ハイパーインフレーション

ハイパーインフレーション

奴隷階級の民族として生まれた少年・ルークは、ある日、神から「体からカネを生み出す能力」を授かる。自らを迫害していた世界に対し、贋金を武器に経済的に成り上がっていくルークの姿を描く、ファンタジー頭脳バトル。集英社「少年ジャンプ+」で2020年11月27日から掲載の作品。「次にくるマンガ大賞2021」Webマンガ部門で第6位を獲得。

正式名称
ハイパーインフレーション
ふりがな
はいぱーいんふれーしょん
作者
ジャンル
ファンタジー
レーベル
ジャンプコミックス(集英社)
巻数
既刊6巻
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あらすじ

奴隷階級とオークション

奴隷狩りによって両親を失ったガブール人ルークは、姉のハルと共に力強く生きていた。ハルはガブール神の巫女となり、ルークは金の純度が高いガブール金貨を偽造して、贋金で他民族と商売を行い、カネや金(きん)を溜め込んでいた。ヴィクトニア帝国の大奴隷商人と呼ばれるグレシャムは、商品として奴隷を確保するため、親帝国派のガブール人の首長をそそのかし、ガブール人によるガブール人の奴隷狩りを始める。捕らえられたルークは、ハルがオークションに出品されることを知り、ハルが連れて行かれるのを阻止しようとするが銃で殴られて気絶してしまう。気絶したルークは夢の中でガブール神に会い、ガブール人が持つ特殊能力を授かる。その能力は「カネを体のどこからでも出現させる能力」。捕らえられて集められた場所でガブール人のレジャットと出会い、「ハルの救出」と「ガブール人の解放」のための作戦を練る。カネを出現させる能力を持つルークは、見張りを買収して暗がりで殴り倒し、入れ替わることで反乱を起こそうと画策する。ヴィクト語が話せるのはルークとレジャットしかいないため、レジャットを残し、ルークはハルを競り落とすためにオークション会場へ向かう。オークションに飛び入りで参加した大金を持つガブール人の子供を怪しみ、フラペコは贋金や盗んだ金かと疑うものの、ルークの機転で贋金の疑いが晴れる。一方、オークションを主催した強欲なグレシャムは、カネを惜しげもなく使うこの少年の出現に落札金額の高騰を予感し、ルークの参加を認める。ヴィクトニア帝国の金持ちや、ガブールの首長を相手にルークはカネを積み続け、ハルへの入札額は前代未聞の金額へと跳ね上がる。もはやハルの落札は、カネの問題でなく、上流階級のプライドを賭けた勝負へと変貌していた。見張りの者もギャラリーとして集まり、オークションは熱狂に包まれていくのだった。

チキンゲーム

ルークフラペコから、ハルが一足先にヴィクトニア帝国へ売られた事実を聞き出し、反乱によって解放されたガブール人たちと共にグレシャムの奴隷船を奪い、帝国へと向かう。フラペコに操船を任せ、積荷に紛れていたダウーの嗅覚を頼りに、ルークはハルを捜す決意を固める。一方のグレシャムは、自らの財宝や奴隷をあきらめておらず、フラペコにガブール人を乗せた船と海上で落ち合う指示を出していた。唯一操船できるフラペコは、ガブール人たちを言葉巧みに誘導し続け、ついに合流地点に到着し、ルークの船とグレシャムの船が接近する。そして、武装したグレシャムの船から大砲が奴隷船に撃ち込まれる。財宝と奴隷を奪取しようともくろむグレシャムに対し、ルークとレジャットは、フラペコをはじめとした奴隷船に乗っていたグレシャムの部下を人質に取り、近づかないように脅迫する。脅しにビビって船を止めればグレシャムの負け、近づく船にビビって脅しを止めればルークの負け、という構図が出来上がる。人質では脅しの効果が薄いと感じたルークは、グレシャムの財宝を次々に海へと投げ捨てる。初めは何食わぬ顔で強硬な姿勢を見せていたグレシャムだったが、ルークとレジャットのコンビプレーにより、破棄と破壊される財宝が多くなるにつれてグレシャムの顔色が変わっていく。そして、財宝を捨てたガブール人の腕を銃で吹き飛ばし、自分の姿勢を貫こうとする。ルークは物陰から財宝を捨てるようにガブール人に命じ、ここが奴隷として生きるかどうかの正念場だと檄を飛ばす。撃たれて頭を吹き飛ばされるガブール人がいてもなお、財宝の破棄を止めないルークとレジャットを「狂人コンビ」と罵りながら、グレシャムも腹を括る。そこに脱税したカネがたんまり入った金庫を抱えたルークが現れ、甲板の縁に立つ。青ざめるグレシャムを前に大量の現金が舞いながら、海へと消えていく。

商談

一旦、危機を脱したルーク一行だったが、グレシャム側には大砲や銃が豊富にあることから、まだ主導権はグレシャムにあった。そこでルークはフラペコを介して、グレシャムと話し合いの場を設ける。ガブール人側からは、ルーク、レジャットダウーハルにそっくりな自動人形がグレシャムの船に赴き、グレシャム商会側からは、グレシャムとフラペコがテーブルに着く。ガブール人側は財宝を盾に、グレシャム商会側は武力を背景とした「商談」が開かれる。グレシャムは、この船が「私掠船」であることを明かし、政府公認で略奪行為を許された存在であると告げる。そんな中、ハル人形を触ろうとした水夫がダウーにぶっ飛ばされ、武力で商談を有利に進めようとしたグレシャムは出鼻を挫かれる。まず、グレシャムからルークに「ガブール人どもをいくらで売るか?」という質問が飛び出すが、ルークはこれを拒否。するとフラペコから、「売ってくれるならハルを取り戻す」という条件が追加される。念書を書いてもいいというグレシャムに対し、ルークとレジャットはこれを信用しなかった。それに業を煮やしたフラペコから「海上保険の保険証券」を見せられる。なんとフラペコは、奴隷船の積荷の中から奴隷貿易を禁止していない国の保険証券を発見していたのだ。その補償内容は「船の積荷」で、奴隷も対象となっており、ガブール人が一人もいなくなっても2億4000万ベルクを受け取れるというものだった。フラペコは「投げ荷」を例に出して説明し、皆殺しも辞さない姿勢を明らかにする。ルークは奴隷船の財宝を盾に反論するものの、グレシャムも、財宝を捨てようとする者は容赦なく射殺すると、皆殺しの姿勢を崩さない。商談は決裂したかに思われたが、ルークは自分の商売の原点が、「双方得をする」ことだと思い出し、グレシャムにもっと得をする方法があると提案する。グレシャムは目を輝かせ、ルークの儲け話に耳を傾ける。ルークは誰も戦わずに、船も財宝も失うリスクのない「入れ替え案」を説明する。しかし、お互いを信用していない状態での話し合いは難しく、グレシャム側は銃器で、ガブール人側は人数とダウーの力で双方制圧可能な状況になるために一時こう着状態となる。お互いに武力を行使しない方法を考えるため、ルークは一度席を外すが、グレシャムとレジャットはこの商談中に、その後の展開を見据えた駆け引きを展開していた。

登場人物・キャラクター

ルーク

ガブール人の少年で、年齢は12歳。白い髪と華奢な体型で、中性的な外見をしている。唯一の肉親は姉のハル。ハルを模した人形に執着するほどのシスコンである。過去にヴィクトニア帝国からの奴隷狩りで両親を失った。生前の両親からヴィクト語の本を読んでもらったり、帝国の文化や文明を教えてもらったりしていた。両親の死後、信仰の対象となったガブール神の役の立たなさを呪い、カネの力を信じるようになる。独学でヴィクト語を学び、金の純度が高いガブール金貨をもとに、金の純度を落としたガブール金貨を錬成して他民族と取り引きを繰り返し、カネを溜め込んでいる。贋金作りに加担した仲間から村のみんなにバレてしまい、投獄されるもののグレシャムが扇動した奴隷狩りによって捕まってしまう。奴隷狩りで殴られて気絶しているあいだにガブール神から「本物と同じ10,000ベルク札を体のどこからでも生み出せる力」を授かる。ただし、能力で生み出した札の番号は、すべて同じである。非常に頭の回転が速く、商談や駆け引きに長けており、自分の要求を通す際には相手のメリットも提示して納得させる話術を身につけている。また、「得になる話か、これ以上損害を拡大させない話か」の見極めがうまく、腕利きの商人であるグレシャムとも対等に渡り合い、商売のパートナーとして誘われるほど。世界をカネで買い、誰からも迫害されないガブール人の国を建国することを夢見ている。グレシャムから解放したガブール人たちからは、英雄として崇められることとなり、レジャットと共に彼らのリーダーとしての立場を得る。ルークは自らを「強欲」だと自認しており、グレシャムの商人としてのスタイルに共感することも多い。世界経済を混乱させるものとして、体からカネを生み出す能力をレジャットに危険視され、ヴィクトニア帝国で解剖されるために身柄を狙われる。

ハル

ガブール人の少女で、ルークの姉。幼い頃にヴィクトニア帝国の奴隷狩りで両親を殺されたため、ルークが唯一の肉親である。長い白髪に非常に整った外見をしている。ガブール人の村で巫女を務めており、罪を犯した者の裁きを下したり、村人のまとめ役を担ったりしている。グレシャムが扇動した奴隷狩りによって捕らえられ、外見の美しさから早々にヴィクトニア帝国へ売り飛ばされた。しかし、見た目のよさでもう一儲けしようと画策したグレシャムにより、ハルそっくりの自動人形がオークションに出品され、ルークの乱入によって落札価格が高騰する。捕らえられた際に、ダウーと知り合って懐かれる。ダウーが心を許す唯一の人物で、ハルの衣服を着た自動人形の匂いを嗅ぐことでダウーは心を落ち着かせている。

グレシャム

神出鬼没な大奴隷商人で、グレシャム商会を経営している男性。年齢は50代後半で、仕立てのいい身なりに頭に宝石を巻き、大柄で恰幅がよい風貌をしている。奴隷貿易が禁止されていながらも、奴隷の密貿易で財を成している。とにかくカネに汚く強欲で、人や物を無意識に鑑定して金額で判断する癖がある。自分にとって得か損かを基準に行動し、どんな事態であろうと儲けるチャンスがあれば相手に金銭を要求する。そのスタンスはルークから「商売ジャンキー」と評されている。豊富な人脈を持ち、犯罪組織や秘密結社、反政府組織などともつながりがある。グレシャム自身よりも財産を大事にしており、自らが負傷しようともカネを守ろうとする。強欲な性格ながらルークからは「得がある限り裏切らない」と逆に信用されている。しかし自らにメリットが薄いと感じれば、平気で商談を反故にする。基本的に人間を信用していないが、フラペコにだけは信頼を置き、さまざまなことを任せている。長年の商人の経験から、試金石を使えば金の純度を正確に判別できる。

フラペコ

グレシャムの右腕的な存在で、奴隷商の実務を取り仕切っている男性。七三に分けた髪型と長いもみあげを蓄え、眼鏡をかけている。言葉遣いは丁寧かつ弱腰な態度で、モブキャラのような雰囲気を漂わせているが、実はとてつもなく優秀な頭脳を持つ。15年前までは、船の積荷を狙うちんけな泥棒だったが、グレシャムの積荷に手を出したことがきっかけでグレシャム商会に所属するようになる。慎重な性格の常識人で、グレシャムが欲に取り憑かれ、命すら捨てようとする際のブレーキ役を担っている。また、銃の扱いにも長け、相手を知らぬ間に説得させる話術も身につけている。さらに操船技術も習得しており、素人を指導して航海できるレベルまで育てている。コミュニケーション能力も高く、オークションの運営を取り仕切ったり、航海中は素人水夫の指揮を執っている。しかし、なんでもこなせるために、つねにグレシャムに振り回される器用貧乏なところがある。フラペコ自身はグレシャムと異なり、カネより命の方を大切だと考えている。

ダウー

森で育ったガブール人の女性。通常の成人の倍近い体軀を誇り、食欲と睡眠欲のままに行動する。ガブール神から最高の生殖能力を与えられていることから、豊満な肉体を持つ。野生児なために基本的に全裸で過ごしており、言葉も片言で文字も読めない。現在はルークから言葉を教えてもらっている。森で暮らしていたが、グレシャムの「商品」として捕獲され、その際にグレシャム商会の人間を13人殺している。捕獲時に、ハルと出会って優しくされたことで懐くようになる。ルークたちが乗る船の積荷の食料を食べていた際に、眠ってしまったために積荷として船に紛れ込む。野生の身体能力は凄まじく、暴れ出したら数人ががりでも止めるのは不可能とされる。懐いていたハルの衣服の匂いを嗅ぐことで、感情を落ち着かせている。その嗅覚をルークに見いだされ、ハルの捜索に加えられた。また、商談や交渉のときには、ルークの護衛の役割も担っている。

レジャット

ガブール系ヴィクトニア人の男性。長髪を後ろでまとめ、左右の髪は編み込んでいる。実はヴィクトニア帝国の政府の人間で、秘密情報部に所属している。上層部からの命を受け、ガブール人の持つ特殊能力の解明のためにガブールの村を訪れていた。そこで、グレシャムが扇動した奴隷狩りに巻き込まれて捕らえられ、ルークと知り合う。捕縛された状態でルークと反乱の計画を練り、みごと解放を勝ち取る。その反乱の過程で、ルークが自らが調べている能力者だと目星をつける。ルークの能力が「カネを出せる能力」だと気づいてからは、世界経済の混乱を危惧して、その能力の詳細を探ろうとしている。政府から特殊任務を単独で調査しているだけあり、頭の回転が非常に速く、格闘術や銃の扱いにも長け、状況を先読みする能力も高い。初見のダウーをおとなしくさせるために、ガブール人では用いない麻酔を使ったことをルークに不審がられ、警戒される。反乱を先導したとしてルークと共に、ガブール人たちからも一目置かれ、英雄視されている。その立場を最大限に利用し、ルークをヴィクトニア帝国本土に持ち帰り、徹底的に調査することを心に決める。ちなみに「レジャット」は任務のための偽名である。

集団・組織

ガブール人 (がぶーるじん)

白い髪と赤い目、少し尖った耳が特徴的な民族。他民族に迫害されてきた歴史があり、奴隷貿易が禁止されるまでは奴隷狩りによって、ガブール人は世界各地へ散らばっていった。独自言語であるガブール語を使用する。未だにグレシャムのように奴隷の密貿易を生業としている者がいるため、奴隷狩りの脅威に晒され続けている。一方で、親帝国派の首長や、ガブール系ヴィクトニア人のレジャットのように市民権を獲得して生活している者もいる。本来は小さな村を形成して生活しており、唯一神であるガブール神を信仰している。ガブール神から各々が能力を授かるが、そのほとんどが「生殖能力」である。しかし、まれにルークのように生殖能力でない力を授かる場合があり、その能力者は「救世主」として崇められてきた。また、自らや家族などを救ってくれた者を「救世主」として扱う風習もあり、これらの事実が基となった救世主伝説が存在する。産業を持たない民族であるため、カネの本来の使い方を知らない者が多い。ガブール人のカネは、ガブール金貨と呼ばれており、ほぼ純金で製造されたこの金貨は、ほかの民族からは非常に価値のあるカネだと認識されている。森や谷で質素に暮らしているが、ヴィクトニア帝国の衣服や薬などの物品を欲しがる者も多い。

場所

ヴィクトニア帝国 (ゔぃくとにあていこく)

島国でありながら世界中に植民地を持つ覇権国家。「日の沈まない国」と評され、一般的に「帝国」と呼ばれる。公用語はヴィクト語。アヘンと奴隷を主産業としており、世界中から金(きん)を集め、その保有量は300トンともいわれている。現在では奴隷貿易を禁止しているが、グレシャムのように密貿易を生業とする商人も少なくない。過去に奴隷として連れてこられたガブール人も世代を超え、「ガブール系ヴィクトニア人」となる者もいる。レジャットのようにガブール系でも、能力によっては政府関係者にもなれるなど、民族による差別も実力で覆すことができる。通貨単位は「ベルク」で、紙幣の10,000ベルク札が最高単位となる。ちなみに世界の基軸通貨として辺境の土地でもベルクの信用度は高い。薬や衣料品などの品物も豊富で、未開の土地の民族であるガブール人をはじめ、その文明は世界中で支持されている。

書誌情報

ハイパーインフレーション 6巻 集英社〈ジャンプコミックス〉

第5巻

(2022-10-04発行、 978-4088832746)

第6巻

(2023-05-02発行、 978-4088834764)

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