フランス革命前から革命前期にかけてのベルサイユが舞台の歴史フィクション。メインとなる登場人物は、男装の麗人オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ、悲劇の王妃マリー・アントワネット、スウェーデン貴族ハンス・アクセル・フォン・フェルゼンの3人だ。フランス革命に翻弄された3人の宿命的な出会いと悲劇が描かれている。1974年に宝塚歌劇団で舞台化された後、何度も再演。1979年にテレビアニメ化され広く人気を博した後は、劇場版アニメ化や実写映画化も続いた。今なお光り輝く少女漫画の金字塔作品だ。
奇しくも同じ年に生を受けたオスカルとアントワネット、フェルゼンの3人は、18歳の時にパリの仮面舞踏会で運命的な出会いを果たす。物語の前半は3人を中心に展開されるが、後半は一変。オスカルを軸に、フランス革命に身を投じる葛藤や、ジャルジェ家の馬丁で幼馴染のアンドレ・グランディエとの恋が描かれる。オスカルの職務は、アントワネット妃を護衛する近衛士官だ。将軍家の6女として誕生するも、後継者を望む父親のエゴから男として厳しく育てられた。数奇な運命を生きる彼女を愛するアンドレは、身分の違いから恋心を伝えられずにいたが、革命前夜、自らの思いを吐露して結ばれた後に戦死。民衆の側に付いたオスカルは、激しい戦火に身を投じていく。
18世紀のフランス革命を舞台にした、女主人公2人による4コマ歴史コメディ漫画。貧乏貴族の娘で絵描きとして修行中のマリー・ド・ボヌールは、王太子妃マリー・アントワネットとヴェルサイユ宮殿で運命の出会いを果たす。全くの身分違いでありながらも、名前が一緒であるばかりか年齢も同じマリーとアントワネット。2人は友人となり、かたや絵描きの卵として、かたやフランスの王妃として、お互いに刺激し合い友情を育みながら成長していく。
絵描きの卵であるマリーと王妃アントワネットは親友同士。時は流れ、アントワネットは母となり、マリーは画家として多忙な日々を送っていたが、2人の友情は変わらずに続いていた。しかし、バスチーユ監獄が市民たちによって銃撃される「フランス革命」が、1789年7月14日に勃発。国王・貴族・平民議員間の対立が激化する中で、民衆の不満が爆発した。激動する時代に抗えず、引き離されてしまう2人の友情の行方に最後まで目が離せない。大変な時代背景を描きながらも、ほのぼのタッチの絵柄に癒される本作で「アントワネットに対するイメージが変わった」と言う読者も多い。「アントワネットは浪費家だった」等の既成概念に囚われることなく楽しんでほしい作品だ。
単身でヨーロッパへと渡った日本人料理人が、常識破りの料理で人々を魅了する歴史料理漫画。磯部小次郎は、田沼意次の料理番。格式を重んじる武士社会に嫌気がさした小次郎は、「料理の道を極めたい」との志を抱き、オーストリアでマリア・テレジアの宮廷料理人に。その後、テレジアの娘であるマリー・アントワネットと共にフランスへと渡り、現在も食されているフランス料理の数々を生み出していく。
「アントワネットの料理人が、サムライの国からやって来た日本人だった」という斬新な設定には驚かされるが、本作は完全にフィクションであり、歴史的な史実とは異なっている。とはいえ、小次郎がフランス宮廷内で振る舞うメニューには、「マヨネーズを元にタルタルソースを生み出す」など、当時、実際にあったとされる料理手法もある。また、14歳と若くしてフランスのルイ16世の元に嫁いだアントワネットの人物像も興味深い。史実では浪費家だったと言われることも多いが、作中には、小次郎を連れ、お忍びで庶民の生活に溶け込み、自ら牛の乳を搾る場面も。王室による税金の無駄遣いに心を痛める、いたって庶民的で素朴な性格として描かれている。
平民出身の主人公と、反政府テロリストとなった幼馴染の貴族の姿を通してフランス革命を描いた歴史漫画。舞台は革命前のフランス。当時は、王族や貴族による抑圧により平民たちが苦しい生活を送り、盗難や略奪、口減らしのための子捨てがはびこっていた。捨て子のギデオン・エーメは、ロワール公爵家に拾われ、息子のジョルジュ・ロワールと共に育つ。成長した彼は、貧困にあえぐ平民を救うべく、各地で演説を行い王族の生活を皮肉った本を出版するが、反体制活動家として投獄されてしまう。そんな彼を助け出したのは、幼馴染のジョルジュだった。
ギデオンに救いの手を伸ばしたジョルジュは、心に深い闇を抱えている。実は、親に捨てられたのは彼のほうで、平民の生活を経験するためにと入れ替えられたギデオンこそが、ロワール家の息子だった。「自分は貴族でも平民でもない特異な存在」という歪んだ思いが、ジョルジュを冷酷なテロリストに変貌させる。貴族や階級制度への憎しみから、自分のように心に闇を持つ平民たちを操っては次々を暴動を起こすジョルジュ。果ては、ギデオンの愛娘・ソランジュまで仲間にしてしまう。一方、ある出来事からルイ16世と懇意になったギデオンは、「暴力ではなく、話し合いとペンの力で革命を阻止する」と固く心に誓った。国を変えたい気持ちは同じながら、正反対の道を歩む2人が、革命のうねりに巻き込まれていく。
18世紀のパリを舞台に、死刑執行人を代々務めたサンソン家の運命を描いた歴史大河漫画。主人公の死刑執行人シャルル-アンリ・サルソンは、国王ルイ16世の斬首刑を執行した実在の人物だ。多感なシャルルは、処刑人一族の4代目に生まれた宿命から、「彼らを見たら悪魔に取りつかれる」「死神」などと民衆から蔑まれ続け、苦悩の少年期を送ってきた。そんな中、いつの日か処刑をなくすことを決意し、自らの運命に立ち向かおうとする。
この時代の死刑執行は、民衆に公開されており、特別なエンターテインメントとして受け入れられていた。作中で描かれる拷問、処刑といったシーンは、とにかく生々しくリアルなので、苦手な人は覚悟して読んだほうがいい。シャルルは、サンソン一族に生まれた自らの運命を呪っている。しかし本来、死刑執行人とは、国王から直々に任命された「正義の番人」だ。また、数々の処刑によって磨かれたスキルや知識を駆使して解剖を行うなど、医療現場に多大な貢献もしていた。タイトルとなっているフランス語の「イノサン」は、英語の「innocent(純真)」と同じ意味。フランス激動の時代を、処刑人という特異な職業を生業とする主人公の目を通して描く異色作。残酷とは、かくも美しい。