概要・あらすじ
落語家山遊亭海彦は芸の腕前は一流だが酒や女に弱く私生活は乱れっぱなし。「シャレこそ落語家の命」と信じ、真打ち昇進披露と自身の生前葬を同時に開催するなど常識破りな行動を取りまくる。そのため所属する日本落語協会からは煙たがられているが、保守的な先輩落語家たちのそんな思惑も何のその。わが道を行く海彦は止まらない。
登場人物・キャラクター
山遊亭 海彦 (さんゆうてい うみひこ)
落語家。山遊亭彦八の一番弟子。丸顔に太い眉毛の愛嬌ある顔立ち。酒好き、女好きと古き良き芸人らしい性格。十人まとめて真打ち昇進させられそうになった際はこれに反対するなど、鼻っ柱が強く反骨精神も強い。師匠彦八の葬儀に獅子舞や山車を出すなど、シャレのために型破りな行動を度々とるためトラブルも絶えない。 金遣いも荒いので借金まみれ。人間としては社会的に失格だが、芸の腕前は一流で、大器を予感させる逸材。
山遊亭 彦八 (さんゆうてい ひこはち)
日本落語協会副会長の落語家。古典落語の重鎮として名高い。若いころは「歩く爆弾」と呼ばれるほど気の強い人物だったらしい。一番弟子の海彦が度々問題を起こすことに手を焼いており、心労からか最近は入院を重ねていた。師匠に刃向かう海彦に説教を絶やすことがないが、破天荒で大きな可能性を秘めている海彦のことを信頼している。 しかし海彦の真打ち昇進披露直後に急性肺炎で、60歳にして亡くなった。
山遊亭 彦市 (さんゆうてい ひこいち)
落語家。山遊亭彦八の弟子で、海彦の弟弟子。さわやかな外見と語り口でマスコミにも顔が売れている人気若手落語家。入門は海彦より遅いが年齢は5歳年上。表向きは兄弟子のメンツを立てているが、メチャクチャな行動で波風を立て続ける海彦に内心辟易している。新会長となった入船亭裕蔵に日本落語協会の理事に最年少で抜擢された。
春子 (はるこ)
山遊亭彦八の妻。元女優で、中年になった今も美しい。落語家の妻らしい豪胆な性格で、師匠亡き後の海彦にとって頭の上がらない存在。
夏子 (なつこ)
山遊亭彦八と春子の娘。国際線のスチュワーデスとして働いている。結婚したが程なく離婚した。男はもうこりごりだと思っていたところ海彦と彦市に同時にプロポーズされ、困惑する。自分自身でもどちらが好きなのかわからず揺れ動く。
山遊亭 斎太郎 (さんゆうてい さいたろう)
落語家。山遊亭彦八の弟弟子。彦八が早くに死んだのは弟子の海彦が迷惑をかけっぱなしだったせいだと考え怒る。しかし心の底では海彦を心配しており、謹慎処分を早期に解除してもらうよう理事に頼み込んだりもしている。
入船亭 裕蔵 (いりふねてい ゆうぞう)
落語家。日本落語協会の理事で、山遊亭彦八亡き後、次期会長間違いなしと言われる権力を持つ。寡黙で渋い雰囲気を漂わせているが権力と金への執着が深く、営業仕事の斡旋とピンハネで得た金で豪邸に暮らす。再婚相手はうんと年下の若い女性。反骨心の強い海彦のことを煙たがっており、彦八の葬儀をお祭り騒ぎに仕立てた海彦に謹慎処分を言い渡した。
美登利 (みどり)
入船亭裕蔵のうんと年下の妻。元は銀座で働いていた色気たっぷりの美人。裕蔵に詫びを入れに訪れた海彦と自宅で二人きりになり、浮気を誘った。しかしそれは海彦をからかった冗談であり、海彦の立場をますます危ういものにした。
山遊亭 彦兵エ (さんゆうてい ひこべえ)
落語家。海彦の弟弟子の二ツ目。出っ歯で愛嬌のある顔立ち。兄弟子の海彦の起こすトラブルによく振り回される。
南村 金二郎 (みなみむら きんじろう)
寄席・新宿廣末亭の席亭だった人物。昭和の名人落語家を多数育て上げた。どんな大物落語家も彼には逆らえない。引退して10年経つがその威光は衰えを知らない。艶福家で、80歳を過ぎた現在も複数の女性を囲っている。海彦は自身の真打ち披露興行に入船亭裕蔵を出席させるため、その仲裁を頼みに彼のもとを訪れる。
その他キーワード
浜野 矩随 (はまの のりゆき)
『山遊亭海彦』に登場する古典落語の演目。浜野矩随とは江戸時代に実在した有名な金工の名前で、その人物の逸話をもとにした話。名人の息子として生まれたが無能な職人だった矩随が母の努力で父を超えるという人情噺。海彦の真打ち披露興行に出演した入船亭裕蔵は、海彦のメンツを潰すために彼の出番の前にこの落語を熱演した。
らくだ
『山遊亭海彦』に登場する古典落語の演目。乱暴者の「らくだ」がフグの毒に当たって死んでいるのを、彼の家を訪れた兄弟分が発見する。兄弟分はらくだの葬儀代を長屋の連中からせしめるために、偶然通りがかった紙屑家に命令し、香典を持ってこないとらくだの死体を持って行くぞと脅迫させる。ならず者の死を巡って周囲に騒動を巻き起こす破天荒な落語。 自分の出演前に人情噺「浜野矩随」を入船亭裕蔵に演じられた海彦は、対抗するためこの落語を繰り出した。
芝浜 (しばはま)
『山遊亭海彦』に登場する古典落語の演目。飲んだくれの魚屋の亭主が50両という大金の入った財布を芝の浜で拾う。狂喜乱舞する亭主だが、女房は財布を隠し、それは夢だと亭主に告げる。年末になると必ず口演される定番の人情噺。海彦の真打ち披露興行に出演した入船亭裕蔵は海彦の出番前にこの話を熱演した。 海彦は裕蔵に勝つために自分も「芝浜」を演じるという掟破りの荒業に出る。