あらすじ
鍛冶の王
現世とは異なる世界。召喚の女神の手で異世界から召喚された人々は、独自の特殊能力「反則技能」を授かり、その力をもって華々しい活躍を各地で見せていた。だが、やがて「異世界召喚者」と呼ばれるようになった彼らは、力に魅せられると、召喚の女神との契約を守ることをやめて、それぞれ自分勝手な行動を取り始め、ついには自分だけの王国を作って民たちを奴隷のように扱うようになる。異世界召喚者のガノー・アズマは、支配地域であるゴヴァノンの住民を材料とした魔剣を作り上げるなど、暴虐の限りを尽くしていた。ゴヴァノンの住人であるジズは、ガノーや彼に付き従う人々の嫌がらせに耐えつつ、姉を取り戻すための計画を練っていた。そんな中、ジズは全身をフードで包んだ小柄な人物と出会う。カイナと名乗ったその人物は、ジズから姉を慕っていることや、彼女を救出しようとしていることを聞かされるが、それに対して信頼と依存はまったく別であると忠告する。カイナと別れたジズは城下町に潜入して姉の行方(ゆくえ)を探ろうとするが、ガノーに見つかってしまう。ガノーはストレス解消のためと称して、ジズのみならず、城下町に集まっていた民衆を、魔剣の力を使って無差別に処刑しようとするが、そこにカイナが現れる。ガノーはみすぼらしい姿のカイナを嘲笑(あざわら)い、その場で始末しようとする。その時、突如としてカイナの身体が成長し、大柄な女性の姿になる。カイナは自らを、異世界召喚者を倒すために召喚の女神から召喚された「最後の召喚者」と称して、ガノーに戦いを挑む。
魔術の王と獣魔の王
ガノー・アズマがカイナに敗れて死亡したという情報は、ほかの地域を支配している異世界召喚者たちにも知れ渡る。「天命の王」の呼び名で知られるフミヤ・フジミヤは、ロディニア連邦国に面識のある異世界召喚者たちを招集し、円卓神議を開催する。そして、「召喚者狩り」であるカイナを共通の敵に定めて、彼女を仕留めるまでのあいだ協力し合うことを提案し、これを承認される。一方、カイナとジズは、魔術の王であるホノカ・サクラの領地「賢者の塔」にたどり着いていた。ジズは、ガノーとの戦いで力を使い果たして子供の姿に戻ったカイナの代わりに、召喚の女神の情報を収集すべく塔の中を巡るが、そこで偶然ながらホノカと遭遇する。ジズの見せる優しさに感激したホノカは、賢者の塔の案内を買って出て、ホノカを異世界召喚者だと知らないジズもこれに応じる。ホノカにすっかり気に入られたジズは、彼女から賢者の塔の各階層を自由に移動するための転移結晶(小)をプレゼントされる。だが、賢者の塔にリュート・アソラが現れたという情報が入り、ホノカはその対応のためにジズと別れて本拠へと戻る。リュートは賢者の塔に無差別に攻撃を仕掛け、それに抵抗しようとしたホノカに対して、カイナを倒すためには手段を選んでいられないとうそぶく。さらにホノカは、ジズがカイナの仲間であることを知り、激しく動揺する。
登場人物・キャラクター
カイナ
「召喚者狩り」および「最後の召喚者」を自称する謎めいた女性。頭部に銃創と思(おぼ)しき大きな傷跡がついているほか、腕や脚には無数の傷がある。その異名の通り、異世界召喚者たちを倒すために召喚の女神から召喚されたと主張しているが、異世界召喚者を狙う理由は召喚の女神からの指示だけではなく、彼らの行う非道が許せないためである。男勝りな性格で口も悪いが、一度仲間と認めた相手に対しては親身に接するため、人望は厚い。ふだんは漆黒のローブに身を包んだ幼い少女だが、異世界召喚者と戦う際は体組織を変化させて大人の女性の姿になる。「異世界召喚体質」と呼ばれる特殊な体質の持ち主で、11万8742回もの転生を繰り返し、現在に至る。転生した先では、地獄のような戦場を駆け抜けてきたことも少なくなく、そのたびに自らを鍛え上げてきた。その結果、現在では40キロの道を10分で踏破するほどの身体能力や、異世界召喚者であるガノー・アズマを一方的に追い込んだり、多頭蛇や原海粘性体を素手で葬り去るほどの戦闘能力を獲得するに至る。ただし、不完全な状態で召喚されたため、戦闘の際は莫大なエネルギーを消費し、戦闘が終わるとしばらくのあいだ子供の姿に戻って力を発揮できなくなる。このことから、戦う相手は異世界召喚者に限定され、基本的には仲間が危機に陥っても、サポートに徹さざるを得ない。力を失ったままゴヴァノンで倒れていたところでジズと出会い、親しくなる。当初は子供の姿であったうえに、ゴヴァノンの治安が最悪であったために、浮浪者の一人程度にしか認識されていなかった。しかし、ジズがガノーに追い詰められると、本来の目的である召喚者狩りを達成するために大人の姿に変化し、ガノーを打ち倒す。ゴヴァノンに平和が戻ってからは、ジズの願いを受けて彼の同行を許可し、休んでいるあいだの情報収集を任せるようになる。
ジズ
離れ離れになった姉の行方を追って旅をしている少年。目的のためなら暴力や暴言を受けることをいとわない忍耐力と、危険を省みずに飛び出す行動力を持ち合わせる。また、感情のコントロールが上手(じょうず)なうえに、異世界召喚者であるガノー・アズマからも名前を覚えられているほど。だが、実際は自分を含めた民衆を虐げている異世界召喚者や、その手下たちを快く思っていない。姉の情報を求めてゴヴァノンの街で滞在していたところで、力を失ったカイナと出会い、介抱する。その矢先にガノーが魔剣を使って住民たちの虐殺を始めて、ジズ自身も絶体絶命の危機に陥るが、力を取り戻したカイナに助けられ、彼女がガノーを倒すところを見届ける。ゴヴァノンに平和が戻ってからは、命を助けられた礼としてカイナの異世界召喚者狩りに同行することを決める。
召喚の女神 (しょうかんのめがみ)
異世界から住人を召喚している存在。美しい容姿を備えており、ホノカ・サクラからは理想の女性として崇(あが)められている。召喚した相手に対して、いつか訪れる「滅び」から世界を守る契約を交わし、その見返りとして反則技能を一つ授けている。だが、反則技能の力に魅せられた異世界召喚者たちは契約を無視して身勝手に振る舞うようになり、フミヤ・フジミヤが異世界召喚者だけで構成されたギルド「異世界神界」を立ち上げたことで、異世界召喚者たちの暴走に拍車がかかることとなった。挙句の果てに、異世界召喚者の手によって肉体と精神を分離させられたが、最後の手段として、精神体に残された力の大半を使ってさまざまな世界を巡っていたカイナを召喚し、ほかの異世界召喚者たちを止めるように依頼する。現在は行方不明とされているが、身体は賢者の塔の一室に保管されている。
ガノー・アズマ
異世界召喚者の青年。「鍛冶の王」の異名を持つ。かつて異世界で「賀能電機工業」と呼ばれる会社を営んでいたが、あまりに先進的なアイデアを他者からまったく理解されず、没落したという過去を持つ。このことから自己顕示欲が異常なまでに強い。召喚の女神に召喚されたばかりの頃は、本気で住民たちの役に立つことで自らが必要とされると信じており、生命剣のような真っ当な特殊魔法器具を作り出していた。しかし、召喚の女神から授けられた工匠神の御手の力に次第に溺れていき、さらにフミヤ・フジミヤが主催する異世界神界に加入したことで、異世界召喚者は何をしてもいいと思うようになる。現在は異世界召喚者の中でもひときわ残虐な性格になり、自分の治める領地の人間たちのことを、自らが虐げるための奴隷か、魔剣の素材としか思っていない。一方で、リュート・アソラからは道具屋のような存在に過ぎないと評され、トモエ・ヒウチノからも「油断をするバカ」と言い捨てられるなど、ほかの異世界召喚者からは軽んじられている。
フミヤ・フジミヤ
異世界召喚者の青年。「天命の王」の異名を持つ。他者を統率する力に秀でており、世界の中心であるロディニア連邦国を治めているうえに、「冒険者ギルド」というシステムを自力で立ち上げたことから「総統主」と呼ばれて慕われている。さらに、異世界召喚者で構成されたギルド「異世界神界」のマスターを務めており、リュート・アソラやホノカ・サクラなど、ほかのたちからも一目置かれている。一方で、異世界召喚者は力があるから何をやってもいいという歪(ゆが)んだ思想に取りつかれており、ほかの異世界召喚者たちが好き勝手に暴れるようになったのも、フミヤ・フジミヤの暗躍によるところが大きい。用心深い一面を備えており、ガノーがカイナに殺害されるとすぐに円卓神議を開催し、自分たちの脅威となるであろうカイナを抹殺することを提言する。
リュート・アソラ
異世界召喚者の青年。「獣魔の王」の異名を持つ。レギオンラットや原海粘性体といった魔獣を自在にあやつることができるほか、「獣魔戦士団」と呼ばれる獣人のみで構成された軍団を組織、統率する。気取った性格の多い異世界召喚者の中では異例と言えるほどの粗野な性格の持ち主で、女性や女性に好かれようとする人間のことを特に嫌っている。リュート・アソラ自身も女性から嫌われており、ホノカ・サクラからは怯(おび)えられ、トモエ・ヒウチノからは「クソ獣」と呼ばれ、スキがあれば殺害したいと考えるほど憎まれている。獣人や魔獣に対する差別意識はいっさいなく、彼らからは強い敬意と忠誠心を向けられている。一方で、人間は醜い存在と考えており、よその国の人間を魔獣のエサにすることも平然と行う。これは、召喚される前に動物の愛護を志していたところ、金に目がくらんだ仲間たちに裏切られて極度の人間不信に陥ったことに由来する。そのため、リュート自身もふだんは人間の姿をしているが、体組織は既に魔獣や獣人と同質のものとなっている。円卓神議では、フミヤ・フジミヤの提言からカイナの打倒とゴヴァノンの壊滅を依頼される。そして、カイナが現在滞在中と思しき賢者の塔に乗り込むが、そこで身勝手に振舞うことで統治者であるホノカとトラブルになってしまう。
トモエ・ヒウチノ
異世界召喚者の女性。「錬金の王」の異名を持つ。頭部に2本の角が生えており、ふだんは帽子をかぶってそれを隠している。自分勝手な性格の持ち主で、ある国の国民全員を洗脳して、自分を教祖とした宗教国家に作り変えて支配している。錬金術を趣味としており、さまざまな道具を独自に開発するが、その中には反物質ポーションのような、恐るべき効果を持つものもある。ほかの異世界召喚者を快く思っておらず、ガノー・アズマやホノカ・サクラを見下しているうえに、リュート・アソラのことは、スキがあれば殺害したいと考えるほどに嫌っている。フミヤ・フジミヤのことも快く思っておらず、彼が組織した異世界神界も、仕方なく所属したと公言する。
ホノカ・サクラ
異世界召喚者の女性。賢者の塔を治めている。重力魔術や落下速度調整など、魔法に類する特異技能を多く使いこなすことから「魔術の王」の異名を持つ。肉弾戦は得意ではないが、つねに自動回避と魔術障壁がかかっているため、物理攻撃への耐性は高い。召喚の女神に心酔しており、彼女の身体を自室に保管している。召喚される以前にいじめを受けており、再びその境遇に落とされることを恐れている。そのため、自分の地位を脅かそうとする存在は、あらゆる手を使ってでも排除しようと考えている。その反面、自分に忠実な人間に対しては情が深く、臣下や市民たちからは慕われている。また、召喚される前に触れていた文化を広めることにも抵抗がない。フミヤ・フジミヤからは信頼されているが、個人主義のリュート・アソラやトモエ・ヒウチノからは見下されている。ガノー・アズマが倒されたことをきっかけに円卓神議に呼ばれて、異世界召喚者の脅威となったカイナが賢者の塔に来る可能性が高いことを示唆され、彼女の迎撃をするようせまられる。のちに召喚の女神の情報を集めているジズと出会い、彼の優しさに好感を抱く。だが、その矢先に彼が異世界神界の討伐対象であるカイナの仲間であることを知り、苦悩する。
ノリバ
ドワーフの男性。ゴヴァノンの街で、ガノー・アズマが人狩りに集めさせた奴隷の監督を務めている。奴隷たちに対して意味もなく暴力を振るうなど、横暴な振る舞いが目立ち、ジズたちから嫌われている。ガノーからはぞんざいに扱われており、その待遇は奴隷たちと大して変わらない。ドワーフだけあって鍛冶(かじ)の腕は確かなもので、かつてはゴヴァノンの工房主幹を務めていた。だが、ガノーに制圧されたことで職を追われ、奴隷監督官の役割を押し付けられる。そのため、ガノーのことを快く思っておらず、奴隷たちに対して辛く当たるのも、抑圧された反動によるものである。ガノーとカイナの戦いで街が荒れると、どさくさ紛れに奴隷に襲われ、息子と娘ともども殺害されそうになるが、ジズに助けられる。ガノーが討伐されてからは、今までの暴虐をジズに謝りつつ生命剣についての情報を提供する。そして、カイナに賢者の塔に向かうための馬車を貸し与えて、その出立を見送る。
獣魔戦士団長 (じゅうませんしだんちょう)
リュート・アソラに付き従っている獣人の青年。ライオンのような顔を持ち、獣人のみで構成された戦闘集団である「獣魔戦士団」の団長を務めている。かつて仲間と共に虐げられていた過去があり、その張本人である人間を憎んでいる。一方で、人間でありながら魔獣や獣人を重用するリュートに強い忠誠心を抱いており、彼のためなら異世界召喚者と真っ向から戦うこともいとわない。リュートの神獣御使いの咆哮で強化されているうえに、完全魔術耐性を付与されているため、魔法を得意とする敵に対しては無敵の強さを発揮する。のちに、異世界神界から離脱したホノカ・サクラを倒すべく、賢者の塔に送り込まれる。
レギオンラット
リュート・アソラが使役している魔獣の一種。ふだんはリュートの影の中に隠れており、彼が呼び出すことでその姿を現す。単体では大した力を発揮しないが、神獣御使いの咆哮を受けることで狂暴化し、大量の同属と連携して、目の前の物体を広範囲にかけて破壊しつくすほどの凄(すさ)まじい攻撃力を発揮する。カイナの姿をあぶりだそうとするリュートの命令を受けて賢者の塔で暴れ回り、彼の思惑通りカイナをおびき出すことに成功する。
原海粘性体 (あぷすすらいむ)
リュート・アソラが使役している魔獣の一種。リュートが最初に獣魔契約で仲間に引き入れたスライムが神獣御使いの咆哮で強化された個体で、リュートに対して高い忠誠心を持っている。かつてはほぼ無害な魔獣だったが、現在は有機物、無機物を問わず飲み込んで消化する危険な存在として警戒されている。身体も非常に大きく、その気になれば国一つすら消化するほどの脅威と恐れられた結果「国吞み」と呼ばれるようになる。ホノカ・サクラが異世界神界から離脱したことで、彼女を反逆者と認定したリュートが、獣魔戦士団長や多頭蛇と共に賢者の塔に差し向ける。
多頭蛇 (ひゅどら)
魔獣の一種。蛇のような形状を持つ。複数の頭部を有することから「多頭蛇」と呼ばれている。かつてはリュート・アソラが使役していたが、現在は彼から獣魔戦士団長に所有権が譲渡されている。ホノカ・サクラが異世界神界から離脱したことで、彼女を反逆者と認定したリュートが獣魔戦士団長に命じて、彼と共に賢者の塔を壊滅させるために動き出す。そして、ホノカの臣下や賢者の塔の住民に襲い掛かるが、カイナによって阻止される。
ノリス
農夫の青年。農村で老いた母親と共に暮らしている。母親思いの努力家で、午前中に農作業を済ませ、午後は主に家事と母親の世話をしている。故郷は異世界召喚者の毒牙にかかることはなく、長らく平和に暮らしていたが、ある時、リュート・アソラの率いる魔獣たちに襲われ、母親を連れて逃亡することを余儀なくされる。それにもやがて限界が訪れて絶体絶命の危機に陥るが、リュートを追ってきたカイナに助けられる。
集団・組織
人狩り (ひとかり)
異世界召喚者が率いている部隊の一つ。指定された人間の身柄を拘束し、主に差し出すことを任務としている。人狩りに捕まると、大抵の場合は奴隷として扱われることになるほか、ゴヴァノンでは魔剣の素材として利用されるなど、酷(ひど)い場合は命すら奪われることもある。
異世界神界 (えりゅしおん)
フミヤ・フジミヤが結成した冒険者ギルド。異世界召喚者のみで構成されている。主な目的は、異世界召喚者同士で争わないようにすることで、すべての異世界召喚者が自分勝手に動いても不都合のない状態を維持することである。ただし、トモエ・ヒウチノなど、異世界神界に加入することで自由を制限されたと訴える異世界召喚者もいる。フミヤは、八人の異世界召喚者がギルドに揃(そろ)っているあいだは、自分たちを脅かす存在は存在しえないと考えていた。しかし、ガノー・アズマがカイナに殺害されたことでそのバランスが崩れたと認識すると、相互不可侵からカイナを倒すために、一時的に提携する方針に転換するよう提案し、ほかのメンバーからもこれを承諾される。
場所
ゴヴァノン
ある工匠国の首都にあたる都市。かつてはドワーフをはじめとした鍛冶師たちが集うことで栄えていたが、ガノー・アズマが領主の座についてからは、ほとんどの市民が奴隷のような生活を強いられているほか、中にはガノーに選ばれた人間が、身体を魔剣の素材にするために殺害される事態まで発生する。その影響から治安は悪く、姉の情報を得るために潜入していたジズからははっきり嫌われている。だが、カイナがガノーを倒すと、彼の圧政から解放されたことでかつての平和が戻る。
賢者の塔 (けんじゃのとう)
ホノカ・サクラの居城。外気を取り入れて換気を行う壁や、外の様子をつねに映し出す天井など、随所に魔法の力が活かされている。また、彼女が治める国をそのまま内包しているうえ、移動の際に必要となる転移結晶(小)が国民全員に与えられており、ゴヴァノンと比較すると明らかに暮らしやすい国となっている。最上階にはホノカのプライベートルームが存在し、そこには精神を分離させられた召喚の女神の身体が保管されている。円卓神議でガノー・アズマが倒したカイナが次に訪れる場所であることが示唆されると、リュート・アソラが滞在して、ホノカと共に彼女を迎え撃つよう指令が下る。だが、リュートがカイナを倒すために、レギオンラットを暴れさせるなどの強硬手段を取り始めたことで、住民たちの身に危機が訪れる。
ロディニア連邦国 (ろでぃにあれんぽうこく)
大陸の中央部に存在する大国。冒険者ギルドをはじめ、すべてのギルド本部が存在しており、国主を務めるフミヤ・フジミヤがそれらすべてを取り仕切っている。また、彼の提案によって異世界召喚者のみで構成された異世界神界が結成されており、有事の際は冒険者ギルド本部でもあるフミヤの居城で円卓神議が行われる。すべてのギルドの中心であることから非常に栄えており、フミヤも過剰に住民を虐げていることはない。だが、フミヤ自身はおろか、異世界召喚者は全員が神にも等しい力を持っていると教えられており、ガノー・アズマが死亡したことを知らされた時は、大きな衝撃が走っていた。
その他キーワード
鑑定片眼鏡 (あならいずものくる)
ガノー・アズマが作り出した特殊魔法器具の一つ。左目にかけることで、視界に入った生物の能力を鑑定する機能を発揮する。鑑定できる能力は、力を示す「STR」や器用さをあらわす「DEX」など多岐にわたり、ガノーは鑑定した相手の能力に応じてAからEまでの評価を脳内で即座に下すことができる。なお、ガノーが鑑定片眼鏡を愛用しているのは、能力の高い人間を魔剣の素材として利用するためである。カイナに対して使用した時は、彼女があまりに高い能力を有するため測り切れず誤作動を起こし、表示された能力値にバグが発生してしまう。
生命剣 (らいふ)
ガノー・アズマが工匠神の御手を使って作り出した魔剣の一つ。使用者と命を共有して共に成長するという特性と、回復力と身体能力を増幅する効果を持つ。ガノーからは失敗作とみなされており、早々に飽きられて宝物庫の中に打ち捨てられていた。だが、ガノーが騒動を起こしたスキをついて宝物庫に忍び込んだカイナに奪取され、そのままジズに与えられる。カイナがガノーを倒したあとは、戦いの中で傷ついたジズの回復を行うと、正式に彼を所有者と認める。なお、生命剣は素材に人間を使っておらず、かつてはガノーも正しい心を持っていたことが示唆されている。
兵器剣 (だいんすれいゔ)
ガノー・アズマが工匠神の御手を使って作り出した魔剣の一つ。地面に突き立てることで、ガノーが望むありとあらゆる兵器に変化させられる。戦車や巨大ロボットなど、兵器剣自体よりはるかに大きな兵器に変化させることも可能で、変化した兵器はガノーが触れている限り、思いのままに操縦できる。硬度も凄まじく、並の攻撃では傷一つつけることができない。ただし、ほかの魔剣で攻撃された場合は例外で、カイナがジズに手渡した生命剣による攻撃で、戦車の脚部を破損したこともある。カイナに侮辱されたことに憤ったガノーの手により、腹いせとしてゴヴァノンの市民を虐殺するために使用される。
アダマスの騎士 (ないとおぶあだまんたいと)
ガノー・アズマが作り出した特殊魔法器具の一つ。魔剣と同様に、複数の人間の遺体が素材として利用されている。黄金でできたフルプレートアーマーのような形状をしており、構成するパーツには瞬足加速や物理反射など、実に7種類もの特異技能が付与されている。防御能力は、胸当てに付与されている物理反射だけでまかなえるため、本来は全身に身に着ける必要はない。全身鎧(よろい)である理由は、多くの特異技能を自らの負担を伴わずに駆使するためであり、このことから攻防一体の効果を発揮するアイテムといえる。ガノーはアダマスの騎士を自らの最高傑作と考えており、「世界最高最強の神の装備」と自画自賛する。一方でカイナは、「女神から与えられた反則技能を利用した、努力の真似事(まねごと)の産物に過ぎない」と酷評する。当初は、彼女の素手による攻撃を物理反射で防いでいたが、やがて半壊に追いやられてしまう。
反物質ポーション (はんぶっしつぽーしょん)
トモエ・ヒウチノが錬金術によって作り出した特殊魔法器具の一つ。密閉されたフラスコに封入されており、黒色の液体のような形状をしている。フラスコを開封することで、容積を一気に増大させながらあふれ出し、触れたものを完全に消滅させる効果を持つ。トモエはこのアイテムを、気に入らない存在を消し去るために開発したと語っており、嫌っている存在の一人であるリュート・アソラと会うことを想定して、異世界神界の会場へと持ち込む。その中で、リュートから挑発を受けたことで、彼を始末するために発動させる。その威力はすさまじく、ロディニア連邦国の住民や建造物を次々と消滅させていくが、リュートに対しては、彼が引き連れていた魔獣に阻まれ、命中させられなかった。
転移結晶(小) (てんいけっしょうしょう)
ホノカ・サクラが作り出した特殊魔法危惧の一つ。手のひらに収まる程度のサイズで、賢者の塔の各所に配置されている「転移結晶(大)」に反応させることで、使用者を別の転移結晶(大)の前にテレポートさせる能力を持つ。ホノカの意向により、賢者の塔の住人全員に支給されている。一方で、住人以外が所有することは基本的に許されていないが、ホノカが偶然遭遇したジズを気に入ったため、特例として彼に一つ譲渡してしまう。
特殊魔法器具 (ゆにーくあいてむ)
魔法の力を秘めた特殊な道具の総称。魔剣や反物質ポーションといった攻撃用のものや、鑑定片眼鏡、アダマスの騎士、転移結晶(小)のような、魔法を使う補助のために用いられるものなど、その用途は多岐にわたる。異世界召喚者は召喚される前の知識を駆使して性能の高い特殊魔法器具を作ることが可能で、このことも現世の住民たちから異世界召喚者が畏怖される理由の一つとなっている。特殊魔法器具の作成に直接かかわる反則技能である工匠神の御手を付与されたガノー・アズマは、特殊魔法器具の製作を生きがいにするようになり、統治しているゴヴァノンの住民を殺害して魔剣の素材にするなどの暴挙に及んでいる。
異世界召喚者 (いせかいしょうかんしゃ)
召喚の女神の手によって異世界から呼ばれた人間たちを示す名称。数年前より現れ、全部で八人存在する。女神から反則技能を与えられていることから「反則召喚者」とも呼ばれ、ほかの人たちとは比較にならない力と知恵を誇る。召喚の女神とは、反則技能を付与する見返りとして、やがて訪れる脅威に立ち向かう契約を交わす。だが、現在は与えられた反則技能を自分の欲望のために使い、召喚の女神との契約を破ったあげく、もとから存在していた国を占領したうえで富を独占するようになる。かつては八人全員が好き勝手に行動していたが、フミヤ・フジミヤが万一の事態に備えて異世界召喚者専用のギルドである異世界神界を立ち上げており、ほかの異世界召喚者もやむなくそこに加入する。なお、ほぼ全員が召喚前は悲惨な境遇にあったことが判明しており、このことも彼らの人格が歪んでしまった一因であると見られている。
魔剣 (まけん)
ガノー・アズマが工匠神の御手を使って生み出した、武器の形をした特殊魔法器具の総称。かつては生命剣のように、純粋な異世界の金属で作られていたが、工匠神の御手の力におぼれたガノーはその素材に人間の死体を使うようになり、皮肉にもそれが功を奏してさらに強力な魔剣が生み出される。なお、ガノーは「魔剣」と名づけているが、兵器剣のような剣以外の形状を持つ魔剣も存在する。
反則技能 (ちーとすきる)
召喚の女神が、召喚した異世界召喚者に対して付与する特殊能力。修得条件の関係上、異世界召喚者以外の人間には決して使うことができない。その効果は、工匠神の御手や神獣御使いの咆哮など、創造や強化をつかさどるものが多く、応用することで現存しているあらゆる技能を凌駕(りょうが)する性能を発揮できる。召喚の女神は、この能力を付与する見返りとして、世界を守る役割を担うよう契約を交わす。だが、力におぼれた異世界召喚者たちは、召喚の女神との契約を忘れて思いのままに振る舞うようになる。これに伴い、反則技能は皮肉にも世界にとっての脅威となってしまう。
特異技能 (ゆにーくすきる)
反則技能に次ぐ性能と希少性を有している特殊能力の総称。本来は1000万人に一人が使いこなせるといわれており、これを使える人間は「英雄」や「賢者」と呼び讃えられる。だが、現在は異世界召喚者自身はもちろん、彼らの祝福を受けることで、ある程度の力を持つ者なら誰でも使えるようになる。これに目をつけた異世界召喚者自身たちは、自らに忠誠を誓う存在に強力な特異技能を与えて、意のままに動く軍団を編成している。なお、特異技能の下位互換として、10万人に一人使えるという「アンノウンスキル」や、1000人に一人が使用できる「レアスキル」、練習すれば誰でも使える「コモンスキル」などが存在する。
工匠神の御手 (とばるかいんずはんど)
ガノー・アズマが召喚の女神から与えられた反則技能。右手に携えた鎚(つち)を構えることで発動し、あらゆる物質を素材にして融合し、ガノーが望む武器に変化させることができる。ガノーは、工匠神の御手で創造した武器を「魔剣」と呼んでおり、コレクションしている。生物を素材にする場合、複数の人間の死体を利用するほど強力な魔剣に仕上がる傾向にある。そのため、ゴヴァノンでは何人もの住民が殺害され、その素材にされている。副次効果として物質を分解させることも可能で、ガノーはこの特性を応用し、周囲に存在するあらゆる物質を分解、消滅させる最大の必殺技「原始分解圏(ディスインテグレート)」を修得する。
瞬足加速 (ぶーすとへいすと)
ガノー・アズマがまとうアダマスの騎士の脛(すね)当ての部位に付与されている特異技能。使用者自身の移動速度を上昇させる効果を持ち、ガノー自身が引き起こした地割れを追い抜くほど。カイナとの戦いでは、衝撃波で彼女を吹き飛ばすと同時に発動する。そして、カイナが吹き飛ぶ速度以上の加速を利用して背後に回ることに成功した。
完全魔術行使 (ますたーまいもん)
ガノー・アズマがまとうアダマスの騎士の前腕当ての部位に付与されている特異技能。前腕当てが装着されている左手を前方にかざすことで、ガノーが知る魔法を使いこなせる。カイナとの戦いでは、瞬足加速で彼女の背後を取り、そのスキを突いて、巨大な炎を放射する「炎熱焔嵐(フレアストーム)」を発動する。その威力はすさまじく、ゴヴァノンの街の一角を完全に炎で包み、その場にいた住民を蒸発させるほどだったが、カイナには通用しなかった。
物理反射 (そりっどみらー)
ガノー・アズマがまとうアダマスの騎士の胸当ての部位に付与されている特異技能。ガノーがアダマスの騎士を着ているあいだはつねに発動しており、敵対者から攻撃が繰り出された場合、自動的に魔法陣のような形をした円形の防壁が発生し、これを防ぐことができる。「物理反射」と名づけられているものの、実際には攻撃を受け止めるだけで、敵に向けて跳ね返すことはできない。発揮される防御力はすさまじく、カイナの拳による攻撃を受けきるほど。
上級鑑定 (はいあならいず)
ガノー・アズマがまとうアダマスの騎士の兜(かぶと)の部位に付与されている特異技能。鑑定片眼鏡と同様、視界に入った人間の能力を鑑定できる。鑑定片眼鏡より正確な鑑定が可能で、鑑定を妨害する魔法を無力化することもできる。さらに、対象本人も知らない秘密や弱点も暴き出せる。鑑定片眼鏡で鑑定した能力にバグが発生したことから、改めて戦闘相手になったカイナに使用される。だが、導き出された能力値はガノーの想像を絶するほど高く、この事実に動揺したガノーはスキを作ってしまう。
天候支配 (てんぺすとどみねーたー)
ガノー・アズマがまとうアダマスの騎士の喉当ての部位に付与されている特異技能。発動させることで、周囲の天候をガノーが望んだものに変化させられる。ほかの技能と同時に使うことも可能で、カイナとの戦いでは、上空に巨大な雷雲を呼び寄せたうえで、完全魔術行使の技能を用いた魔法「極大雷霆雨」を発動し、ゴヴァノンの街を激しい稲光で包み込む。その様子は、遠くから目撃したジズから「まるで地獄だ」と言われるほど凄惨なものだったが、それでもなおカイナに手傷を負わせることはできなかった。
空間固定 (しーるろっく)
ガノー・アズマがまとうアダマスの騎士の肩当ての部位に付与されている特異技能。「隔絶空間」と呼ばれる対象を特殊な空間で包み込み、その中の時間を停止させられる。時間停止の影響を受けた相手はいっさいの動きを封じられ、そのあいだに攻撃を受けても気づくことはない。効果中に致命傷を受けた場合、いっさいの苦痛を味わうことなく死を迎えるため、ガノーはこれをせめてもの慈悲であると主張する。
次元斬 (ぐりっどすらっしゅ)
ガノー・アズマがまとうアダマスの騎士の手甲の部位に付与されている特異技能。左手に特殊なエネルギーを凝縮させて、そのまま敵めがけて突き刺す。次元ごと貫通し、いかなる防御も無効化する特性を持つ。ガノーは、空間固定で停止させた敵に対して次元斬を放ち、防御も回避もできないまま葬り去るという連携攻撃を得意としている。カイナとの戦いでも同じ戦法で仕留めようとするが、カイナが自力で空間固定を解除させたため、その目論見は外れてしまう。
神獣御使いの咆哮 (けるぬんのすろあ)
リュート・アソラが、召喚の女神に与えられた反則技能。使用された種族が持つ可能性と才能を増幅し、個体の限界を超える力や本来持ちえない特性を付与することができる。リュートは、獣魔契約で手なずけた魔獣にこれを使うことを好んでおり、これを用いてレギオンラットを著しく強化したほか、小型のスライムを原海粘性体に変化させている。
獣魔契約 (ていむ)
リュート・アソラが使用する特異技能の一つ。魔獣と意思を疎通させ、使役できるようになる。人間より獣を好むリュートは、獣魔契約を使いこなすことで魔獣を次々に手なずけていき、やがて強大な軍団を組織することに成功する。なお、リュートが最初に獣魔契約を使用したスライムは、現在は神獣御使いの咆哮で原海粘性体に進化している。
重力魔術 (ぐらびじす)
ホノカ・サクラが使用する特異技能の一つ。眼前に展開した魔方陣を中心に強い重力を発生させ、周囲の動きを封じることができる。異世界召喚者であるホノカが駆使するだけあって、同じ異世界召喚者であるトモエ・ヒウチノやリュート・アソラがまったく動けなくなるほどの威力を発揮する。そのため、トモエからは名前を覚えられるほど警戒されている。
落下速度調整 (ふぉーりんこんとろーる)
ホノカ・サクラが使用する特異技能の一つ。重力魔術を応用した能力で、落下する際の降下速度を軽減できる。高所から投げ出されるなどの被害に対応するために利用されることが多く、カイナと原海粘性体の戦いに巻き込まれて賢者の塔の上層から投げ出された民衆たちの命を救うため、この技能が使用されたこともある。
自動回避 (おーとあゔぉいど)
ホノカ・サクラが使用する特異技能の一つ。敵の攻撃が接近した際に自動的に発動し、ホノカ自身の身体を敵の攻撃範囲から外れるよう移動させる。すばやい攻撃を確実に回避できるわけではないが、身体が敵の攻撃から離れていくために、致命的な一撃を受ける可能性は極めて低くなる。発動条件が同じ魔術障壁とは、併用が前提となっている。両方の魔法がつねにかかっているホノカは、物理攻撃に対して鉄壁の防御力を有しているといえる。
魔術障壁 (まじっくぷろてくしょん)
ホノカ・サクラが使用する特異技能の一つ。敵の攻撃が接近した際に自動的に発動し、ホノカ自身の身体を魔法の障壁で包む。ホノカはこの魔法を自動回避と同時に発動できるため、大抵の攻撃はこれらを併用することで無効化できる。しかし、完全魔術耐性がかかっている獣魔戦士団長の攻撃に対しては無力で、彼との戦いではこれが原因で負傷してしまう。
完全魔術耐性 (あんちまじっく)
獣魔戦士団長が、リュート・アソラより付与された特異技能の一つ。戦闘時はつねに発動しており、魔法による干渉をいっさい無効化する。この効果により、獣魔戦士団長の攻撃に対して魔術障壁は意味をなさず、さらに魔法による攻撃もいっさい通用しない。獣魔戦士団長は、この特異技能を魔法使いの天敵と表現しており、ホノカ・サクラとの戦いで、「いかに異世界召喚者であっても打ち破ることはできない」と豪語する。
円卓神議 (らうんずおぶごっず)
ガノー・アズマが殺害された事態を受けて、フミヤ・フジミヤが異世界神界のメンバーを招集して開催した会議。フミヤはこの会議の中で、ガノーを倒したカイナが異世界召喚者全員の脅威になると考え、彼女を倒すまでは異世界召喚者同士で協力するべきと説き、リュート・アソラとホノカ・サクラの二人に、カイナの打倒とガノーが倒れたことで危険因子となったゴヴァノンの壊滅を依頼する。なお、この会議にはフミヤを含めて七人の異世界召喚者が集ったが、残りの一人はフミヤの仕事を手伝うという理由から欠席する。
書誌情報
チートイーター異世界召喚尽く滅ぶべし 4巻 竹書房〈バンブーコミックス〉
第2巻
(2022-10-06発行、 978-4801978607)
第3巻
(2023-07-06発行、 978-4801980891)
第4巻
(2024-04-06発行、 978-4801982901)