大海原で国の命運をかけた戦いに挑む男たちの姿をオムニバス形式で描く戦争漫画短編集。表題作の『軍艦春日回航記』は主人公の鈴木貫太郎が任されたアルゼンチン装甲巡洋艦「春日」を巡る物語。冒頭に収録されている『ハンプトン・ローズの決闘』では、アメリカの南北戦争をモチーフとし、装甲艦同士の攻防が描かれる。その他、『マルマラ海の主』、『スラヴァ自沈せよ』、『鬼の第四駆逐隊』、『海峡海戦』、『三つの軍艦旗』を収録。
作者は戦争漫画を専門にしており、トーンも使わず、台詞すら手描きという徹底した手描きスタイルが特徴的だ。日露戦争直前の明治36年、海軍所属の鈴木貫太郎は極秘任務を受け、イタリア・ジェノバへ赴任する。日本が購入したアルゼンチン装甲巡洋艦「春日」の指揮を取ることになった鈴木は様々なトラブルを乗り越えながら日本国内へと運ぼうと奮闘する。頑丈な鉄製の装甲艦同士の海戦を描く『ハンプトン・ローズの決闘』では敵味方双方の装甲艦「モニター」「ヴァージニア」について図解で示し、双方の状況を交互に描くことで戦況が読者につかみやすいようになっている。コミカルな場面も織り交ぜて重苦しくなりすぎないようメリハリをつけ、どこか温かみを感じさせる作風が魅力的だ。
戦時中へのタイムスリップを繰り返す主人公の行動が現実世界の世界情勢にも影響を及ぼしていくSF架空戦記漫画。主人公の上原クルスは、父親が企画したドキュメンタリー番組制作のための一環で戦艦大和の海底調査に同行することになった。しかし、インタビュー中の潜水艇の中で息苦しくなり、謎めいた声が脳内に響き渡る。光の方向へと向かっていき、気付けばそこは戦時中の戦艦大和の甲板だった。唯一、クルスを認識できる青年・海馬を利用し、日本敗戦の歴史を変えようと画策するようになる。
建造された当初、世界最大にして最強と謳われた戦艦大和。その巨体は今も海底で眠っているという。潜水艇の中で倒れた主人公のクルスは戦争に無関心な青年だ。意識不明のまま入院することになったが、精神だけが戦時中にタイムスリップしていた。クルスと唯一会話できる人物・海馬は大将の山本五十六(いそろく)の従兵となる。海馬が話す「お化けの予言」を信じた山本は史実とは異なる行動を取るようになっていく。お遊び感覚で歴史をかき回したクルスは現実世界に意識が戻った際、自分の知る日本とは異なっていることに気付くことになる。また、クルスを戦時中にタイムスリップさせた謎の声の主の正体も徐々に明らかになっていき、予想がつかない展開にドキドキさせられることだろう。
美少女、軍艦、異世界を組み合わせた新感覚の異世界ファンタジー。主人公の女子高生・水瀬まりんは、軍港ツアーに参加していたが、突如天候不良になり、船が大きく揺れた際に海へ落下。何故か体の自由がきかず、そのまま海の中へ沈んでいってしまう。気が付くとそこは日本近郊の海ではなく、異世界の「海球(アクアス)」の海で、駆逐艦「陽炎」の艦長を名乗る少女・雪風舞に助けられる。まりんは元の世界に戻る方法を模索しつつ、個性豊かな仲間たちと共に冒険の旅をすることになる。
「軍艦」ときくと屈強な男たちをイメージすることが多いが、本作に登場するメインキャラは美少女だ。舞台となるのは、果てしない海が広がる異世界「海球」。その世界では様々な軍艦が海を走行しており、その内の一つである駆逐艦「陽炎」の心優しい艦長・舞によって、異世界に迷い込んだまりんは助けられる。「陽炎」の船員は、舞の他にクールな副艦長・大村時雨、メカニック担当で天真爛漫な機関長・山城あおば、武器担当の砲雷長・霧島由花がいた。年齢も近いように見える彼女たちは皆仲が良く、突如現れたまりんもすぐに馴染むことができたのだった。また、まりん以外の地球人として零式観測機で手紙などを運ぶ「運び屋」のアメリカ人のアリサ・ウォーカーも登場する。
SF漫画の巨匠・星野之宣が描く戦争漫画やSF漫画を集めた傑作短編集。表題作では、第二次世界大戦下のドイツ海軍とイギリス海軍による海戦が描かれる。冷戦下における攻防戦を描く『レッドツェッペリン』、異国人が漂流してきたことで島民に悲劇が起きる『鯨鬼伝』。巨大海洋生物実験の謎を巡る『罪の島』、未発掘の遺跡に向かう夫婦を待ち受ける恐ろしい運命を描く『アウト バースト』。更には今回初収録となるレアな短編『環礁にて』を含む全6編が収録されている。
第二次大戦中の大西洋上を舞台にした表題作に登場する戦艦は、ドイツが誇る世界最大の軍艦「ビスマルク」と、最新悦潜水艦「ベーオウルフ」。「ビスマルク」はイギリスによる最新式捜索レーダーの活躍により、苦戦を強いられる。一方、「ベーオウルフ」にもアクシデントが襲い、海流に流されるがままとある場所まで流されていってしまう。『レッドツェッペリン』では、合衆国海軍による世界初の原子力潜水艦「ノーチラス」が登場。西ドイツ海軍のカール・シュタイナー中佐を航法顧問に迎え、北極海を目指す合衆国海軍と、それを阻むソビエト軍による激しい攻防が描かれる。壮大なスケールのストーリーが圧倒的画力で表現される唯一無二の星野ワールドを是非体感してみて欲しい。