概要・あらすじ
王女イコロは雪が休みなく降り積もる死の国で、絶望を感じていた。王族の権威はとうに失墜し、イコロの両親である王と王妃は行方知れず。残された王女イコロは弟のマタクとともに貧しい生活を余儀なくされ、公務という名のもとに掃除や食事の支度を強いられていた。残された王族であるイコロは、国を動かす戦族から虐げられていたが、父親が研究していた国を救うという伝説の「太陽」の存在を信じ、マタクを守ることを胸に、日々生き延びることに力を尽くす。
そんなある日、イコロはヒトガタと呼ばれる未知の物体を探す戦族の3人組に家を襲われるが、そこで謎の少年、シロと出会う。無邪気で明るいシロは記憶を失い、何かを探し続けることを使命に生きていた。
彼の助けを借り、すんでのところで戦族から逃げることに成功したイコロは、自分自身をとりまくこの国の絶望的な状況を鑑み、伝説の「太陽」を探す旅に出ることを決意する。ただ死だけが待つ未来のない国で、たった1つの希望を懸命に信じ、イコロとシロの生きるための冒険が始まる。
登場人物・キャラクター
イコロ
もうすぐ13歳になる王家の息女。天才的な頭脳の持ち主で、勉強はできるが泣き虫。「笑う」ということを知らず、生まれてから一度も笑ったことがない。その表情に乏しいところから、周囲からは不完全な人を意味する「ヒトガタ」と揶揄されることが多い。公務と称して政族のために掃除や食事の支度をすべてこなしている。王族に仕える執事であるシャーの厳しい躾けにより、規則正しい生活を教育されていたため、12時になると眠りにつき、朝四時まで決して起きることはない。 イコロとはこの国の古い言葉で「宝」を意味する。
シャー
イコロの執事を務めるおばあさん。特にイコロにはいつも厳しく接している。イコロとマタクとともに暮らし、彼らの教育係をも担っている。イコロの身にいつ何時何が起こっても生きていけるようにと、大きなリュックに薬品、食糧、武器などのさまざまなものを詰め込んだ「カバン」を用意した。
マタク
イコロの弟。目が見えないため、弟思いの姉を慕い、姉の言葉をすべて信じる純粋無垢な少年。基本的に自宅の中でのみ生活しているため、外のことを知らない。姉と離れてしまってからは、姉がしてくれていたすべての仕事を姉に代わって行い、いつ姉が帰って来てもいいようにしている。
シロ
両手に手枷と鎖が付けられている無邪気な少年。泣くことを知らず、痛みを感じることがない。自分を拾い、育ててくれた親分の教えで、敵なら殺せと教育された。そのため、初対面の人間には必ず「テキ」か「トモダチ」かを確認する癖がある。武器を手に持つと我を忘れ、攻撃に徹する鬼と化してしまう。その結果、自分のことを含むすべての記憶を失ってしまう。 何かを探すという使命を持ち旅をしているものの、それが何だったのか思い出せない。また、イコロと出会った時、自分の名前を忘れてしまっていたため、シロという名はイコロが付けたもので、この国の古い言葉で「足りないもの」「カケラ」と同じ意味を持つ。
ヨナ
イムザの妹で、下の世界に住むレジスタンスの少女。まだ幼いため、自分が何のために何をしているのか理解はできていないが、仲間とともに一生懸命活動に参加している。また、ついつい重要機密をしゃべってしまうほど、おしゃべりが大好き。心の底ではイコロを慕っている。
イムザ
下の世界に住むレジスタンスのリーダーを務める少年。村の子供たちを率いてご神体を取り戻すべく極秘に活動している。頼りにならない大人に絶望し、子供だけで必死に生きている。
エリオット
戦族の将軍の息子であり、エリザベスの兄。戦族で大佐を務めている。もともと戦のためだけに生きてきた戦族が、政族と活動をともにしようとする将軍の考え方に違和感を感じている。
エリザベス
戦族の将軍の娘でありエリオットの妹。戦族で少佐を務めている。口は悪いが心根は優しい。頼りない手下を引き連れ、上の世界でイコロの家を襲撃した。父親からヒトガタを探すという命を授かり、戦族の未来のために部下2人とともに奔走する。
重剣士 (じゅうけんし)
戦族の仲間。他の人間の2倍はあろうかという巨体と怪力の持ち主。しかしその外見に似合わず、気が弱く優しい。ただ、切れやすい性格のため、叱られると突然キレ、感情が爆発することがある。
父ちゃん (とうちゃん)
イコロとマタクの父親で、この国の王を務める男性。自国の未来を案じて「太陽」についての研究を続けており、書籍の執筆も行っていたが、ある時から行方不明となっている。
母ちゃん (かあちゃん)
イコロとマタクの母親で、この国の王妃。イコロにカケラを託し、政族と戦族の人質となって以降、消息は不明となっている。平民の羊飼い出身だが、王族と同様に30歳をすぎても健康で、かつ美しさを保っている。
玉 (ぎょく)
政族の長である父親の代理として議長を務める女性で、「神に代わって人々を未来へと導く予言者」とも崇められている。この国が滅びに向かっている原因は王族にあるとの考えを持ち、自分自身が作る新世界の王となり、人々を導こうとしている。
コロリ
この国が荒廃した後、下の世界でヨナを始めとする子供たちと行動を共にしている少女。薬づくりの名人だが、言葉が話せない。周囲の子供たちからは母親のように慕われている。もともとは舞族の一族出身。両親を戦族に殺されたため、極端に血を怖がる。
親分 (おやぶん)
シロの育ての親であり、「伝説の盗賊団」と呼ばれる「北の山の盗賊団」のリーダー的存在の老人。この国が荒廃した後、ヨナを始めとする子供たちの面倒を見ているという体で、行動をともにしている。態度が悪く、口やかましいところがあるが、子供たちを愛し、子供たちからも慕われている。
クロ
旧文明から王家に代々伝わる愛玩人形。イコロが改造し、話ができるようになった。クマのぬいぐるみの様な可愛い外見に反し、口が悪く、差別的な発言も多い。
集団・組織
戦族 (いくさぞく)
戦のみを命とし、そのために生まれ死んでいくと言われている、戦を生業にする部族。もともとは王家を守るために生きてきた部族だった。嘘をつくことを禁じた掟があり、戦い以外の目的を持つことはあり得ないとされていた。下の世界で暮らしており、上の世界に上ってくることは許されていない。しかし、戦族の将軍と、政族の長との密約により、手を組んで「ヒトガタ」を探し、禁じられた「科学」を復活させようと画策している。
政族 (まつりぞく)
上の世界で暮らしているこの国の政を司る部族。王族が権威を失ってからは、この国の独裁を目論んでいる。禁忌とされる失われた「科学」を復活させようと画策しており、そのために戦族と手を組み、「ヒトガタを手に入れて」実験を行おうとしている。
王族 (おうぞく)
この国を治めていた王家の一族。しかし、現在ではすでにその権威は失墜しており、その実権は政族が握っている。王と王妃は行方知れずとなっており、残されているのは王女イコロとその弟であるマタクのみとなっている。王族のみが持つことを許されているものとして、時計が挙げられる他、イコロは母親から代々王女に伝わる「カケラ」といわれるペンダントを譲り受けている。 王族は、おしなべて長寿であるとされており、国民の平均寿命が40歳程度であるなかで、平均80歳くらいであるといわれている。
学者族 (がくしゃぞく)
この国で、王とともに「太陽」に関する研究を続けていた一族。ある時を境に王族を裏切り、研究を政族と戦族と共に行い始める。しかし、禁忌とされていた「科学」を復活させようとしたことへの後ろめたさに苛まれ、「禁忌を犯すものは人ではないものになってしまう」という迷信を怖れている。
舞族 (まいぞく)
この国で踊ることを生業としている平和な一族。踊りを舞うことで人々を勇気づけられることに幸せを感じていたが、国が荒廃の一途をたどり、戦族が支配するようになると、舞で生きていくことができなくなった。
レジスタンス
この国の下の世界に住む子供たちによって結成された組織。組織の人間は皆、特殊なお面をかぶり、顔を隠している。生まれ育った町が政族と戦族によって占領され、町の守り神だった「ご神体」を奪われたため、それを取り戻すために集結し、行動すべく計画を立てていた。しかし、その計画はイコロとシロが現れたことにより決行不可能となったため、強硬手段に切り替え、特攻をかけようと画策している。
場所
この国
イコロとマタクの両親が治めていた国。高い壁に囲まれ、休みなく降り積もる雪に覆われている。空は常に雪雲に覆われており「太陽」は存在しないため、昼夜の区別はできない状態で、気温は常に零度以下。農業や狩猟など、どの産業も細々と国民が営んでいくしかなく、大変貧しい。上の世界と下の世界に別れており、下には戦族を中心とした貧しい者が暮らし、政族の悪政に苦しみながらも税を納めている。 上の世界は王族の領地となっているが、王族の権威はすでに失われている。現状は主に政族が国を治めるための場となっている。溶けることなくどんどん降り積もる雪のせいで、国内の建物は上へ上へと増築を繰り返すしくみとなっている。この国は雪に埋もれて次第に終わりを迎える、先に待つのは死のみと言われているが、それを救うのは「太陽」であるとささやかれている。 「太陽」を探したり夢を見ることや、勝手に自分の町や村を出ることが一切禁止されており、重罪となる。また、国民の平均寿命は40歳程度と言われているが、30歳前後で急速にしぼみ、朽ち果てるように亡くなる。
その他キーワード
ヒトガタ
この国の民に昔から伝わる言葉であり、由来は失われてすでにない。「ヒトガタ」には多くの意味があり、単純に人の形をした人形であるほかに、装飾品の欠けた1ピースのことや、感情の「喜怒哀楽」の1つが欠落した子を揶揄する言葉としても使われ、忌み嫌われている。また、旧文明から伝わる物で「ヒトガタ」と呼ばれるものが存在し、戦族も政族もそれを探しているが、それがどんなものであるかは誰も知らない。
太陽についての研究序論 (たいようについてのけんきゅうじょろん)
この国の王であるイコロの父親が、「太陽」について研究、執筆した書籍。大昔、旧文明が高い文化や科学の力で繁栄していた頃、「太陽」と呼ばれる不思議なものが存在した。当時は「太陽」のおかげで外はまるでランプのように明るく、こたつの中のように暖かく、世界は未来への希望にあふれ、人の寿命は長く、みな明日を信じて生き生きと暮らしていた、という旧文明の様子を始めとし、現在に至るまでに明らかになった「太陽」に関するすべての事柄が記されている。
クジラ
政族と戦族が手を組んで、旧文明で失われた「科学」を復活させ、その力で飛ばそうと試みている謎の飛行物体。その形から、彼らはクジラと呼んでいるが、レジスタンス内では「ナマズ」と呼ばれている。
蒼天の裂け目 (そうてんのさけめ)
この国を囲う巨大な壁にできたヒビのこと。飛行実験の失敗によりできたもので、その裂け目から恐ろしい声が聞こえてくることから、国を滅ぼす魔物が出てくると言われている。
ニシノカムイ
この国の下の世界にある人の形をした石像のようなもの。「カムイ」が「見るもの」という意味であることから、「小さな人々を見守る者」や、「愚かな人々を見張る者」であり、「壁の番人」であると昔から伝えられている。
カケラ
それぞれの部族に代々伝わるペンダント。この国ができた時から人々に伝えられる特別な物であり、このペンダントが個人であるしるしとなる。カケラには1つとして同じものはなく、代わりになるものもない。また、各部族が固有の形を持ち、その形によって生まれや育ちもたちどころにわかるようになっている。この国では、カケラを持たない者は人とはみなされない。 これを失くすと、一族から追放され、帰るところもなく永遠にさまようことになるといわれている。
ご神体 (ごしんたい)
レジスタンスたちが住んでいた町の神殿に祀られていた石。明るく、暖かく、人々を幸せにするものとされ、町の守り神として崇められていた。しかし実験に使うためとして、政族と戦族に奪われてしまっている。