、不治の病「変身病」にまつわる依頼と向き合うヒューマンドラマ。半田は、人間の体が徐々に動植物へと変化していく「変身病」を患ったことから教職を失い、探偵事務所を営む先輩の竹林に拾われ、探偵助手として働いている。探偵社に持ち込まれるのは、変身病関連の依頼ばかり。半田は変化をして、やがて人格を失っていくことへの恐怖を抱きながら、さまざまな変身病患者たちと向き合う。
ある日突然、動物への変化が始まる病気「特発性多発性染色体変容」こと、通称「変身病」を患った人は末端から中枢へと動植物化が進行していき、やがて人格を無くし完全に別の生物になってしまう。半田はジャイアントパンダに移行途中で、目の周りが黒く耳もあるため、一目で「病気の人」だと分かる。患者たちが変容していくのは、狼や鳥、古代種のシカやニシキヘビとさまざまだ。変身病に関する依頼が多く舞い込む竹林の探偵社。半田にとっては、どれも他人ごとではなく平静ではいられない。逃れられない現実に慌てふためき、時には依頼者よりも悩みが深まることもある。しかし、同じ病気の患者だからこそ寄り添える部分も。この探偵社の仕事は、少しこじれてしまった心を癒すことなのかもしれない。
私立探偵事務所を舞台に、破天荒な探偵と助手を描いた探偵コメディ漫画。井上涼子の兄は警察官だったが、勤務中に失踪してしまう。しかし、警察の捜査に進展がないため探偵事務所に捜索を依頼。その探偵事務所「ああ探偵事務所」には、シャーロック・ホームズに憧れて探偵になったという私立探偵妻の木がいた。推理は全く当たらないという妻木に不安を覚えながらも、涼子は兄の捜索を依頼する。2004年にテレビドラマ化。
妻木が憧れているホームズとは、イギリスの小説家アーサー・コナン・ドイルの作品に登場する天才的な観察眼と推理力を持った探偵だ。しかし、当の本人の推理力は皆無。依頼に訪れた涼子の素性をもっともらしい顔で推理してみせるも、ことごとく外してしまう。とはいえ、妻木が言うには、探偵業の大部分を占めるのは推理力ではなく、「地道な調査」と「裏付け」。その言葉通り、警察には無い情報源を基に聞き込み調査を行い、わずか2日間で涼子の兄の行方を探り当てた。片目を隠したビジュアルは怪しげだが、探偵ならではの手段を駆使し仕事をきっちりこなす妻木は、プライドを持った有能な職業探偵と言えるだろう。
どのような難事件でもあっという間に解決してしまう名探偵のミステリーコメディ。神田川光典は名探偵と評判の男だ。彼が関わると、いかに難事件であっても即解決する。神田が現場に現れたとたん、事件が勝手に動き出し解決まで自動的に導かれていく。探偵助手・井浦宵吾は、そんな神田川への尊敬の気持ちを込め、彼を「命運探偵」と呼んでいた。自分の力で事件を解決したい神田川の前に、次々と難事件が舞い込んでくる。
「探偵が現れるところに事件あり」とは言うものの、神田川の場合は解決編もセットでやって来る。殺人現場に訪れると、推理を披露する前に天井から犯人が落ちて来て即解決。密室殺人事件では、偶然続きで密室の謎が解明され、故人の隠された秘密がすぐさま明らかとなり、ものの数分で犯人が自白するという超展開をみせる。そのため、神田川が推理を披露する場面はなかなか実現しない。事件解決を使命とする「プロの探偵」という意味では、彼が持つ超幸運体質は立派な武器だが、本人が望んでいないところがなんとも皮肉だ。
19世紀後半のロンドンを舞台に少女とオーク(怪物)の探偵が活躍するファンタジーミステリー。ユナ・ナンシー・オーエンは、一度見たものは絶対に忘れない「無尽蔵書(ブックエンド)」という特殊能力を持つ少女。英国国教会内の施設に監禁状態を強いられながら、その能力を活かして事件の推理に協力していた。外に出たいと願っていたユナは、ある夜、「無謬の名探偵」を自称するオークに誘拐され、助手として共に事件を追うこととなる。原作は推理作家としても活動している円居挽。
本作の19世紀ロンドンでは、特殊能力が存在し、探偵が人間ではないなど、謎と不思議にあふれていた。ユナをさらい外の世界へと連れ出したのは、見上げるような巨体に緑色の肌、豚のような鼻に牙を持つオーク。「オーク探偵」ことオーロックは、自身の言葉がすべて真実になるという特殊能力を持っているが、使い方を誤ったことから、本当の名前と姿、そして親友を失くしてしまった。美少女と紳士な野獣のコンビが、ロンドン中を震撼させている殺人鬼「切り裂きジャック」を捕らえるため動き出す。