あらすじ
婚約
名家に生まれた斎森美世は、実母の斎森澄美が早くに亡くなり、継母の斎森香乃子と異母妹の斎森香耶に使用人同然の扱いを受け、毎日のように理不尽な仕打ちを受けながら育ってきた。そんな美世は、異能の家系の生まれながら、その能力が受け継がれずなんの能力も持たないことで自信をなくし、家族に酷い扱いを受けるうちに自尊心も失っていき、自らの人生を諦観する日々を送っていた。美世が19歳となったある日、父親の斎森真一に嫁入りを命じられるが、その相手は冷酷無慈悲なことで有名な若き軍人の久堂清霞であった。清霞は今までの婚約者候補として家に来た女性が、いずれも3日と持たずに逃げ出したという悪評の持ち主でもあった。自分が幸せになれるはずもない結婚と、唯一の味方でもあった幼なじみの辰石幸次が香耶と婚約することに絶望しながらも、「斎森家」にとって邪魔者になったことを自覚した美世は断るわけにいかず、真一の命令に従うことしかできなかった。後日、いずれは切り捨てられることを覚悟して「久堂家」の門を叩いた美世の前に現れたのは、色素の薄い美貌の青年、清霞で、その美しさと凛々しさに美世は思わず見とれてしまう。今まで言い寄ってきた女性と何度も破談した経験から、清霞は初対面の美世にも冷淡な態度を取るが、使用人のゆり江が温かく自分を迎えて家を案内してくれたことに、ささやかな安心感を覚える。こうして、美世は久堂家での新しい生活を始めるが、清霞に怯えながらも実家に帰ることはできず、少しでも迷惑がかからぬようにと、早起きして家事や料理に勤しんでいた。しかし、当初は冷たい態度が多かった清霞は、美世の手料理を食べたり名家の令嬢らしかぬ彼女に興味を持ったりするうちに、二人は少しずつ心を通わせていく。
旦那さまへ贈り物
斎森美世の過去に興味を持った久堂清霞は、ゆり江と共に「斎森家」について調べる。その中で贅沢からは程遠い生活を送ってきた美世の凄惨な過去を知った清霞は、家族から冷遇されながらも健気な美世に惹かれるようになり、やがて彼女を守りたいという思いを抱くようになる。一方、清霞やゆり江の優しさに触れ、彼と過ごす時間に今までにない幸福を感じ始めていた美世だったが、異能の才能がないことを自覚している彼女は、優秀な軍人でもあり異能の持ち主でもある清霞には不釣り合いだと、自信を持てずにいた。そんなある日、清霞とのデートで幸せな時間を過ごすことができた美世は、日頃から世話になっている彼へのお礼として、何か贈り物をしたいとゆり江に相談する。ゆり江の助言を得た美世は、美しい長髪を持つ清霞に手作りの組み紐を贈るために、ゆり江と買い物に出かけることになる。後日、出勤前の清霞に外出の許可を得た美世は、彼からお守りをもらう。街で清霞に似合う色を考えながら、ゆり江と共に材料を選ぶ美世は、誰かに感謝しながら贈り物を手作りできること、誰かの喜ぶ顔を想像しながら買い物をすることの楽しさと嬉しさを感じながら、楽しいひと時を送る。だが、塩を買いにその場を離れたゆり江を待っていた美世は、辰石幸次と出かけていた斎森香耶に遭遇してしまう。久々に会った香耶への恐怖心から、彼女にかつて虐げられていた過去を思い出した美世は、彼女の罵倒に言い返すこともできず、謝罪の言葉を呟(つぶや)いて立ちすくんでしまう。どんなに清霞の優しさを感じようとも、香耶に逆らえない弱さは変わっていないと痛感した美世は泣きそうなのを必死に我慢するが、そこに買い物を済ませたゆり江が戻って来る。一方、美世のことを聞くために斎森家に赴いた清霞は、斎森真一と対面する。
関連作品
小説
本作『わたしの幸せな結婚』は、顎木あくみの小説『わたしの幸せな結婚』を原作としている。原作小説版はKADOKAWA 富士見L文庫から刊行され、イラストは月岡月穂が担当している。
登場人物・キャラクター
斎森 美世 (さいもり みよ)
「斎森家」に生まれた女性。年齢は19歳。癖のない真っ直ぐな黒のロングヘアで、左目下にホクロがある。母親の斎森澄美が亡くなったあとは継母の斎森香乃子や、異母妹の斎森香耶から虐げられるようになり、使用人以下の扱いを受け、異能がないことに失望した父親の斎森真一からも冷遇されるようになる。幼少期は茶道や舞踊といった習い事をしていたが、香乃子によって辞めさせられ、女学校にも通っていない。長年の虐待によって手と肌が荒れ、美しかった黒髪は手入れがされていないことで色褪せたようにボロボロになっており、香乃子たちからは蔑まれている。しかし、本来は澄美によく似た美人で、女性を見る目がある桂子からは原石と絶賛されている。家族に虐げられなんの取り柄もないことから自信をなくし、次第に怒ることも泣くこともなくなっていき、自尊心と人生の希望を失いあらゆることを諦観する中、真一から久堂清霞への嫁入りを命じられる。同時に、唯一の味方であった辰石幸次が真一の意向で香耶と婚約すると知り、強いショックを受ける。絶望のあまり幸次の言葉も心に響かず、彼に今までの感謝と別れの言葉を告げ、そのまま清霞のもとへ向かう。当初は冷酷無慈悲と評判の清霞を恐れ、いずれは彼に切り捨てられる運命だと悲観しながら新しい生活を送るも、評判とは真逆の彼の温かい優しさやゆり江の心づかいに触れるうちに、ささやかな幸せを感じるようになる。過去の経験からどんなことにも謝罪する悪癖があったが、清霞から指摘されるうちにすぐ謝罪するのをやめ、代わりに感謝の言葉を告げるようになる。清霞に大切にされるうちに、彼に釣り合わないとあきらめつつも傍にいたいと思うようになり、少しずつ自信を取り戻しながら成長していく。実家の家事をやらされていたことから家事全般が得意で、自らの着物をすぐ修繕できる裁縫の腕や、清霞が絶賛するほどの料理の腕を持つ。
久堂 清霞 (くどう きよか)
異能の名家である「久堂家」の現当主を務める青年。年齢は27歳。軍人ながら、女性顔負けの白い肌と美しい容姿、長い銀髪を持つ美青年。自分にも他人にも厳しく、理知的でクールな性格をしている。対異特務小隊の隊長を務める少佐でもあり、高い異能の実力を持つ。一見完璧な人物だが、今までの縁談はすべて破談しており、婚約した女性は3日と経たずに去っている。さらには男女問わず冷淡な態度を取り、冷酷無慈悲という噂まで流れている。斎森美世と婚約を交わすことになるが、初対面の彼女に対しても疑心から冷たい態度を取り、当初は恐れられていた。しかし何度か会話するうちに、美世がこれまでの婚約者とは違うことを感じ取り、名家の令嬢らしかぬ彼女に興味を持ち、やがて惹かれていく。当初はらしくないと自分の変化に戸惑いながらも、美世の凄惨な過去を知ったことで彼女を守りたいと思うようになる。また、世間での評判とは真逆に本来は優しい性格で、他人に冷淡な態度を取っていたのは幼少期から多くの女性に言い寄られて辟易してきた経験や、贅沢好きで癇癪持ちの実母に嫌気がさして女性に苦手意識を持っていたためであった。さらには、父親の縁談でやって来た婚約者候補は結婚相手としてはふさわしくないわがままな女性が多く、女性の方から出て行くか、うんざりして破談となっていた。このため、極力女性とのかかわりを避けるために使用人が多い実家を離れ、幼少期から信頼しているゆり江のみを使用人として雇い、小さな一軒家で質素な生活を送っている。何事もそつなくこなすが、少々不器用で鈍感な一面がある。ゆり江と共に美世の過去や「斎森家」の現状について調べたため、美世が異能を持たないことを知りながらも気に留めることなく、彼女を温かく受け入れている。自ら斎森家を訪問した際には、美世と正式に婚約する意思を告げると共に、結納金を増やす代わりに斎森真一に美世への酷い仕打ちを直接謝罪するよう要求した。
ゆり江 (ゆりえ)
昔から「久堂家」の使用人を務める中年女性。久堂清霞が幼い頃から、彼の身の回りの世話をしてきたため、女性に苦手意識を持つ彼が心から信頼している数少ない人物でもある。小柄な体型で優しく穏やかな雰囲気をまとっており、物腰が柔らかく温厚な性格をしている。実家を離れて一軒家で暮らしている清霞の屋敷に通いで働いているため、夜には自宅に帰っている。使用人としてベテランで、料理や裁縫を中心に家事全般をそつなくこなす。誰に対しても笑顔で対応し、婚約のために久堂家にやって来た斎森美世のことも温かく迎え、慣れない場所で不安を抱く彼女を安心させた。清霞のことをよく理解しており、彼の両親以上に性格や行動をよく把握している、よき理解者でもある。冷酷無慈悲という噂が流れる清霞を恐れる美世に対しても、本当は優しい男性であることを告げている。清霞と美世の距離が縮まっていくのを温かく見守り、それでもぎこちないことも多い二人が悩んでいる時は、助言をするなど優しく手を差し伸べている。美世が明らかに今までの婚約者候補と違うことに気づいた清霞から情報を探るよう命じられ、彼女の行動の一部を彼に報告していたことがあり、彼女が異能を持たないことも知っている。清霞と共に美世の過去を知ったあとも彼女を温かく受け入れ、彼女が自尊心を取り戻し、清霞と結ばれるための手助けをしている。
斎森 澄美 (さいもり すみ)
斎森美世の実母で、斎森真一の妻。美世が幼い頃に病気で亡くなっている。美しい黒の長髪を持ち、美世とよく似た容姿の美女。元は異能の名家である「薄刃家」に生まれ、政略結婚により真一と結ばれた。このため、真一のもともとの恋人であった斎森香乃子からは激しく恨まれており、彼女が美世を冷遇する要因となっている。美世が「久堂家」に嫁いでから見る夢に毎回のように現れては、彼女に謝罪したり意味深な言葉を残したりしている。生前は夫の真一と愛し合っているとはいえない関係だったが、彼とのあいだに生まれた美世のことは大切に思いながら育てていた。美世に異能がないと知ったあとも見捨てないで欲しいと真一に懇願していたが、まるで聞き入れてもらえなかった。
花 (はな)
「斎森家」に仕える使用人の女性。昔から斎森美世を妹のようにかわいがっており、斎森香乃子たちから酷い仕打ちを受ける美世の味方の一人だったが、かばい続けたことで香乃子に解雇される。長いあいだ斎森家に近づけず、行方知れずになっていたが、美世の過去を探っていた久堂清霞からの連絡を受け、彼の計らいで美世と再会を果たした。
斎森 真一 (さいもり しんいち)
「斎森家」の当主を務める男性。斎森美世と斎森香耶の父親。若い頃は家の政略結婚により、その時交際していた斎森香乃子と別れさせられ、「薄刃家」から嫁いできた斎森澄美と結婚する。澄美が亡くなったあとは香乃子と再婚し、異能の才能を持たない美世には何一つ期待しなくなり、香乃子と香耶が酷い仕打ちをしていても見向きもしなかった。生前の澄美からは、美世を見捨てないよう言われていたが美世に興味を持つことはなく、澄美の願いを聞き入れることはなかった。見鬼の才を持つ香耶のことだけを大切に育て、美世とは正反対の扱いをしていた。香乃子による美世への仕打ちを無視していたのは、政略結婚のために別れることになった香乃子に負い目を感じているためでもあり、香乃子の行為から目を逸らすうちに、美世への虐待は激化していった。久堂清霞との縁談は独断で美世にすり替え、香耶を斎森家の跡取りとするために辰石幸次を婿に迎えさせるよう手筈を整え、美世を邪魔者扱いするかのように「久堂家」に嫁がせる。清霞の悪評もあって、異能のない美世はすぐに追い出されるだろうと予測していた。のちに、美世を辰石一志の嫁に迎えるつもりだった辰石実からは、勝手な縁談の取り替えを咎められるが、美世が久堂家から追い出されたあとに好きにすればいいと突っぱねた。その後、美世の過去を知った清霞からは将来美世と結婚する意思を告げられると同時に、結納金の増額の代わりに彼女への今までの仕打ちについて、誠心誠意謝罪することを要求される。
斎森 香乃子 (さいもり かのこ)
斎森美世の継母で、斎森香耶の実母。香耶とよく似た色素の薄い美人で、表向きは貞淑な女性のような振る舞っているが、本性は嫉妬深く残虐で冷酷。裏では香耶と共に美世を虐げており、多くのトラウマを植え付けた張本人でもある。斎森真一の元恋人であったが、「斎森家」と「薄刃家」の政略結婚により無理やり別れさせられ、代わりに彼と結婚した斎森澄美に強い憎悪を抱いている。澄美が亡くなってからは真一の後妻となり香耶を産んだが、亡くなった澄美の代わりに美世に手を出すようになる。美世を見下し八つ当たりのように虐げるだけでなく、香耶にはつねに美世よりも優れた女性であるよう言い聞かせ、歪んだ教育をしていた。また、香耶が異能を持っていることを喜ぶ一方、彼女の力がそこまで強力ではないことも把握しており、美世にだけは負けないようにと厳しく育ててきた。幼い美世が澄美から受け継いだ形見を勝手に処分し、それを問いただしてきた美世を蔑み、仕置きとして蔵に閉じ込めたことがあり、美世に味方した花を解雇して斎森家に近づけないように追い出した。これ以降は、美世を使用人以下の扱いにして見下し、家事全般をやらせてこき使うだけでなく、罵倒して心を傷つけたり虐待同然の暴力も加えていた。これらの行為は美世が自信と自尊心をなくし、彼女がどんなことにもすぐに謝罪する悪癖ができた要因となっている。真一が美世を邪魔者扱いする形で久堂清霞に嫁がせるも、予想に反して美世が清霞から追い出される様子がなく、さらには斎森家を訪れた清霞から、美世にやってきた仕打ちを謝罪するようせまられる。また、清霞が美世と結婚する意思をはっきりと告げたことから、焦りを感じるようになる。
斎森 香耶 (さいもり かや)
斎森美世の異母妹で、斎森真一と斎森香乃子の娘。年齢は16歳。色素の薄い長髪の美少女で、容姿は香乃子によく似ている。お淑やかで器量や要領のいい令嬢だが、真一からは甘やかされていたため本性はわがままで、香乃子と共に美世を見下し、昔から使用人以下の扱いをして虐げてきた。幼少期に見鬼の才に目覚め、真一に教わった術を駆使して、紙で作った式をあやつりその視覚を共有することができる。しかし訓練に熱心ではなく、異能もあまり強力ではない。美世が久堂清霞に嫁ぐことが決まった際は、「斎森家」を継ぐために幼なじみの辰石幸次と婚約を交わす。婚約者らしい態度を取るが、実際は美世への当てつけや嫌がらせが主な目的であるため、幸次に対して好意は持っていない。幼少期から香乃子に美世と同じになってはいけないと繰り返し言い聞かされ、つねに美世よりも上の女性でなければならないという、歪んだ教育を受けていた。このため、真一に甘やかされる一方で香乃子からは厳しく育てられ、どんなことでも美世より上であることが当然で、負けることがあってはならないと思い込んでいる。言葉遣いはお淑やかだが、美世には罵倒に近い嫌がらせの言葉を浴びせて傷つけていた。これらの仕打ちを許せないと思っている幸次に対しては内心苛立ちを感じており、彼のことは気が利かない男だと嫌うようになっていく。そんな中、美世と街中で再会し、清霞の悪評から彼女の新生活がうまくいくわけがないと見下すが、ゆり江の言葉から彼女が追い出される様子がないことに驚く。さらには、清霞の予想以上の美貌に一目惚れしてしまい、焦りを感じて美世の現状を探った際に、清霞との仲睦まじい姿を目の当たりにする。清霞への執着と美世への嫉妬から、婚約を交換して自らが清霞に嫁入りしたいと願い出るも、真一の許可がないために無理だと却下された。その後は辰石実と組んで美世を貶(おとし)めようと目論む。
五道 佳斗 (ごどう よしと)
久堂清霞の部下である青年。明るいが少しお調子者なところがあり、怒られると知りながら、上司の清霞をからかうことがある。その一方で清霞の私生活、とりわけ女性関係を心配しており、彼の家へ招かれた際には斎森美世のことをひそかに探ろうとしていた。結果として美世のことを気に入り、清霞のことを茶化しながらも好意的に接している。異能の実力は清霞からも信頼されるほどで、清霞が出張で留守にしている時は代わりに指揮などを務めている。
桂子 (けいこ)
久堂清霞がよく行っている呉服屋「すずしま屋」の女主人。美しい女性を着飾ることが好きで、初対面であっても女性の魅力を見極める確かな眼力を持つ。店に訪れた清霞が連れて来た斎森美世を見て、磨けば磨くほど輝く原石と評し、魅力を秘めている彼女を絶賛する。
辰石 実 (たついし みのる)
異能の使い手を輩出する名門「辰石家」の現当主を務める中年男性。辰石一志と辰石幸次の父親で異能を持ち、訓練を受けているため使いこなせる。「斎森家」とは旧知の仲で現在でも交流を持つが、斎森家と同様に最近は落ち目で、過去に築いた財産や地位でかろうじて名家の体裁を保ちながら、辰石家をなんとか再興したいと考えている。そのために斎森美世に目を付けており、「薄刃家」の血を引く彼女がいずれ異能に目覚める可能性に期待し、長男の一志と結婚させようとしていた。しかし、斎森真一が美世を久堂清霞に嫁がせたことで、その目論見が外れる。その後も美世を辰石家の駒として手に入れることに執着し、斎森香耶と組んで美世を孤立させようと目論む。幸次との親子仲はあまり良好ではなく、美世のことで斎森家に抗議する彼に対し、ほかの家に口出しするなと釘を刺していた。
辰石 幸次 (たついし こうじ)
辰石実の次男。斎森美世と斎森香耶の幼なじみ。顔にそばかすがあり、おだやかな雰囲気を漂わせた生真面目な青年。誰にでも優しい温厚な性格をしている。念動力に似た異能を持ち、物を浮かせたり動かしたりできるが、訓練に熱心ではなかったため、実や辰石一志のようにはうまく使いこなせない。美世には昔から淡い思いを寄せ、「斎森家」に彼女の扱いについて抗議するなど、数少ない味方でもある。しかし、実の決定により香耶の婚約者となり、美世が「久堂家」へ嫁ぐのを止めることはできなかった。花がいなくなってからは美世にとって唯一の味方であったが、優し過ぎるがゆえに臆病なところもあり、実家には逆らえないために彼女を守り切れずにいた。それでも美世を道具のように扱う斎森家と「辰石家」のやり方には嫌気がさしており、美世を虐げた香耶との婚約も不本意なものであり、好意は持っていない。婚約を了承したのは、斎森香乃子と香耶を近くで見張り、美世にこれ以上敵意が向くのを防ぐためであった。美世をかばっていたことは香耶からも快く思われておらず、彼女からは気の利かない男と思われているため、表向きは婚約者らしく振る舞っていても実際の仲は冷めている。香耶と婚約を交わしてしばらく経ったある日、街で偶然美世に再会するも、同行していた香耶が美世を罵倒するのを止めようとしたために、彼女の反感を買う。さらには久堂清霞に一目惚れした香耶から婚約の交換を提案され、その場では断ったものの不審な動きに気づき、探るうちに実と彼女が美世の意思を無視した相談をしていることを悟る。意図的に美世を孤立させようと目論む実に激怒して異能で攻撃するも返り討ちにされ、自室に幽閉されてしまう。
辰石 一志 (たついし かずし)
辰石実の長男。「辰石家」次期当主を務める。生真面目な弟の辰石幸次とは違い、女物の着物を着用するなど派手な格好を好み、少々軽薄な言動が多い。自由奔放に見えるが真意がわかりづらく底知れぬところもあり、ミステリアスな一面もある。優秀な異能を持ち、幸次とは異なり自分の異能を的確に使いこなせている。辰石実に逆らって幽閉された幸次を異能で助けて外に逃がしたが、その真意は不明。
集団・組織
斎森家 (さいもりけ)
古くから異能者を輩出している名家。斎森美世と斎森香耶の実家でもある。現在の当主は斎森真一が務めており、「辰石家」とは昔から交流がある。しかし最近は落ち目で、過去の財産や地位によって名家の体裁を保っている。跡取りとなった香耶が持つ異能もあまり強力とはいえないため、今後も落ちぶれる運命にあると、久堂清霞から推察されている。
久堂家 (くどうけ)
強力な異能者を多く輩出している名家。久堂清霞の実家でもある。現当主は清霞が務めており、爵位を有する。古くから数多くの手柄を立て、数々の伝説を持つ。地位、名声、財力などあらゆる面で他家より優れた名家として知られ、清霞の家族にも優秀な異能者が多い。
薄刃家 (うすばけ)
異能者を輩出している。その家系でも特殊で、特に精神に干渉する力を受け継いでいる。斎森澄美の実家でもある。過去に輩出した異能者の中には、人の思考を読む・記憶操作ができるといった力をはじめ、相手の自我を消す・幻覚を見せるなど非常に強力な力を持ち、使い方によっては危険な異能の持ち主もいた。「薄刃家」の人々も強力で危険な力であることを理解していたため、能力を悪用する者が現れないよう自らの姓を隠して制限を付けることで、むやみにその血が広まるのを避けていた。
対異特務小隊 (たいいとくむしょうたい)
帝国陸軍の部署。ふつうの軍隊では対応できない未知の怪異や、異能に関する騒動や事件に対処するために結成された。現在の隊長は久堂清霞が務めている。異形を相手にすることが多いため、隊員は見鬼の才や異能を持つ者が多い。ただし、異能者がもともと希少であるため、一般人にはその存在をあまり知られていない。
その他キーワード
異能 (いのう)
未知の怪異である異形を討伐できる力。異能を受け継ぐ者を輩出する名家は古くから帝国に仕えている。念動力や瞬間移動、透視など超能力に近い力といえる。異能を持つ者は「異能者」と呼ばれているが、一般にはあまり知られていない希少な存在となっている。幼少期から異能を持つ者もいれば、成長と共に目覚めることもあるが、通常は異能者であれば幼少期に見鬼の才を発現する。
見鬼の才 (けんきのさい)
異形の存在を認識する能力。異能の基本的な能力でもあり、通常は異能者であれば幼少期に見鬼の才に目覚める。このため、見鬼の才を持たないことは異能を持たないも同然であり、「斎森家」のように異能を重視する家では、見鬼の才を持たない者が冷遇されることもある。
異形 (いぎょう)
人々が未知の怪奇現象を恐れることで生まれる謎の存在。人や動物のような姿をはじめ、不定形な姿も多く、妖(あやかし)や鬼などと称されることもある。見鬼の才を持たない者は、姿を認識することができない。
クレジット
- 原作
-
顎木 あくみ
- キャラクター原案
-
月岡 月穂
書誌情報
わたしの幸せな結婚 5巻 スクウェア・エニックス〈ガンガンコミックスONLINE〉
第1巻
(2019-09-12発行、 978-4757562936)
第2巻
(2020-09-09発行、 978-4757567771)
第3巻
(2021-10-12発行、 978-4757574991)
第4巻
(2022-11-11発行、 978-4757577657)
第5巻
(2024-07-11発行、 978-4757592162)
わたしの幸せな結婚 特装版 小冊子付き 5巻 スクウェア・エニックス〈SEコミックスプレミアム〉
第4巻
(2022-11-11発行、 978-4757581708)
第5巻
(2024-07-11発行、 978-4757592179)