グリム兄弟の廃品回収物語
グリム兄弟、ヤコブとヴィルヘルムは、おとぎの世界の秩序を保つため、不要となった物品を回収する特殊な廃品回収業を営んでいる。彼らが依頼される品物は多岐にわたり、『かえるの王さま』の金色の毬(まり)や『狼と七匹の子山羊』の柱時計、『白雪姫』の魔法の鏡、『シンデレラ』のガラスの靴といった物語に登場するアイテムから、「見栄」や「意地」といった形のないものまで含まれている。基本的に兄弟は二人一組で行動し、経験豊富なヤコブが未熟なヴィルヘルムをサポートしながら業務を遂行している。
おとぎの国の廃品回収業者たち
ヤコブとヴィルヘルムが従事する廃品回収業は、おとぎの国に住む人々からの依頼によって始まる。彼らは依頼人が指定した物品の回収や消滅を完了することで、業務は終了する。回収業者には厳格な規則があり、特に「物語の世界の均衡を保つことに専念する」「物語の登場人物の意思を最優先にする」「進行中の物語に介入してはならない」という三つの基本原則を遵守する必要がある。また、廃品回収業者にはグリム兄弟のほかにも、ハンス・クリスチャン・アンデルセンやシャルル・ペロー、ジャンバティスタ・バジーレなど、数多くの童話や寓話を創作した作家や詩人たちが名を連ねている。
ハッピーエンドの先に潜む闇
ヤコブとヴィルヘルムは、かつてハッピーエンドを迎えた物語の登場人物たちから依頼を受ける中で、幸せが永遠に続くわけではないという現実を目の当たりにする。たとえば、15年後の『白雪姫』の世界では、母親となった白雪姫が魔法の鏡に「白雪姫よりその娘の方が美しい」と告げられたことで、かつて自分に嫉妬した継母と同様の感情を抱くようになる。また、『シンデレラ』の世界では、幸せな結婚を果たしたシンデレラが、国王となった夫から執着ともいえる愛情を注がれ、精神的に疲弊していく。ヤコブは、物語は美談ばかりではなく、幸福の先に待ち受ける困難も含めて人生であるという達観した考えを持つ。そのため、依頼者や関係者に深く感情移入せず、中立的な立場を保ちながら業務を遂行しようと努めている。一方、ヴィルヘルムは、苦難を乗り越えて幸せを手にしたはずの人々が、結局は満たされない思いを抱えていることに心を痛め、自らの業務に支障をきたすほど苦悩している。
登場人物・キャラクター
ヤコブ・グリム
弟のヴィルヘルムと共に、おとぎの国で廃品回収業を営む青年。生真面目な性格のしっかり者で、同業者からは優秀な職員として信頼され、顧客からも厚い信頼を寄せられている。ヴィルヘルムが入社する前には、すでに一級職員としての地位を確立している。ヴィルヘルムとコンビを組んでからは、自由奔放な彼に手を焼きながらも、優しさと厳しさを兼ね備えた指導を行っている。穏やかで美しい物語の展開を好む一方で、残酷な出来事にも惹かれると公言するなど、二面性を持つ。また、右手の痣(あざ)を隠したり、過去について語りたがらない様子から、なんらかの秘密を抱えていることがうかがえる。実在の人物、ヤーコプ・グリムがモデル。
ヴィルヘルム・グリム
兄のヤコブと共に、おとぎの国で廃品回収業を営む少年。ベテランの兄を手伝いながら、日々の業務をこなしている。明るい性格のお調子者で、軽口を叩いてはヤコブに注意されている。兄と比べると未熟な面が目立ち、感情的な行動が多いため、廃品回収業者としての成績は芳しくない。しかし、誰に対しても分け隔てなく接する素直さを持ち、その愛嬌から先輩職員たちにかわいがられている。兄に対して絶対的な信頼を寄せており、兄の仕事ぶりにあこがれを抱き、いつか自分も兄のような職員になりたいと願っている。また、幼い頃の記憶が欠落しているため、時おりそのことに不安を感じることもある。実在の人物、ヴィルヘルム・グリムがモデル。
書誌情報
アフターメルヘン(上) イースト・プレス
(2023-12-13発行、978-4781622699)
アフターメルヘン(下) イースト・プレス
(2024-08-07発行、978-4781623405)







