概要・あらすじ
男として育てられた17歳の少女エミール・ド・ボードリクールは、奇跡の少女ジャンヌ・ダルクと運命の糸で結ばれていた。ジャンヌが火焙りの刑に処せられ9年の歳月が経過、英仏百年戦争は終局を向かえつつあったがフランス国内では国王派と王太子派が争うプラグリーの乱が起きる。エミールはジャンヌの幻に導かれ国王を守るために旅立つ。
登場人物・キャラクター
エミール・ド・ボードリクール (えみーるどぼーどりくーる)
本名はエミリー。フランスのヴォークールールという小さな町にある小さな城の主である守衛官・ロベール・ド・ボードリクールを養父に持つ。女であるが男の子として育てられる。17歳となりロベールより女の身に戻るよう諭されるが、大元帥リッシュモン公に招集されたロベールに代わって王の下に旅立つ。 旅の途中、ジャンヌ・ダルクの家に立ち寄ると、そこにエミールと同い年のジャンヌが現れ神の意志を伝えられる。
ジャンヌ・ダルク (じゃんぬだるく)
1431年5月30日、フランス北部の町ルーアンの広場で火焙りの刑に処せられた少女。奇跡を起こし、人々から「少女(ラ・ピュセル)」と呼ばれる。その死後、度々エミールの前に幻として姿を現し、幾度となく神の啓示を伝える。1412年、特に裕福でもなく貧乏でもない中農の家に誕生。13歳のある夏の日、明るい光と共に神のお告げを聞く。 啓示は度々聞こえるようになり、更に具体的な内容となってゆく。初めて啓示を受けてから5年後、ヴォークールールの守衛官ボードリクールの元に出向き、天から与えられた使命を果たすべく軍隊を率いイギリス軍に包囲されていたフランスの拠点オルレアンを解放する。 だがその後パリ奪回に失敗、ルーアンでの宗教裁判を受け火焙りの刑となる。物語はジャンヌ・ダルクの死後の世界を描く。
ルイ王太子 (るいおうたいし)
フランス国王シャルル7世の息子。後のルイ11世。かつてジャンヌ・ダルクと力を合わせイングランド軍と戦った諸侯と共に、気弱な国王・シャルル7世の退位を謀る。味方同士が争うべきでないと諭すエミールに対し、父・シャルル7世は神に選ばれた王ではなく、ジャンヌ・ダルクを見殺しにした臆病な男であり、神は裁かずただ勝者を祝福し、勝者が神を讃え、勝ち取った富で聖堂を建て領地を与え、聖職者に金ピカの衣を着せれば神は全てを可とする、それが真実であると豪語する。 しかし、自分を支持する諸侯を糾合せず、1人で先走り、国王派が用いたイギリス流の新しい戦法に屈することとなる。 だが、それでも諦めることをせず、国王と戦う意思を見せ続けた。歴史上の実在の人物、ルイ11世がモデル。
アルチュール・ド・リッシュモン (あるちゅーるどりっしゅもん)
国王派であり優れた軍略家。金目当てでどちらに転ぶかわからない傭兵を否定し、軍備を拡張することを提案、イギリス流の新しい戦法を用いることにより用兵を知らないルイ王太子の未熟さを突き国王派を勝利に導く。正しい考えや力を持つが冷たく容赦ない。歴史上の実在の人物、アルチュール・ド・リッシュモンがモデル。
シャルル7世 (しゃるるななせい)
実在の人物。フランス国王。ジャンヌ・ダルクの活躍によりイングランドのオルレアンでの戦いに勝利し、ノートルダム大聖堂で載冠式を挙行し王位に就く。だが、その後コンピエーニュの戦いで捕虜になったジャンヌを見殺しにした形となった。気の弱い小心者であったため、諸侯が息子のルイ王太子を担いで反乱を起こし対立することになるが、戦略に優れた国王派参謀リッシュモン大元帥の優れた戦略と、エミールに心動かされたジル・ド・レーの出資により強化された軍隊により、ロッシュでのルイ王太子との決戦に勝利する。 歴史上の実在の人物、シャルル7世がモデル。
ジル・ド・レー (じるどれー)
実在の人物。かつてはジャンヌ・ダルクの同志であり、オルレアンでの戦いにおける英雄であったが、ジャンヌの無惨な刑死によりその理念を見失い、浪費家に成り下がっていた。更に歪んだ肉欲に溺れ、背徳の性を御せず神の国に入れられる望みがないと自覚。サタンしか自らを受け入れてくれないと信じる。 降魔術師・プレラーティにそそのかされ、100人以上の子供を殺し、居城の地下室を無垢な少年達の血で染めていた。歴史上の実在の人物、ジル・ド・レーがモデル。
プレラーティ
ジル・ド・レーに仕える降魔術師。ジャンヌ・ダルクの死に失望し、堕落したジャンヌのかつての同志・ジル・ド・レーの精神を支配し、サタンを呼び出すために無垢な少年達の生贄を要求し続ける。更に生け贄としてジルを訪ねてきたエミールを要求する。だが、そこにジャンヌ・ダルクの姿が現れ恐れをなし、逃げ出した。
アランソン公爵 (あらんそんこうしゃく)
かつてはシャルル7世に仕えジャンヌ・ダルクと共に戦ったが、反旗をひるがえしルイ王太子を担ぎ反乱を企てる。ロッシュでの戦いでルイ王太子が敗れた後、国王派の主導者であり優れた軍略家であるリッシュモン大元帥の領地パルトネーに捨て身の攻勢をかける。だが、ロッシュの戦いで起きたようなフランス人同士の無益な殺し合いを避けたいエミールの説得を無視し、エミールを捕らえ、国王によりシャトー・ダリューズの城に軟禁されているルイ王太子のもとに送りつけた。 だが、リッシュモンの重包囲網に糧道を断たれ城の内外から挟み撃ちとなりあえなく降伏する。
アニエス・ソレル (あにえすそれる)
ロッシュにいるシャルル7世の美しい側室。シャルル7世とルイ王太子の戦いの中でロッシュに先回りしたルイ王太子に強姦された。ルイ王太子に勝利したシャルル7世に救助される。シャルル7世にジャンヌ・ダルクの裁判の見直しを提案し、百年戦争終了後、裁判のやり直しが行われる。
マルグリット
ルイ王太子の妃で13歳。スコットランド人。ルイ王太子に対して心を許しておらず、城に捕らえられたエミールに恋心を抱く。その気持ちを詩に書き連ねるが、それは恋に恋する幼く儚いものであった。ある夜、エミールを城の外へ連れ出そうとするが、ルイ王太子の罠であり、その際エミールが女性であることを知り、儚い恋も消え失せる。 エミールの父・ロベーヌ公の妃と同じ名前だが別人。
マルタン修道士 (まるたんしゅうどうし)
かつてジャンヌ・ダルクの告解を聞いた修道士。ブーヴルーユ城の塔に閉じ込められていたジャンヌ・ダルクに死の宣告を伝え、聖体を授けたが、ジャンヌは取り乱し、怒り泣き叫び、告解するまでに長い時間がかかったという。ジャンヌが火焙りの刑に処せられるその最後まで十字架をかざし、その躰が灰になるまでその場にいて全てを見届けた。 そして彼がジャンヌの蘇った姿と信じるエミールの告解をも聞くことになる。
ロレーヌ公シャルル二世 (ろれーぬこうしゃるるにせい)
エミールの父。フランスと神聖ローマ帝国に挟まれたロレーヌ地方を治めた領主。ナンシーに城を持つ。病に倒れ長年病床に伏していたがエミールの幼少時に亡くなる。エミールの母・アリゾナ・デュメは正式な后ではなく、マルグリッドという后がいる。
アリゾナ・デュメ (ありぞなでゅめ)
エミールの母。美しい容姿をしている。貧しい芸人の娘でありロレーヌ公の正式な后ではない。ロレーヌ公の正式な妃マルグリットに恨まれており、ロレーヌ公が亡くなるとマルグリットの謀略により、幼い娘であったエミールを残し撲殺される運命を辿る。
ロベール・ド・ボードリクール (ろべーるどぼーどりくーる)
エミール・ド・ボードリクールの養父。フランスのヴォークールールという小さな町にある小さな城の主である守衛官。ロレーヌの領主であったロレーヌ公に仕えていたことから、ロレーヌ公亡き後、その庶子・エミールの素性を隠し、養子として育てる。かつて、神のお告げを受け訪ねてきたという少女・ジャンヌ・ダルクを国王のシャルルと会見させたことがある。