うちの師匠はしっぽがない

うちの師匠はしっぽがない

淡路島で暮らしていたタヌキの少女・まめだが、落語家・大黒亭文狐の弟子として修業しながら、椿しららたちと落語の腕を競い合い、文狐との師弟愛を深めていく姿を描いた大正ファンタジー。「good!アフタヌーン」2019年2号から掲載の作品。2022年9月にテレビアニメ化。

正式名称
うちの師匠はしっぽがない
ふりがな
うちのししょうはしっぽがない
作者
ジャンル
落語
 
異能力・超能力
レーベル
アフタヌーンKC(講談社)
巻数
既刊12巻
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

淡路島に住む若いメスダヌキのまめだは、じっちゃんの用事で大阪にやって来た。決して人間にかかわるなと言われていたまめだだったが、大阪に来たついでに人間を化かして楽しもうと考えていた。しかし、葉っぱの紙幣には透かしがないことで偽札と見抜かれ、人魂を飛ばしてもガス燈で釣り竿を晒され、いっこうに人間を化かすことができない。落ち込んだまめだは、偶然立ち寄った寄席で大黒亭文狐の落語を目にして、まるで化かされているかのような楽しい世界観に心を奪われる。そんな中、まめだは化かした人間たちに発見され、通天閣まで追い詰められて展望台から飛び降り、キツネの妖怪「七度狐」である文狐に助けられる。文狐から淡路島に帰るようにと諭されたまめだだったが、文狐の言葉に反し、まめだは落語家として文狐の弟子になることを決意する。(エピソード「遊山舟」)

椿しららを連れ戻すためにらくだ春来亭を壊したため、新装開店落語会が開かれることになった。さらにしららには、中座への昇格の話が出ていることを知る。まめだはしららがどうやって前座になれたのかを聞き、同じように勤勉さをアピールすることで一刻も早く高座に上がりたい気持ちを文狐に訴える。文字もまだ読めないまめだにしららのまねは難しかったが、熱意を感じた文狐は、春来亭の新装開店祝いに踊る「住吉踊り」の太鼓と鼓をまめだに任せることにする。いつも裏から客席を見ているため、余裕の表情を見せていたまめだだったが、初めて客の前で高座に上がったことで、その圧倒的な違いを体感する。そして、自分に観客の視線が集中したことで、緊張してしまう。(エピソード「住吉踊り」)

天神祭で無事に初舞台を披露したまめだだったが、天神が降らせた雨のせいで文狐が風邪を引いてしまう。氷枕やおかゆ、たまご酒など、欲しいものを絵に描いて要求する文狐だったが、まめだは見当違いなものばかり持ってきて呆れさせてしまう。最後にうなぎを要求する絵を見たまめだは、うなぎを蛇だとカンちがいしたまま外に飛び出していく。奮闘するものの蛇に逃げられたうえに、嚙み傷まで負ってしまったまめだが薬局に行くと、そこで見たのはマムシがそのまま入ったマムシ酒だった。これこそが文狐の求めていたものだとカンちがいしたまめだが、薬局の店主に購入を打診すると、子供に売るものではないが、「千両でなら売る」と言われてしまう。困り果てていたまめだの前に、春来亭でお茶子をしているお松が現れる。(エピソード「千両みかん」)

文狐から一度破門にされたまめだは、四天王から出される試験に合格し、大黒亭を名乗る許可を得なければならなくなっていた。椿白團治の試験に合格したまめだは、次いで霧の圓紫の試験に挑む。そこで出されたのは、落語の「寿限無」をたった二回の手本を見ただけで一言一句正確に覚え、それを10分15秒ピッタリに演じきることだった。最初に圓紫の手本を見てから、繰り返し唱えて覚えようとするまめだだったが、日常生活を送りながらでは雑音が多すぎて、集中力が途切れてしまう。そこでまめだは、圓紫の二回目の手本が終わった日から森の中に駆け込み、3日間「寿限無」を唱え続けて覚えることにする。無事に圓紫の出した条件どおりに「寿限無」を演じきったものの、そのまま倒れてしまったまめだに対し、圓紫はなぜそこまで大黒亭の名にこだわるのかと質問する。(エピソード「寿限無」)

まめだが「大黒亭まめだ」を名乗れるようになり、文狐は有馬温泉への興業にまめだを連れ出していた。師弟水入らずの旅行を楽しむ文狐だったが、まめだは初めて文狐の前座として高座に上がる緊張で旅行を楽しむ余裕もなく、緊張のために水ばかりを飲んでしまう。さらに前座を務める直前から、強烈な尿意に襲われてしまう。なんとか無事に前座を務め終え、いざ手洗いに向かおうとするものの、手洗いは高座を越えた向こう側にあると知り、まめだは絶望する。文狐の演じる落語に集中することで、なんとか尿意から意識を逸らそうと考えたまめだだったが、文狐が有馬温泉での興行用にと用意してきたのは、二階からでも用を足せる小便させ屋を主人公とした「有馬小便」だった。(エピソード「有馬小便」)

人里での生活が長くなったまめだは、人間に化けていてもしっぽや耳が隠せなくなっていた。かつて死んでも人間に化け続けていた大ダヌキ・左衛門狸に会うため、仮死状態で地獄に送り込まれたまめだは、無事に左衛門狸を発見することができ、その極意を伝授してもらうことになる。そこで聞かされたのは、伊予のタヌキの長に代々伝わっている金の判子・狸の金印を持っていれば無尽蔵に力が使えるという話だった。しかし肝心の狸の金印は、左衛門狸が一度、閻魔の裁判から逃げ出した際、閻魔に盗まれてしまったという。一方で仮死状態となったまめだの体を守っている文狐は、まめだの体が着々と火葬されそうになっているのをなんとか遅らせるため、しららに協力してもらいながら落語を演じ、時間を稼ぐ。(エピソード「地獄八景亡者戯 葬礼高尾の段」)

新人演芸大会へ推薦状を提出する期限当日、まめだはなんとか春来亭に推薦状を書いてもらうことに成功する。しかしその直後、推薦状を霧の圓雨に奪われたまめだは、圓雨に連れられるまま廃墟にしか見えない圓雨の自宅を訪れることになった。圓紫が圓雨の両親にあいさつをしたいと申し出たことや、圓雨の両親が蒸発していること、さらに貧乏暮らしを圓紫には隠しておきたいことを聞いたまめだは、ご隠居を父親役に仕立て、ご隠居の屋敷で圓紫を出迎えればどうかと持ちかける。協力を快諾され、ご隠居の屋敷で圓紫を迎えた圓雨とまめだだったが、金持ちなら当然知っている常識にも答えることができず右往左往してしまう。(エピソード「始末の極意」)

春来亭の土地権利書を手に入れた帝都財閥の御曹司は、文狐に対し「新人演芸大会において、まめだが猩猩亭三ん生に勝てなければ自分と結婚してほしい」と賭けを申し出る。文狐が妖怪「七度狐」であることも理解したうえでの申し出に、文狐は憤怒に身を震わせながらもこれを承諾した。一回戦通過の打ち上げで盛り上がる座敷に落語「天神山」に使用される別れの歌を書き残した文狐は、帝都財閥の御曹司と共に東京へと向かう列車に乗り、ウェディングドレスの試着までさせられてしまう。一方、文狐が歌を書き残して去った直後、まめだたちは作次郎から帝都財閥の御曹司と文狐の賭けについて聞かされていた。すぐさま二人の乗った列車を追いかけたまめだは、文狐に「必ず迎えに行くから待ってろ」と告げる。(エピソード「天神山」)

コラボレーション

通天閣

通天閣では2022年9月から10月にかけて、展望台内に本作『うちの師匠はしっぽがない』とコラボしたエリアを開設した。アクリルフィギュアなどのキャラクターグッズを1000円以上購入すると、一会計ごとにポストカードが一枚プレゼントされた。

メディア化

テレビアニメ

2022年9月から、本作『うちの師匠はしっぽがない』のテレビアニメ版『うちの師匠はしっぽがない』が、TOKYO MX、MBSほかで放送された。監督は山本秀世、シリーズ構成は待田堂子が務めている。キャストは、まめだをM・A・O、大黒亭文狐を山村響が演じている。

登場人物・キャラクター

まめだ

淡路出身の若いメスのタヌキ。頭部の一部分が、のりを巻いたおにぎりのように濃い茶色になっている。人間に化けると茶髪のロングヘアで、前髪の真ん中だけが濃い茶色になった少女の姿になる。人間に化けることができるのは葉っぱを頭に乗せているときだけで、神経が衰弱したり、眠てしまったりするとタヌキの姿に戻ってしまう。故郷の淡路島では、ほかのタヌキたちにいじめられていたため、故郷を嫌っている。大阪にやって来たついでに人間を化かして楽しもうとするものの、近代社会の中ではうまく化かすことができず、意気消沈する。そんな中、大黒亭文狐の落語を見て感動し、弟子入りを決める。天神祭の船上で落語家として初めての高座を経験した。文字を読むのが苦手で、文狐が風邪で声が出なくなった際には絵で意思疎通が図られたが、うまく文狐の意図を汲むことができなかった。鼓をはじめとする鳴り物が得意で、茶碗と箸でリズムをとるだけでも他人を踊り出させてしまう特技がある。四天王による試験を無事に通過し、「大黒亭まめだ」を名乗るようになる。しかし、人里で長く生活しすぎたためにしっぽが消えなくなり、耳や髭なども順を追って隠せなくなっていく。その対策として、かつて死んでも人間に化けていたという、大ダヌキの左衛門狸について調べるようになる。天神によって仮死状態にされ、地獄に行った際に大黒亭文鳥と知り合った。新人演芸大会では猩猩亭三ん生に勝てなければ、文狐が帝都財閥の御曹司と結婚してしまうことを知り、ふだん以上の集中力を見せる。文鳥からは「まめちゃ」と呼ばれている。

大黒亭 文狐 (だいこくてい ぶんこ)

四天王の一人で、人気落語家の女性。黒髪のショートボブヘアにしている。男性に化けているまめだを一目見てタヌキだと見抜き、すぐさま田舎に帰ることを勧めた。まめだに弟子入りを志願されて一度は断っているが、まめだに強い覚悟があることを知り、弟子入りを認めている。まめだには人間としての暮らし方から大阪弁のしゃべり方、寄席での裏方作業などを体験させながら、厳しくも優しく見守っている。かつては「七度狐」と呼ばれ、伊勢に祀られていたキツネの妖怪だった。おばけが苦手で、怪談落語も苦手としている。文狐が大黒亭文鳥の遺志に背いてまめだを弟子にしたことを問題視され、四天王が招集された際には、椿白團治の提案を飲んで一度まめだを破門にすることを承諾している。さらに、まめだが四天王から認められなかった場合は、大黒亭文狐自身も今後いっさい大黒亭を名乗らないことを提案した。まめだを非常に大切にしており、まめだが危険な目に遭うとひそかに相手にブチ切れている。新人演芸大会でまめだが猩猩亭三ん生に勝てなかった場合、帝都財閥の御曹司と結婚することになっている。

作次郎 (さくじろう)

春来亭の席亭(オーナー)の男性。ボサボサの黒髪に丸眼鏡をかけている。つねに笑顔を絶やさず物腰も穏やかで、お松からも軽く扱われている。腕っぷしは弱いが、非常に度胸があり、らくだが椿しららを連れ去ろうとした時にも真っ先に立ち向かっている。実は帝都財閥の息子で、帝都財閥の御曹司の弟。

お松 (おまつ)

春来亭のお茶子を務めている女性。外ハネ癖のある金髪ロングヘアをポニーテールにしている。まめだが人間に化けた姿を一目で気に入り、寄席での裏方作業について詳しく教えている。まめだが大黒亭文狐について愚痴を漏らした際にも、それが教育であることを教えた。非常に酒豪で、非番の日は朝から飲み歩いている。

椿 しらら (つばき しらら)

椿白團治の弟子で、新米落語家の少女。白っぽい金髪のロングヘアの一部をサイドテールにしている。まめだと出会った当初は椿白團治が投獄されていたため、師匠に会うことのできない寂しさから、まめだと大黒亭文狐の仲のよさに嫉妬していた。しかしその後、まめだの初めての人間の友達になった。東京生まれで大阪弁に慣れておらず、白團治から大阪のリズムに慣れるために魚市場で毎日買い物するように言いつけられている。実は東京のヤクザ・黒駒一家の跡取り娘で、父親は東京に連れ戻したいと思っている。白團治の末弟子で、兄弟子たちの食事の準備なども担当している。春来亭によく出演しており、前座から中座に昇格した。

らくだ

東京のヤクザ・黒駒一家に所属している男性。顔の右側を縦横に走る傷痕がある。椿しららを東京へ連れ戻すために大阪支部まで来たが、大黒亭文狐から「落語で笑ったらしららをあきらめろ」と条件を付けられた。落語「らくだ」の最中に、しららに助けられた過去を思い出して笑ってしまったため、しららを連れ戻すことをあきらめている。それ以来大阪支部に在籍し、天神祭にも参加した。本名は「卯之助」で、乱暴者が主人公の落語「らくだ」にちなみ、まめだたちからは「らくだ」と呼ばれている。

井戸の幽霊 (いどのゆうれい)

まめだが落語の練習をしている井戸に住んでいる幽霊の女性。黒髪のロングヘアに天冠を付けており、前髪で顔を隠している。井戸端会議を聞くことを唯一の娯楽にしていたが、水道の普及によって人が集まらなくなり、退屈な毎日を過ごしていた。しかし、まめだが毎日落語の練習をしているのを聞き、まめだに好意を抱くようになる。まめだが大黒亭文狐の怪談落語を聞きたがっていることを知り、まめだに憑依して文狐に怪談落語をねだった。

小糸 (こいと)

春来亭の出囃子で三味線方を務めている盲目の女性。黒髪ロングヘアを、ゆるく後頭部でお団子ヘアにしている。盲目ながらほかの感覚が敏感なため、まめだがタヌキであることに最初から気づいていた。ほかの人間にまめだがタヌキであることを黙っているという条件で、たまにまめだのしっぽを触らせてもらっている。新人演芸大会においても三味線方を務めており、まめだや椿しららと共に東京に赴いている。

天神 (てんじん)

大阪天満宮に祀られている、少女の姿をした神。長い黒髪を二つに分けて毛先でまとめており、側頭部から二本の角が生えている。ふだんは大阪天満宮の境内から人々を見守っているが、氏子たちが落語について話している様子を見て、落語に興味を持った。天神祭の日に御鳳輦(ごぼうれん)から抜け出したところをまめだに発見され、捕まったところで落語が見たかったことを告白した。まめだが人に化け続けていられなくなった頃、左衛門狸の情報を求めて参拝し、再会した。しかしその際、まめだに役に立たないと罵られたことにショックを受け、まめだを仮死状態にしてあの世にいる左衛門狸と会うように仕向けた。

定吉 (さだきち)

旭牛乳で牛乳配達員をしている少年。黒髪でキャスケット帽をかぶっている。大黒亭文狐の自宅への配達を担当していることから、まめだともよく話している。ご隠居がふさぎ込んでいることを心配し、まめだに落語で元気づけてやってほしいと依頼した。

ご隠居 (ごいんきょ)

旭牛乳を経営している老齢な男性。禿頭で口まわりの髭を長く蓄えている。物腰は柔らかいがさまざまな事業を成功させた傑物で、非常に広い屋敷に住んでいる。加齢で足を悪くしてから好きな芝居を見に行けなくなり、ふさぎ込んでいた。しかし、心配をかけまいと従業員や家人に黙っていたため、元気づけようとした定吉がまめだに落語を依頼した。まめだが霧の圓雨から、霧の圓紫の目から貧乏な実家を隠したいとの相談を受けた際には、圓雨の実家として屋敷を貸し、ご隠居自身も圓雨の父親役として圓紫と対面した。

高柳 (たかやなぎ)

ベクターレコードの技術部長を務めている女性。長い黒髪をシニヨンでまとめており、眼鏡をかけている。大黒亭文狐の落語をレコードに収録する依頼を出した。「初天神」を10分以内に収録させるため、マクラなしで非常に早口で語るように依頼している。

椿 白團治 (つばき しろだんじ)

四天王の一人で、人気落語家の男性。椿しららの師匠でもある。白っぽい金髪のロングヘアをゆるくポニーテールにしている。自分が贔屓にしていた女性を軍人に横取りされた恨みを面白おかしく高座で話し、大阪中の噂になってしまったために政治犯として投獄されていた。大黒亭文狐の師匠である大黒亭文鳥の息子で、文狐の兄弟子に当たる。各方面に多額の借金があるが、一度の興業で返済することができるほど人気がある。内弟子が多く、大きな自宅に住んでいる。霧の圓紫と恵比寿家歌緑が四天王を招集した際、一度まめだを破門にしており、まめだが「大黒亭」を名乗るにふさわしいかどうかを四天王がそれぞれの基準で試験することを提案した。そのうえで、まめだには「自分自身が落語になる」という試験を、試験内容を明かさずに課した。まめだが大黒亭を破門になっているあいだ、自宅で面倒を見ていた。まめだとの初対面の際に尻が丸出しだったため、まめだからは「尻」と呼ばれ、文狐からは「白兄さん」と呼ばれている。

霧の圓紫 (きりのえんし)

四天王の一人で、人気落語家の女性。紅色の長い髪をツインテールにしている。一人称は「アテ」。落語をしているとき以外は非常にゆっくり話すクセがあるため、ハキハキと話さなければならないときはメトロノームを使用したり、弟子である霧の圓雨が通訳している。大黒亭文狐が大黒亭文鳥の遺志に背いてまめだを弟子にしたことを問題視し、四天王を招集した。その際、一度まめだが破門となり、四天王の試験に合格しなかった場合は、大黒亭文狐もまた今後大黒亭を名乗らないという提案を受け入れている。まめだには「10分15秒ぴったりに演じる「寿限無」を、手本を二回見せるだけで一言一句間違わずに演じさせる」という試験を課した。かつて文鳥にあこがれ、弟子をとっていないことを知りつつ毎日小屋に通っていたところ、唯一「寿限無」だけ文鳥から稽古をつけてもらった。霧の圓紫自身を差し置いて弟子になった文狐にコンプレックスを抱いており、嫌っていた。しかし、新人演芸大会に推薦状を提出しなければならないことを、まめだと文狐が知らないだろうことを見越し、さりげなく助け船を出す優しい一面を持っている。

霧の圓雨 (きりのえんう)

霧の圓紫の弟子である少女。黒髪ショートヘアで、袴を身につけている。一人称は「ボク」。圓紫を尊敬しているために圓紫の手を患わせたり、邪魔をしたりする者を嫌っている。声が大きいため、圓紫からうるさがられていることを反省しているが、改善はしていない。非常にゆっくりと話す圓紫の言葉をスムーズに通訳する役目も担っている。非常に貧乏な家庭育ちで両親も蒸発しており、廃墟同然の自宅で暮らしている。しかし圓紫や兄弟子たちが、全員何かしらの英才教育を受けていることを知っているため、貧乏であることを恥じ、圓紫にその事実を隠すためにまめだに協力を依頼した。

恵比寿家 歌緑 (えびすや うたろく)

四天王の一人で、人気落語家の男性。トップが白髪になったツーブロックヘアをしている。病弱だがヘビースモーカーで、一度咳をし始めると止まらない。大黒亭文鳥の同期であり、若手の頃からよく文鳥に助けられていた。大黒亭文狐が文鳥の遺志に背いてまめだを弟子にしたことを問題視し、四天王を招集した。その際は一度まめだが破門となり、四天王の試験に合格しなかった場合は、大黒亭文狐もまた今後大黒亭を名乗らないという決まり事を設けた。まめだの落語を一席見ただけで不合格を言い渡し、その後は遊郭に引き籠もってまめだと会わないようにしていた。しかし、平兵衛の嫌がらせにも負けず落語を演じ続けるまめだの姿を目にし、助け船を出したあと再試験を言い渡した。

大黒亭 文鳥 (だいこくてい ぶんちょう)

大黒亭文狐の師匠である男性。ボサボサの黒髪をしている。故人。社が壊されて負傷した妖怪「七度狐」に弟子になれと持ちかけ、「大黒亭文狐」と名づけて面倒を見ていた。身勝手な行いばかりする人間を憎みながらも、大黒亭文鳥の芸で笑顔を見せる人々を愛さずにはいられなかった矛盾を抱え、文鳥の芸を残さないようにと長らく弟子はとっていなかった。文狐への遺言に「オレの芸は文狐で終わらせてくれ」と言い残していたが、文狐自身が弟子をとることには反対していない。まめだからは「大師匠」と呼ばれている。

平兵衛 (へえべえ)

大阪商人の男性。頭頂部の髪だけを長く伸ばした短髪で、口ひげを蓄えている。大黒亭文鳥の贔屓客だったが、土着の神を軽んじる発言をした際に、文鳥によって頭から酒をかけられた。この件から落語家を恨んでおり、まめだが遊郭に引き籠もった恵比寿家歌緑を追いかけて遊郭で働いている時も、あえて座敷で落語を演じさせ、誰も落語を聞かないという状況をつくり上げた。恵比寿家歌緑の落語によってこの嫌がらせが失敗してからは、まめだに土産と称して多額の金を渡したあと、盗まれたと騒ぎ立ててまめだの落語家としての人生を終わらせようと画策した。

じっちゃん

まめだの祖父の老タヌキ。全身真っ白で、人間に化けると口周りに髭を蓄えた老僧侶の姿になる。淡路島では長老として尊敬されている。タヌキが長く人里に暮らすと体に負担がかかり、弱っていくことを大黒亭文狐に告げ、このままではまめだがただのタヌキになってしまうと警告した。

左衛門狸 (さえもんだぬき)

伝説の大ダヌキ。人間に化けると黒髪ストレートロングヘアで、水干を身につけた女性の姿になる。一人称は「わっち」。死んでからも人間に化け続け、火葬になってから初めてタヌキとバレたという伝説が残っている。長く人里で暮らしていたことから、まめだが人間に化け続けていられるヒントになるのではないかと考えられた。化けダヌキながら人間界で暮らしており、大黒亭文鳥の寄席を見に来たりもしている。かつて、辰に助けられたことをきっかけに思いを寄せ、いっしょに暮していた。地獄でも辰と再会することを信じて閻魔の裁判から逃げ出したものの、その際に狸の金印を盗まれてしまっていた。まめだから困っていることを聞き、快く狸の金印のことを教え、共に閻魔から狸の金印を取り返そうとした。

閻魔 (えんま)

地獄の裁判官を務める老齢な男性。非常に瘦せており、頰も瘦けていて眼鏡をかけている。左衛門狸が裁判から逃げ出した際に狸の金印を盗み、裁判で三文判として使用している。気弱そうに見えるが亡者に対して容赦がない。

(たつ)

左衛門狸が思いを寄せている、人間の男性。長い黒髪を頭頂部で髷にしている。つねに笑顔を浮かべており、村の仲間たちからは役立たずと思われている。左衛門狸がふつうのタヌキだった頃に助け、人間に化けた左衛門狸といっしょに暮らしていた。左衛門狸が死ぬ間際、「絶対に迎えに行くからあっちで待っていろ」と伝えた。

十代目芝右衛門狸 (じゅうだいめしばえもんだぬき)

まめだの父親でオスのタヌキ。頭部の一部分のみ濃い茶色で、髪を逆立っている。人間に化けると茶髪のショートヘアで、前髪の真ん中だけを逆立てた青年の姿になる。人里でもタヌキが安心して暮らせる場所をつくることを夢見ており、大阪に会社を建てようとしていた。しかしなんらかの事故に遭い、死亡している。あの世では賽の河原の近くに、親より早く死んだ子供たちの世話をする幼稚園をつくっている。まめだが三途の川に戻る際に再会したが、まめだが死んだのだとカンちがいして失神した。その後、閻魔たちに追われるまめだが、逆向きに三途の川を渡って生き返れるように尽力する。

猩猩亭 三ん生 (しょうじょうてい さんしょ)

新人演芸大会で関東代表として出場する落語家の少女。黒髪のおかっぱ頭で、目の中に花のような模様がある。非常に大食漢で、支払いは小切手で行わなければならないほどの量を食べる。また記憶力に秀でており、どんな噺でも一席で覚え、抑揚から声に至るまで完全な形で取り込むことができる。「江戸の天才」とも呼ばれている。これまで三人の師匠を持ったが、その三人全員が猩猩亭三ん生を殺そうとしたと告白している。他人の芸を盗んで絶望感を与えることから「死神」とも呼ばれている。

帝都財閥の御曹司 (ていとざいばつのおんぞうし)

作次郎の兄。新人演芸大会でスポンサーを務める男性で、帝都新聞社の社長でもある。長い黒髪のワンレングスヘアに、ダークスーツを身につけている。大黒亭文狐が妖怪「七度狐」であることも理解したうえで恋い焦がれている。春来亭の土地の権利者を買収し、春来亭の土地の権利証を手に入れた。新人演芸大会においてまめだが猩猩亭三ん生に勝った場合はこの権利証を作次郎に渡すが、三ん生が勝った場合には文狐と結婚すると宣言し、すでに婚姻届とドレスの発注書も手配している。

寿家 八百山 (ことぶきや やもやま)

落語家の男性。側頭部以外禿げ上がっており、口周りに髭を蓄えている。新人演芸大会の第一回戦において審査員を務めた。つねに一升瓶を携帯しており、酩酊している。かつては名人として人気だったが、数年前に倒れて以来舌が回らなくなり、リハビリもせずに酒浸りの日々を過ごしている。弟子の面倒もろくに見ておらず、本来であれば中座に昇格しているはずの寿家一八も前座のまま留め置いている。昔は大黒亭文鳥や恵比寿家歌緑も世話になっていた。

寿家 一八 (ことぶきや いっぱち)

寿家八百山の弟子の男性。スキンヘッドにしている。10年間前座で居続けていることで有名になった。幇間(ほうかん)話を得意としており、新人演芸大会の第一回戦においても「太鼓腹」を披露しようとしていたが、師匠である八百山が観客を冷やしてしまった責任を感じ、落語ではなく踊りと八百山との口ゲンカで観客を盛り上げて退席した。名前の音と似ていることから「一発屋」と呼ばれることも多い。

集団・組織

四天王 (してんのう)

上方落語の四人の大看板の総称。大黒亭文狐、椿白團治、霧の圓紫、恵比寿家歌緑が四天王に数えられている。文狐が大黒亭文鳥の遺志に背き、まめだを弟子にとったことを問題視して召集された。その結果、まめだは一度破門にされる。まめだは文狐以外の四天王に認められなければ落語家として活動することもできず、文狐も大黒亭を名乗れなくなるという試験を受けた。

場所

春来亭 (しゅんらいてい)

作次郎が席亭(オーナー)を務める寄席。小さな小屋ではあるものの大黒亭文狐や椿白團治といった四天王も出演するため、千秋楽では満員の客入りになることも多い。まめだや椿しららも出演しており、修業の場ともなっている。しかし、作次郎が受け取ったのは席亭の座だけで、春来亭の土地の権利は浮いたままになっていた。そのため、帝都財閥の御曹司が土地の権利者を探し出して権利証を入手した。

その他キーワード

狸の金印 (たぬきのきんいん)

伊予のタヌキの長に代々伝わっている金の判子。長い時間をかけて大ダヌキたちが、自らの金玉に蓄えた力を注いで作り上げたとされている。狸の金印が持つ霊力は凄まじく、持っているだけで無尽蔵の力を得ることができ、人里でも人間に化け続けることができる。まめだの手に渡ってからは判子の形ではなく、金色の葉っぱの形となってまめだの頭に乗っている。

新人演芸大会 (しんじんえんげいたいかい)

帝都財閥の御曹司がスポンサーを務める落語の大会。新人落語家に芸を競わせて番付けする企画で、その様子はラジオでも放送される。全国区の新聞にも掲載されるため、順位が奮わずとも出場するだけで価値があるとされている。新人演芸大会においてまめだが猩猩亭三ん生に勝てれば、帝都財閥の御曹司が入手した春来亭の土地権利書は作次郎の手に渡るが、まめだが三ん生に負ければ大黒亭文狐が帝都財閥の御曹司と結婚することになる。

書誌情報

うちの師匠はしっぽがない 12巻 講談社〈アフタヌーンKC〉

第1巻

(2019-09-06発行、 978-4065170076)

第2巻

(2019-12-06発行、 978-4065179321)

第3巻

(2020-05-07発行、 978-4065194720)

第4巻

(2020-10-07発行、 978-4065209127)

第5巻

(2021-03-05発行、 978-4065226636)

第6巻

(2021-08-05発行、 978-4065245170)

第7巻

(2022-01-07発行、 978-4065265550)

第8巻

(2022-06-07発行、 978-4065282182)

第9巻

(2022-10-06発行、 978-4065295090)

第10巻

(2023-02-07発行、 978-4065305652)

第11巻

(2023-07-06発行、 978-4065322246)

第12巻

(2024-02-07発行、 978-4065344804)

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