セシルの女王

1533年イングランドのリンカンシャー、スタンフォード。ジェントリ（地方地主）の息子、12歳のウィリアム・セシル（ウィル）は、「剣」ではなく「頭」を使って王宮で出世することを夢見ていた。そんなある日、衣装担当宮内官の父、リチャード・セシルが王宮から一時帰宅する。出産を間近に控えた王妃が産気づいた際、必要になるかもしれない国王陛下のガウンを取りに戻ったのだ。リチャードは、年齢の割に幼いウィルを見て、一度彼を王宮に連れていくことを思いつく。こうしてウィルは、夏の間父とともに王宮で働くことになる。150キロメートル離れた王宮へ向かう道中、リチャードはウィルに王妃についての注意事項を教える。ついこの間まで、王妃はキャサリン・オブ・アラゴンであった。しかし、キャサリンとの結婚は「無効」となり、今は、貧乏貴族出身の若い女性アン・ブーリンが王妃の座についているのだ。王宮に到着したウィルは、念願だった国王陛下、ヘンリー8世との面会を果たす。そして王妃ご懐妊の祝辞を述べたのだが、うっかり王妃の名前を間違えて「キャサリン」と言ってしまう。するとヘンリー8世は、そのまま絞め殺さんばかりの勢いで、ウィルの首を両手でつかんだ。そして、慌てて止めに入ったリチャードを殴りつけ、「冗談だ」と笑いながらウィルを離した。暴虐なヘンリー8世の振る舞いに悔し涙を流すウィル。夢見ていた王宮の現実を知り、落ち込んでいたウィルは、その夜、王妃のアン・ブーリンと出会う。事の次第を聞いたアンは、大笑いした。そして「大人になったウィルが仕えるのは、今自分が身ごもっている子だ」と慰めた。純粋で優しいウィルを、彼女は気に入ったのだ。その言葉を聞いたウィルは、アンのお腹（なか）に耳を当てながら、未来の「王」に尽くすことを誓うのであった。