二次創作界に現れた天才字書き・綾城(あやしろ)をめぐる同ジャンルの創作者たちの葛藤を描いたオムニバス形式のヒューマンドラマ。天才と称される綾城の作品は読者の心を魅了し、新作をアップする度にSNS上で絶賛されていた。だが、同ジャンルの字書きたちはその才能に惹かれながらも嫉妬の念が拭えずにいた。そんな中で、綾城の友人の字書き・おけけパワー中島は親し気に彼女とリプライを飛ばし合い、様々な者から妬まれ、疎まれていくのだった。
本作の中心となっているのは二次創作界の天才字書き・綾城だが、具体的な作品内容は明かされず、物語を進めていくのも彼女自身ではない。同ジャンルの字書き・七瀬や読み専のイクラ丼など、第三者目線の感想によって綾城の作風や才能の輪郭を浮かび上がらせ、読者に想像させる手法は実に見事だ。綾城の才能は、ファンにとっては称賛に値するが、同じ字書きにとっては嫉妬の対象になりうる。しかし、綾城にとって他の字書きは同志であり、他の者から刺激を受けながら情熱を筆に乗せているのだ。また、憎まれ役のおけけパワー中島も、時には良いアシストをしてくれることもある。好きなジャンルに情熱を注ぐ彼女たちの熱烈な想いが作中に炸裂しており、読めば読むほど心が動かされることだろう。
女子大生の同人作家と、極道の男とのやりとりを描いたギャグコメディ漫画。内田花は、「バナナウンコパクパク」のペンネームで同人活動を行っている大学生。初めて参加した同人誌即売会で大量の段ボールを背にして途方に暮れていた。そんな彼女を救ってくれたのは、プリチィヘッドこと示頼厳十郎。彼は同塵(どうじん)組若頭だったがオタクであり、段ボール2箱分の200冊を購入。彼女の大ファンとなった厳十郎は、その後も花の前に現れるようになり、交流を深めていく。
本作に登場する創作女子は、「バナナウンコパクパク」というインパクトのある名前で同人作家として活動している女子大生の花。彼女はラブコメが苦手であり、得意とするジャンルは小さな男の子が痛めつけられる描写が多いアブノーマルな「リョナショタ」。極道の厳十郎はその変態性を気に入り、花の作品を爆買いした。他にも悪戯好きの組長、花のことを厳十郎の正妻だと勘違いしている舎弟の二宮三郎、小心者で中二病をこじらせている虹元(にじげん)組の若頭のシュバルツ・アリスこと稲川烈蔵など、個性豊かなキャラが周囲を彩る。比喩表現が誤解を招くスタイルの厳十郎と、心の中でツッコミが炸裂する花とのシュールなやりとりを是非堪能して欲しい。
女流エロ漫画家の生活と、彼女を取り巻く環境を描いた日常系コメディ漫画。水木は一人暮らしを始めたばかりの女流エロ漫画家。仕事として割り切って性的な漫画を描く女流漫画家もいる中で、水木は心底エロ漫画を愛しており、彼女にとってこの職業は正に天職だった。思い描くエロいシーンを表現するにはどうすればよいのか。頭の中が常に性的なネタで溢れている水木を中心に、担当編集で恋人でもある榎恭介(えのき きょうすけ)や、毒舌アシスタントのサキなども交え、賑やかに展開されていく。
本作の主人公の水木は、同人活動と商業漫画の執筆活動を並行している女流エロ漫画家。BL作家でもあるサキや、確かな描画力とBLに理解が深い佐野悠(さのゆう)など、有能なアシスタントに助けられながら描いている。リアリティのあるエロを描くためには取材も重要で、ネタがマンネリ化しないように努力していた。水木にとってエロ漫画は自分の情熱を注げるものであり、このジャンル以外は描きたいとも思わない。しかし、彼女の周囲には理想と現実の狭間で思い悩む同業者もいる。水木の執筆活動の話を中心に、恋仲である担当編集者・恭介とのプライベートなエピソード、更には組織と個人の在り方など最近の漫画業界の問題点にも触れられ、深みのある内容になっている。
黒歴史を持つヒロインと彼女の妄想の糧になっている義兄弟との触れ合いを描いたラブコメディ。星野美空(ほしの みそら)は中学時代、腐女子生活を楽しんでいたが、とある事件をきっかけにその過去を封印した。だが、その5年後に、その原因である義兄弟の市ノ瀬竜之介(いちのせ りゅうのすけ)と昴(すばる)が隣の家に引っ越してくる。美空は過去の過ちを竜之介に謝るが、彼は笑って許し、二人は付き合うことになる。しかし、市ノ瀬兄弟の間には深い兄弟愛があり、そんな二人の関係性に美空は妄想を滾らせていく。
主人公の美空は中学時代、同じクラスの問題児の竜之介が、義兄の昂の前では素直な様子を見てときめき、勢いで市ノ瀬兄弟をモデルにしたBL小説をノートに書いたことがあった。誰が書いたかはバレなかったが、BLのネタにされたことが本人に伝わってしまい、美空は深く反省したのだった。腐女子だったことも黒歴史として封印していたが、その5年後に市ノ瀬兄弟は美空の隣人として現れた。二人とも美しさに磨きが掛かっており、再び美空に腐女子の心が蘇る。5年前のわだかまりも解け、美空は竜之介と交際をスタートさせる。だが、昂は竜之介のことを偏愛しており、ヒロインの取り合いではない異色の三角関係が描かれる。深い家族愛にも繋がっていくラブストーリーだ。
覆面女子高生漫画家が高校の部活を通じて成長していく青春グラフィティ。日笠倖(ひがさ さち)は、周囲にはプロとして漫画を描いていることを内緒にしている女子高生。ひょんなことから、変わり者扱いされている同級生の豊崎(とよさき)アリスを助ける形となり、彼女から懐かれてしまう。アリスに誘われて二人一緒にマン研ことマンガ研究部に入部することに。アリスは小学生レベルの絵を描いていたが、次第に漫画の才能を開花させ、倖のライバルとなっていくのだった。
本作では、高校のマンガ研究部を舞台に、主人公の倖をはじめとした様々な創作女子が登場する。倖は既にプロの漫画家としての一歩を踏み出している女子高生。アリスの描く漫画は低レベルだったが、描いている時の表情は実に楽しそうだ。マンガ研究部の部員たちは個性豊かで、学校の裏番的存在の部長の竹達紀梨乃(たけだち きりの)、男の娘(こ)の石黒直(いしぐろ なお)、手芸が得意な白井麻里香(しらい まりか)が所属。既にデビューを果たしている倖にとって、マンガ研究部に入る意味は薄いと思われたが、謎めいた実力者で部誌にだけ参加している部員・アノスに触発されたことでプロ漫画家としての血が騒ぎだす。また、週刊ファイアの編集長・平野静(ひらの しずか)は倖の母親だが、紀梨乃との間には因縁があり、物語は家族関係も深く関わるシリアスな方向へと進んでいく。