戦後の日本をたくましく生き抜く人々の物語
本作は戦後間もない昭和26年を舞台に、貧困やアメリカ兵からの差別的な言動に苦悩しながらも、逆境に負けずに自分たちの目的に向かって邁進(まいしん)する日本人のたくましさを描いている。主人公の諏訪於菟も例外ではなく、自慢の歌声と姉の諏訪依音子が残したベースを演奏しながら、アメリカ兵が集まる酒場でも気圧(けお)されることなく歌い続け、やがて日本人を見下していたアメリカ兵たちをも魅了するほどのパフォーマンスを発揮する。
姉のために奔走する諏訪於菟
諏訪於菟は、最愛の姉である諏訪依音子が精神を病んでしまったことを悲観しながらも、食事すら満足に取れなくなった彼女を献身的に介護する。そんな中、彼女がうわごとのようにつぶやく「オダジマタツジ」の名前を聞き、その男性と姉を会わせることができれば回復するのではないかと考えるようになる。そして、「とら」の偽名を名乗って東京に出向き、路上で弾き語りを行うことで日銭を得ながら、「オダジマタツジ」の名前を持つ男性を探し求める。そして無事に小田島龍治を発見するが、彼は依音子に関する記憶を失っており、音楽を通じて小田島の記憶を取り戻そうと思い立った於菟は、彼と共に音楽活動をするため奔走する。
人々を震撼(しんかん)させるバンドの誕生
圧倒的な歌唱力を誇る諏訪於菟は、弾き語りをしている最中にマネージャーの丸山から声を掛けられ、小田島龍治がベースを務めるバンドへの加入を勧められる。そして、小田島やラッパの嶺川、ドラムの鮫島、ピアノの藤田と共に米軍基地を訪れ、即席のボーカルながらも見事に歌い切り、アメリカ兵たちから絶賛の声を浴びる。これをきっかけに丸山は於菟を正式にバンドに誘い、新バンド「スインギンタイガーブギ」が誕生する。スインギンタイガーブギは、さまざまなトラブルに見舞われながらも、最高のボーカリストとプレイヤーが織りなす珠玉のジャズで日本人、アメリカ人問わず多くの人々を魅了する。
登場人物・キャラクター
諏訪 於菟 (すわ おと)
福井県から東京に上京してきたボーイッシュな少女。一人称は「ぼく」。寅年生まれで、東京では「とら」という偽名を使っている。姉の諏訪依音子と、彼女の思い人である小田島龍治の影響からジャズに興味を持ち、独学で学ぶうちに高い歌唱力も手に入れる。大好きな姉が空襲による水難事故で精神を病んでしまったため、彼女の世話を買って出ている。小田島に会えば姉が元気になると考え、彼の行方を捜している。そんな中、路上ライブを行っていた際に音楽マネージャーの丸山眞樹夫の目に留まり、声をかけられる。そして、彼といっしょにいたベーシストの凄まじい技量に興味を覚え、成り行きから彼の演奏に合わせて歌ったところ、大喝采を浴びて「ミス・タイガー」と呼ばれるようになる。さらに、そのベーシストこそが小田島本人であることを知り、姉・依音子との関係を聞き出そうとするが、その矢先に彼が記憶喪失であることが判明。その真偽を疑いつつも、彼を見定めるために丸山の誘いに乗り、ジャズバンド「スインギンタイガーブギ」のボーカルとして活動を開始する。
小田島 龍治 (おだじま たつじ)
ジャズバンド「スインギンタイガーブギ」のベーシストを務める青年。眼鏡をかけており、諏訪於菟の従姉・染香から一目惚れされるほどの、整った容姿を持つ。ベーステクニックとジャズにかける情熱は本物で、素晴らしい演奏者を素直に評価し、自らの演奏が上達するための努力を惜しまない。過去に諏訪依音子と親密な関係だったことがあり、ベースの技術はその時に身につけたことが示唆されている。しかし現在は、過去の記憶を失っており、依音子のことを思い出そうとすると激しい拒絶反応が起こる。気難しく偏屈なところがあるが、酔っぱらった於菟を家に運んだり、マネージャーの丸山眞樹夫の姉の墓参りを欠かさなかったりなど、バンド仲間に対しては親身に接する。
クレジット
- 監修
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東谷 護
書誌情報
スインギンドラゴンタイガーブギ 6巻 講談社〈モーニング KC〉
第1巻
(2020-08-20発行、 978-4065203415)
第2巻
(2020-11-20発行、 978-4065215142)
第3巻
(2021-02-22発行、 978-4065221150)
第4巻
(2021-05-21発行、 978-4065230701)
第5巻
(2021-08-23発行、 978-4065234259)
第6巻
(2021-11-22発行、 978-4065260111)