概要・あらすじ
グラントリアン王国は、かつての臣下であったスタニスラス・ド・サンドリヨン公爵の反逆によって国家を二分され、激動の時代を迎えていた。王国を治めるメルセデス6世はすでに亡くなり、王妃イザベルとメルセデス大公殿下もサンドリヨン公爵の謀略によって命を落としてしまう。唯一生き延びた王女・セリーヌ・ド・ロゼクロワは、代々王家に伝わる指環を手に自らが王となることを誓い、すでに奪われた王国の首都イースを目指す。
登場人物・キャラクター
セリーヌ・ド・ロゼクロワ (せりーぬどろぜくろわ)
メルセデス6世の一人娘で、まだ幼さを残す年若き王女。スタニスラス・ド・サンドリヨン公爵に王位簒奪(さんだつ)を狙われる激動の時代にも、自国の政治には無関心で、剣術の稽古にばかり熱心なおてんば娘。一方で銃術や狩猟は不得手としており、狩った直後の血まみれの鹿を見るのに抵抗を抱く少女らしい面もある。成長した今でも、機族が登場するおとぎ話「月の王国の物語」が大好き。 サンドリヨン公爵によってエレオノール城が襲撃された際、王妃イザベルが遺した言葉を聞き、指環を託されたことによって、男性として生きることを決意する。
カトリーヌ・デュランダル (かとりーぬでゅらんだる)
機族の一人。銀水晶のように輝く髪、黒曜石のように黒い肌、竜紅玉よりも紅い瞳を持つ。全身を深紅の装甲で固めている。エレオノール城が襲撃され、セリーヌ・ド・ロゼクロワとギーが対峙した瞬間に乱入。「地上人の王を助ける」としてセリーヌらに加勢する。少々抜けたところがあり、本人らに確認もせず、銀の髪を持つマンフレッド・フォン・ネッテスハイムを王と勘違いしていたり、人間が言葉で意思疎通していることを知らなかったりする。 機族でありながら人形使いを伴わずに動き、涙を流したり、感情があるように振る舞うなど、多くの謎を抱えている。
マンフレッド・フォン・ネッテスハイム (まんふれっどふぉんねってすはいむ)
セリーヌ・ド・ロゼクロワの家庭教師を務める男性。銀色の美しい長髪を持ち、切れ長の瞳に細いスクエア型のメガネをかけた、知性を感じさせる容姿。基本的には柔らかい物腰の穏やかな性格だが、エレオノール城の襲撃を受けた際、危険に身を置きながら笑みを浮かべる倒錯した一面も持つ。かつて研究員だったことがあり、遺跡の街の地下で黒い月を発見し、サン・ドレの惨劇に遭遇した過去がある。
サントライユ
セリーヌ・ド・ロゼクロワの従者を務める少年。ボア・シュニュー出身。毛先があちこちにはねた髪型に短い眉、三白眼が特徴。剣術の腕前は半人前で、手加減をしたセリーヌに負けてしまうほど。しかし銃術の腕前には自信があるようで、野生の鹿を仕留めたり、乗馬したまま片手で長銃を扱い、目標を撃破する腕前を誇る。
ドロレス
エレオノール城で働く給仕の一人。野盗「生皮剥ぎ団」によるエレオノール城襲撃の最中、サントライユと共に行動して生き延び、その後セリーヌ・ド・ロゼクロワらと合流。セリーヌの王位継承計画を聞いた際には「王太子ごっこ」と的外れな発言をする。
スタニスラス・ド・サンドリヨン (すたにすらすどさんどりよん)
グラントリアン王国で公爵の位を持つ人物。長い黒髪を編み込んで数本の束にした髪型、深く濃い万年クマのある鋭い眼光が特徴。伝統としきたりに縛られるロゼクロワ王家の体制に不満を持ち、反乱を起こして首都イースを含めるグラントリアン王国の北側半分を手中に収める。実は王妃イザベルと密通しており、メルセデス大公殿下はこの2人の間の息子。 王位継承権を持つ息子を亡き者にし、国家簒奪を企む。
メルセデス6世
セリーヌ・ド・ロゼクロワの父親であり、かつてグラントリアン王国を治めた王。深い思慮を持つ人物で、スタニスラス・ド・サンドリヨン公に首都イースを攻め込まれた際には、対話の場を持ち、自らがイースを離れることで無血開城に導いた。しかしその後、後継に王位を継承しないまま死亡する。
イザベル
セリーヌ・ド・ロゼクロワの母親であり、グラントリアン王国の王妃。憂いを帯びた伏し目がちの目元が特徴の美女。娘であるセリーヌには厳しくも優しく接する。しかし、その本性は好きになった男性を自分のものにしなければ気が済まない悪女。そのためには平気で敵国の男とも密通する悪癖があり、スタニスラス・ド・サンドリヨンとも肉体関係にあった。 エレオノール城が野盗「生皮剥ぎ団」に襲撃された際には、反対する大臣たちを自ら手にかけ、開城するよう強く進言。結果、賊に城内への侵入を許し、命を落とす。セリーヌに「あなたが男であったら」という遺言を残した。
メルセデス大公殿下 (めるせですたいこうでんか)
セリーヌ・ド・ロゼクロワの兄で、グラントリアン王国の王位継承権を持つ人物。しかし、実はメルセデス6世の実の息子ではなく、スタニスラス・ド・サンドリヨン公爵と王妃イザベルの不義の結果生まれた子である。まだ王位継承には至っていないものの、メルセデス7世としてサンドリヨン公爵との和睦会談に出席。 その場でサンドリヨン公爵の暗殺を謀るが、返り討ちに遭って死亡する。
セドリック
スタニスラス・ド・サンドリヨン公爵の息子。父親からの命令で野盗「生皮剥ぎ団」を利用し、エレオノール城襲撃作戦の指揮を執る。野心に溢れ、自分の実力を父親に認めてもらおうと躍起になっている一方で、実力が伴わず、自分が「クズ」と呼んで蔑む「生皮剥ぎ団」すらまともに制御できていない。
憤怒 (らいーる)
野盗「生皮剥ぎ団」の頭領を務める妖艶な女性。褐色の肌にオッドアイ、さらに右目には大きな三日月形の傷跡を持つ。さまざまな効果を発現させる香水を調合する技術を有し、巨体のギーを一撃で屠(ほふ)る戦闘能力を誇る。性格は粗暴で言葉遣いも乱暴だが、いい男とスイーツには目がなく、出会うと途端に態度が一変する。エレオノール城に襲撃をかけた際、髪を切ったセリーヌ・ド・ロゼクロワを見かけて一目惚れし、その後を追う。 まだ幼少の頃、サン・ドレの惨劇に遭い、目の前でサン・ドレの黒い怪物に母親を食い殺された過去を持つ。
リシャール
野盗「生皮剥ぎ団」で憤怒の腹心を務める男性。サイドを外側にめくったハンチング帽と、片方の目を隠すように分けた長い前髪が特徴。常に軽口を叩く飄々とした性格の色男で、憤怒のお気に入り。憤怒の男好きな特殊性癖に、いつも困らされている。
ギー
野盗「生皮剥ぎ団」の一員。右腕にカニのはさみのような義手をつけている。通常の人間の2倍はあろうかという巨体の持ち主。エレオノール城襲撃の先発隊として城内に侵入し、王妃イザベルを殺害した。指環を探してセリーヌ・ド・ロゼクロワを襲おうとするが、カトリーヌ・デュランダルに阻まれ、撃退される。 その際、天井の瓦礫に潰されて死んだかに思われたが復活。しかし、正気を失って暴走していたため、香水の力を使った憤怒にとどめを刺される。
クレマンソー
グラントリアン王国の司教。聖職者でありながら腹黒い人物で、スタニスラス・ド・サンドリヨン公爵から多額の寄進を受けており、彼が王に即位するために力を貸す。首都イースで行われる戴冠式にて、式典を執り行う権力を持っている。
ベルトラン
スタニスラス・ド・サンドリヨン公爵に仕える人物。精悍な顔立ちと、額から鼻筋にかけての大きな傷跡が特徴。また右腕には黒い義腕を持つ。かつて共にサン・ドレの惨劇を経験したマンフレッド・フォン・ネッテスハイムとは、知己の間柄。
白い巨人 (しろいきょじん)
サン・ドレの惨劇で、サン・ドレの黒い怪物を撃退した巨大な機族。グラントリアン王国軍が掘り出したものであるというが、詳細は不明。見た目は大きな人型の兵器だが、頭部にあたる部分がなく、胸部や肩部、腕の一部に目のような模様がある。
ヴィクトワール
いつもスタニスラス・ド・サンドリヨンの傍にいる女性。エナン帽をかぶり、ベネチアンマスクを着けた独特のスタイルが特徴。実は機族を遠隔操作するために感覚拡張改造を受けた強化人間であり、「絶影」を操ることができる。
集団・組織
生皮剥ぎ団 (えこるしゅーる)
憤怒を頭領として、傭兵くずれを集めて組織された野盗集団。スタニスラス・ド・サンドリヨン公爵の息子であるセドリックから要請を受け、エレオノール城に襲撃をかける。
ロゼクロワ王家 (ろぜくろわおうけ)
グラントリアン王国を治める王家。メルセデス6世を当主として、領土を広げるスタニスラス・ド・サンドリヨン公爵から国を守っていた。現在は首都イースを含めて領土を奪われており、南に位置するエレオノール城に臨時政庁を置いて暮らしている。メルセデス6世が逝去した現在、実務はメルセデス大公殿下が担っているが、厳密には当主不在の状況となっている。
場所
グラントリアン王国 (ぐらんとりあんおうこく)
ロゼクロワ王家が治める国。かつては広い領土を誇ったが、スタニスラス・ド・サンドリヨン公爵の反逆によって、今では首都イースを含む元の領土の北半分を明け渡すまでに縮小してしまっている。元々しきたりや制度を重んじる国柄であり、中央集権の激しい国家。そのため、王位を継承するのは男子のみであり、戴冠式も首都イースで行わなければならないという決まりがある。 現在、前王であったメルセデス6世が急逝したことにより、王位が空席のままとなっている。
エレオノール城 (えれおのーるじょう)
現在のグラントリアン王国臨時政庁が置かれる場所。スタニスラス・ド・サンドリヨン公爵によって、首都イースを追われたロゼクロワ王家が移り住んだ。周囲を絶壁に囲まれた高台に建てられ、強固な守りを誇る。しかし、内通者の存在によって正門が開け放たれてしまい、野盗「生皮剥ぎ団」の襲撃を許してしまう。
イース
グラントリアン王国の首都。中央集権国家であるグラントリアンにとって非常に重要な意味を占める場所で、代々ロゼクロワ王家が住んでいた宮殿がある場所。また、王位継承の式典は、必ずイースで行わなければならないというしきたりがある。
銀の月 (ぎんのつき)
上空に浮かぶ銀色の星体。カトリーヌ・デュランダルは「銀の月」と呼ぶが、人間は単に「月」と呼び、同じものを指す。カトリーヌが言うには「人の手によって造られたもの」とされる。月には、月世界兵器とも呼ばれる機族を造るほど高度な文明があり、その文明を持つ種族と地球人は、星間取引も行われるほど活発なやり取りがある。 マンフレッド・フォン・ネッテスハイムによれば、2万年前にはもっと地球に近い位置にあったが、徐々に遠のいているという。
ウルティマ・テゥーレ (うるてぃまてぅーれ)
銀の月にあるという都市の名称。カトリーヌ・デュランダルはその都に所属する機士であると語っている。作中ではその姿は登場しない。
遺跡の街 (さんどれ)
すでに滅んだ都市の名前。古代の魔導書が遺されていたりと、古い文明の痕跡を伝える街だった。単に放置されていたわけではなく、そこに暮らす住民たちもいた。12年前に、サン・ドレの惨劇に見舞われた結果、遺跡や街は跡形もなく滅び、ほとんどの住民が死滅した。
ボア・シュニュー (ぼあしゅにゅー)
エレオノール城から一番近くにある小さな村。野盗「生皮剥ぎ団」の襲撃を受け、逃げ延びたセリーヌ・ド・ロゼクロワたちが次の目的地として目指した場所。サントライユの両親が住む地域であり、まだ残されているグラントリアン王国側の領土。
イベント・出来事
サン・ドレの惨劇 (さんどれのさんげき)
12年前、黒い月からサン・ドレの黒い怪物が生まれ、遺跡の街で3日3晩、破壊の限りを尽くした出来事。この事件で憤怒は母親を失い、ベルトランは顔に大きな傷を負うことになった。またマンフレッド・フォン・ネッテスハイムは、直前の調査で古代の魔導書などを発見し、さらに惨劇を目の当たりにしたことで、世界の真実を知ることに固執するようになった。
その他キーワード
地上人 (るーがるー)
カトリーヌ・デュランダルが地球に住む人間のことを指して使う言葉。カトリーヌは地上人の王に伝えるべきことがあって地球を訪れたと語っている。厳密には銀の月を造り上げた人類のことを指し、その末裔たる王は指環を持っているという。
機族 (ぎにょーる)
古代人が造り上げたという人型兵器。別名「月世界兵器」とも呼ばれるもので、月に住む種族が所有する兵器とされる。サン・ドレの惨劇に終止符を打った機族はグラントリアン王国軍が掘り起こした個体であり、スタニスラス・ド・サンドリヨンが新たに開発している機族もあったりと、その定義は判然としない。また、本来操る人間がいなければ動かないとされているが、カトリーヌ・デュランダルだけは例外で、独自の思考を持ち、涙を流すなどの行動を取る。
地竜 (ちりゅう)
地球に住む生き物の一種。二足歩行をする大型のトカゲのような生き物で、見た目は獣脚類の恐竜に近い。体に縞模様を持ち、羽根のようなトサカと鋭い嘴を持つ。全長は尻尾を含めておおよそ2~3メートル程度で、野盗「生皮剥ぎ団」の移動手段として使われた。鶏を極度に好み、発見するとまったく制御できなくなる性質を持つ。
黒い月 (くろいつき)
人間の数倍以上の大きさを持つ黒い謎の球体。マンフレッド・フォン・ネッテスハイムら研究員が、12年前に遺跡の街の地下で発見した。発見されてから間もなく、色合いが変化し、中からサン・ドレの黒い怪物を生み出した。
竜紅玉 (りゅうこうぎょく)
サン・ドレの黒い怪物が持つ眼球のこと。未知のエネルギーを発生させる装置として、「絶影」の持つ主砲の根元に埋め込まれている。
サン・ドレの黒い怪物 (さんどれのくろいかいぶつ)
12年前、黒い月から生まれ、サン・ドレの惨劇を巻き起こした謎の生物。前足部分に翼を持ち、漆黒の鱗で覆われた翼竜に似た姿で、頭部が複階層建造物の1階層分に相当するほどの巨体を持つ。また顔面中央にひとつ、その両側にそれぞれ2つずつ、計5つの竜紅玉の瞳を有するのが特徴。出現してから3日3晩街を焼き、人々を食い殺して暴れたが、白い巨人によって撃退される。
指環 (ゆびわ)
ロゼクロワ王家に代々伝わる指環で、グラントリアン王国の正当な後継者にのみ与えられるもの。リングには薔薇の装飾が付いている。王妃イザベルがマンフレッド・フォン・ネッテスハイムに託し、その後、セリーヌ・ド・ロゼクロワに受け継がれた。エレオノール城襲撃の際、指環をはめたセリーヌが、助けてくれたカトリーヌ・デュランダルと握手を交わそうとすると、突如反応を示し、カトリーヌに黒い光を放つ攻撃を仕掛けた。
絶影 (ぜつえい)
スタニスラス・ド・サンドリヨン公が造り上げた巨大なユニコーン型の兵器。胸部分には機族が、額から生える角状の主砲の根元には竜紅玉が、それぞれ埋め込まれている。機族を操縦機能として利用しているため、起動するには強化人間であるヴィクトワールの力が必要となる。
月の王国の物語 (つきのおうこくのものがたり)
セリーヌ・ド・ロゼクロワが幼い頃から何度も読み返しているおとぎ話。その昔、月の王女に恋をした恥ずかしがり屋の人形使いは、機族をまるで生きているかのように操り、王女を楽しませる。しかし、王女はその機族に恋をしてしまい、2人きりになろうと人形使いを地上に落とす。ところが地上に落としたのが、人形使いと入れ替わった機族であったことを知ると、それを嘆いた王女は自らも地上に身を投げてしまう。 残された人形使いは、悲しみのあまり心をなくしてしまった、という物語。