あらすじ
ふわみ、月より来たる
会社員の津田真司郎は、会社の奴隷ともいえる「社畜」同然の忙しい毎日を送っていた。そんな夏のある夜、真司郎が自宅で仕事をしていると、突如窓ガラスが割れて謎の生物が侵入してくる。その正体は、月からやって来た宇宙人のふわみという少女だった。ふわみは月で働いていたが、リストラに遭って月を追い出され、地球で仕事を探しているのだという。そんなふわみに対して真司郎は冷たい態度で追い出そうとするが、ほんの遊び心でふわみが割った窓ガラスを修繕できたら、雇ってやると約束してしまう。その言葉に反応したふわみは、翌朝無理やり窓ガラスを直してしまい、真司郎は約束を守って彼女を住み込みで雇うことになるのだった。
ふわみ、たえにたえる
ふわみが津田真司郎の家で、住み込みで働くようになってからしばらく経ったある日、真司郎の妹・津田真琴が突然遊びにやって来る。真司郎は慌ててふわみの存在を隠そうとするが、マイペースでめんどくさがり屋の真琴は、部屋に入るなりふわみをクッションだとカンちがいして枕にしてしまう。このままではふわみが窒息してしまうと考えた真司郎は、どうにかして真琴を起き上がらせようとする。しかし、真琴は起き上がるどころか、真司郎が自分の世話を焼きたいのだろうと好意的に受け止め、仕事のやり過ぎを心配されてしまう。結局この日は、なんとかふわみを救出し、後日合鍵を使ってまた遊びに来た真琴はふわみと出くわし、すんなりその存在を受け入れるのだった。
ふわみ、さいかいはとつぜんに
ある日、ふわみが帰宅すると、月にいた時の後輩・もふこが迷い込んでいた。もふこも、ふわみ同様にリストラに遭って月を追い出され、地球にやって来たのだ。ひとまず雨風をしのげる場所を探していた際に車に轢かれ、津田真司郎の家にたどり着いてしまったのだという。そんなもふこを不憫に思ったふわみは、真司郎にもふこを雇ってもらえるように頼み込む。そして、少しでも真司郎にもふこを気に入ってもらうべく、地球での仕事をもふこに教え始めるのだった。しかし真司郎は、もふこを見るなり追い出そうとし、もふこを雇ってほしいなら、ふわみが出ていけと無茶ぶりする。すると、悲観したふわみともふこがお風呂で入水自殺を図ろうとしたため、真司郎は仕方なくもふこを雇うことを決める。こうして、二人は津田家で働くことになるのだった。
ふわみ&もふこ、セラピーにすがる
もふこが津田真司郎の家で働き始めたことで、ふわみの仕事は一気に楽になり、一日の作業はあっという間に終わるようになっていた。これは一見するといいことに思えたが、月のうさぎは労働しないと、体が溶け出して死んでしまうのだ。そのため、二人はなんとしてでも仕事を見つけなくては、生命の危機に陥ってしまう。そんな中、津田真琴が一匹の犬を連れてやって来る。連れている犬は迷い犬らしく、真琴は放っておけずにひとまず保護したのだという。そこで真琴は、真司郎の家でこの犬を飼うのはどうだろうかと提案する。この申し出に応じたふわみともふこは、犬が部屋を散らかしたり、散歩に行きたがるために次々と仕事が発生し、大喜びする。その後、真司郎が犬を飼い主に返したことで犬はいなくなってしまうが、真司郎は代わりの仕事として、上司からプレゼントされた家庭菜園キットを二人に手渡すのだった。
ふわみ&もふこ、ひろい世界へ
とある日曜日、津田真司郎はふわみともふこだけで買い物に行かせることにした。これまで真司郎は、二人が宇宙人で目立ちすぎるという理由で、二人には外出を禁止していた。しかしそれでは、毎日会社で仕事ばかりしている自分と変わりないと気づき、考えを改めたのである。そこで真司郎は、二人に飲み物を買ってくるように命じるが、結局心配になって二人のあとをつけてしまう。しかし二人は、途中寄り道をしながらも無事に仕事を達成し、今後も外出を許されることとなる。
ふわみ&もふこ、しょうげきのであい
ある日、ふわみともふこはお使いの途中で、ましろという名の月のうさぎに出会う。ましろは1年前、月を追い出されて地球にやって来たのだ。だが二人とは違って、中々働き口を見つけることはできずに苦労していた。そこで川原に自分で家を構え、自主的に川原の清掃をしたり、拾った物を無償でプレゼントする「はんばいじょ」を作ったりして、自分で仕事を作って生きる道を選んでいたのだ。そんなましろの生き方に、ふわみともふこは衝撃を受ける。二人は誰かに命令されないと、どう仕事をすればいいのかわからずにいたからだった。後日、そんな二人を案じたましろは津田家を訪れ、今の生き方で満足なのかとあらためて二人に問う。今の生き方にまったく疑問を感じていない二人にはまったく響かなかったが、話を聞いていた津田真司郎は、ましろに心打たれてしまう。
ふわみ&もふこ、じきゅうじそくにいどむ
収穫の季節になり、ふわみともふこが家庭菜園で丹精込めて育てた野菜を大量に収穫する。これだけの野菜を自分一人では食べきれないと考えた津田真司郎は、二人にも食べるように命じるが、これまで木の皮や樹液、ニンジンの切れ端ばかりを食べていた二人は、野菜を食べたことであっという間に太ってしまう。その後、体型はどうにか元に戻ったものの、これまで二人が寝床として使っていた段ボールが、ボロボロになって使えなくなってしまう。
ふわみ&もふこ、ニュースタイルへ…?
ある日、ふわみともふこがいつも着ている服が破れてしまう。これを見た津田真司郎は、二人に新しい服を買おうとインターネットで服を探し始めるが、同僚の姫川に見つかってしまう。とっさに真司郎は、二人のことを親戚の子供と偽り、二人に服をプレゼントしようとしていることを姫川に打ち明ける。すると、姫川は服作りが趣味であること、服を作りたいと思っているが、着てくれる人がいないことを告げる。そして姫川の強い希望もあり、真司郎は姫川に服を作ってもらうことにする。そしてかわいらしい服が完成するが、二人は服を大切にしようとするあまり、仕事に集中できなくなってしまう。そして結局、ふだんの服を自分たちで縫い直して着続けることとなる。
ふわみ、新たなめざめ
ふわみともふこが、姫川に服を作ってもらってからしばらく経ったある日、津田真司郎が自宅にスマートフォンを忘れて出社してしまう。これに気づいた二人は、会社までスマートフォンを届けに行くことにする。そしてたどり着いた会社で、二人は姫川に出会う。真司郎から二人は親戚だと聞いていた姫川は、二人との会話がなんだか嚙み合わないことを、次第に疑問に思うようになる。そこに真司郎が現れるが、二人は長時間労働しなかったことで体が溶け始めていた。もはやごまかせないと判断した真司郎は、二人が宇宙人であることを姫川に打ち明ける。すると姫川は、二人があまりにもかわいらしく、地球の生き物とは思えないことから、すんなり真司郎の言葉を信じてしまう。
ふわみ&もふこ、かわいがりにおびえる
11月のある日、ふわみともふこが宇宙人であることを姫川に知られたことで、津田真司郎の家に姫川が遊びにやって来る。真司郎は、これを機に三人が親しくなれば、姫川が二人を引き取ってくれるのではないかと期待する。そこで真司郎は、三人の仲が深まるように画策するが、仕事をどんどん命じてほしいふわみともふこに対し、姫川は二人をかわいがりたい思いと甘やかしたい気持ちが強いため、二人と姫川との相性は悪く、三人はなかよくなれずにその日は終わってしまう。
ふわみ&もふこ、カルチャーショックな出会い
年が明けたある日、ふわみともふこが家庭菜園の手入れをしていると、月から「らぱな」という名の宇宙人が降ってきた。らぱなはふわみ、もふこ、ましろ同様、リストラされて地球にやって来たという。そこでふわみともふこは、らぱなに仕事を振ってあげようとするが、らぱなは数年に一度だけ生まれるとされる、突然変異の「はたらかないウサギ」だった。働くことが大嫌いならぱなは、自分のかわいらしい容姿を武器に、ほかのうさぎに自分の仕事を押し付けて生きてきたのだ。そんならぱなのかわいらしさに魅了された二人は、らぱなの世話を始めるが、津田真司郎には、らぱなの魅力をまったく理解できなかった。これに腹を立てたらぱなは、真司郎を魅了しようと画策するが一向に状況は変わることなく、最終的に姫川がらぱなを引き取ることとなる。
ふわみ&もふこ、きょうせい的さいこようへ
春のある日、津田真司郎、ふわみ、もふこが自宅で過ごしていると、突如月からの使者が現れ、ふわみともふこを連れて行ってしまう。二人は地球での働きぶりが評価され、月で再雇用されることになったのだ。二人は、今は真司郎の家で働いているからと、その誘いを固辞するものの、無理やり月に連れ戻されてしまう。こうしてふわみともふこは、再びお餅をつく仕事に戻るが、地球でパンのおいしさを知ったふわみは、月でもパンを作るべきだと提案する。こうして、お餅派のうさぎとパン派のうさぎで争いが始まってしまう。
コラボ漫画
同じ藤沢カミヤの漫画、『うめともものふつうの暮らし』(竹書房)の単行本1巻に「DAY SPECIAL」として、双方のキャラクターが登場する描き下ろしコラボ漫画が収録されている。
登場人物・キャラクター
津田 真司郎 (つだ しんじろう)
会社員の若い男性。黒髪をショートヘアにしている。肉体的にも精神的にも疲れ切っており、殺伐とした雰囲気を漂わせている。ふわみともふこからは、雇い主ということから「しゃちょー」と呼ばれている。日々の激務に翻弄され、持ち帰りの仕事も多くほとんど休みがない状況のいわゆる「社畜」。そのため精神的にまったく余裕がなく、いつもイライラしており、攻撃的な言動を取っている。そんな夏のある日、突如ふわみが窓ガラスを割って侵入してきたため、即座に追い出そうとした。しかし、働き口を探しているというふわみに対して、この窓ガラスを修繕できたら雇ってやると勢いで約束してしまう。これがきっかけでふわみを住み込みで雇わざるを得なくなり、極端に仕事好きでポジティブな性格のふわみに振り回されることになる。その後、ふわみからの申し出でもふこも受け入れることになった。二人には基本的に冷たい態度で接し、家事すべてを担当させながら月給1円という理不尽な労働条件で働かせたり、食事も余り物しか与えなかったりと、あまりよい雇い主とはいえない。しかし、ふわみたちに頼み事をされるといつも押し切られて応じてしまうなど、なんだかんだで面倒見がいい。そして二人を雇い続けるうちに、雇用主として二人の待遇を考えるようになり、少しずつ労働環境を改善していく。
ふわみ
月に住む宇宙人の少女。桃色のロングヘアに真っ赤な瞳を持つ。年齢は3歳。小柄な人間の少女のような容姿で、うさぎの耳としっぽが生えている。気弱な性格の泣き虫ながら、月での労働で培われた極端なポジティブ思考と、思い込みの激しい押しの強さを兼ね備えている。しかし、満足な仕事ができなかったりすると、すぐに悲観して自死しようとする困った一面がある。もともとは月でお餅をつく仕事をしていたが、不景気でリストラに遭い、月を追い出されて地球にやって来た。ひとまず雨風をしのげる場所を探していた際に車に轢かれ、弾き飛ばされた先にあった津田真司郎の家に迷い込み、彼の家に住み込みで雇われることとなる。月では24時間働き詰めで、食事は木の皮と樹液のみ、さらに一回でも失敗したら解雇されてしまうという、非常に過酷な生活を送っていた。しかし、ふわみ自身はそれが当たり前だと思っており、仕事に対して前向きな姿勢で臨んでいた。そのため、家事すべてをこなして月給1円という過酷な労働条件や、寝心地の悪い段ボールの寝床にも大喜びするなど、人間とは感覚が大きくずれている。家事全般の能力は高いが、当初はお餅以外の食べ物の作り方を知らなかったため、真司郎から料理の本をもらったことで、どんどん料理の腕を上げていく。労働しないと死んでしまう特殊体質で、長時間何もしないと体が溶け出してしまう。また、体を変身させることができるが、大人の女性に変身しようとしても下半身だけが伸びたり、片腕だけだったりと、不完全で用途は限られている。耳は長く伸ばすことができ、遠くのものをつかんだり、飛んできたものをキャッチすることができる。
もふこ
ふわみの後輩で、月に住む宇宙人の少女。年齢は2歳。顎の高さまで伸ばした茶色のロングヘアで、青い瞳を持つ。小柄な人間の少女のような容姿で、うさぎの耳としっぽが生えている。落ち着いた性格のしっかり者で、なんでも器用にこなす。ふわみ同様、月での労働によって培われた独特の感性を持っており、働くことを至上の喜びとしている。そのため、満足な仕事ができなかったりすると、すぐに悲観して自死しようとする困った一面がある。月にいた時は、ふわみといっしょにお餅をつく仕事をしていたが、ふわみのあとにリストラに遭い、月を追い出されて地球にやって来た。ひとまず雨風をしのげる場所を探していた際に車に轢かれ、弾き飛ばされた先にあった津田真司郎の家に迷い込み、ちょうど帰宅したふわみと再会し、真司郎の家に住み込みで雇われることになる。ふわみを先輩と呼び慕っているため、地球に来てからは、つねにふわみと共に行動している。ふわみ同様、労働しないと死んでしまう特殊体質で、長時間何もしないと体が溶け出してしまう。
ましろ
ふわみともふこの友人で、月に住む宇宙人の少女。銀色のロングヘアをポニーテールにしており、青い瞳を持つ。凛とした印象で、二人よりも年上である。自立した生き方を信条としているため、二人には「ししょー」と呼ばれている。1年前に月から追い出されて地球にやって来て、働き口を探していたが見つからずに困っていたが、このまま労働できずに死ぬのではなく、なんとか仕事を見つけて生き永らえる道を選ぶ。そして、川原の橋の下に自分で作った家を構え、川原のごみ掃除をしている。そこで見つけた物を希望者に無償でプレゼントする「はんばいじょ」を設置して管理している。誰かに雇われ、命じられた仕事をこなすのではなく、自分で選んだ仕事をする今の生活を気に入っている。ふわみやもふこをはじめとした月のうさぎとは違い、人間に近い価値観を持っている。そのため二人にも、津田真司郎に指示されるだけの生活を止めるように提案した。二人にはまったく響いていなかったが、友人として交流は続けている。月のうさぎであるために働くことは大好きだが、地球に来てからは趣味の時間を大切にするようになり、インテリアや食べるものに凝るなど、次第に生活が豊かになっていく。
らぱな
月に住む宇宙人の少女。地球にやって来て、姫川の家で暮らしている。ふんわりとしたオレンジ色のロングヘアをツインテールにしており、オレンジ色の瞳を持つ。かわいらしい顔立ちの美少女で、自分の容姿が優れていることを自覚している。甘えん坊で、ちやほやされるのが大好き。月で数年に一度だけ生まれるとされる突然変異の「はたらかないウサギ」で、月のうさぎとしては非常に珍しい、労働が嫌いなうさぎでもある。そのため、自分の仕事はかわいがられることだと考えており、自分の容姿を武器に、ほかのうさぎに自分の仕事を押し付けたり、自分の身の回りの世話をさせたりして生きてきた。しかし、月を追い出されたために地球にやって来て、新しくかわいがってくれる相手を探していた際に、ふわみともふこに出会う。しかし、二人の雇い主である津田真司郎にはらぱなの魅力がまったく通じず、最終的にらぱなを気に入った姫川に引き取られた。
津田 真琴 (つだ まこと)
津田真司郎の妹で、女子高校生。茶色のセミロングヘアをハーフツインにしており、つねに眠そうにしている。ふわみともふこからは、真司郎の次に仕事を与えてくれる存在であることから「ふくしゃちょー」と呼ばれている。極端に面倒くさがり屋で、ものぐさな性格をしている。真司郎の家をセカンドハウス扱いしており、頻繁に遊びにやって来る。そのため、ふわみの存在にも早い段階で気づいて受け入れ、後日やって来たもふことも親しくなる。二人のことはお手伝いのように扱い、真司郎の家にいるときは何もかもを二人に任せっきりにしている。しかし、二人が困っているときや緊急事態にはサポートすることもある。また、二人がミスをしても特に気にしないなど、寛容な一面を持つ。漫画やゲームが大好き。
姫川 (ひめかわ)
津田真司郎と同じ会社に勤務する若い女性。受付を担当している。顎の高さまで伸ばしたボブヘアで、清楚でかわいらしい顔立ちをしている。かわいいものが大好きで、趣味は裁縫と服作り。しかし服を作っても着てくれる人がおらず、創作意欲を持て余している。そんなある日、真司郎が親戚の子供にプレゼントする服を探していることを知り、服を作らせてほしいと申し出る。これがきっかけで真司郎と親しくなり、のちにもふことふわみが真司郎の親戚ではなく、月からやって来た宇宙人だと知ることになる。