概要・あらすじ
備前岡山藩藩主の熊田治隆は参勤交代で江戸へ向かう。しかし、この旅に同行している若き家老・熊田和泉は、型破りな思考の持ち主である主君にとまどいを隠せない。さらにこの参勤交代の一行には、治隆を疎ましく思う老中松平越前守の放った密偵倉知九太郎も紛れ込んでいた。道中、彼らは、型破りながらも深い思慮を持つ藩主治隆に振り回されつつ、人として大きく成長していく。
登場人物・キャラクター
熊田 治隆 (くまだ はるたか)
備前岡山藩五代藩主。豪気で器の大きな40代の男性。型破りな行動をとる大名として知られているが、思慮深い性格でもある。時の権力者・老中首座松平越前守の方針に異をたてることが多く、幕閣から疎まれている。近々隠居する予定で、最後の参勤交代の旅を満喫しようとしている。 酒もたしなむが甘い物も好き。特に好むのは、肥後の銘菓加勢以多(かせいた)である。江戸中期-江戸後期の岡山藩の大名池田治政をモデルとして創作されたキャラクターと思われる。
熊田 和泉 (くまだ いずみ)
就任して4ヶ月の岡山藩第二家老。17歳。3万石を領す熊田家本家筋である天城熊田家当主。藩主一門。元々筆頭家老の家系であったが、若年と経験不足を理由に行木長門にその座を代わられた。このことを根に持っていたが、参勤交代の供家老として藩主熊田治隆に同行することで、人間的に成長していく。 生け花の名手。
倉知 九太郎 (くらち きゅうたろう)
小十人格御庭番の職につく武士。命を受け、備前熊田家の参勤行列に渡り中間として潜入した。熊田家を黙らせる弱みを探ることが任務だが、その任務に疑問を持っている。落馬しそうになった家老を助けたことから、熊田治隆に気に入られ、奔馬百楽の口取りを命じられた。 道中、治隆に接することで人間的に成長し、隠密としての覚悟もできていく。
行木 長門 (いき ながと)
備前岡山藩の筆頭家老で3万石を領す。家老歴17年の43歳。本来ならば、熊田和泉の天城熊田家より下の家格であったが、藩主熊田治隆によって筆頭家老に引き立てられた。治隆からは美織と幼名で呼ばれる。岡山藩の次代を担う人材とするべく、二番家老熊田和泉を参勤交代の供家老に推挙した先の見える怜悧な人物。 茶の湯の名手。
日木元 八郎
岡山藩の第四家老。岡山藩六家老の中では一番若い14歳。ただし、家老歴は2年を数える。早くに父を亡くし、12歳で家督を継いだ。当初の予定では参勤交代の供家老となるはずだったが、熊田和泉にその役目を譲ることとなった。この交代に対して、内心では忸怩たる思いを抱いていたが、亀の飾り瓦を屋敷の屋根に飾り、熊田治隆一行の無事を祈った。
山和木 三郎左衛門 (やまわき さぶろうざえもん)
熊田治隆に大小姓頭として仕える側近。参勤交代の旅に同行した。幼少より治隆の近くに仕え、「三郎佐」と申しつけられただけで、殿の意向がわかる優れた人物。どのような出来事が起こっても柔軟に対処することができ、下の者からの信望も厚い。
鵬池 善左衛門 (ほうのいけ ぜんざえもん)
大坂の豪商鵬池家の当主。広い視野と高い視点から大きく商売を切り回す。備前熊田家とは代々取引があり、藩主治隆の底抜けに大きい器量を認めている。「この馬の主になれるのはただひとり」と見込んで、奔馬百楽を治隆に贈った。モデルは実在の大坂の豪商・鴻池善右衛門。
お玉 (おたま)
郡山の本陣にて女中として働く女性。元岡山藩士浅田忠兵衛の妻。浅田忠兵衛は脱藩の罪で熊田家の参府行列の藩士に斬り殺された。縁あって熊田治隆に接見した際には、忠兵衛の子供を妊娠中であった。治隆は生まれてくる子供の今後を思い、腹の子は自分の落としだねであるよう振る舞えとお玉に申し渡した。
一条関白 (いちじょうかんぱく)
五摂家のひとつ一条家当主。関白の位にある。母親は天城熊田家の出で、熊田和泉の従兄弟にあたる。和泉に会うことを楽しみにしていて、京に引き留めた。
百楽 (ひゃくらく)
『つらつらわらじ』に登場する馬。大坂の豪商鵬池善左衛門から熊田治隆に贈られた。大変な悍馬で、ほとんど人の言うことを聞かない。ただ、治隆には服する。九作こと倉知九太郎は治隆に命じられて百楽の口取りとなった。九作にはある程度心を許し、たてがみを結うことを許した。
熊田 主税 (くまだ ちから)
岡山藩の元筆頭家老。熊田和泉の父親。権門意識が高く、息子が年若を理由に筆頭家老とならず二番家老となったことを苦々しく思っている。現筆頭家老・行木長門に対する対抗意識で凝り固まっている。
菊姫 (きくひめ)
岡山藩主熊田治隆の正室。大らかな気質の聡明な女性。ものの理をよく心得ており、何事にも動じぬ心を持つ。治隆の江戸到着を迎えるため、上屋敷の庭を覇王樹(さぼてん)と松で飾った。
磐田 留次郎 (いわた とめじろう)
岡山藩大小姓頭。元江戸留守居役。穏やかな風貌で一見頼りなげに見えるが、見えぬところで手を打ち、為すべきことを為すことができる人物。江戸留守居役として主君の正室菊姫からも高く評価されていた。
高家旗本・宮野
千石の高家旗本。将軍名代・伊勢神宮代参使の威光を笠に着て、熊田家一行が泊まる予定の中根本陣を横取りした。熊田治隆は他の本陣に移ることをせず、中根本陣の前で野営をすることで、静かに宮野の非を訴えた。
松平越中守 (まつだいらえっちゅうのかみ)
江戸幕府老中首座。倹約令に反する熊田治隆を疎んじている。治隆の動向を探るため、倉知九太郎を隠密として派遣し、参勤交代の一行に中間として潜り込ませた。清廉潔白。怜悧な人物として知られるが、融通の利かない面があり、敵も多い。
備前屋 幸吉 (びぜんや こうきち)
元々は岡山城下で表具屋を営んでいた町人。七年前、空を飛ぶことを夢見て、巨大な翼を作成し、岡山城下を飛翔した。その後、城下を騒がせた罪で所払いとなり駿河に移り住んだ。所払いとなる前、熊田治隆に面談を許され、自分の夢に賛同された事に感激し、何としても治隆の目前で空を飛んで見せようとする。
集団・組織
備前熊田家 (びぜんくまだけ)
『つらつらわらじ』に登場する大名家。備前岡山31万5千石を領す外様大名。家紋は備前蜂。初代より質素倹約を旨とした政策をとってきた。しかし、五代熊田治隆は倹約には反対の姿勢をとっている。江戸時代に存在した備前池田家をモデルとしている。ただし、池田家の家紋は備前蝶である。
熊田家六家老 (くまだけろくかろう)
『つらつらわらじ』の登場する岡山藩の家老職に就く六家。藩主一門の三家の熊田家と、行木家、戸倉家、日木家の六家で構成される。この六家以外から家老に抜擢された家は熊田家の歴史上なく、代々藩主を助け治世に取り組む。家格としては、熊田和泉の天城熊田家が最も高く、別格扱いである。
場所
天城熊田家 (あまぎくまだけ)
『つらつらわらじ』に登場する岡山藩の家老の家。熊田家六家老の家のひとつ。元々熊田家の嫡流だったが、小牧長久手の合戦で当主が戦死したことで、その息子の代から家老の家柄となった。この事から熊田家六家老の中でも別格扱いの家格の高さを誇る。熊田和泉が当主をつとめる。