あらすじ
第1巻
外食文化が華開いた江戸時代。江戸の町のいたる所にそばやうどん、寿司、天ぷらなどを提供する屋台店が立ち並んでいた。そんな多種多様な屋台の中に、うら若き女性が営む天ぷらの屋台店があった。味に自信はあるが、当時としては極めて珍しい女性の屋台という事で、ほとんどの客は彼女の顔を見たとたん、その場を立ち去ってしまう。あからさまな差別に、毎日悔しい思いをしていた女性だったが、迷い込んだ猫が自分が作った天ぷらを美味しそうに食べているのを見て心を癒され、余った食材で作った天ぷらを思い切り猫に振る舞う。ところが、サクサクの天ぷらにかぶりつく猫の姿を見た客が屋台に殺到し、今まで見向きもされなかった天ぷらが飛ぶように売れてしまう。その結果、女性の屋台は「江戸一番の天ぷら」の評判を得るのだった。(第1話「天麩羅と猫」。ほか、13エピソード収録)
第2巻
新選組の土方歳三と近藤勇は、市中見回りのあとに一軒の飯屋へ立ち寄った。危険な噂もある新選組に対し、粗相がないように細心の注意を払って対応していた飯屋の店主だったが、猫と遊んでいた娘の「おみつ」が店内にある卵をすべて割ってしまい、勇の好物である「たまごふわふわ」を作れない事が判明する。新選組の怒りを恐れる店主だったが、猫が美味しそうに料理を食べる様を見た歳三は、その姿に感化され、猫と同じ料理を注文する。そんな歳三をよそに、たまごふわふわを注文しようとする勇に対し、店主は立て続けに猫に料理を出し、その姿を見せつける事で、勇に別の料理を注文させようとする。しばらく両者の駆け引きが続いたが、初志貫徹した勇は、結局たまごふわふわを注文するのだった。(第15話「新選組と猫(その二)」。ほか、13エピソード収録)
登場人物・キャラクター
猫 (ねこ)
食べる事が大好きな食道楽な白猫。性別は不詳。額部分が黒くなっているのが特徴。江戸の町をさすらっており、行く先々で親切な町民から美味しい料理を与えられ、それらを存分に堪能している。食事中の姿が非常に情熱的なうえ、実に美味しそうに食べるため、その姿を見た老若男女のほとんどが心を奪われ、食欲を大いに刺激されてしまう。それが呼び水となって閑古鳥が鳴いていた店が大繁盛するようになったり、誤解からすれ違いが生じていた夫婦の仲がよくなるきっかけを作ったりするなど、ささやかな幸運をもたらしていた。江戸のみならず、遠く離れた東北の平泉にも出没するなど、行動範囲が尋常ではないほど広い。とある女性に寄り添って数十年の時を生きていると噂されているが、その素性は謎のヴェールに包まれている。
天ぷらやの店主
江戸の町で天ぷらの屋台を出している、うら若き女性。天ぷらの味には自信を持っているが、女性の料理人が極めて少ない事から、つねに偏見の目で見られてしまい、客が寄り付かない事を悩んでいる。屋台に迷い込んだ猫が、実に美味しそうに天ぷらを食べているのを見て感心し、余り物の食材で揚げた天ぷらを与えていた。その猫の食べっぷりが評判を呼んだ事がきっかけとなり、ひっきりなしに客が訪れるようになった。
怠け者の青年
おとなしい性格の青年。父親を亡くしてから母親と二人で暮らしている。怠け癖があり、我慢してまで金をほしくないという主義なため、自分に合わないと思った仕事はすぐに辞めてしまう。そのため、これまでに納豆売りやしじみ売り、荷担ぎに飛脚と、いろんな職に就いているが、すべて1日ももたずに辞めている。失職中にブラブラしている際に猫と出会い、その豪快な食べっぷりに感動。猫にあげるエサ代を稼ぐために、懸命に労働に励むようになった。
病気の男性
病に侵されている男性。自宅で療養しているが、すでに息も絶え絶えで、余命いくばくもない状態。妻が作った大好物のどじょう汁も食べられないほど衰弱し切っていたが、迷い込んだ猫がどじょう汁にがっついている姿を見て、自分がまだ元気だった頃を思い出す。そのあと、気力を振り絞ってどじょう汁を口にしたあと、眠るように息を引き取った。
近藤 勇 (こんどう いさみ)
討幕派を排除するために活動している「新選組」の局長を務める男性。落ち着いた性格で、大局を見る事に長けている。討幕派の不逞浪人が潜む池田屋に乗り込む直前、血気盛んな隊士達にまず飯を食って力をつける事を提案した。「たまごふわふわ」という、卵を使った庶民の料理が大好物。実在の人物、近藤勇がモデル。
土方 歳三 (ひじかた としぞう)
討幕派を排除するために活動している「新選組」副長を務める男性。苛烈かつ気性の激しい性格をしている。剣の腕は一流で、隊士からの信頼も厚い。潔癖症なために他人の握ったおにぎりが食べられないなど、繊細な一面も併せ持つ。近藤勇からは「トシ」というあだ名で呼ばれていた。実在の人物、土方歳三がモデル。
飯屋の店主
飯屋を営んでいる男性。町人から恐れられる存在である「新選組」の近藤勇と土方歳三が食事をするために来店して来たため、戦々恐々になりながら対応していた。トラブルから店内の卵を切らしてしまい、勇の好物である「たまごふわふわ」が作れない事が判明したあとは、猫がご飯を食べる愛らしい姿を勇に見せ、別の料理を注文させようとしていた。
浅野 内匠頭 (あさの たくみのかみ)
赤穂藩主を務める男性。赤穂から江戸に出張に来ていた。食べっぷりのいい猫を愛猫としてかわいがっていたが、お目付け役の吉良上野介からの猫の譲渡要請を断った事で、嫌がらせを受けるようになってしまう。後日、積もりに積もった怒りが爆発し、江戸城の松の廊下で吉良に斬り付けるという刀傷沙汰を起こしたため、切腹を命じられた。実在の人物、浅野長矩がモデル。
吉良 上野介 (きら こうずけのすけ)
旗本の男性。意地悪な性格をしている。出張で江戸に来ていた赤穂藩主の浅野内匠頭の指南役になったが、浅野が飼っていた猫を所望して断られた事を恨み、陰湿な嫌がらせを繰り返す。激高した浅野が吉良上野介に斬り付けて刀傷沙汰を起こした際は、なんのお咎めもなかった。そのため、主君の仇を討とうとした「赤穂浪士」に屋敷に討ち入られた。納屋に隠れていた際に猫ににぼしをあげてしまい、そのせいで居場所がバレて殺害される。実在の人物、吉良義央がモデル。
寿司屋の店主
屋台で寿司屋をしている青年。一刻も早く寿司職人になりたいという理由で、修行1年も満たずに屋台を出した。そのため寿司職人としてはまだまだ未熟で、周囲の評判も芳しくない。寿司の不出来に悩んでいたところに迷い込んだ猫の食いっぷりに心を癒され、寿司を握る修行に励んでいる。猫が両足で優しく布を押す習性を見て、柔らかく寿司を握る事を思いつき、近所でも評判の寿司屋へと成長を遂げる。
文吉 (ぶんきち)
山くじら(猪肉)を提供する店の息子。恋人の「お春」を嫁にするため、お春の父親のもとに出向き、結婚の承諾を得ようとしていた。しかし、獣肉がまずいと思い込んでいたお春の父親は、まずい肉を娘が毎日食べるハメになるからという理由で、文吉の申し出を頑に拒否していた。そのため意を決し、獣肉屋を辞めて両親と縁を切り、お春と結婚すると宣言する。
お春の父親 (おはるのちちおや)
無口で気難しい性格の男性。臭みのある獣肉が嫌いで、娘の「お春」との結婚を承諾してもらうためにやって来た獣肉屋の息子である文吉の事を、最初は拒絶していた。しかし、文吉が持って来た焼いた獣肉を、猫が美味しそうに食べているのを見て考えを改める。
お松 (おまつ)
近所でも評判の料理好きな美しい女性。しかし、火事で夫と子供を亡くしてから魂が抜けたようになり、日々を無気力に過ごすようになってしまう。豆や米を生で食べるほど不精になっていたが、家に迷い込んだ猫が自分が作った料理を美味しく食べるのを見て、徐々に元気を取り戻す。
おっ母さん (おっかさん)
一人暮らしをしている女性。家に出入りしている猫をかわいがり、猫まんまを与えていたが、猫が別宅でも猫まんまを食べている事にショックを受ける。しかし、その家にかつて借金取りに連れ去られた息子のトメ吉が暮らしている事が判明。その後、トメ吉からは自分の母親ではないかと問われるが、後ろめたさから別人であると噓をついていた。
トメ吉 (とめきち)
江戸で嫁と二人暮らしをしている青年。小さい頃に家族の借金の形として借金取りに連れられ、家族と生き別れたつらい過去を持っている。最近になって家に現れるようになった猫のあとをつけていた際に、偶然近所に住んでいたおっ母さんと奇跡的な再会を果たす。
お竹 (おたけ)
峠の茶屋を営んでいる女性。茶屋を訪れる駕籠かきや飛脚に、スタミナ食である鰻のかば焼きを出していた。老齢の駕籠かきである「吉兵衛」が脂っこい鰻を食べられなくなったのを知り、食べやすい鰻のかば焼きの開発に精を出す事になった。迷い込んだ猫の火鉢の近くでの振る舞いを見て、鰻の身を開いて串を打ってから焼く、新しい調理方法を思いつく。
おたえ
甘えん坊の女の子。優しい両親のもとですくすくと育っていたが、町が大火に見舞われた際に両親とはぐれ、迷子になってしまう。途方に暮れている最中に腹をすかせた猫と出会い、猫を守るために懸命になって各地を巡り、両親のもとへ帰ろうとしていた。
付喪神 (つくもがみ)
粗末にされた古い食器が、100年の年月を経て魂が宿ったもの。人間に報復するために蘇ったが、その際に空腹で横たわっていた猫を見つけ、自らの上にご飯を盛って、猫に振る舞っていた。猫の圧倒的な食べっぷりに食器としての喜びと誇りが思い起こされた事から、満足して古食器に戻り、その生涯を終える。
大工の男性
大工をしている、子煩悩な男性。家族を大事にする働き者だったが、たまたま買った富くじで大金が当たった事で酒に溺れて、妻と娘に逃げられてしまう。そんな環境に陥っても酒をやめられない事に苦しんでいたが、迷い込んだ猫が買って来た卵焼きを美味しそうに食べる姿に感化され、連日卵焼きと水で腹を満たすようになる。1か月後、断酒に成功する。
お絹 (おきぬ)
豆腐屋の後妻に入った女性。相手の連れ子であるおゆうとの距離がなかなか縮まらない事に悩んでいた。おゆうが拾って来た猫が、作った料理を美味しそうに食べてくれる事から積極的に面倒を見ていたが、そんな猫におゆうが近づいて来た事がきっかけとなり、一気に彼女との距離が縮まっていく。
おゆう
豆腐屋の一人娘。非常に恥ずかしがり屋で、後妻として嫁いで来たお絹ともなかなか会話ができず、つねに距離を置いていた。屋敷に迷い込んだ猫に強い興味を抱き、猫をかわいがっていたお絹のもとに勇気を出して近づく。そのあとは、お絹の作った新作豆腐などを食べたりするなどして、徐々に心の距離を縮めていく。
飯屋の店主
京都で飯屋を営んでいる男性。市中を騒がす「新選組」の土方歳三と近藤勇が来店した際、粗相がないように注意していたが、勇の好物である「たまごふわふわ」を作れなくなってしまう。そのあと、猫に食べ物を与え、その食べっぷりを見た勇が注文を変更するように懸命に画策する。
八郎 (はちろう)
蕎麦屋の息子。父親が屋台で作る蕎麦搔は近所で評判がいいが、手伝いをしている八郎はさほどやる気がない。そのため業を煮やした父親から、猫を喜ばせる蕎麦を作らなければ屋台を継がせないと宣告されてしまう。その言葉に発奮し、試行錯誤の末に新しい蕎麦の食べ方である「蕎麦切り」を生み出す。
桂 小五郎 (かつら こごろう)
大政奉還で幕府を終わらせようと画策している討幕派の男性。幕府存続派から命を狙われる事になったため、物乞いに扮して京都の三条大橋の下に隠れ続けていた。芸妓の幾松が毎日持って来るおにぎりで命をつないでいたが、このままでは幾松も危ない事を悟り、彼女に別れを切り出す。しかし、それでもおにぎりを持って来る幾松の心意気に感激し、のちに結婚した。実在の人物、桂小五郎がモデル。
幾松 (いくまつ)
芸妓の女性。桂小五郎の知人。気の強い性格で、幕府存続派から執拗に命を狙われている小五郎を陰からサポートしていた。物乞いに扮して橋の下に隠れ続ける小五郎に対し、毎日作ったおにぎりを渡していた。その胆力は新選組をも一喝して追い払うほど。難を逃れた小五郎とは、3年後に結婚する。実在の人物、木戸松子がモデル。
弥三郎 (やさぶろう)
寺子屋に通う武士の息子。プライドが高い。周りの武士の子が屋台で買い食いをしているのを卑しい行為と言った事で、孤立気味になっている。その後、屋台で見かけた猫にやるための料理を屋台で買っているうちに、弥三郎自身も買い食いの魅力にとりつかれてしまう。
松尾 芭蕉 (まつお ばしょう)
俳人の男性。天才的な才能を持つ。弟子の河合曽良といっしょに奥州の平泉に句を作る旅に出た際は、行く先々で食事の際に大きな音を立てる猫の姿に刺激され、次々と優れた句を生み出していた。実在の人物、松尾芭蕉がモデル。
河合 曽良 (かわい そら)
俳人の男性。松尾芭蕉の弟子。芭蕉に同行し、奥州の平泉に句を作る旅に出た。一時はスランプに陥った芭蕉と険悪な仲になるが、行く先々にいた猫に刺激され、次々と優れた句を生み出す芭蕉を改めて尊敬するようになる。実在の人物、河合曽良がモデル。
お菊 (おきく)
屋台の出店準備をしている女性。屋台店を買ったのにもかかわらず、何の店をやるか決めかねていた優柔不断な旦那に激怒し、自分一人でやる店を決めようとしていた。猫といっしょに研究のため、江戸の屋台巡りをする事になったが、猫がどの屋台の料理でも美味しそうな顔をして食べる事から、時間が経つほど迷いが生じていく。旦那と相談したうえで、いろんな料理を四文均一の価格で提供する店を出す。
庭師の男性
庭師として働いている青年。仲のよかった母親が亡くなり、妻が心配するほど酷く落ち込んでいる。しかし、仏前に備えた水を猫が飲み干したのを、死んだ母親が飲んでいると勘違いし、再び元気を取り戻す。のちに死んだ母親の正体が猫だと気づくが、あえてそれを隠して庭師の男性を元気づけようとしていた妻に感謝していた。
西郷 隆盛 (さいごう たかもり)
新政府軍の参謀を務めている男性。将軍がいなくなった江戸への総攻撃を計画していた。旧幕府側の交渉人である勝海舟から、江戸への攻撃を止めるように説得されるが、頑として聞き入れなかった。しかし、屋敷に迷い込んだ猫の愛らしい姿に虜になり、この猫も江戸総攻撃で死ぬ可能性があると諭されたため、攻撃を取りやめた。実在の人物、西郷隆盛がモデル。
勝 海舟 (かつ かいしゅう)
旧幕府側に属する男性。交渉人として新政府軍の西郷隆盛のもとに出向き、江戸への総攻撃を中止するように粘り強く交渉していた。新時代のため、頑なに江戸を焼き払おうとする西郷に手を焼くが、猫の影響もあり、最終的に江戸への攻撃を中止させる事に成功する。
源太 (げんた)
呉服店の息子。店の手伝いをしているが、着物への知識が不足しているため、仕事では失敗が続いていた。自分の才能のなさを嘆いていたが、屋敷に迷い込んだ猫が何度失敗しても、さまざまな人間に繰り返しご飯をねだり、最終的に魚にありついた姿を見て、自分の努力が足りない事を反省する。商売の猛勉強をはじめ、優秀な商売人へと成長を遂げる。
お芳 (およし)
蔦屋茶屋で働いている女性。12歳の頃から5年間も看板娘を続けている。小食だが太りやすい体質をしている。小太りで吹き出物があるのがコンプレックスになっており、そのせいで店が繁盛しないと思い悩んでいる。店の近くで行き倒れていた猫を助けてから、猫の食べっぷりが評判になって茶屋が繁盛するという幸運に恵まれる。のちに痩せて美しくなり、彼女を目当てに多くの客がひっきりなしに茶屋を訪れるようになった。
徳川 家康 (とくがわ いえやす)
戦国武将の男性。大坂の堺で物見遊山をしている最中に本能寺の変が起こり、明智軍や野盗に命を狙われる身となってしまった。少数の配下と危険な峠越えを敢行し、本国の岡崎を目指すが、途中で心が挫かれ自害を決意する。しかし、自分達が持っていた水筒の水を美味しそうに飲む猫の姿を見て思い直し、苦闘の末、遂に岡崎まで脱出に成功する。実在の人物、徳川家康がモデル
病弱な武士
体が弱い武家の男性。奉公人も雇えない貧しい下級武士で、出世の見込みもないが、穏やかで優しい性格をしている。嫁いで来たお琴と二人で暮らし始めるが、無表情でなにを考えているのかがわかりにくい彼女から、嫌われてしまったのではと思い悩む。お琴のために離縁も考えるが、迷い込んだ猫を通じて彼女と話しているうちに、偏食な自分が食べやすいようにと、ずっと朝夕の料理を工夫してくれていたお琴の本当の気持ちを知る。
お琴 (おこと)
武家に嫁いだ女性。無表情で無口な、おとなしい性格をしている。夫である病弱な武士から話し掛けられても、非常に反応が薄い。そのため、武士の男性は自分が嫌われていると思い込んでいた。しかし感情が表に出にくいだけで、夫への愛情は強く、病弱な夫を気遣って工夫された美味しい料理を作っていた。
お伊与 (おいよ)
内気な性格をした若い女性。夫と二人で長屋暮らしをしている。同じ長屋の住人から物を借りる事も満足にできないほど、引っ込み思案な性格。のちにお伊与が苦手な事は夫が率先して行うようになったため、長屋暮らしにも無事に適応する。7年後、夫が病気で亡くなったあとに、余命1年と言われていた夫に張り合いを持たせるため、わざと夫に頼っていた事を明かす。
お伊与の夫 (おいよのおっと)
長屋に住んでいる男性。お伊与の配偶者で、控えめなお伊与とは正反対な何事にも積極的な性格をしている。隣人から醤油も借りられないほど引っ込み思案なお伊与の事を心配していたが、彼女の苦手な事は自分かやると申し出て、事態の解決を図る。医者から余命1年と宣告される不治の病にかかっているが、お伊与への心残りから、以降7年にわたって生き続けた。
三郎 (さぶろう)
病気がちな少年。食は細いが田楽だけは大好きで、家族といっしょに食べていた。姉が隣村に輿入れする際、体が弱いため一人留守番する事になってしまった事でヘソを曲げ、最後の晩餐の時も不貞腐れて寝てしまった。しかし翌日、輿入れ先に向かう途中で、盗賊によって家族が惨殺されてしまう。突然の別れを受け入れられず、失意の時を過ごしていたが、迷い込んだ猫が愉快な顔をしながら田楽を食べる姿を見て、暖かった家族の絆を思い出し、その思い出を胸に江戸へと旅立っていった。