ギャルゲーオタクの桂木桂馬(かつらぎけいま)が、様々な女性を恋に落とし「駆け魂(かけたま)」を回収していくラブコメディ。ある日「攻略してほしい女がいる」という謎のメールが桂馬のもとに届き、返信してみたところ突如目の前に悪魔の少女・エルシィが現れた。彼女の用件は駆け魂回収の依頼であったが、先のメールのやりとりで契約成立となったうえ、契約を反故(ほご)にすれば死ぬという理不尽を聞かされ、桂馬は渋々3次元の女性を攻略していくことになる。2010年、2011年、2013年にそれぞれテレビアニメが放送された。
駆け魂とは女性の心のスキマに宿る悪人の霊魂であり、取り憑かれると情緒不安定になるほか、透明化や人格の分離など非科学的な現象もたびたび発生する。回収方法は宿主を恋に落とすなどして心のスキマを埋めることなのだが、桂馬はゲーム界隈で「落とし神」と呼ばれたその手腕によって、性格も悩みも多種多様な女性たちを驚くほどスマートに攻略していく。「現実(リアル)なんてクソゲーだ」などと言いつつ現実の女性の好意を一身に集めていく姿は、非モテに悩む人なら憧れを抱かずにはいられないだろう。物語が進むにつれ天界や地獄といった人知を超えた領域まで規模を広げてストーリーが展開されるようになるので、ラブコメファンのみならず、いわゆる「セカイ系」の作品が好きな人にもおすすめだ。
銃オタクの鈴木英雄が、「ZQN」という好戦的なゾンビで溢れかえった世界を生き抜くホラー漫画。英雄が売れない漫画家として悶々とした時間を過ごしていたある日、全国で「噛みつき事件」が多発し、やがて街はゾンビのような見た目で人々に襲いかかる「ZQN」で溢れかえってしまう。周囲の知人や恋人が次々にZQNと化していく中、ひとり残された英雄は趣味のクレー射撃に使用する銃を手に取り、生き残るべく自宅を脱出するのだった。2016年に実写映画が公開された。
ゾンビが溢れかえる非現実的な舞台でありながら、人々の考えや行動が現実感に溢れているのが魅力。終末的世界を生き抜くために武器を取るというゾンビ物なら珍しくない設定だが、臆病かつ妄想癖を抱えた英雄が精神的に弱いまま戦っていくため、「主人公が不自然に勇敢」ということがなく、非常に感情移入しやすくなっている。また物語は生き残った人々によるコミュニティでのいざこざが主に描かれており、困難を前に考え方の違う者同士で手を取り合うにはどうすればいいか、というハイレベルなヒューマンドラマが繰り広げられていく。なお射撃をテーマのひとつにするだけあって、随所で銃の知識や技術が披露されるので、銃オタやミリオタの人が読めば一層満足感を得られるだろう。
変身ヒーローに入れ込む中学生の広野健太が、ひょんなことから本当にヒーローとして怪物と戦うことになるアクション漫画。健太は授業中に自前の変身スーツを着てひと騒ぎ起こすなどヒーロー好きを相当こじらせており、先生からも友人からも現実を見ろと言われてしまう。しかし学校帰りに謎の少女と遭遇し、同時に拾ったノートに自作のヒーロー「ウイングマン」を描き込んだところ、本当に変身できるようになる。1984年から1985年にかけてテレビアニメが放送された。
自らヒーローに変身して世界を守るという、特撮オタクなら一度は想像するであろうシチュエーションを疑似体験できるのが本作の醍醐味である。また書いたことが現実になる「ドリムノート」や、「異次元から来た敵との戦い」という設定にも少年心をくすぐられ、ひとたび読めば童心に帰れること間違いなしだろう。健太は直情的で傍若無人ながら恋愛には疎く、往年の「ザ・少年漫画の主人公」というべき青臭さが魅力で、ヒロインにも個性的な美少女が数々登場するなど、それぞれのキャラクターが濃いのも大きな特徴だ。ゆえに日常での掛け合いにも見どころが多く、またラブコメの要素も存分に楽しめるので、ヒーロー物に興味がない人でも気軽に手に取っていただきたい。
オタクで引きこもりの加納慎一が、突如連れてこられた異世界でオタク文化の発信に努める、ファンタジー世界が舞台の漫画。慎一は高校を中退してから長いこと引きこもり生活を送っていたが、両親の怒りが爆発したことにより渋々就活を決意する。そして応募条件が「オタクであること」だけという好条件の求人に飛びつくが、面接の直後に眠らされ、目を覚ましたときにはドラゴンが空を飛ぶような見知らぬ世界に送り込まれていた。2013年にテレビアニメが放送された。
本作のように「萌」の字のあるタイトルを好んで手に取る人であれば、「異世界をオタク文化に染める」という斬新なコンセプトに、ページをめくる手が止まらなくなること間違いなしだろう。また決して「出オチ」の作品ではなく、異世界ならではの種族間問題やオタク文化普及の裏に隠された日本政府の陰謀など、最後まで飽きずに楽しめる要素がふんだんに盛り込まれている。そして「萌える侵略者」というサブタイトルから察せられる通り、登場するヒロインも、献身的でスタイルの良いメイドや勝ち気で幼女体型の女帝など、オタクの琴線に触れるようなキャラクターばかりだ。なお異世界が舞台だからといって主人公が特別に「無双」するわけではないので、全能感溢れる物語でスカッとしたい人はその点だけご了承願いたい。
自衛隊員でオタクの伊丹耀司(いたみようじ)が、特地と名付けられた異世界で隊員らや現地人たちと奮闘するファンタジー漫画。ある日突然銀座に現れた「門」からモンスターの軍勢が侵攻してくるものの、自衛隊によって瞬く間に撃退される。その後、日本は「門」の向こうの世界「特地」を調査するため自衛隊の派遣を決め、伊丹は第三偵察隊を率いて現地人との交流に努めることとなる。2015年と2016年にそれぞれテレビアニメが放送された。
本作の何よりの魅力は「異世界に軍隊が駐屯する」というテーマにより、ミリタリー要素とファンタジー要素、そして「特地」の利権をめぐる各国との政治戦など多くのジャンルをいっぺんに味わえることだ。また伊丹は「仕事より趣味」を公言する典型的なオタク気質だが、自由人がゆえの柔軟さを武器に数々の武勲を立てていくので、多くのオタク系読者に「自分にもできるかも」と思わせてくれるだろう。物語のスケールが壮大なため登場人物がかなり多いものの、どのキャラも個性豊かかつ様々な背景を持つので、特定の人物の動向を追っているだけでも十二分に楽しめるだろう。なお原作者が実際に自衛隊に所属していたことから自衛隊の描写はリアルそのものであり、ミリオタにはたまらない一冊となっている。