あらすじ
第1巻
寛永14年の彦根に謎の機械生命体の軍団、天魔が突如現れる。天魔は侵略を開始して人々を襲い始めるが、謎の女剣士イチが彼らの尖兵を切り捨て、人々を救うのだった。イチに救われた少年の三太は逃げる最中にはぐれた妹を救うべく、強引にイチについていく。しかし妹の千代は、すでに天魔の手によって破裂童子へと変貌しており、三太の目の前で死んでしまう。天魔の非道を目にした三太は、イチの相棒クロに自分も仲間にしてほしいと自らの決意を伝える。イチは天魔の目的を探るべく、彦根の町に忍び込み、そこで大量破壊兵器「虚無」を目にする。しかし、イチは天魔に見つかり、滅師と戦うこととなる。これまでにない強敵に苦戦するイチであったが、三太の援護もあり、辛うじてこれを撃破する。だが倒した滅師の正体が、かつての仲間であるオトキの変わり果てた姿と知って動揺。スキをさらしたイチは危機に陥るが、駆けつけたバロの援護で九死に一生を得るのだった。
第2巻
バロはイチたちに合流したものの、多数の滅師に囲まれて投降を余儀なくされる。イチたちと共に天魔の母艦に連れられた三太とクロは、彼女たちから引き離されて囚われるが、力を合わせて脱出。非凡な剣の才能を持つ三太は、牢獄を破壊して囚われていた子供たちを救出する。そして三太は脱出のために母艦の動力源を破壊しようとするが、敵に囲まれてしまう。絶体絶命の危機に陥る三太とクロであったが、実は破裂童子に改造されていた子供たちが己の運命を悟り、二人をかばって爆発。三太は多くの犠牲を出しつつも、母艦の動力源を破壊することに成功する。一方のバロとイチは、天魔の最高幹部である世翼と対峙していた。余裕の態度で二人をいたぶろうとする世翼だったが、二人はそのスキをついて反撃を開始する。優勢に戦い始める二人だったが、そこでバロに白化病の発作が起き、戦えなくなってしまう。危機に陥るイチだったが、駆けつけたサキたちの力と冥帝王の力を引き出したことで、激闘の果てに世翼を打ち倒す。しかし、世翼の運んだ虚無は爆発し、三太は爆発の中に消え、クロもイチをかばって重症を負ってしまう。
登場人物・キャラクター
イチ
抵抗軍に所属する女性戦士。右目を包帯で覆った10代半ばの少女で、ボロボロになった着物を身にまとっている。2020年の東京オリンピックの会場に弟の朔哉といっしょに向かうが、その際に天魔に襲われてすべてを失う。その後、抵抗軍に入り、バロに弟子入りする。彼のもとで戦う力を磨いて冥帝王を与えられ、戦場に出るようになり、相棒のクロと共に天魔と戦う。世翼とは因縁深い関係で、彦根の母艦で激闘を繰り広げる。世翼に冥帝王を粉々に砕かれるが、強い意志の力で冥帝王の力を引き出し、世翼を打ち倒すことに成功する。三太には冷たく接するが、それは三太に弟を重ね合わせて見ているためで、戦いから遠ざけるためにワザと辛らつにあたっている。
クロ
イチの相棒の犬神(アイビス)。毛並みが白く、青い瞳を持つ犬の姿をしている。非常に忠実で、やさしい性格の持ち主。イチのことを一番大切に思っており、一人で抱え込み過ぎる彼女に忠告も行っている。三太の境遇に同情し、イチにも彼が尾けていることを伝えず、彼が抵抗軍に入ると言った時も彼の意思を尊重した。母艦での戦いでは三太と二人で脱走し、船の動力源を破壊する。三太が非凡な才能を持つと考えており、戦いの中で絆を育んでいく。虚無の爆発に巻き込まれた際には、イチと三太、どちらかしか助けられない選択を突きつけられる。その際に三太と心で対話し、彼からイチを託されて身を挺してイチを守り、虚無の中に消えていく三太を見送った。
三太 (さんた)
彦根に住んでいた少年。天魔に襲われたことで、妹の千代と共に逃げていたが、妹を天魔にさらわれてしまう。ダルマに襲われていたところをイチに救われ、彼女に無理やりついていく。イチと共に彦根の町に戻り、千代を発見するが、破裂童子になっていた千代を目の前で失う。天魔の非道を目にし、抵抗軍に入ることを決意する。非凡な才能を持ち、滅師との戦いではふつうの人間には抜けない冥帝王を抜き、その力を使って滅師と戦っている。敵の母艦での戦いでは、敵に捕らわれるがクロと共に脱走。母艦に囚われていた子供たちの決死の協力もあり、母艦の動力源を破壊することに成功する。クロとは強い絆を感じており、最期は虚無の爆発に巻き込まれた際、言葉を交わさずにクロと対話。クロにイチの事を託して、虚無の爆発の中に消え去った。
バロ
抵抗軍に所属する青年戦士。抵抗軍最強の剣士と名高く、伝説の犬神の魂が宿るとされる「霞丸」を愛剣とする。イチの師匠で、彼女に天魔との戦い方を教えた。相棒のヨチと共にイチのもとに駆けつけ、世翼と戦った。その戦闘能力は圧倒的で、小さなナイフ一本で十を超える滅師の群れを圧倒するほど。また霞丸の力を完全に使いこなしており、戦闘では空間転移を自由自在に使いこなす。まさに最強の名を欲しいままにしているが、実は白化病を患っている。髪の毛が真ん中半分で右側が白、左側が黒のモノトーンカラーとなっているのも白化病のせいで、時折白化病の発作で身動き一つ取れない状態となる。
ヨチ
バロの相棒を務める犬神。紺鼠色の毛並みをした犬の姿をしている。まじめな性格で、抵抗軍最強の剣士であるバロを忠実にサポートする。バロと共にイチのもとに駆けつける。主人の白化病のことを心配しており、バロの身を案じて彼が発作を起こした際、命令に逆らってもバロの動きを止めた。白化病の症状を緩和する能力を持ち、発作が起きるとバロにその力を使う。
サキ
抵抗軍に所属する女性戦士。おかっぱ頭の10代半ばの少女で、犬神のモモの相棒を務める。勝気な性格で、バロに好意を抱いており、その弟子のイチに一方的に対抗心を抱いている。世翼と戦うイチのもとに、トシキと共に応援に駆けつける。イチやトシキとは同じ東京出身であるため、三人合わせて「東京組」と呼ばれている。
モモ
サキの相棒を務める犬神。犬神の中では比較的甘えん坊で、のんきな性格をしている。クロのことが大好きで、クロにアプローチをしているが、状況を考えないで甘えるためにクロから叱責を受けることも多い。世翼の母艦での戦いではクロの助けに向かう。
トシキ
抵抗軍に所属する青年戦士。まじめな性格で、眼鏡を掛けている。医療犬の犬神であるムツが相棒を務める。戦闘では薙刀を武器として戦う。世翼と戦うイチのもとにサキと共に応援に駆けつける。イチやサキとは同じ東京出身であるため、三人合わせて「東京組」と呼ばれている。
ムツ
トシキの相棒を務める犬神。医療用の能力を持つ犬神で、ゴーグルとボンベのような物を背負った犬の姿をしている。戦闘では主に治療を担当する。白化病の症状緩和もすることが可能で、世翼との戦いでは白化病の発作を起こしたバロの治療を行う。
オトキ
抵抗軍に所属する女性。医療班に所属する明るい性格の好人物で、抵抗軍に入ったばっかりのイチを何かと気にかけ、かわいがっていた。しかし、天魔との戦いで囚われて滅師に改造され、意識がない状態でイチと戦うこととなった。お互いの正体に気づいていなかったが、撃破される瞬間、イチにオトキであることを気づかれる。その際に一瞬だけ意識を取り戻したが、変わり果てた自分の姿に絶望して錯乱。再び意識を失って暴走し始めたところ、バロにトドメを刺されて死亡した。
世翼 (よはね)
天魔の最高幹部のうちの一体。異形の怪物で、山羊の頭を持つスフィンクスのような見た目をしている。翼が生えており、その翼で飛行も可能。残酷で嗜虐心の強い性格をしており、人間をいたぶって殺すことを好む。2020年の東京オリンピックでは、同地を侵略する戦闘指揮官を務めており、イチとは因縁深い相手。琵琶湖に眠る彗蓮石を回収するため、寛永14年の彦根を侵略する。母艦に囚われたバロとイチの目の前に姿を現す。嗜虐心から二人を辱めようとしたが、そのスキを突かれて二人に反逆される。戦闘の際には、翼と角を大きくした「完全体」と呼ぶ形態に変身する。全身に火器を内蔵しており、その火力は絶大。また完全体になると肉体を覆う金属も宇宙最硬度の物になるため、防御力も桁違いに上昇する。生命力も非常に強く、首だけの状態になっても活動できるほど。イチの冥帝王を粉々に打ち砕き、空からの攻撃で二人を追い詰めるが、イチの意志に応えて復活した冥帝王に一刀両断されて死亡した。
朔哉 (さくや)
イチの弟。2020年の東京オリンピックで起きた天魔の侵略によって、行方不明となった。その後、虚無が爆発した寛永14年の琵琶湖でイチたちの前に姿を現し、彗蓮石を回収する。体中が機械化されており、「天草四郎時貞」の名を名乗っている。
集団・組織
天魔 (てんま)
宇宙からやって来た謎の組織。機械生命体が主体となって運営され、時空を超えて地球を侵略しようとしている。2020年の東京オリンピックに現れ、虚無を使って東京を吹き飛ばした。その後、寛永14年の彦根の上空に現れ、同地を侵略。琵琶湖に眠る彗蓮石を回収する。
抵抗軍 (れじすたんす)
天魔に対抗するための組織。犬神と戦士の二人組で行動するのを基本とする。寛永14年の日本では信濃の国を拠点にして天魔に対抗しており、拠点にはバリアを設置し、避難民の受け入れなどを行っている。天魔とは彗蓮石を巡って長い年月、争っているとされる。
その他キーワード
冥帝王 (めてお)
イチの持つ刀。犬神の剣の一振りで、光線を跳ね返し、巨大なダルマをもたたき切る恐るべき切れ味を誇る。ほかの犬神の剣と同じく特殊な能力を持つが、イチが未熟なため、その力を十全に引き出せずにいる。世翼との戦いで、宇宙で最も硬い金属で体を覆う世翼に粉々に打ち砕かれるが、イチの不屈の意志に応えて力を発揮。その能力は「傷つき折れるほどより強く生まれ変わる」という不死性で、イチの力に応えてより強い切れ味を持って復活し、世翼の体を一刀両断した。
霞丸 (かすみまる)
バロの持つ刀。犬神の剣の中でも伝説の犬神の魂が宿るとされる特別な一振りで、空間を自在に行き来する能力を持つ。どこにあっても必ず所有者の呼び声に応え、一瞬で駆けつける刀で、バロはさらにその力を引き出し、剣と一体化することで自分も自由自在に空間を移動することができる。また柄の部分にはトリガーがあり、これを押すことで刀身を敵に向かって打ち込み、そのまま敵を空間転移で彼方に吹き飛ばす使い方も可能。刀身は敵と共に吹き飛ぶが、空間転移が終わると自動的に所有者の手元に戻り、再び刀として使える。
ダルマ
天魔が尖兵として使っている兵器。「ダルマ」は抵抗軍での通称。型式番号は「D-50型」で、「斥候機」として作られている。寛永14年の彦根に現れ、周辺を侵略する。丸い体に砲が一門付いた形をしており、まるで巨大な眼球のような形をしている。砲から光線を拡散して放ち、周囲の人間を攻撃する。また装甲は頑強で、大砲の一斉射撃を食らってもビクともしないほど。抵抗軍の戦士であれば難なく撃退できるが、斥候目的で放たれているために数が多く、大量に相手する場合は抵抗軍の戦士でも苦戦する。
虚無 (きょむ)
天魔の使う兵器。巨大な四角錐の形をした爆弾で、母艦の下の部分に設置されている。2020年の東京オリンピックでも天魔が使い、1000万人の人間を一瞬で吹き飛ばした。世翼は彗蓮石を手に入れるため、寛永14年の琵琶湖でも使用し、湖水を消滅させる。発動の際には四角錐の中から巨大な眼球が現れ、これが破裂することで巨大な爆発を引き起こす。その爆発は地形を変えるほどで、虚無の爆発した琵琶湖は砂漠のような姿となっていた。
彗蓮石 (えれめんと)
宇宙を制する巨大なエネルギーを宿す石。天魔と抵抗軍は長年、これを手に入れるために相争っている。琵琶湖の中に眠るとされており、天魔が彦根を攻めたのは彗蓮石を回収するためだった。琵琶湖の水によって守られていたが、天魔の虚無によって湖が蒸発し、朔哉の手によって回収される。
破裂童子 (はれつどうじ)
天魔の使う兵器。その性質はさらった人間の子供に爆弾を埋め込み、敵に子供を保護させたところで爆発させるという非人道的なもの。子供たちにはほとんど意識が残っておらず、「タスケテ」と繰り返しながら人に近づいて爆発する。子供たちは頭の部分に爆弾が埋め込まれており、爆発の際には頭が開いて爆弾が露出し、大爆発を引き起こす。極々まれに意識を取り戻す子供もいるが、命令に逆らい続けることは強い苦痛を伴い、爆発装置も人間が近づくと起動するため、子供を救助することは不可能。そのため、殺して楽にするしか救済方法はない。烏賊のような形をした専用の子供捕獲装置があり、この装置の内部で自動的に破裂童子に改造する。世翼の母艦内部には、心を消し損ねた不良品の子供たちが囚われていたが、三太に解放される。改造された子供たちは自分の運命を悟り、三太を守るために敵や船の動力源に特攻して果てた。
滅師 (ほろぼし)
天魔の使う兵器。対抵抗軍用に開発された「殺傷機」で、ダルマと違ってふつうの人間は殺さず、抵抗軍の人間しか襲わない。錫杖を持った法師のような姿をした人型サイボーグで、多数の武装に高い戦闘力を持つ。抵抗軍の戦士でも、一対一では非常に危険な相手となっている。胴体を真っ二つにされても再生可能なタフネスさを持つが、心臓と脳が急所となっており、そこを破壊されると活動停止する。実はその材料には抵抗軍の人間の死体が使われている。改造された者の中には生前の意識が残っている者もいるが、命令には逆らうことができず、仲間を襲い続けている。
白化病 (はくかびょう)
抵抗軍の戦士が発症する特有の病気。体の一部が白くなり、発作が起きると体が動かなくなる。無理をして動き続けるとさらに症状は悪化し、全身が白くなっていく。発作はいつ起きるかわからないため、戦闘中に起きた場合は歴戦の抵抗軍戦士であろうと身動きができず、敵に無防備な体をさらすこととなる。医療用の犬神の力を借りることで、その症状を緩和することができる。