厳選された卵子と精子から作られた特別な子ども7人で構成された、プロジェクト参加メンバーで最も優秀とされるチーム。未来に優れた遺伝子を残すためだけに作られた存在で、生まれた時から専用の施設で教育を受けてきた。そのため苗字を持たず、親もおらず、全員が同い年。子どもたちは、近い将来に地球に隕石が落ちて人類が滅びること、施設で育った大勢の子どもから選抜される7人だけが未来へ行けるということを知っており、選抜隊に選ばれることを目標に切磋琢磨していた。身体を鍛え、知識を蓄え、どんな環境に置かれても生きていける完璧な人間を目指す。他の4チームとは違い、「7SEEDS」プロジェクトのためだけに生まれ、荒廃した未来へ行くことを望んでいた特殊なチームである。
チームの中心人物である安居(あんご)と涼(りょう)は、施設のなかでも幼少期から優秀な成績を収めており、未来行きの候補に上げられていた。
一般社会から隔離された山奥の施設にワーグナーの「ワルキューレの騎行」が流れ、1日が始まる。子どもたちは鳴り響く音楽とともに起床し、全員で朝食をとる。全寮制の学校のような佇まいの施設で、ベッドがあるキャビンから食堂、教室、図書室、グラウンド、プールに至るまで完備されている。座学の授業はもちろんのこと、崖登りや工作、農作など、未来で必要なことを学ぶための広大な土地と設備がある。スポーツの授業もあるが、一般の学校のようにサッカーや野球といった球技はせず、走る、泳ぐ、山登りなどの未来で役立つ技術を教わるのみ。ナイフの使い方や護身術などを教わる授業も存在する。未来では必要ないと判断されたのか、音楽の授業はない。しかし、施設にいるスタッフによってしばしばクラシックの曲が流され、消灯の合図はドヴォルザークの「家路」が流れる。
外の世界との関わりは一切なく、子どもたちはテレビで見ただけの知識しかもっていない。お金も使わず、コンピュータも教わらない。なぜなら彼らの目指す未来の地球では発達した文明は滅び、それらは存在し得ないものだからである。
未来の地球で目覚め、新しい歴史をつくる、栄光ある選抜チームに選ばれるのは施設でたったの7人。17歳になるとその7人が選抜されることになっている。
子どもたちは常に順位付けされており、月に一度「トップ賞」と呼ばれる成績優秀者の発表が行われる。安居と涼はこの賞の常連だったが、年齢が上がるにつれて徐々に頭角を現す者が出現し、受賞者に入れ替わりが起きていた。また、出来の悪い子どもは17歳を迎える前に脱落。視力が落ちた子どもが「近視の遺伝子は未来にいらない」という成績以外の理由で脱落させられることも。当初は大勢いたメンバーも13歳を迎える頃には100人を切っていた。
脱落した者はどこへ行くのか、子どもたちは誰も知らず、見当もつかなかった。施設で生まれて育った彼らには、帰る場所も、無償の愛情を与えてくれる家族の存在もないからである。
13歳になると、以下の7つの専門クラスが作られる。
・「火のクラス」――火の起こし方、使い方、燃料について。狩猟から鍛冶、陶芸に至るまで、火に関することを学ぶクラス。
・「水のクラス」――飲み水の確保から、治水、下水、水質について。水力を使った水車の仕組みなど、水に関することを学ぶクラス。
・「風のクラス」――天文、地理、気象や自然災害について。風力を使った風車の仕組みなど、風に関することを学ぶクラス。
・「土のクラス」――土木建築をメインに、地層、鉱物、石の知識、火山活動や農地の確保についてなど、土に関することを学ぶクラス。
・「動物のクラス」――家畜から猛獣、昆虫や魚などについて。その捌き方や部位の知識から、生態系と環境などについて学ぶクラス。
・「植物のクラス」――農耕全般や薬草、毒草、きのこ、海藻について。利用法や栽培法などを学ぶクラス。
・「医療のクラス」――応急処置以上の医療に関わる全般的な知識を学ぶクラス。
この中から一人2クラスを選択し、より専門的な知識をそれぞれ叩き込む。自分の得意科目を選ぶ者もいれば、安居のようにどこにいてもリーダーシップを取れるようにと「火のクラス」「水のクラス」を選択する者もいる。
また未来行きの切符もクラスと同じ「7」のため、各クラスのトップが選ばれるのではと囁かれていた。
17歳になると、7人を選ぶための最終試験がある。そう聞かされていた子どもたちだったが、具体的にいつ、どんなテストが行われるのか知らないまま17歳を迎えた。17歳になった彼らを待ち受けていたのは日々の生活のなかで起こる、生死に直結するような事件と事故。食材への毒草混入に始まり、拳銃の不備、ロープの劣化、ガスの中毒事件、そして大規模な火事。子どもたちは何者かが偶然を装って仕掛けたトラップに嵌り、そのたびに一人、二人と命を落としてゆく。そう、最終試験はなんの予告もなく始まっていたのだった。
子どもたちに与えられた試験内容は「生存者が7人になるまで生き残ること」。過酷な状況を乗り越えてこそ、強靱な肉体や精神力が養われる。そう考えていたプロジェクトの選定者によって、過酷で凄惨な試験が進んでゆく。
心と体に深い傷を負いつつ最終試験で生き残った7人は、予定どおり未来へ辿り着く。冷凍保存状態から復帰した彼らの前に「生存者が7人になるまで生き残ること」という残酷な最終試験に立ち会った、横暴な教官が現れた。彼もまた未知の世界でのガイド役として、未来に辿り着いていたのだ。
生き残った7人の子どもたちの手には拳銃が。
ようやく辿り着いた未来の地球に、銃声が響き渡った。