世界観
『アオハライド』の物語は、主人公・吉岡双葉の通う高校を中心としたミクロな世界で展開される。登場人物も多くはなく、そのぶん個々の心理を生々しく掘り下げる方向で組み立てられているのが特徴。主要な登場人物は、吉岡双葉、馬淵洸、槙田悠里、村尾修子、小湊亜耶の5名で、これに教師で馬淵洸の実兄でもある田中陽一が加わる。基本的には双葉と洸の関係の変遷が物語の軸ではあるが、田中先生に想いを寄せる修子と、修子に想いを寄せる小湊の関係性、女子3人、男子2人のそれぞれの友情も見所だ。
作品構成
物語は、プロローグとなる中学1年生時代のエピソード“unwritten”があり、その後、高校時代へとシーンが移ってメインパートが開幕する。メインパートは高校1年生の3学期から始まるが、物語の中心は5人の主要キャラクターが同じクラスになる高校2年生の1年間。初恋の相手だった田中(馬淵)洸との思わぬ再会をきっかけに、本音を隠さず言え、そのうえでお互いを尊重し合える本当の意味での友達を得た吉岡双葉の、恋と友情が育まれていく様が描かれる。また、3巻の巻末には村尾修子の中学生時代を描いた短編『アオハライド─星の引力─』を収録。修子が田中先生に憧れるきっかけとなったエピソードが描かれる。
本作の見所である登場人物たちが直面する様々な心理描写や出来事は、作者自身の高校時代の経験や友達の体験談・悩みを、より解りやすく強烈にして描かれているという。そうした実体験を元にした手法が、友人関係や好きな相手との距離感・空気感のリアリティを増幅させ、10代女性を中心とした多くの読者に共感を持たれる要因となっているようだ。
本作タイトルの「アオハライド」は、“青春(敢えてアオハルと読む)”と“ライド(ride:乗る)”という単語を組み合わせた咲坂伊緒の造語。「青春に一生懸命乗っていく」という意味が込められている。
あらすじ
unwritten
主人公・吉岡双葉は中学生の頃、男子が苦手だった。ただ、唯一苦手意識を感じさせない男子・田中洸は気になる存在で、自分でも意識しないまま淡い恋心を抱くようになっていく。ある雨の日、同じ場所で雨宿りした2人は、一緒に夏祭りに出かけるという約束ともそうでないともとれる言葉を交わす。期待に胸を躍らせ、会話に出てきた三角公園で彼が来るのを待ちわびる双葉。だが、洸は現れない。それだけでなく、夏休みの間に長崎へ転居してしまっていたのだった。
予期せぬ再会と戸惑い
それから3年。高校生になった双葉は、男子への苦手意識は昔より薄れていたものの、今度は女子友からの嫉妬を買うことを恐れ、敢えてガサツな女を演じて男子を遠ざけながら過ごしていた。なんとなく上手くやり過ごし、取り繕いながら送る平穏で平凡な日々。だが、そんな彼女の前に気になる1人の男子が現れ、双葉の日常は一変する。それは、中学時代の初恋の相手・田中洸。引っ越したはずの彼は、双葉と同じ高校に進学していたのだ。だが、背が小さく控え目で、無邪気な笑顔がチャーミングだった彼は、3年の間にすっかり別人になっていた。皮肉っぽく、冷めていて、無遠慮な物言い。それに両親の離婚により、苗字も馬淵に変わっている。そんな彼の大きな変化に最初は戸惑う双葉だったが、時折見せる昔と変わらない優しさや雰囲気を知るにつれ、改めて彼に好意を抱き始めるのだった。
自分の思いに正直に
馬淵洸の無遠慮かつ鋭い指摘により、偽りの自分を演じることを辞めた双葉は、高校2年生になったのを機に、新しい自分を始めることを決意。その手始めとして、誰も引き受けたがらない学級委員に立候補する。そして、意外にも男子の学級委員には洸が立候補し、イベント委員は槙田悠里、小湊亜耶、村尾修子の3人が務めることとなった。
それから間もなく、学級委員とイベント委員はリーダース研修という合宿に参加することに。たった2日の研修だったが、バラバラだった5人が緩やかにお互いを知りはじめる大きなきっかけとなった。そして、双葉と洸の距離も確実に縮まっていく。
だが、その矢先に双葉は、悠里から「洸を好きになった」と打ち明けられてしまう。悠里との友情を保ちたい一方で、同じ相手を好きになってしまったことに苦悩する双葉。だが、「悠里が大事だから正直に伝えなければ」と素直に自分の気持ちを悠里に告げた。その思いは悠里に届き、2人は正々堂々と洸にアプローチすることを約束する。結果的に、この恋の勝負は双葉に傾き、悠里は振られることに。そして双葉と洸は、2人で夏祭りに行くことを今度こそ約束し、2人の関係は一気に進展するかに思えた。
すれ違う2人
だが、その約束はまたしても果たされない。友人の父親の葬儀に出席するため、洸が長崎に行かなければならなかったからだ。しかも、ほどなくしてその友人・成海唯が双葉たちの近所に引っ越してくる。母親を癌で失った過去を持つ洸は、自分と似た境遇に陥った成海への同情を禁じえず、次第に成海を支えてやらなければならないという使命感に囚われていく。洸が自分から離れていくことを察した双葉は、必死に食い下がり、ついに洸に告白。
双葉の告白に対し、成海の泣き場所には自分しかなれないと考えていた洸は、本心とは裏腹に彼女を拒絶した。だが結局、洸は双葉への想いを断ち切れず、小湊の忠告もあって成海との関係を清算しようとし始める。が、成海の激しい抵抗で思うようにいかない。そうこうしているうちに、洸の拒絶を飲み込んだ双葉が、以前から自分にアプローチをかけていた菊池冬馬を受け入れてしまう。そして双葉と冬馬は交際を始め、今度は双葉が洸を忘れようとし始めるのだった。
消せない気持ち
秋になり、双葉たちは修学旅行で長崎を訪れることになる。洸にとって、母の死という最も辛い思い出の地に行くことが、双葉は心配で仕方がなかった。しかし同時に自分は今、冬馬の彼女であり、洸とは友達として接しなければならない。そんな複雑な心境から、洸に「友達代表として自分の住んでいた町に一緒に行ってほしい」と言われたとき、双葉は断ることができなかった。そして、洸と2人で町を歩きながら、彼が新しい記憶で過去を乗り越えていく姿を見る。双葉自身はまだ気づいていなかったが、この修学旅行の思い出は、彼女が心の中から洸を消し去れなくなることを決定づけていた。
一方、洸もこの旅で双葉を諦められないことを再確認し、彼女を冬馬から全力で奪うことを決意する。そして、旅から戻ってすぐに成海と決別すると、猛烈なアプローチを開始。これに対し双葉ははじめは激しく抵抗していたが、やがて、自分の心から洸を消したくないという結論に辿り着いてしまう。
メディアミックス
TVアニメ
2014年7月より、TOKYO MX、MBS、BS11にて同名のアニメ化作品(全12話)が放送され、原作の4巻までの内容が描かれた。加えて、アニメ最終話から続く花火大会のエピソードを収録したDVD付単行本12巻(『アオハライド 12 OAD同梱版』)が発売されている。監督は吉村愛、主要キャストは吉岡双葉役・内田真礼、馬淵洸役・梶裕貴(幼少期は白石涼子)、槙田悠里役・茅野愛衣、村尾修子役・小松未可子、小湊亜耶役・KENN。
映画
2014年12月13日より全国東宝系にて公開。公開初週の土日で約21万人を動員、興行収入は2億4,336万8,800円に達し、全国映画動員ランキング(興行通信社調べ)で初登場1位を記録した。監督は三木孝浩、主要キャストは吉岡双葉役・本田翼(中学時代は田爪愛里)、馬淵洸役・東出昌大(中学時代は板垣瑞生)、槙田悠里役・藤本泉、村尾修子役・荒川優愛、小湊亜耶役・吉沢亮。
評価・受賞歴
2012年に「第7回 全国書店員が選んだおすすめコミック」3位に入賞。
登場人物・キャラクター
吉岡 双葉 (よしおか ふたば)
容姿は上々だが、ガサツで大食いなため、男子からはちょっと引かれる女子高校生。が、これは彼女なりの自衛行動であり、本当の姿はガサツでもなんでもない普通の女の子である。中学生時代、男子と接することが苦手だった双葉は、目立たないように大人しくしていた。だが、そのことが返って男子の注目を集め、同時に女友達の反感を買うことにもなってしまう。 孤立して辛い思いをした彼女は、高校に入ってからは、なるべく男子に避けられるようにガサツなフリを続け、友達の輪の中に自分の居場所を設けようとした。だが、馬淵洸の一言で、そんな行為に意味がないことを気づいた彼女は、それまでの演技を辞め、ありのままの自分でいようと努力し始める。 本来、前向きで自分の失敗を認められる素直な性格なため、新たに知り合った槇田悠里や村尾修子とも早々と親密に。また、口にするのが難しい話題でも、(苦慮の末だが)はっきり伝えられる意志の強さを持ち、その正直さも好評。ちなみに、男子への苦手意識は、高校に入ってからはだいぶ薄まり、小湊亜耶や菊池冬馬とは普通に接する。
馬淵 洸 (まぶち こう)
吉岡双葉と同じ高校に通う男子。同校の教師である田中陽一の実の弟。自身も元は田中姓だったが、両親の離婚を機に母親の名義である馬淵に変わった。中学生時代は吉岡双葉と同級生で、彼女が唯一嫌悪感を抱かない男子だったが、中一の夏休みに長崎に転居。その後、母親の死をきっかけに戻り、双葉と同じ高校に通うようになる。 中学の頃は物静かで優しく、照れ屋だったが、様々な経験を経て性格が激変し、クールで無愛想なキャラになった。ただ、性格の根は変わっておらず、乱暴で意地悪な口調の底には常に優しさが漂っている。片親となった母を楽にさせるため勉強に打ち込んだ時期があり、基礎的な学習力は高い。そのため高校一年の時点では特進クラスにいたが、勉強をサボったため、二年からは双葉らと同じ一般クラスに降格。 一時は留年の危機にまで陥るが、持ち前の学習力で乗り切るばかりか、勉強を教えてくれた双葉らよりも高い成績を残した。
槇田 悠里 (まきた ゆり)
吉岡双葉のクラスメイトで、ショートカットの可愛らしい女の子。男子の前だと緊張して、ついぶりっ子ぽくなってしまうが、それが周囲の女子の反感を誘って、クラスの中で孤立していた。同じような経験を持つ吉岡双葉が話しかけてきたことから友情が生まれ、以降、親友のひとりとなる。一時期は、馬淵洸を巡って双葉とライバル関係になるが、友情を壊すことには至らず、お互いに納得ずくのフェアなアプローチで彼の気を惹こうと努めた。 結果的に、洸に振り向いてもらえなかったが、やれることはやったという思いからか、振られたことを引きずることはなく、双葉を応援する立場へと変化する。
村尾 修子 (むらお しゅうこ)
吉岡双葉の二年生時のクラスメイトで、凛然とした雰囲気を持つ美人。周囲との関わりに興味がなく、自ら壁を作り孤立していたが、双葉らと仲良くなるに連れて、本来の優しくて女の子らしい一面が表に出るようになる。また、馬淵洸の兄である田中陽一のことを心底好いており、彼の前では感情的になることが多い。 将来の進路希望は田中陽一の妻になること。
小湊 亜耶 (こみなと あや)
吉岡双葉の二年生時のクラスメイトで、感情豊かで楽天的な人物。女性っぽい名前だが男性で、フランス人とのクォーターでもある。高校一年のときからの同級生である村尾修子のことを好いており、果敢にアプローチしてはあしらわれることを繰り返す。また、学校で実施された研修で親しくなった以降は、馬淵洸のことを親友と思うように。 馬淵洸もまんざらではない様子で、普段、人には言わないような気持ちや悩みを、小湊亜耶にだけは打ち明けるような関係を築いた。
田中 陽一 (たなか よういち)
吉岡双葉が通う高校の教師で、馬淵洸の実の兄。長身で爽やかな顔立ち、左目の下のホクロがチャームポイント(右目の瞼にもある)の好青年だが、服装のセンスが壊滅的で、いつもダサいプリントのTシャツやトレーナーを着用している。雰囲気が中学生時代の洸に似ているため、吉岡双葉は陽一を見るたびに洸を思い出していた。 弟のことを心から心配しており、よく小言を言ったり、食事を作りに行ったりしているが、両者の間にはある誤解が横たわっており、なかなか打ち解けられない。村尾修子から好意を寄せられていることを認識し、彼女を好ましくも思っているが、教師としての立場を重んじて、気持ちに応えることを拒んでいる。
菊池 冬馬 (きくち とうま)
吉岡双葉と同学年だが、学級は異なる男子生徒。図書室で起きたちょっとした事故で双葉と知り合う。その後、度々彼女と遭遇するうちに、好意を抱くようになり、双葉と馬淵洸の関係が上手く行っていない時期に告白し、付き合うようになった。だが、最終的には双葉が洸を忘れられず、二人の関係は破綻する。
成海 唯 (なるみ ゆい)
馬淵洸が長崎に住んでいた頃の同級生。父親の死をきっかけに、吉岡双葉らが住んでいる街の近くに引っ越してきた。洸のことが大好きで、自分には彼しかいないと考えている。どんなズルい手を使ってでも彼を自分のそばにいさせようする、かなりアグレッシブな性格。親を亡くしたという辛い過去を持つ共通点で同情を引き、洸を籠絡しようとした。
明日美 (あすみ)
吉岡双葉の一年生のときのクラスメイト。表向きは「男なんて」という態度だが、本音では男子にモテたいと願っている。なにかと男子に構われる同級生の槇田悠里を目の仇にし、彼女が孤立する原因を作った。双葉、チエと3人でよくつるんでいたが、双葉が本音を吐露した際にそれを受け入れられず、その後は疎遠になる。
チエ
吉岡双葉の一年生のときのクラスメイト。双葉や明日美とともに3人で行動していた。これといった自己主張はなく、基本的には明日美に合わせているだけの女の子で、双葉が本心を語った際、明日美と共に彼女から離れる。
内宮 晴彦 (うちみや はるひこ)
吉岡双葉と同じ高校の男子生徒。菊池冬馬の友人のひとりで、一緒にバンドを組んでいる。冬馬が双葉と付き合えるようにサポートしていたが、その過程で知った槇田悠里に惚れてしまう。その後、紆余曲折の末、付き合うようになる。
橘木 瞬 (たちばなき しゅん)
吉岡双葉と同じ高校の男子生徒。菊池冬馬の友人のひとりで、一緒にバンドを組んでいる。内宮晴彦と共に冬馬の恋を応援。その関係で馬淵洸に敵愾心を抱いている。
由美 (ゆみ)
吉岡双葉の中学生時代の友人。双葉が女子のなかで孤立した後も分け隔てなく接した唯一の人物だったが、自分が好きになった男子を双葉も好きであると勘違いし、彼女の元を去る。のちに再会した折に誤解だったことを知り、和解した。
馬淵洸の母 (まぶちこう の はは)
馬淵洸及び田中陽一の母親で、作中の時間軸のなかでは故人。理由は語られていないが、洸が中学一年生のときに離婚し、洸を伴って長崎へ転居した。その後、母子家庭で洸を育てるが、癌に侵されて間もなく死去。この母親との死別が、馬淵洸の性格変化に大きな影響を与えた。
アニメ
書誌情報
アオハライド 13巻 集英社〈マーガレットコミックス〉
第1巻
(2011-04-13発行、 978-4088466477)
第2巻
(2011-08-25発行、 978-4088466903)
第3巻
(2011-12-22発行、 978-4088467313)
第4巻
(2012-04-13発行、 978-4088467597)
第5巻
(2012-08-24発行、 978-4088468181)
第6巻
(2012-12-25発行、 978-4088468693)
第7巻
(2013-04-25発行、 978-4088450285)
第8巻
(2013-08-23発行、 978-4088450858)
第9巻
(2014-01-10発行、 978-4088451510)
第10巻
(2014-05-23発行、 978-4088452111)
第11巻
(2014-08-25発行、 978-4088452562)
第12巻
(2014-12-12発行、 978-4088453149)
第13巻
(2015-05-25発行、 978-4088453897)