日本でゲームといえば、まずTVゲーム(コンシューマゲーム)、パソコンゲーム、スマホゲーム、トレーディングカードゲームなどが思い浮かぶが、「ボードゲーム」も忘れて欲しくない。といっても子供のころ遊んだ「ボードゲーム」といえば、「人生ゲーム」とか「モノポリー」が多かったかと思う。それとはまた一種嗜好の違う「ボードゲーム」があるのをご存じの方も多いかもしれない。
自分は少し大人になってから遊んだ「スコットランドヤード(ドイツ・ラベングバーガー社製)」が大好きだが、今ではなかなかプレイすることができないのが残念なところ。
正直なことを言うと「ボードゲーム」そのものは別に敷居が高いことはないのだが、そこいらの「おもちゃ屋」に置いていることが少ないため、せっかく面白いものを見逃している可能性は高い。実は本編に登場する少女たちも、その中の一人が「ボードゲーム店でバイト」をしていなければ、このような状況に恵まれなかったかもしれない。
京都は鴨川近くの共学校に通う1年生。教室でも通学中でもヘッドホンを装着し、世界からの断絶を願っているかのような少女。「人嫌い」なわけではなく、ただ「他人とどう接すればいいかよくわからない、引っ込み思案」であると思われる。ヘアスタイルはショートカットで左利き。
京都へ引っ越してきて三日目にレンタサイクルで近所の探訪に出かけ、美姫と出会う。美姫とは対照的に超ポジティブ。人なつっこいが、少々マイペース気味。世界的な動物カメラマンを父に、猫好きで美人な姉を家族に持つ.。二人が出会った次の日、綾は美姫のいるクラスへと転入してくる。
美姫や綾のクラスの委員長。京都っ子だが、通常は標準語を話し、基本論理的な考えを展開する優等生。だが彼女こそ、この作品のキーパーソンで、その存在なくしてこのマンガは成り立たない。美姫や綾を「ボードゲームの世界」に引き込むのは彼女だからだ。「自作のボードゲームを作りたい」とかねがね思っていて、それがまたこの作品の一つの柱となっている。
通称「エミー」。4巻にて初登場。3人と同い年で、9月から同高校(加茂川北高校)に編入となる。ドイツ人。実は世界のボードゲームの趨勢はドイツが圧倒的で、いわば彼女は「ボードゲームの本場から来た少女」ということになる。実は彼女もまた「自分でゲームを作成する」のが夢、だが、現7巻現在、彼女の作成したゲームはお披露目されていない。
翠が放課後アルバイトしているボードゲームの店「さいころ倶楽部」の店長。もとは沖縄に駐屯していた米軍人だった(らしい)。こわもての外見からは考えにくいが、少女たちを見守る目は優しい。その駐屯時に出会った「カタン」というボードゲームが、彼の人生を変えた、と言っても過言ではない。
主人公4人の中で、もともとボードゲームに興味を持ち、将来は「ゲームを作る」人間になりたいと思っているのは翠とエミーであり、美姫と綾は、普段「委員長」然としている翠を放課後の繁華街でみかけ、興味本位であとをつけたところ「さいころ倶楽部」でバイトしているのを発見、そのままゲームをいっしょにプレイすることでその魅力にとりこまれた、ある意味「巻き込まれ」タイプの人物。
そもそも普段「委員長」タイプの娘が実はボードゲームを趣味としており、その趣味が高じて「作る側」に向かおうとしている、というのは設定としては珍しいかもしれない。
どちらかというと「委員長タイプ」の子のほうが「巻き込まれる」タイプだったりするからだ。ここにもこの作品の意外性がある。物語を動かしているのは活発で人見知りをしない綾であるが、物語を組み立てているのは翠(時としてエミー)なのだ。
美姫はこのマンガを読んでいる人たちを投影している。まだ自分自身の「夢」というものは持っていない。
でも何かを求めてあがいている、まだモラトリアムの最中にいる彼女たちの「もがき」を体現している、といっても過言ではない。
同い年でありながら確固たる夢に向かって驀進している友達に対する憧れと、劣等感を抱いている彼女は、一部の読者自身だ。
けれどもそんな劣等感など、ともに歩むかけがえのない時間の前では、何の妨げにもならない、と教えてくれる友がいる。その友とともに、少しずつ成長していける自分がいる。そう、やはりこのマンガは、ボードゲームに魅せられた少女たちの、まぎれもない成長物語であることに間違いはない。
ほかにも美姫に思いを寄せる剣道部の吉岡や綾のことを気に入っている同じくクラスメイトの田上なども出てくるが、恋愛要素は薄く、あくまでもボードゲームメインであるところも面白い。
久しぶりに実家のボードゲームをやってみたくなる、そんな作品だ。
最近は、ボードゲームを楽しめるカフェやバーなどもあるので、興味のある人は探してみてほしい。