天変地異が起こる前の地球で、学者たちは巨大隕石が降ることを予測し、それに伴う被害の予想をしていた。それによると直径数十キロの天体が地上に落ちた場合、直径200キロものクレーターができ、衝撃波によって地震や火山噴火、津波が起きることとなる。海に落ちた場合は想像を絶する大津波が起き、地球上のほとんどが洗い流されてしまうという。
海は深いところでも7~8キロ。そこに直径数十キロの隕石が落ちた場合、海水の急上昇は回避できない。
夏のBチームが最初に流れ着いたのは誰もいない無人島。海は見渡す限り水平線に囲まれており、島で一番高い山に登っても辺りに陸の影は見えなかった。しかし、後に島を囲む水が海水でなく真水だということが発覚。つまり、過去の日本には存在していなかった、琵琶湖よりも巨大な湖が天変地異によって出現したということになる。
その後、上陸した九州では阿蘇山の噴火によってその土地が二つに分断されていることを確認。本州では富士山が自身の噴火によって跡形もなく消失し、溶岩と灰だらけの裾野に酸の湖がいくつも出現。さらに噴火や大きな地殻変動で本州は東西に分断され、向こう岸が見えない程の海峡が生まれていた。
春のチームが流れ着いたのは、巨大な昆虫が襲い来る虫の島だった。昆虫や植物、貝類や海藻が豊富だが、哺乳類と爬虫類は存在しておらず、水が澄み切っているのに魚がいない、奇妙な土地。そのわけは、巨大なカマキリやムカデ・トンボ・食虫植物が棲息しており、生態系の上位を独占しているからだった。なかには長い針を獲物に刺して卵を産み付け、内臓から浸蝕していく未知の昆虫も。
一方、本州ではまるで恐竜映画に出てくるような鋭いキバとツメを持った謎の生物たちが生息していた。気候変動によって雨季と乾季がはっきりとわかれた東日本で、乾季には水分を失った状態で土の中で眠り、雨季の訪れと共に水を吸って復活するという、独自の進化を遂げていた。海の中には凶暴な深海魚が棲息しており、雨季になると活動を始めた生物を狙って水辺に上がってくる。東日本は気候変動に対応できるように進化を遂げた肉食動物たちが巣食う場所になっていた。
夏のBチームが最初に見つけた、過去の人類が作った建造物。それは長崎の象徴であった「平和祈念像」。人差し指を空に向けた、手のような形の岩が海面から顔を出しているのを発見。海に潜ってみると、それは「平和祈念像」の上げられた右手部分であることがわかり、その足元には長崎の街のあとが埋もれて続いていた。長崎は海に沈み、跡形もなく消え去っていたのだ。
春のチームがたどり着いた横浜でも、その大部分が海に沈み、ランドマークの横浜ベイブリッジは二つに折れて崩落。幽霊船のようになった氷川丸がその脇に横たわっていた。東京も世田谷や杉並など大部分が水中に沈み、苔(こけ)だらけになった緑色の水面から、苔や灰などで覆われて岩のようになった高層ビル群の先が顔を出していた。その様子はまるでダムに沈んだ村のようであった。
思い出のたくさんつまった街なみやランドマークの変わり果てた姿を見て、彼らはようやく「隕石が落ちて地球は壊滅した」「自分たちは遠い未来へ来てしまった」という事実を受け入れざるを得なくなったのだ。
「7SEEDS」プロジェクトは未曽有の危機が訪れた地球で、人類を存続させるための最後の手段。それ以外にも隕石を爆破する計画や、巨大シェルターを構築して避難・生活するプロジェクトなど、さまざまな計画が練られていたとされる。
未来へ辿り着いた面々の前に現れたのは、「龍宮」と呼ばれる巨大シェルターだった。このシェルターは選ばれた者だけを招集し、生活をしていくためのもの。春、夏、秋、冬の4セクションに分かれており、居住区のほかに農場や畜産施設、貯蔵庫などを備え、エネルギーシステムも完備。その場だけで自給自足の生活ができるようになっていた。だが、シェルターの中に足を踏み入れた少年少女たちを待ち受けていたのは、人の気配がなく、荒廃した空間。埃(ほこり)がたまっており、人がいなくなってずいぶんと長い期間が経過しているようだった。システムはかろうじて動くものの、そこに人間は存在していなかった。しかし、人間の遺体や骨は見当たらない。捜索を続ける彼らの前に、テープで目張りされいくつもの鍵がかかった冬のセクションの扉が現れた。その扉には大きくバツが書かれており、過去にこの場所で重大な何かが起こったことが一瞬にしてわかるものだった。そしてついに夏セクション前の扉で、壁にもたれて亡くなっている一人の男性のミイラを発見する。
その手元に落ちていた彼の手記には、未来に来た少年少女らが知りえなかった、天変地異の最中の地球の様子と、このシェルター「龍宮」に暮す人々が全滅するまでの記録、冬のセクションを封鎖した理由が事細かに記されていたのだった。