太平洋戦争初期は快進撃を続けてきた日本軍ですが、連合軍の反撃が始まると消耗戦に引きずり込まれ、やがて補給も兵力も万全に整えた敵軍に押されて劣勢になっていきました。補給もままならない守備隊の多くは撤退も許されず、アッツ島の玉砕(全滅)をきっかけに玉砕していくことになりました。『総員玉砕せよ!』は陸軍の兵士としてニューブリテン島で玉砕寸前の激戦を生き延びた、水木しげるによる戦記漫画です。史実では水木の部隊は玉砕せずにゲリラ戦をしつつ生き延びました。だが、この作品では生き延びた兵士たちが上からの命令によって再度敵に突入し、全滅してしまいます。ここに描かれているのは勇ましい戦いではなく、あまりにも日本的な空気の中で散っていく兵士たちの姿です。日本と戦争について考えるなら、一読すべきでしょう。
特攻。それは乗務員が自分の命を捨てて敵に突入するという、「統率の外道」とも称された攻撃方法です。ある者は航空機、ある者は爆雷を搭載したモーターボート、ある者は地雷を抱いて生身で戦車に、そしてある者は「人間魚雷」と呼ばれる特攻専用の潜航艇で連合軍に向かって散りました。『特攻の島』は、こうした特攻作戦のうち、人間魚雷こと「回天」と呼ばれる潜航艇に乗り込んだ隊員たちの物語です。爆装した航空機とや甲標的などの潜航艇と違い、一度出撃したらもう生きては帰れない回天の開発から出撃まで、隊員たちは何を考えて生きたのか……。そうした部分もよく考えて読んでもらえると幸いです。
安彦良和は日清・日露戦争から太平洋戦争に至るまでの時代の漫画をいくつも描いてきましたが、その代表ともいえるのが『虹色のトロツキー』でしょう。父母の記憶を失い、石原完爾に見いだされた日蒙混血の青年、ウムボルトは抗日運動やソ連による拉致、満洲国にソ連で失脚した革命家のトロツキーを招こうとする計画に翻弄されつつ、やがて日ソが激突する「ノモンハン事件」に参戦することを余儀なくされる。コミンテルンや関東軍がそれぞれ大義を掲げつつ陰謀と戦争を繰り返す中、苦悩するウムボルトの姿から何かを感じて欲しい。
昭和20年、大日本帝国海軍の根拠地である呉軍港にアメリカ海軍の機動部隊が大規模な空襲を仕掛け、まだ残っていた戦艦や空母、巡洋艦などの軍艦がなすすべもなく沈められてしまいました。俗に言う「呉軍港空襲」です。『この世界の片隅に』はその呉軍港大空襲を、呉の軍港に務める一家に嫁いだ主婦の目から描いた作品です。戦時下における民衆の生活、呉への空襲の恐ろしさ、すぐ隣と言ってもいい広島への原爆投下、身近にいた家族に襲いかかる突然の死、そして終戦。ただ戦争の恐ろしさを描くだけではなく、日常のユーモラスな日々も丹念に描いてきたからこそ伝わる、戦争の辛さ、喪失感がしんしんと伝わる作品です。執筆に先駆けて、当時の生活のリサーチも十分にされており、戦時下の生活を知る資料にもなるでしょう。
太平洋戦争末期、すでに零戦の神通力は失せ、航空戦ではアメリカのF6FヘルキャットやP51マスタングといった戦闘機に蹂躙されるばかり、そこへ一矢報いようと現われたのが、生き残ったベテランパイロットと、米軍機とも互角に戦える戦闘機「紫電改」によって編成された「剣部隊」こと三四三航空隊でした。『紫電改のタカ』は天才的なテクニックの持ち主、滝城太郎を主人公に三四三航空隊が米軍相手に奮戦する様を描き、人気を博しました。多分、紫電改が「零戦より強い戦闘機」として知られるようになったのは、この作品からでしょう。しかし、物語終盤では消耗戦の中で散っていく仲間たち、そして滝を含む面々による特攻という辛い未来が彼らを待っています。ただの痛快空戦物語では終わらないのは、ちばてつや先生らしさといったところでしょうか。