心を癒やすざつな旅を描いた究極旅漫画。主人公は新人漫画家の鈴ヶ森(すずがもり)ちか。彼女は漫画賞で入賞経験こそあるものの、以降は全く良い作品を生み出すことができずにいた。気合いを入れて描いたネームもことごとくボツとなり、漫画を描く気力を出すどころか、いっそ消えてしまいたいとさえ考えるようになったちか。その消え去りたいという思考が旅に出たいという考えに変化し、ちかは衝動のまま旅に出ることを決意する。
人生が上手くいかないとき、人は少しでも現状を変えたくて日常に変化を求めようとする。そんなとき手っ取り早いのが、知らない場所に身を置いてみること。つまり旅である。ちかもネームがボツになり落ち込む日々から抜け出したくて、旅に出るという選択をした。「旅行」というと巡る観光地を決め、泊まるホテルの予約を取るなどきっちり日程が定まっているイメージが強いが、ちかの言う「旅」はそれとは少し違う。行き先はSNSのアンケート結果に委ねており、細かいスケジュールなどは組まない。とにかくその場所に行ってみるのだ。予定を立てないざつな旅だからこそ、場所や食事、人との偶然の出逢いに恵まれる。本作には、目的のない旅であるからこその楽しさが詰まっている。
2人の少女が町から町を渡り歩いていくロードムービー型漫画。舞台となるのは中世ヨーロッパを思わせる世界で、物語の主人公は「クロバト」と呼ばれる凄腕郵便配達人のマトと、小説家を志す元箱入りお嬢様のアイ。2人は何故か言葉を喋る銃のクロヤギさんと共に、様々な人の想いが込められた郵便物を持って、いくつもの町を渡り歩いている。人から人へと届けられる郵便物が、マトとアイに心温まる数多の出逢いと別れをもたらす。
郵便配達人であるマトの仕事は、国をまたいで様々な町を渡り歩き、預かった郵便物を確実に受け取り主に渡すことだ。彼女は預かった郵便物を、とても大事に運び、手渡す。それは単純に仕事だからというだけではなく、マト自身が郵便物を宝石のように思っているからだ。郵便物というのは、受け取り主の手に届かなければただの紙切れ。しかし相手の手に渡り、送り主の想いが届いた瞬間に宝石となる。マトは自分の運んだ郵便物が宝石になる瞬間を楽しみに、今日も郵便物を運ぶ。そして旅の同行者であるアイも、その瞬間を楽しみにしている1人。2人は行く先々で様々な人と出逢い、郵便物に込められた想いが配達完了の瞬間、それぞれ異なる輝きを放った宝石へと変わる様子を見届ける。
航海王子が豪華客船で起こる様々なトラブルを解決する様子を描いた、なんちゃって謎解き4コマ漫画。多くの客を乗せて大海原を航海する豪華客船「はらいそ」では、毎日大小様々な事件が起こる。そんなはらいそ内でトラブルを解決する役割を与えられているのが、航海王子こと久世(くぜ)龍之介だ。久世は気乗りしないながらも船長からの指示により、今日も船で巻き起こるしょーもないトラブルの数々を解決に導いていく。
主人公の龍之介は、豪華客船はらいそ船内に居住しており、不本意ながら船で起こるトラブルの解決を担当させられている。船内という限られた空間の中でも、トラブルは毎日起こる。多くの乗員乗客が存在しているため、トラブルの内容も実に様々だ。久世は豊富な知識を活かし、次々と起こるトラブルを華麗にコミカルに解決していく。本作の魅力は、巻き起こるトラブルを通して、豪華客船の旅がどのようなものなのかに触れられるというところだ。船の中での乗客たちの過ごし方や、乗務員の仕事についてなど、多くの人が興味を引かれる点を描いている。個性豊かなキャラクターたちが織りなす物語を堪能しながら、優雅な豪華客船の旅を疑似体験してみよう。
作者が鉄道好きのトラベルライターに日本全国連れ回される、ノンフィクション鉄道紀行漫画。ある日、漫画家のキクチナオエは、編集のイシカワからある提案をされた。それは、トラベルライターと旅をする漫画の企画があるのだが、その作画を担当しないかというもの。旅と言えば美味しい食べ物や酒だと考えたキクチは喜んでこの提案に乗るのだが、共に旅をするトラベルライター・横見浩彦は、食にはさほど興味がない究極の鉄道好きだった。2007年6月にテレビアニメ化。
経費は小学館持ちで、旅の計画はトラベルライターが立ててくれる。作者は身一つで来て旅に参加し、その内容を漫画にすればいい。漫画を描けるだけでも嬉しいのに、タダでガイド付きの旅までできることに喜んだ作者・キクチは、集合場所の駅で早速仕事を引き受けたことを後悔した。一緒に旅をするトラベルライターは美味しい食べ物や観光地に詳しい人間だと思い込んでいたのだが、実際に現れたのはいかにも鉄道マニアっぽい男性。しかも彼が立てる旅の計画は、久留里(くるり)線の全駅に行くなどといった、とにかく鉄道そのものを楽しむものばかりで、キクチの理想とする旅とは大きくかけ離れていた。キクチはそれを不満に思いながら、しかし少しずつ鉄道旅の世界に染められていく。
1人の魔女が旅の中で様々な出逢いと別れを経験する、ライトノベルのコミカライズ作品。舞台となるのは、魔法が当たり前に存在する中世風の世界。主人公である魔女のイレイナは、15歳のときに魔法使いの最高位である「魔女」の資格を得た、18歳の天才少女だ。彼女は特別な目的もなく、世界の様々な場所を自由気ままに旅して回り、旅の中でいろいろな人や文化に触れ、出逢いと別れを繰り返す。2020年10月にテレビアニメ化。
イレイナは、幼い頃に読んだ本の影響で、世界中を旅することに憧れを抱いていた。本作は、夢を叶えたイレイナの旅の様子が描かれた旅行記だ。流されるように立ち寄る国や町で、イレイナは様々な出逢いを経験することになる。旅の醍醐味は、いろいろな初めてを経験することができるということだ。初めて逢う人、初めて見る景色、初めて知る価値観。その全てが旅人の心を揺り動かす。しかしそれらの出逢いが全て楽しいものだとは限らない。世界には多くの喜びと同時に、悲しみも渦巻いているからだ。各地を渡り歩いていれば、当然世界の暗部に触れる機会も増える。時に心躍り、時に切なさややり切れなさで胸が苦しくなる。そんな旅を、イレイナと共に堪能しよう。